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第十五章 おとぎ話にふれて
フェズルードでのくらし
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とりあえず屋敷の修繕に必要な物をそろえた。
さっそく作業開始だ。
当面は、海亀の背にある小屋や、魔法の壁を作る魔法で雨風をしのぐ。
そうやって時間を稼ぐ間に、住みよい別荘にするのだ。
『トントン、カンカン、トントン、カンカン』
トッキーとピッキーの2人が金槌を振るう音が響く。
2人は、海亀の背にある小屋を数回作っている。
壊れる度に作り直す、いままでの経験は無駄では無い。
オレ達も、念力の魔法や、身体強化を使い2人の小さい大工をアシストする。
これも、慣れっこだ。
作業開始1日目で、厩舎を作ることができた。
2日目には、別荘の一角に、海亀の背にあった小屋を移設し、小さいけれど快適な空間も手に入れた。
驚くスピードで、住みよい環境がどんどんとできが上がる。
魔法様々、トッキーピッキー様々だ。
3日、4日と日々が進むにつれて、住みよい環境はさらに整備される。
「いやはや。凄いものだ。ワシはすっかり家を間違えたと思いましたわい」
10日もすれば、庭も綺麗になって、様子を見に来たジアゴナルが家を間違えたのかと焦るくらいに立派になった。
「ふむ。そうであろう」
「ところで、ハロルド様は何を?」
「うむ。拙者は、池を作っているでござるよ」
ジアゴナルが様子を見に来たときは、ちょうどハロルドの呪いを解いていたタイミングだった。屋敷には元々小さな池があったが、今回の修繕に合わせて、拡張することにしたのだ。
ハロルドが、池を広げるべくスコップを振るっている。
重労働なので、ハロルドがやってくれて大助かりだ。
水はウンディーネにお願いする。
「ハロルド様が、わざわざされずとも……」
「鍛錬でござるよ。それに、何かを作るのはなかなかに楽しい」
ハロルドの答えを聞いて、ジアゴナルは少しだけ驚き、嬉しそうに笑った。
それからも、思いつきでどんどんと屋敷の整備は続く。
屋根には気球の発着場を作った。
「へー。上から見るとこんな感じなのか」
「リーダ様。あちらに世界樹が見えます!」
「本当だ。世界樹が小さく見えるな。思ったより、遠くに来たって実感するよ」
気球に乗せてもらい、高く飛んでみることにする。飛翔魔法と違い時間制限がないので、ずいぶんと気軽に空の散歩が楽しめた。
最近は毎日のように、フェズルードにある飲食街へと繰り出す。
安いし、バラエティに富んでいるのだ。
食べ歩きが楽しい。
先日のことだ。
「何か揉めてます……スリに財布をやられたらしいです」
スリの話題になった。
「なんか、さっきも似たような騒ぎあったっスね」
「やっぱり治安が悪いと思います。思いません?」
オレ達は、オレが一回だけスリにあったくらいで平和なものだったが、どうやら運が良いだけらしい。もっとも、スリ対策の財布を皆持っているので、大丈夫なはずだ。
貴重品はオレの影に入れているしな。
万が一、エリクサーがすられたら洒落にならない。
その騒ぎで、スリが火だるまになったことを思い出した。
ついでに、あの日はカガミに火だるまになった理由を聞いていなかったことも思い出した。
「そういや、今持っているスリ対策した財布……火がつくやつ」
「魔法で対策した財布が何か?」
「あれ、スッたヤツが火だるまになったんだよね」
「上手くいったんですよね? ミズキが驚いていました。魔法の鎧を作る魔法を改造して、油の膜で体を包むようにしたんです」
「油の膜?」
そういうことか、全身に油を浴びたうえに火がついたのか。
それでスリが火だるまになったのか。
「火だるまになった理由が分かったよ」
「もっともカガミ氏の工夫だけじゃないぞ」
「他にも?」
「そうだな。ほら、スリが財布を手に取った直後、燃える財布を投げ捨てたりしたら問題だろ?」
カガミの工夫にドン引きしていたところに、サムソンが得意気に付け加える。
他にも細工しているのか。
「で、何をしたんだ?」
「火がついた直後、手が痺れるようにしたぞ」
「痺れる?」
「そうすれば、財布投げ捨てたりできないだろ?」
つまり、カガミがスリの体を油まみれにして火をつけて、サムソンは火のついた財布から手が離れないようにしたと……怖い。
オレは、悪を許さないと口だけだったのだが、同僚達は実行にうつしていたということだ。
予想以上に、凶悪な財布だったということに今さらながら気がつく。
