259 / 830
第十四章 異質なるモノ、人心を惑わす
たんじょうびかいをしよう
しおりを挟む
テントに戻ると、ラッレノーとプレインが将棋のようなもので遊んでいた。
「あっ、先輩。お帰りなさいっス」
「ただいま。エルフ馬がかわいいって」
「ボクも朝に聞きました……って、まだいるんスか。好きっスね」
「ついていけない。それは?」
「この辺りで遊ばれてるゲームらしいっスよ。やっと駒の動きを覚えて、1戦したところっス」
「プレインさんは、初めて遊ぶとは思えない強さで驚きました」
ラッレノーとプレインが2戦目をしながら、駒の動きやルールを色々と説明してくれる。
見た目通り、将棋に似たボードゲームだ。
特に魔法でどうこうっていうこともなく、純粋に駒を動かし合いながら戦う。
取った駒は使えないらしい。
動かす手数が決まっていて、その手数を打った後に残っているコマで勝敗が決まるそうだ。王をひたすら狙う将棋とは、そのあたりが違う。
なかなか面白そうだ。
早速、オレも仲間に入れてもらう。
将棋と似ているがルールが違うので、いろいろ混乱する。
ラッレノーはやり慣れているだけあって、手強い。手強いというか勝てない。あと一歩なのだが、その一歩が遠い。
「へー。将棋?」
わいわいと遊んでいると、サムソンも近寄ってきた。
駒の形が将棋の駒に似ているので、やっぱり将棋を連想するようだ。オレと同じだな。
「ラッレノーさんは、やっぱり強いっス」
接戦の末、降参といった調子でプレインが両手を挙げて、負けを認める。
あと5手打てるのに、負けがわかるんだ。すごいな。
「いえいえ、私は今までの経験がありますから」
サムソンを交えて、さらにゲームを続ける。サムソンはプレインより強くて、ラッレノーとすぐに互角になった。
「ところでな。ノアちゃんの誕生日プレゼント完成したぞ」
遊んでる時、ふとサムソンを思い出したように言う。
「そっか。よかった。間に合ったな」
「えっ? ノアサリーナ様の誕生日が近いのですか?」
「えぇ」
「それは幸運だ。ぜひとも、私達にも祝わせていただけないでしょうか?」
「是非とも」
「いや、恩人の誕生日を祝える時に巡り会えるとは……」
そう言うが早いか、ラッレノーは外に出てと走っていった。
この世界では、平民が誕生日を祝うのは珍しいらしい。
というのも自分の誕生日を知っている平民はなかなかいないそうだ。貴族でない限り、余程裕福な一族だけが知っているという。
結局、誕生日を知らない人だらけの中で、誕生日を祝う場に平民が参加することはなかなか無いことになる。
そんなことをノアの誕生日の後に、ピッキー達の誕生日も祝おうという話が出た時に、彼らから聞いた。
一般的な人間は、白の初日……元の世界でいう1月1日に1歳年をとるということになっているそうだ。
加えて奴隷は、自分たちの記念日などに祝う事は常識的にしないとも聞いた。
ということで遊びながら、ラッレノーが去った後もノアの誕生日について話をしながら遊んでいると、ミズキが息を切らせて駆け込んできた。
「はぁはぁ……あのさ……」
一体何事だろう? 緊張が走る。
「いったい、どうしたんだ。落ち着けよ」
「あのさ、エルフ馬のことなんだけど」
「エルフ馬?」
サムソンがよく分かっていない様子で聞き返す。
「あの巨大ウサギのことだよ。で、どうしたんだ?」
「それでさ、ちょっと、交渉したんだよね」
心配して損した。
でも、入れ替わり別の心配が湧き上がってくる。
そんなオレの不安など知らないといった調子でミズキが言葉を続ける。
「でも、エルフ馬を譲ってもらえるのは難しいようでさ。代わりに野生のエルフ馬を捕まえてしまうのはどうですか、って話だったの」
なんとなく見えてきた。少し前に頭をよぎった不安が的中したことに、お腹が痛くなる。
「念のため確認するんだが、あれを連れていこうっていうのか?」
「そうそう、モフモフしてて可愛いじゃん」
「却下だ」
「なんでよ」
「餌はどうするんだ? いつまでも、ここに居ないんだぞ。餌になる世界樹の葉がいくらあっても足りないだろ?」
「世界樹の葉なら、送ってもらえばいいじゃん」
「なるほど……シューヌピアさんに頼むのか。白孔雀で」
「そうそう、そういうこと。サムソン分かってるじゃん」
それなりに考えているのか。
もっとも問題はそれだけではない。
「それに、どこに載せるんだ? 今でも手狭なんだぞ? ロバを乗せるのに精一杯なのに、あのロバよりも巨大なウサギを乗せるスペースがない」
「載せなくてもいいじゃん、併走すれば」
「いや、空を飛んだり、海を泳いだりと、色々やってんじゃないか。オレ達も、これからもどうなるかは分からないだろ?」
「そこはそう、何とかするって。頼れるリーダが」
オレに丸投げ?
