召還社畜と魔法の豪邸

紫 十的

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第十四章 異質なるモノ、人心を惑わす

ゆうぼくみん

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 服装はこの地方独特のものなのだろう。見たこともない、一風変わった物だ。
 ゆったりとした……そう、浴衣に似た服装。
 男の方は鮮やかな青色の服装をしていて、頭には同じような色の円筒形の帽子をかぶっている。腰には短剣を携えていて、その背中には、矢筒が見えた。細身でニコニコとした優しそうな男。
 女の子の方は真っ赤な服装だ。帽子も円筒形で飾り紐が付いていた。見るからにお転婆といった風で年はノアと同じくらいに見える。2人で一匹の巨大ウサギに乗っていた。
 彼らの乗った2匹の巨大ウサギは、オレ達の海亀に併走しながら走っている。

「こんにちは」

 とりあえず友好的な様子に安心し、返事をする。

「どこに行かれるのですか?」

 探るような感じではなく、ちょっとした雑談のような雰囲気だ。

「ええ、遊牧民の方を探しているんです。大平原のお肉が食べたいと思いまして」
「ふむ、そうですか。それは珍しい」

 あれ? 遊牧民に肉を食べたいというのは珍しいことなのだろうか。リスティネルはそんなことは言わなかった。その口ぶりから大平原の肉を求める旅人がいることは、よくあることだという話だった気がしたのだが、気のせいだったのだろうか。

「珍しいことなのですね。有名だという話を聞いて、是非とも食べてみたいと思ったのです」
「アハハ。そういう方はいっぱいいらっしゃいますよ。でもこんな内地ではなくて、港で私達に声をかけようとするものがほとんどなのです」

 なるほど、ルートが違うのか。確かにオレ達は飛行島で世界樹まで行って、そこから降りて、大平原を進んでいる。通常のルートとは違うと言われれば当たり前だ。

「ええ、世界樹を見てから遊牧民の方と出会おうと思ったのです」
「それはそれは大変な旅だ。世界樹はすごいものだったでしょ?」
「ええ、あんなに大きな木があると思いませんでした」
「そうでしょうね。異国の方は皆そうおっしゃいます。それにしても、運がいいです。こんな大平原で私たちを探すのはなかなか難しいのですよ」

 薄々感づいていたが、彼らは遊牧民なのか。確かに今になって考えてみるとこんなだだっ広い平原で遊牧民を探すっていうのは難しいかもしれない。そして、的確に遊牧民の居場所まで案内してくれたのは、イアメスの力だ。

「それは、案内をしてくれた人が優秀だったおかげです」
「そうそう、ところで、一つ質問なのですが?」
「なんでしょう」
「少し前に巨大な光の帯が出現し、大地を抉りとった出来事があったのをご存知でしょうか?」

 彼の言葉に、ギクリとした。ご存知、どころか主犯だ。

「えっ? ええ、それが何か?」
「今、あの光の原因を皆が調べているのです」
「調べる?」
「何事か知っておかなくてはなりません。もし同じようなことが立て続けに起こるのであれば、この場所を立ち去って、別の場所に移住し冬を越さねばなりませんしね」

 なるほど。
 確かに、あんなものがポンポン飛ばされていたら流れ弾に当たって大怪我しそうだ。
 つか、前回のやつも大丈夫だったよな。うん、大丈夫だってはずだ。誰もいなかった。

「あれは魔……」
「魔?」

 オレの言葉に、彼はすごく食いついてきた。

「あのー。それは実はですね、私どもが魔物に襲われてしまいまして、その反撃に……ちょっとやりすぎたというか、その……」

 彼の反応に、うろたえて言葉がしどろもどろになる。
 オレのもごもごとした言葉にしばらく耳を傾けていた男だったが、理解したのか酷く驚いた表情に変わった。
 そりゃそうだろうな。驚くよな。あの時は、オレも驚いた。