自分の持っている財布をチラリと眺め、この財布を誰も盗んだりしませんようにと、少しだけ祈った。
祈りが通じたのか、あれからスリの被害に遭うことなく、今日まで平和だ。
「今度は剣の大会だって」
果物を割って器にした中に、熱々のスープを入れる料理を食べながら、ミズキが言う。
フェズルードは迷宮都市、町中にすら迷宮への入り口があるというだけあって、冒険者が多い。
冒険者が多いと、そこには探索にかかる装備を売る店が軒先を並べるようになる。
そして腕試しの場所も作られるようになった。
ミズキが言ったのは、そんな腕試しの場所で行われる催し物のことだ。
一回見に行ったが、腕試しの場所……つまりは闘技場だが、見所がたくさんあって面白い。
剣にしろ槍にしろ、闘技場では魔法の武具はご法度らしい。
戦いにおける、ルールや規則、つまりはレギュレーションが考えられているようだ。
もっとも、魔法の武具以外は使用OKらしいので、お金をかけた良い装備をした方が強いというのには変わりがないようだ。
実際にオレ達が見物したときも、立派な鎧を身につけていた方が勝率が良かった。
武器は、試合用。安全性を考慮されたものを使っているため、怪我はするが、人死には出ない仕組みになっている。
闘技場は、神殿が運営しているらしい。
打撲や骨折については、神官が治療にあたっていた。
武器と砂のラケノッサ神殿と賭博と海の神ナニャーナ神殿の共同運営らしい。
加えて、冒険者ギルドも噛んでいて……まぁ、複数の組織が絡んでいるだけあって、町に点在している闘技場は、大きな物になると随分と立派だ。
せっかくだからと、闘技場見物のついでに、対照実験中の聖水に祝福をかけてもらった。
「複数の神様から、祝福の重ねがけを依頼する人って多いですか?」
「まさか。祝福をまるで魔法のように重ねがけなどと……そのような罰当たりなことをする人がいるとは思えません」
ラケノッサ神殿では神官が気さくな態度だったので、以前より気になっていたことを聞いてみたのだが、あっさりとした回答だった。
何重にも祝福をかけているなんて言えないし、言わなくて良かった。
物販は基本的に服につける装飾品の数々。
幸運の守り。怪我防止などなど。
神の加護が実在する世界なので、売っている物もそれなりに効果がありそうだ。
ここで装飾品、幸運の守りなどを買って、近くにいる鍛冶職人に武具への取り付けを依頼する人がチラホラ見える。
魔法の武具は駄目なのに、お守りは許されるそうだ。
そんなお客を見込んで闘技場周りはどこも鍛冶屋が多い。
試合前の調整も、この辺りの鍛冶屋にとっては重要な収入源のようだ。
加えて、闘技場の近くにある鍛冶屋近くでは、いろいろな人がたむろしていた。
武具の整備を頼む人、あとは賭博目的の人だ。
賭け事をする人、戦いにおもむく人。あとは彼らが目当ての、売り子。
闘技場はそんな人で溢れかえっている。
物騒だが賑やかなフェズルードを楽しみつつ、一ヶ月を過ごし、屋敷は随分と立派になった。
「我ながら、立派な池になったでござる」
満月の夜、軒先から庭をみて、しみじみとハロルドが言った。
完成した池には、満月が写り揺らめいている。
この池は、ロバやエルフ馬達、それに海亀に大人気だ。
いつも、何かが水を飲んでいる。
「トッキーとピッキーが頑張ってくれたからな」
「ふむ。あの2人は大工としても鍛えられているでござるからな。さて、拙者も負けてはおられぬでござる」
ハロルドは磨かれた大剣を片手に、庭へと降りる。
幅広で、先が丸い大剣。
かってハロルドが愛用していた魔法の大剣だ。
ようやくハロルドの武器が届いたのだ。
ジアゴナルの息子さんが持ってきてくれた。
他にもハロルドの鎧。これは、微調整が必要らしく、ジアゴナルが預かっている。
さらには、他にもいろいろな武具。
全部ハロルドの私物らしい。
なんだかんだと言って、ハロルドは資産家だな。別荘もあるし。
大半の装備は、すぐには使わないということで、オレの影に投げ込んだ。
同僚でいえば、ミズキが魔法の剣を一本使うことにしただけだ。
斜めになった四角形が連なった形状をした剣。持ち主が魔力を流して念じることで、刀身にあたる四角形が分裂したり変形して伸びる。ムチの様にしならせ、物を絡め取ることもできる。
「飛翔魔法で、飛ぶときに、遠くの物をつかめると便利じゃん」
そんなことをミズキは言っていた。
迷宮都市にも慣れてきた。装備も揃えた。そろそろ迷宮かな。
「うむ。やはり愛剣は具合がいい。これで装備は整ったでござる。そろそろ準備ができたということで、迷宮へと挑もうではござらんか」
