召還社畜と魔法の豪邸

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第十四章 異質なるモノ、人心を惑わす

だいおうさまのししゃ

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「無事ですよ。私達も、そしてサエンティさんも」

 駆けつけたラッレノーに報告する。

「よかった。本当によかった。サエンティには後で私の方から叱っておきます。よく言い聞かせておきます。本当に何と言ってお詫びすればいいのか……」

 ラッレノーがまくし立てるように謝る。なぜ謝られるのかわからない。

「サエンティ殿は、あの巨獣に対して看破の魔法を使ったでござるよ」

 不思議がるオレ達に、ハロルドが説明する。

「看破で?」
「そうでござる。獣は人の視線に敏感でござる。看破の魔法による魔力のこもった視線であればなおさらのことでござるよ」

 なるほど。それでハロルドはやめろと言ったのか。

「へぇ。看破ってそんな弊害もあるんスね」
「はい。前々から言い聞かせておいたのですが」
「でも、それほど警告を受けておきながら、なぜ見たんでしょうね?」
「おそらくサエンティ殿は最近看破を使えるようになったのござろう」

 ハロルドが顎に手をやりながら言葉を続ける。

「看破の魔法を覚えたての頃は、色んなものを看破で見るでござるよ。それが楽しくて楽しくて、ついつい自分が見たものを大人に報告したり、初めて見る表記に驚いたりと……」

 ハロルドが昔を懐かしむように空を見上げて呟く。
 言われてみれば、魔法が使えるようになって、看破でいろいろな物を見るのは楽しかった。最近は慣れてしまい、あまり使うことがなくなったが。
 そっか。
 そこで、ふっと気がつく。笑みがこぼれる。

「いえいえ。ラッレノーさん。結果的には全部よかったんです。私達は誰も気にしてませんよ」
「そうですか」

 ずっと気になっていたことだ。最初にノアを見た時に、サエンティとパエンティの2人が驚き、後ずさった理由だ。
 最初は呪い子だと知って恐怖による反応だと思った。だが、すぐ後には海亀の背に乗り込み、ノアが近くにいるにも関わらず走り回って遊んでいた。
 その後も特にノアに嫌悪感を示すことなく、普通に接している。
 最初の反応と矛盾する、その後の態度。
 それはただ単純に看破で初めて見る表示に驚いていたということだ。
 ノアは嫌われている訳ではなかった。それが分かっただけで収穫だ。

「ところで。このティラノ……いや大口のお肉って美味しいんですか?」
「肉食の巨獣は、あまり焼き肉に向かないのです」
「そうなんですか。残念です」
「燻製にして食べる分には悪くはないのですが、どうしても肉が固くて……スープの具などにはちょうどいいですよ」

 さてと、とりあえずはこいつを解体して、燻製にしてもらおうかな。
 それが終わったら……面倒くさいけれども、あっちに行くか。
 遠くに見えるエルフ馬を見やる。

「珍獣に抱きつくのか……2時間」

 黄昏の者を呼び出す為の魔法陣を広げながら、ぼやく。
 あの訳の分からないウサギに抱きつく大仕事が待っている。
 解体はサクッと終わらせよう。

「それは何を?」

 ラッレノーが興味深そうに質問してくる。

「魔法で解体するのですよ。肉や皮なんかをバラバラに」

 そう言ってすぐにスライフを呼び出す。

「今日は見物人が多いのだな」

 いつも通りだ。フワフワと浮いた黄昏の者。

「黄昏の者!」
「お前達、どういうつもりだ?」

 背後から野太い叱責の声がする。さらに続く物音から、剣を抜いているようだ。
 忘れてた、後のいかつい3人組。
 なんだろう、こいつら?
 ラッレノーと一緒に来たので敵ではないだろうけれど。
 呼び出されたスライフを見て3人の男は口々に警戒の声を上げる。