まったく。
可愛いものを見ると後先考えなく仲間に入れようとする、その根性を何とかし欲しいものだ。
「で、野生のエルフってどこにいるんスか?」
「それがさ、もう冬眠の季節だっていうからさ」
「そっか。残念だけど諦めるしか。もしかして、あと1年居るわけにもいかないしな」
さすがに図々しすぎると思う。
いまでさえ、こんないいところに泊めてもらえて、美味しいご飯を無償でいただいているわけだしな。
「いや、ちょうど近くに1匹凶暴なのがいるんだってさ」
凶暴? なんで、そんなに笑顔なんだ?
「危ない危ない。誰がそれに近づくってんだ? あの巨大ウサギなかなか強そうだぞ」
「そこはそれ、ノアノアもさ、ハロルドもいるし皆で協力してやればなんとかなるって言ってたしさ」
まったく。
「明日にでも、ちょっと茶釜を見ていこうっていう話になったの」
「そっか、頑張れ」
「何言ってんの? 皆で行こうって話じゃん」
「凶暴って言ってただろ。嫌だよ。怖い」
「何とかなるって。それに、そんな危ないところにか弱い女の子だけで行かせるの?」
なにがか弱いだ。言っていることが無茶苦茶だ。
だが、ほっとくわけにもいかない。
しょうがない……とりあえず、見に行くだけは行こうか。
「あっ、先輩。お帰りなさいっス」
「ただいま。エルフ馬がかわいいって」
「ボクも朝に聞きました……って、まだいるんスか。好きっスね」
「ついていけない。それは?」
「この辺りで遊ばれてるゲームらしいっスよ。やっと駒の動きを覚えて、1戦したところっス」
「プレインさんは、初めて遊ぶとは思えない強さで驚きました」
ラッレノーとプレインが2戦目をしながら、駒の動きやルールを色々と説明してくれる。
見た目通り、将棋に似たボードゲームだ。
特に魔法でどうこうっていうこともなく、純粋に駒を動かし合いながら戦う。
取った駒は使えないらしい。
動かす手数が決まっていて、その手数を打った後に残っているコマで勝敗が決まるそうだ。王をひたすら狙う将棋とは、そのあたりが違う。
なかなか面白そうだ。
早速、オレも仲間に入れてもらう。
将棋と似ているがルールが違うので、いろいろ混乱する。
ラッレノーはやり慣れているだけあって、手強い。手強いというか勝てない。あと一歩なのだが、その一歩が遠い。
「へー。将棋?」
わいわいと遊んでいると、サムソンも近寄ってきた。
駒の形が将棋の駒に似ているので、やっぱり将棋を連想するようだ。オレと同じだな。
「ラッレノーさんは、やっぱり強いっス」
接戦の末、降参といった調子でプレインが両手を挙げて、負けを認める。
あと5手打てるのに、負けがわかるんだ。すごいな。
「いえいえ、私は今までの経験がありますから」
サムソンを交えて、さらにゲームを続ける。サムソンはプレインより強くて、ラッレノーとすぐに互角になった。
「ところでな。ノアちゃんの誕生日プレゼント完成したぞ」
遊んでる時、ふとサムソンを思い出したように言う。
「そっか。よかった。間に合ったな」
「えっ? ノアサリーナ様の誕生日が近いのですか?」
「えぇ」
「それは幸運だ。ぜひとも、私達にも祝わせていただけないでしょうか?」
「是非とも」
