召還社畜と魔法の豪邸

紫 十的

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第十四章 異質なるモノ、人心を惑わす

こたえあわせともんだい

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「どうしたんだ一体?」

 サムソンの声が聞こえた。

「いや……そうだ。そうだったんだ」

 だが、そんなサムソンには目もくれず外に出る。
 一刻も試したいことができたのだ。

「あれ? リーダどうしたの?」
「ミズキ、一旦止めてくれ。それからすぐに適当なものを狩ってくれないか? そうだ、巨獣、小型の巨獣を1匹狩ってきてくれ。大至急」
「だから、一体どうしたの? 巨獣を狩れだなんて」
「何でもいい、至急、何かを狩ってきてくれ」

 オレの言葉を聞いて、ミズキは首を傾げた後、ふらふらと周りを見ていた。

「んー。あのさ、あのぴょこぴょこ跳んでるやつでもいいの?」

 遠くの方を指さす。
 鳥が跳ねるように走り回っているのが見えた。

「狩れるならなんでもいい」
「了解!」

 そう言うと、茶釜に乗って走っていく。
 さて、次だ。
 部屋から持ってきたカロメーを、しゃがみこんでいた子ウサギ3匹に渡す。
 口元に、カロメーを持って行くと、こりこりと口を小さく動かし、カロメーを食べ出した。

「よし」

 事が順調に進んでいることに満足し、小さく呟く。
 ほどなくミズキが獲物を片手に戻ってきた。
 さすが、狩り慣れている。

「これでいいの?」
「問題ない。さすがミズキお姉ちゃん」
「はいはい。何がミズキお姉ちゃんなんだか」

 あきれたように笑うミズキから鳥を受け取る。
 ダチョウに似た鳥だ。

「今日は唐揚げだな」
「いいね、唐揚げ。ラッレノーから貰ったお酒のつまみにぴったりだよ」

 海亀から少し離れて、スライフを呼ぶ。
 さっそく、鳥の解体をお願いして、余った臓物を触媒に質問する。

「あの3匹の子ウサギなんだけど……」
「なるほど。答えは見つけたのか。さすがだな」

 オレの質問が終わらないうちに、スライフが感心したように笑う。

「やはりそうか?」
「呪いへの耐性を得るようだ」

 思ったより即効性があるな。
 さすがに食べさせてすぐだったので、効果がはっきりするまで時間がかかると思っていた。念の為、みてもらって正解だった。

「これではっきりした」

 相違点。
 カロメー。子ウサギ3匹のうち1匹だけがカロメーを食べていた。
 以前、オレが落としてしまったカロメーだ。
 海亀は食べているし、オレ達もみんな食べている。ロバどうなのかは分からないが、元々あのロバは何らかの方法で、呪い子に耐性を持っている。
 カロリーには、呪い子による呪いからの耐性をもたらす効果があったのだ。
 思った以上に、カロメーは凄い食べ物だった。

「興味深い経験をさせてもらった。ではさらばだ」

 満足そうに頷いたスライフを見送り、みんなの元へ戻る。

「もしかして……?」
「フッフッフッフ。大平原の肉で唐揚げを食べたいと思ったのさ」
「また、食いしん坊なんだから」

 オレのあからさまな言い訳に、カガミが笑って頷く。

「唐揚げ楽しみだね」

 ノアも笑う。
 あとで茶釜にも食べさせてあげてよ。
 ミズキにカロメーを手渡す。

「そっか。それを確認したんだ」
「あぁ。そういうことだったのさ」

 対策はできた。
 これで、茶釜も、その子ウサギたちも呪いにおびえる必要はない。
 思った以上に早く解決策が見つかってよかった。
 実際、堂々巡りの悩みに突入する気配があったので、解決したのは素直に嬉しい。
 それにしてもノアの呪いは強くなる……か。
 今回はなんとかしのいだ。
 だが、これから強くなる呪いについて、今回のようにいくだろうか……不安になる。
 呪い子の持つ、呪い。
 俺たちは呪い子についてあまりに知らない、調べるあても無い。
 だからといって何もしないわけにはいかない。
 魔法のことを調べる。おそらく、今できる対策のうち、一番確実なことだ。
 そう信じよう。
 そのためにも、魔導具に関する本は手に入れておきたい。もしかしたら、他にも何か資料が見つかるかもしれない。
 その日は、みんな機嫌がよかった。
 とりあえず、ノアの呪いに対する対抗策が見つかったのだ。
 ここしばらく悩ませていた問題が解決したのだ。
 そして、その日は満月だった。
 魔壁フエンバレアテに魔力を補充するため外に出す。満月の光を浴び、魔力が補充されていく。そろそろ使えるようになるはずだ。

「リーダ」

 魔導具の側で、ぼんやりと空を見上げていると、ハロルドに名前を呼ばれた。
 声の方をみると、ハロルドがこちらに歩いてきていた。
 そうか、今日は満月だからな。
 ハロルドにかかった子犬になる呪いが解除されている。
 満月の夜。いつもだったら素振りなどをして身体の鍛錬を夜通ししているハロルドだったが、今日はそんなつもりは無いようだ。

「珍しいな」
「姫様の呪い……」
「いいよ。全部言わなくても。そうだ、見ての通りだ。カロメーだったんだよ。カロメーを食べていれば、呪いに対する耐性を得られる」
「そうでござったか」
「あぁ」
「姫様の呪いがどんどん強くなるのでござろう?」
「そうらしいね」

 呪いは、ノアが成長するに従って強くなる。
 今までだって、家畜が弱りがちだとチッキーから聞いていた。だが、スライフは言った。家畜が死ぬと。
 野生の子ウサギが、半年で死ぬと。
 ギリアの屋敷にいた頃とは違う。今の状況で屋敷に戻ると、チッキーの世話だけでは、対処できないのではないかと不安になる。

「モペアいる?」

 独り言のように呟く。
 夜の闇からモペアが姿を現した。まるで待ち構えていたかのように。

「質問ありそうだな」
「あぁ、ノアの持つ呪いって強くなっていると思う?」
「なってるよ。日々、少しづつ」
「ふと思ったんだ。屋敷の周り、すごく草花が綺麗だった。山菜もたくさん採れていた」
「言いたいことはわかるよ。そうだよ、あたしが手助けしたんだよ。草花に力を貸してさ。ノアのお姉ちゃんだからな」

 やはり呪い子が近くにいるにもかかわらず、屋敷の周りの木々に草花が、色鮮やかにとても美しかったのは、モペアのドライアドとしての力があってこそだったのか。
 呪いによるマイナスを、モペアの力によって打ち消していた。
 で、あればだ。

「そうやって、いつまでもノアの呪いを打ち消すほどの力を出せるのか?」
「きっとノアが大人になる頃には、私の力じゃ足りなくなるよ」
「そうか」
「でも、あたしは心配していない」
「どうして?」
「昔と違って、あたしは1人じゃない。リーダもいるし、みんなもいるからな」
「頼りにしてもらえて嬉しいよ」

 モペアの言葉に、嬉しくなった。

「やっぱり、そうだったんだな」

 後からサムソンの声が聞こえた。
 振り向くと、サムソンがオレを見下ろしていた。海亀の背にのせた床板を取り囲む柵に寄りかかって、見下ろしていた。

「聞いていたのか」
「ごめんなさい。私も聞いてしまいました」

 カガミも姿を現す。

「せっかくだ。プレインとミズキも呼ぶよ」

 サムソンがそう言うと、小屋の扉をノックし、2人に声をかけた。
 外にでてきた2人に、サムソンが先ほどの話を説明する。
 その間、何気なく上を見上げる。
 満月と、そして星々、それに天の蓋が見えた。
 天の蓋。
 空に浮かぶ巨大魔法陣。

「あれが、ノアちゃんを苦しめてるんですよね?」

 カガミがオレの方へと歩きながら、ボソリと言う。

「そうだな。そう聞いている」
「何がしたくて、あんなモノつくったんだろうね。天の蓋なんて魔法陣がなければ、ノアノアも楽しく暮らせたのにさ」

 魔神が世界にかけた呪い。
 それによる犠牲者がノアをはじめとする呪い子だと聞いている。
 天空に張り付く魔法陣……極光魔法陣。

「なぁ、サムソン」
「何だ?」
「ノアのを持ってた星落としの本なんだけどさ」
「極光魔法陣のことも書いてある?」
「あぁ。練習用の極光魔法陣の作り方はあったぞ。まだ全部は読んでいないが」

 作り方か。でも、いままで手がかりすらなかった事柄だ。
 もしかしたら……。

「星落としは、すでに使われてない極光魔法陣を地上に落とす魔法だ。もしかしたら天の蓋も落とせるのかな」
「さぁな」

 こうしてみると、星落としの魔法は色々な要素を含んでいた。
 積層魔法陣に極光魔法陣。
 魔法陣に関する、オレ達の知らなかった新しい概念。そして、知っていた概念の、更に深い知識。

「あとで、オレも読ませてくれよ。サムソン」
「あぁ。でもな、そりゃ俺に頼むんじゃなくて、ノアちゃんに頼むんだぞ」
「違いない」

 少しだけ笑う。
 そして、皆に向かっていう。

「とりあえず方針は変わらない。魔法について調べる。そしていろんなことを試していく。魔法についての知識を得て、問題があれば対抗策を考える」
「いつも通りって事っスね」

 そうだ、いつも通りだ。
 いつも通り。
 問題があれば原因を調べて対処する。
 オレ達はずっとそうやってきたから。
 これからも、そうするのみだ。
 問題があれば手段を尽くして対処する。
 それだけは、変わらない。
 だから、何があっても惑わされることも、諦めることもない。
 絶対に。
 空に浮かぶ、巨大魔法陣……天の蓋を睨み、オレはそう誓った。
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