「静かにせんか! リーダの命令をこやつは聞く。危険ではない」

 ハロルドが3人に向かって声を上げる。

「もしかして、其方、ハロルド?」
「見ての通りでござる。今は訳あって、この者達に同行しているでござるよ。まぁ、グダグダ言わずにリーダに任せておけば良い」

 ハロルドはそういうと彼らから目を離し、オレをみた。
 そういえばハロルドは南方出身だと言っていた。本当に有名人なのだなと思う。

「ふぅむ。今度はこの巨獣か」
「そうそう、いつもどおりちゃっちゃと頼むよ」
「これほどの大物。お前、対価として何を望む?」

 あっ。そっか。いつも質問とかしてたんだよな。巨獣にばかり気を取られて、全然考えていなかった。
 どうしようかなと考えていると、サムソンが近寄ってきた。

「ちょっと聞きたいことがあるんだが」

 スライフに向かって声をかける。

「こいつの言葉に従っていいのか?」
「問題ないよ」

 サムソンが何か質問したいなら、任せよう。オレにはさしあたって頼みたいことがない。

「何が知りたい?」
「ノイタイエルの作り方が載ってる魔道書。そのありかが知りたいんだが」

 サムソンの質問は魔道書のありかを知りたいということだった。
 確かに前もそんなこと言っていたな。

「ノイタイエル……はて、聞いたことはあるが……」

 スライフが即答しないのは珍しい。確かに難しい案件なのかもしれない。

「飛行島のコアに……」
「了解した」

 それだけ言うとすぐに合点がいった調子で頷いた。
 グイとサムソンのすぐ側まで近づき言葉を続ける。

「しばし時間が必要になる」
「難しいんだな」
「そうだ。だが、どうしたものか」
「どう?」
「一旦、吾が輩は姿を消す必要がある」
「そっか。いつごろ戻ってくるんだ?」
「いいのか?」
「なんのこと?」
「我が輩を信用するというのか?」
「そうだね。信用はしてる」

 スライフは魔法陣に置かれた名刺……触媒を手に取り、オレに返す。

「準備ができたら、それを光らせる。光ったならば、吾が輩を呼び出せ」

 そういうとティラノサウルスの周りを飛び回りながら、解体していく。あの巨体だ。思った以上に時間がかかっていた。
 しばらく後、解体が終わると、ティラノサウルスの内臓を口に入れた。
 自分の体の何倍もある大きさにお腹を膨らませて、仰向けに寝転がったままスライフは消えていった。

「頼んどいてなんだが、どれくらい時間がかかるんだろうな」

 サムソンが小さく呟くようにオレに質問する。

「難しそうだったな。でも、他に手がかりないし、気長に待つしかないだろうな」

 後に残されたのは、皮と頭の頭蓋骨。それと綺麗に切り分けられた肉だ。
 あのティラノサウルスの巨体だけあって、残された肉も大量だった。肉の一塊は、使いやすいサイズに切り分けられている。
 相変わらず仕事に関してマメだなと思う。だが、ちょっと風情がなかった。せっかくの巨獣の肉だ。大きなブロックに分けてくれてもよかったなと思う。

「た……黄昏の者に解体をさせたのか」
「どうやって、あの暴れ狂う黄昏の者を手懐けたのか……」

 後の3人組は口々に絞り出すように声をだしていた。

「慈悲深い大王様に、加えて慈悲を願う身をお許し下さい」

 そんななか、ラッレノーが3人組へと近づき恭しく頭を下げた。

「なんだ」
「この大口、巨獣でございますが……」
「全て言わずとも良い。わかっている。大王様はこう仰った。我らが遊牧民の力と善意を見せ、恩に報いるように」
「故に、この大口は、巨獣を狩ったことにならぬ」
「ありがとうございます。慈悲深き大王様の使者たちよ」

 再度、ラッレノーは頭を下げる。後にいる彼の家族もだ。
 この人達が大王様の使者か。なんだか、すっごく強そうだな。
 鹿のように枝分かれした角の生えた大きな馬に乗った3人の男達。
 皆立派な髭を蓄えていて、ラッレノー達と同じような服装に身を包んでいる。
 だが、その色は深い紫。腰には巨大な剣を構えていて、いかにも強そうだ。

「強そうだな」
「うむ。まあまあ強いでござるよ」

 オレの感想に、ハロルドは、なんて事も無いように言う。
 さらにハロルドは言葉を続ける。

「そうでござるな。例えるなら、一人一人が大体イアメス殿と同じぐらいは強いでござるな」

 そのコメントに驚く。

「えっ? イアメスってそんなに強いの?」

 そう思ったのオレだけではないようだ。サムソンも驚いている。

「うむ。イアメス殿のは強いでござるよ。だからこそ拙者は、彼が金獅子ではないかと確信できるでござる」

 意外だ。あいつが、そんなに強かったとは。
 というか、そう言われるとこの後の3人組が急にしょぼく感じるから不思議だ。
 外見って大事だな。
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