召還社畜と魔法の豪邸

紫 十的

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第十四章 異質なるモノ、人心を惑わす

たんじょうびにむけて

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 イアメスはおとなしいものだ。淡々と、道案内をしてくれる。
 数日が過ぎて、背後に見える世界樹も小さくなってきた。

「あと、少しですゾ」

 今日は、イアメスもなかなか元気だ。
 元気がない彼を心配してカガミがドーナツを差し入れたのが功を奏したのか、すごくご機嫌だ。
 カガミはイアメスに甘い。ミズキも甘い。グチグチ言っていると「もしかして妬いてんの」とまたバカにされるので言わないが何となく釈然としない。
 道案内としては優秀なわけだから、しばらくは放って置くことにして小屋の中に戻る。
 今日は少し肌寒い。冬が近づいているわけだから当然だろう。
 ふと見ると、小屋の中でピッキー達3人が何かをしていた。
 オレに気がついたチッキーがびっくりしたように目を大きく開き、キョロキョロと辺りを見回す。

「お嬢様はどこでちか?」
「小屋の外で、柵に寄りかかって外を見てるよ。ちょうどトリケラトプス……いや、角のある巨獣がみえるんだ」
「よかったでち」

 なんだろう。3人がとてもほっとした表情をしていた。
 まるでノアに隠し事をしたいかのように……。

「ノアがいたらまずいことでもあるのかい?」

 考えてもしょうがないのでストレートに聞くことにした。
 ピッキー達獣人の兄妹は、頷きあう。
 そしてピッキーが口を開いた。

「お嬢様の誕生日プレゼントを作っていました」
「もう、冠も過ぎて眠りの月でち」
「あと少しなんです」

 誕生日!
 またしてもオレはすっかり忘れていた。誕生日プレゼントのことを。
 そうか、もうそんな季節か。そういえば世界樹で、オレ達がこの世界に来てから1年が経っていると聞いていた。
 そして2度目の冬が近いということは、ノアの誕生日も近いということだ。
 カレンダーがないので、なかなか月日の経過に思いがいかない。

「で、今回はどんなものを作るの?」
「男の子のお人形でち」

 なるほど、去年は女の子の人形だったから、今度は男の子の人形か。

「トッキーとおいらが、テーブルと馬車を作ります」
「へー、凝ってるな。あの人形が入るとなると、結構大きな馬車になるね」
「折りたたんで小さくできるので、お嬢様の鞄にも入る予定です」
「なるほど。色々考えてるな。じゃあ、バレるわけにはいかないよな」

 3人の邪魔をするのも申し訳なく思い外へ出る。
 ノアはカガミと何かをお話ししていた。
 いまのうちにと考えて、プレインの方へ行く。

「あっ、そっか。そうっスよね」

 プレインも、考えが至らなかったようだ。
 それからサムソンとミズキにも声をかけたが、みんなすっかり失念していた。

「俺達にとっちゃ誕生日なんてどうでもいいもんだからな。むしろ、年齢のこと考えると頭が痛い」

 サムソンの言葉に図らずも同意する。
 そういえば、加護で今が何月何日かわかるんスよね。
 なるほど。ピッキー達3人は加護の力でノアの誕生日までに間に合うようにスケジュールを調整していたのか。

「で、どうしようか?」

 プレゼント。去年はオレ達がカニ鍋を食って満足しただけだった。
 今年はピッキー達獣人3人のように何かをプレゼントしたいと思う。

「そうだな、俺に考えがある」
「考えっスか?」
「やっぱり、俺達は魔法……魔法をプレゼントしようと思うんだが」
「魔法をプレゼント、オリジナル魔法か」
「まあな。ちょっとプロトタイプを作るから、少し小屋の中にこもるぞ」

 サムソンは言いたいことを言った感じで、そそくさと小屋の中に入る。
 他にいいアイデアがあるわけでもない。自信があるようだし、サムソンに任せよう。
 夜中、ノアが寝た後に同僚達で集まって、ノアの誕生日についての話をした。
 その頃にはサムソンがプロトタイプを作り終えていて、オレ達の前で披露してくれることになった。