「なんとそんなことができるとは。やはり世界樹を見てから、遊牧民を探そうという方だけあって凄い人なのですね」
「ははは……」
「どうでしょう、せっかくです。私達のテントに来られませんか?」
「いいのですか?」
「せっかくの珍しい旅人です。おもてなしをしたいではないですか」

 どうしようかな。ヌネフも何も言わないし、ハロルドも特に騒いではいない。お言葉に甘えてもいいだろう。

「では、お言葉に甘えて……」

 そう言いかけた時に男が口を開いた。

「ああ。でも主の許しが必要ですよね」

 その一言であっと思う。そういえばそうだった。オレ達は奴隷階級だ。そんなこともすっかり忘れていた。
 男の向こう側に併走していた女の子2人も騒ぎ立てる。

「そうだそうだ、奴隷なのに偉そうだぞ」
「偉そうだぞ」

 はいはいと聞き流し笑みを返す。
 そんなオレの後ろから、ノアがトコトコと前に身を乗り出し、口を開いた。

「彼に任せています。ええ、私も遊牧民の方にお会いしたいと思っていましたので、その申し出は大歓迎です」

 そう笑って答える。
 ノアを見た瞬間、男は大きく見開く。
 今まで笑っていた女の子は顔をこわばらせ、少しだけ離れた。
 ノアが呪い子だと気付いたのだろうか。
 こんなに早く気づかれるとは、勘が鋭い。もしかしたら、看破の魔法を使いながらオレ達に声をかけてきたのか。
 ここで断られるようなことになるのであれば、初めから声をかけられなければよかったなと思う。

「どうかなされました?」

 沈黙が怖いので、慌てて声をだした。

「お嬢様。念のためにお名前をお伺いしても?」
「これは自己紹介が遅れました。ノアサリーナと申します」
「ふむ。もう一つ教えていただきたいのですが?」
「なんでしょうか?」
「サムソンという方も一緒にいらっしゃるのでしょうか?」

 サムソン。
 意外な名前が出てきたことに驚く。
 ノアはともかく、大平原のど真ん中でなんでサムソンの話が出てくるのだ?

「えぇ。サムソンなら中に……この小屋の中にいますが、何か?」
 男は相好を崩し「左様でしたか」と言った。
「サムソンが何か?」
「いえいえ、ちょっと驚いただけです」

 驚く? 何のことだろう?

「お父さん」
「父ちゃん」

 そろそろとウサギを近づけて二人の女の子が背後から男に声をかける。
 男は振り向いて2人を見た後、オレ達に向き直った。

「では、私は少し先に戻っておもてなしの準備をしましょう。サエンにパエン、2人はこの方達を、皆のところまで案内しておくれ」
「ええ!」
「面倒!」

 2人の子が抗議の声を上げた。
 その様子には何も言わず、男は指を口にくわえて、ピーっと音を鳴らした。それから、女の子が持っていた鳥を受け取り、大きく空に放った。

「あと、別の者が来ますので、それまではこの子達についていってください。では、後ほど」

 そう言ってウサギを大きく走らせる。

「しょうがねーなぁ。ついてこい」
「しょうがないなぁ。ついてこい」

 2人の女の子はオレ達を一瞥すると前を走り出した。
 そういえば。先ほどからイアメスの姿が無い。

「おい、ミズキ。イアメスは?」

 ロバに乗っているミズキに声をかける。
 心ここにあらずといった調子でぼんやりとウサギを眺めているミズキがハッとしたように、オレに向き直る。

「えっ、何か言った?」

 まったく、ウサギに見とれやがって。

「いやいや、イアメスの姿が見えないんだけれど」
「あれ、ほんとだ。さっきまでいたのに」

 小屋の外に居たノア、ピッキーにチッキー、それにプレイン。それぞれを見回すが、皆首を振る。
 いつの間にか居なくなっていた。
 もしかしたら、またひょっこり戻ってくるかもしれないが、なんとなく逃げた気がする。
 遊牧民に出会えたのでいいのだが、お別れの言葉ぐらいは言いたかったな。
 最近、ちょっとだけ仲良くなってきたので、急なお別れはなんとなく寂しかった。
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