オレの考えを読み取ったように、楽しげにハロルドが言った。
さっそく作業開始だ。
当面は、海亀の背にある小屋や、魔法の壁を作る魔法で雨風をしのぐ。
そうやって時間を稼ぐ間に、住みよい別荘にするのだ。
『トントン、カンカン、トントン、カンカン』
トッキーとピッキーの2人が金槌を振るう音が響く。
2人は、海亀の背にある小屋を数回作っている。
壊れる度に作り直す、いままでの経験は無駄では無い。
オレ達も、念力の魔法や、身体強化を使い2人の小さい大工をアシストする。
これも、慣れっこだ。
作業開始1日目で、厩舎を作ることができた。
2日目には、別荘の一角に、海亀の背にあった小屋を移設し、小さいけれど快適な空間も手に入れた。
驚くスピードで、住みよい環境がどんどんとできが上がる。
魔法様々、トッキーピッキー様々だ。
3日、4日と日々が進むにつれて、住みよい環境はさらに整備される。
「いやはや。凄いものだ。ワシはすっかり家を間違えたと思いましたわい」
10日もすれば、庭も綺麗になって、様子を見に来たジアゴナルが家を間違えたのかと焦るくらいに立派になった。
「ふむ。そうであろう」
「ところで、ハロルド様は何を?」
「うむ。拙者は、池を作っているでござるよ」
ジアゴナルが様子を見に来たときは、ちょうどハロルドの呪いを解いていたタイミングだった。屋敷には元々小さな池があったが、今回の修繕に合わせて、拡張することにしたのだ。
ハロルドが、池を広げるべくスコップを振るっている。
重労働なので、ハロルドがやってくれて大助かりだ。
水はウンディーネにお願いする。
「ハロルド様が、わざわざされずとも……」
「鍛錬でござるよ。それに、何かを作るのはなかなかに楽しい」
ハロルドの答えを聞いて、ジアゴナルは少しだけ驚き、嬉しそうに笑った。
それからも、思いつきでどんどんと屋敷の整備は続く。
屋根には気球の発着場を作った。
「へー。上から見るとこんな感じなのか」
「リーダ様。あちらに世界樹が見えます!」
「本当だ。世界樹が小さく見えるな。思ったより、遠くに来たって実感するよ」
気球に乗せてもらい、高く飛んでみることにする。飛翔魔法と違い時間制限がないので、ずいぶんと気軽に空の散歩が楽しめた。
最近は毎日のように、フェズルードにある飲食街へと繰り出す。
安いし、バラエティに富んでいるのだ。
食べ歩きが楽しい。
先日のことだ。
「何か揉めてます……スリに財布をやられたらしいです」
スリの話題になった。
「なんか、さっきも似たような騒ぎあったっスね」
「やっぱり治安が悪いと思います。思いません?」
オレ達は、オレが一回だけスリにあったくらいで平和なものだったが、どうやら運が良いだけらしい。もっとも、スリ対策の財布を皆持っているので、大丈夫なはずだ。
貴重品はオレの影に入れているしな。
万が一、エリクサーがすられたら洒落にならない。
その騒ぎで、スリが火だるまになったことを思い出した。
ついでに、あの日はカガミに火だるまになった理由を聞いていなかったことも思い出した。
「そういや、今持っているスリ対策した財布……火がつくやつ」
「魔法で対策した財布が何か?」
「あれ、スッたヤツが火だるまになったんだよね」
「上手くいったんですよね? ミズキが驚いていました。魔法の鎧を作る魔法を改造して、油の膜で体を包むようにしたんです」
「油の膜?」
そういうことか、全身に油を浴びたうえに火がついたのか。
それでスリが火だるまになったのか。
「火だるまになった理由が分かったよ」
「もっともカガミ氏の工夫だけじゃないぞ」
「他にも?」
「そうだな。ほら、スリが財布を手に取った直後、燃える財布を投げ捨てたりしたら問題だろ?」
カガミの工夫にドン引きしていたところに、サムソンが得意気に付け加える。
他にも細工しているのか。
「で、何をしたんだ?」
「火がついた直後、手が痺れるようにしたぞ」
「痺れる?」
「そうすれば、財布投げ捨てたりできないだろ?」
つまり、カガミがスリの体を油まみれにして火をつけて、サムソンは火のついた財布から手が離れないようにしたと……怖い。
オレは、悪を許さないと口だけだったのだが、同僚達は実行にうつしていたということだ。
予想以上に、凶悪な財布だったということに今さらながら気がつく。
自分の持っている財布をチラリと眺め、この財布を誰も盗んだりしませんようにと、少しだけ祈った。
祈りが通じたのか、あれからスリの被害に遭うことなく、今日まで平和だ。
「今度は剣の大会だって」
果物を割って器にした中に、熱々のスープを入れる料理を食べながら、ミズキが言う。
フェズルードは迷宮都市、町中にすら迷宮への入り口があるというだけあって、冒険者が多い。
冒険者が多いと、そこには探索にかかる装備を売る店が軒先を並べるようになる。
そして腕試しの場所も作られるようになった。
ミズキが言ったのは、そんな腕試しの場所で行われる催し物のことだ。
一回見に行ったが、腕試しの場所……つまりは闘技場だが、見所がたくさんあって面白い。
剣にしろ槍にしろ、闘技場では魔法の武具はご法度らしい。
戦いにおける、ルールや規則、つまりはレギュレーションが考えられているようだ。
もっとも、魔法の武具以外は使用OKらしいので、お金をかけた良い装備をした方が強いというのには変わりがないようだ。
実際にオレ達が見物したときも、立派な鎧を身につけていた方が勝率が良かった。
武器は、試合用。安全性を考慮されたものを使っているため、怪我はするが、人死には出ない仕組みになっている。
闘技場は、神殿が運営しているらしい。
打撲や骨折については、神官が治療にあたっていた。
武器と砂のラケノッサ神殿と賭博と海の神ナニャーナ神殿の共同運営らしい。
加えて、冒険者ギルドも噛んでいて……まぁ、複数の組織が絡んでいるだけあって、町に点在している闘技場は、大きな物になると随分と立派だ。
せっかくだからと、闘技場見物のついでに、対照実験中の聖水に祝福をかけてもらった。
「複数の神様から、祝福の重ねがけを依頼する人って多いですか?」
「まさか。祝福をまるで魔法のように重ねがけなどと……そのような罰当たりなことをする人がいるとは思えません」
ラケノッサ神殿では神官が気さくな態度だったので、以前より気になっていたことを聞いてみたのだが、あっさりとした回答だった。
何重にも祝福をかけているなんて言えないし、言わなくて良かった。
物販は基本的に服につける装飾品の数々。
幸運の守り。怪我防止などなど。
神の加護が実在する世界なので、売っている物もそれなりに効果がありそうだ。
ここで装飾品、幸運の守りなどを買って、近くにいる鍛冶職人に武具への取り付けを依頼する人がチラホラ見える。
魔法の武具は駄目なのに、お守りは許されるそうだ。
そんなお客を見込んで闘技場周りはどこも鍛冶屋が多い。
試合前の調整も、この辺りの鍛冶屋にとっては重要な収入源のようだ。
加えて、闘技場の近くにある鍛冶屋近くでは、いろいろな人がたむろしていた。
武具の整備を頼む人、あとは賭博目的の人だ。
賭け事をする人、戦いにおもむく人。あとは彼らが目当ての、売り子。
闘技場はそんな人で溢れかえっている。
物騒だが賑やかなフェズルードを楽しみつつ、一ヶ月を過ごし、屋敷は随分と立派になった。
「我ながら、立派な池になったでござる」
満月の夜、軒先から庭をみて、しみじみとハロルドが言った。
完成した池には、満月が写り揺らめいている。
この池は、ロバやエルフ馬達、それに海亀に大人気だ。
いつも、何かが水を飲んでいる。
「トッキーとピッキーが頑張ってくれたからな」
「ふむ。あの2人は大工としても鍛えられているでござるからな。さて、拙者も負けてはおられぬでござる」
ハロルドは磨かれた大剣を片手に、庭へと降りる。
幅広で、先が丸い大剣。
かってハロルドが愛用していた魔法の大剣だ。
ようやくハロルドの武器が届いたのだ。
ジアゴナルの息子さんが持ってきてくれた。
他にもハロルドの鎧。これは、微調整が必要らしく、ジアゴナルが預かっている。
さらには、他にもいろいろな武具。
全部ハロルドの私物らしい。
なんだかんだと言って、ハロルドは資産家だな。別荘もあるし。
大半の装備は、すぐには使わないということで、オレの影に投げ込んだ。
同僚でいえば、ミズキが魔法の剣を一本使うことにしただけだ。
斜めになった四角形が連なった形状をした剣。持ち主が魔力を流して念じることで、刀身にあたる四角形が分裂したり変形して伸びる。ムチの様にしならせ、物を絡め取ることもできる。
「飛翔魔法で、飛ぶときに、遠くの物をつかめると便利じゃん」
そんなことをミズキは言っていた。
迷宮都市にも慣れてきた。装備も揃えた。そろそろ迷宮かな。
「うむ。やはり愛剣は具合がいい。これで装備は整ったでござる。そろそろ準備ができたということで、迷宮へと挑もうではござらんか」
オレの考えを読み取ったように、楽しげにハロルドが言った。
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