「いや、恩人の誕生日を祝える時に巡り会えるとは……」
そう言うが早いか、ラッレノーは外に出てと走っていった。
この世界では、平民が誕生日を祝うのは珍しいらしい。
というのも自分の誕生日を知っている平民はなかなかいないそうだ。貴族でない限り、余程裕福な一族だけが知っているという。
結局、誕生日を知らない人だらけの中で、誕生日を祝う場に平民が参加することはなかなか無いことになる。
そんなことをノアの誕生日の後に、ピッキー達の誕生日も祝おうという話が出た時に、彼らから聞いた。
一般的な人間は、白の初日……元の世界でいう1月1日に1歳年をとるということになっているそうだ。
加えて奴隷は、自分たちの記念日などに祝う事は常識的にしないとも聞いた。
ということで遊びながら、ラッレノーが去った後もノアの誕生日について話をしながら遊んでいると、ミズキが息を切らせて駆け込んできた。
「はぁはぁ……あのさ……」
一体何事だろう? 緊張が走る。
「いったい、どうしたんだ。落ち着けよ」
「あのさ、エルフ馬のことなんだけど」
「エルフ馬?」
サムソンがよく分かっていない様子で聞き返す。
「あの巨大ウサギのことだよ。で、どうしたんだ?」
「それでさ、ちょっと、交渉したんだよね」
心配して損した。
でも、入れ替わり別の心配が湧き上がってくる。
そんなオレの不安など知らないといった調子でミズキが言葉を続ける。
「でも、エルフ馬を譲ってもらえるのは難しいようでさ。代わりに野生のエルフ馬を捕まえてしまうのはどうですか、って話だったの」
なんとなく見えてきた。少し前に頭をよぎった不安が的中したことに、お腹が痛くなる。
「念のため確認するんだが、あれを連れていこうっていうのか?」
「そうそう、モフモフしてて可愛いじゃん」
「却下だ」
「なんでよ」
「餌はどうするんだ? いつまでも、ここに居ないんだぞ。餌になる世界樹の葉がいくらあっても足りないだろ?」
「世界樹の葉なら、送ってもらえばいいじゃん」
「なるほど……シューヌピアさんに頼むのか。白孔雀で」
「そうそう、そういうこと。サムソン分かってるじゃん」
それなりに考えているのか。
もっとも問題はそれだけではない。
「それに、どこに載せるんだ? 今でも手狭なんだぞ? ロバを乗せるのに精一杯なのに、あのロバよりも巨大なウサギを乗せるスペースがない」
「載せなくてもいいじゃん、併走すれば」
「いや、空を飛んだり、海を泳いだりと、色々やってんじゃないか。オレ達も、これからもどうなるかは分からないだろ?」
「そこはそう、何とかするって。頼れるリーダが」
オレに丸投げ?
まったく。
可愛いものを見ると後先考えなく仲間に入れようとする、その根性を何とかし欲しいものだ。
「で、野生のエルフってどこにいるんスか?」
「それがさ、もう冬眠の季節だっていうからさ」
「そっか。残念だけど諦めるしか。もしかして、あと1年居るわけにもいかないしな」
さすがに図々しすぎると思う。
いまでさえ、こんないいところに泊めてもらえて、美味しいご飯を無償でいただいているわけだしな。
「いや、ちょうど近くに1匹凶暴なのがいるんだってさ」
凶暴? なんで、そんなに笑顔なんだ?