「俺が使ってる鎧を作る魔法の応用だ」

 広げた紙の上に、サムソンが1人立ち、触媒の石の欠片を何個も置いていく。

「宝石も使うんスね?」
「そうだな。まぁ、最終的には触媒を使わない方向で進めていきたい」

 この世界では、宝石はどれもこれもが高いというわけではない。
 美術品や装飾品に使う宝石とは別枠。正確には高級な宝石を作り上げる途中で出てくる小さなかけら。もしくは値段のつかなかった宝石が安く売られているのだ。
 もっとも高級な宝石に比べればということなので、タダ同然というわけではない。だが、袋いっぱいの宝石をお安く手に入れることができて、それは魔法の触媒に使う分には十分な代物なので、家計的には大助かりだ。
 サムソンが、魔法陣の上に置いているのもそんな屑宝石。
 見る目がないオレとしてはどれもこれもやはり綺麗だと思うのだが、これが売り物にならないというところに世の中の厳しさを感じる。

「ちょっと行くぞ」

 サムソンが魔法陣を下に眺めながら魔法の詠唱を始める。
 魔法が発動し、サムソンがだぼついたワンピース姿になった。ちょっとした女装だ。

「正気か?」
「ちょっとやめてよ」

 ミズキが悲鳴のような声をあげる。少し声が大きい。ノアが起きたらどうするんだ。

「待て待て待て。プロトタイプだと言っただろうが。こんな風に魔法で服を作れるんだよ。鎧を作る魔法の応用だな」

 一瞬隠し芸でもやるのかと思って焦った。
 でも、確かにいいアイデアだ。誰にも真似できないもの。そしてオレ達らしいプレゼントだ。

「別に女物の服装で実演しなくてもいいのに」
「今まで着てた服はどうなってるんスか?」
「服を変化させる魔法だと考えてもらいたい。物体変化の応用だな。しかもただの服じゃない。つぎ込む魔力に見合う防御力も備える服だぞ。これ」
「それでノアノアのドレスを作ってあげようと。かっこいいじゃん」
「そういうことだ。複雑な形になればなるほど、使う布の量は多くなればなるほど魔力が必要だが、ノアちゃんなら大丈夫だろう」

 なるほどな。
 確かに、ノアの魔力だったら凄い物が実装できそうだ。

「あのさ、さっきサムソンが魔法を使った時、身体のラインが一瞬だけはっきり見えたんだけどさ、あれ、絶対そうなるの?」
「変身シーンだからな、当然だな」
「そこはちょっと改良した方がいいと思うんです。思いません?」
「どういうことだ? 変身シーンにはこういうシーンが必要だぞ?」

 サムソンはなにやらこだわりを持っているようだ。ちょっとムキになって反論していた。オレには、そのこだわりが理解できない。

「まぁ、そのへんはいらないだろう。もう少し……例えばクローヴィスみたいな感じがいいと思う」

 申し訳ないが、サムソンには少し反論させてもらう。
 ちなみに、クローヴィスは人から銀竜の姿に変わるとき、赤い布にフワリとくるまれてパッと変わる。流れるような動きがかっこいいのだ。

「そうっスね。あんな感じでかっこいいのがいいっスね」

 その後の話し合いの中で、カガミとミズキが服のデザインを考えることになった。
 加えてこの服の魔法については、実装に色々な数式が必要らしい。

「なんかさ、数式に英語がある時点で無理」

 ミズキがパタパタと手を振る。
 サイン、コサインはなんとかついて行けるが他は駄目。こんなに不思議な文字が並ぶ時点でオレにも無理。
 結局、数式が理解できないオレとミズキ、それにプレインは、デザインした服の実装にも携われない。もっと勉強しておけばよかった。
 そう考えると、今回の魔法を作るにあたってカガミの負担が一番大きい。
 もっとも本人も乗り気だから任せても大丈夫だろう。
 代わりにオレとプレインミズキは、ノアに気づかれないように気を紛らわせる作業がメインだ。あとは食事の準備などでカガミがやっていた分も3人で分担する。
 今度こそ、立派な誕生日プレゼントを贈るのだ。
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