「危ない危ない。誰がそれに近づくってんだ? あの巨大ウサギなかなか強そうだぞ」
「そこはそれ、ノアノアもさ、ハロルドもいるし皆で協力してやればなんとかなるって言ってたしさ」
まったく。
「明日にでも、ちょっと茶釜を見ていこうっていう話になったの」
「そっか、頑張れ」
「何言ってんの? 皆で行こうって話じゃん」
「凶暴って言ってただろ。嫌だよ。怖い」
「何とかなるって。それに、そんな危ないところにか弱い女の子だけで行かせるの?」
なにがか弱いだ。言っていることが無茶苦茶だ。
だが、ほっとくわけにもいかない。
しょうがない……とりあえず、見に行くだけは行こうか。
0
お気に入りに追加
246
あなたにおすすめの小説

転生先ではゆっくりと生きたい
ひつじ
ファンタジー
勉強を頑張っても、仕事を頑張っても誰からも愛されなかったし必要とされなかった藤田明彦。
事故で死んだ明彦が出会ったのは……
転生先では愛されたいし必要とされたい。明彦改めソラはこの広い空を見ながらゆっくりと生きることを決めた
小説家になろうでも連載中です。
なろうの方が話数が多いです。
https://ncode.syosetu.com/n8964gh/
祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活
空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。
最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。
――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に……
どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。
顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。
魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。
こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す――
※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。

少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。
白い結婚を言い渡されたお飾り妻ですが、ダンジョン攻略に励んでいます
時岡継美
ファンタジー
初夜に旦那様から「白い結婚」を言い渡され、お飾り妻としての生活が始まったヴィクトリアのライフワークはなんとダンジョンの攻略だった。
侯爵夫人として最低限の仕事をする傍ら、旦那様にも使用人たちにも内緒でダンジョンのラスボス戦に向けて準備を進めている。
しかし実は旦那様にも何やら秘密があるようで……?
他サイトでは「お飾り妻の趣味はダンジョン攻略です」のタイトルで公開している作品を加筆修正しております。
誤字脱字報告ありがとうございます!
田舎暮らしと思ったら、異世界暮らしだった。
けむし
ファンタジー
突然の異世界転移とともに魔法が使えるようになった青年の、ほぼ手に汗握らない物語。
日本と異世界を行き来する転移魔法、物を複製する魔法。
あらゆる魔法を使えるようになった主人公は異世界で、そして日本でチート能力を発揮・・・するの?
ゆる~くのんびり進む物語です。読者の皆様ものんびりお付き合いください。
感想などお待ちしております。

異世界に来たからといってヒロインとは限らない
あろまりん
ファンタジー
※ようやく修正終わりました!加筆&纏めたため、26~50までは欠番とします(笑)これ以降の番号振り直すなんて無理!
ごめんなさい、変な番号降ってますが、内容は繋がってますから許してください!!!※
ファンタジー小説大賞結果発表!!!
\9位/ ٩( 'ω' )و \奨励賞/
(嬉しかったので自慢します)
書籍化は考えていま…いな…してみたく…したいな…(ゲフンゲフン)
変わらず応援して頂ければと思います。よろしくお願いします!
(誰かイラスト化してくれる人いませんか?)←他力本願
※誤字脱字報告につきましては、返信等一切しませんのでご了承ください。しかるべき時期に手直しいたします。
* * *
やってきました、異世界。
学生の頃は楽しく読みました、ラノベ。
いえ、今でも懐かしく読んでます。
好きですよ?異世界転移&転生モノ。
だからといって自分もそうなるなんて考えませんよね?
『ラッキー』と思うか『アンラッキー』と思うか。
実際来てみれば、乙女ゲームもかくやと思う世界。
でもね、誰もがヒロインになる訳じゃないんですよ、ホント。
モブキャラの方が楽しみは多いかもしれないよ?
帰る方法を探して四苦八苦?
はてさて帰る事ができるかな…
アラフォー女のドタバタ劇…?かな…?
***********************
基本、ノリと勢いで書いてます。
どこかで見たような展開かも知れません。
暇つぶしに書いている作品なので、多くは望まないでくださると嬉しいです。
あなたは異世界に行ったら何をします?~良いことしてポイント稼いで気ままに生きていこう~
深楽朱夜
ファンタジー
13人の神がいる異世界《アタラクシア》にこの世界を治癒する為の魔術、異界人召喚によって呼ばれた主人公
じゃ、この世界を治せばいいの?そうじゃない、この魔法そのものが治療なので後は好きに生きていって下さい
…この世界でも生きていける術は用意している
責任はとります、《アタラクシア》に来てくれてありがとう
という訳で異世界暮らし始めちゃいます?
※誤字 脱字 矛盾 作者承知の上です 寛容な心で読んで頂けると幸いです
※表紙イラストはAIイラスト自動作成で作っています

異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?
お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。
飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい?
自重して目立たないようにする?
無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ!
お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は?
主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。
(実践出来るかどうかは別だけど)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる