召還社畜と魔法の豪邸

紫 十的

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第十四章 異質なるモノ、人心を惑わす

だいへいげんをいく

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「イアメス様、昨日は眠られませんでしたか?」

 前をぱっかぱっかと馬に乗って進むイアメスに声をかける。どうも寝不足のようだ。顔色が悪い。
 もっとも、獣人の顔色なんてよく分からないから何となくなのだけれども。

「いえ。ご心配にはおよびません。大丈夫ですゾ」

 やはり元気がないようだ。声に昨日のような張りがない。

「えっと。イアメス様、苦しかったらちょっと休みますか?」

 カガミも気にして声をかける。

「いえいえいえ。大丈夫ですぞ」

 先程もよりも元気な、もっとも空元気だと丸わかりの声でイアメスが返事する。
 昨日、夕食を食べた後、彼は周りを見てくると言って夜遅く出掛けていった。
 この辺りをくるくると回っていたらしい。

「後をぉ、ついていったんだけど見失ったわぁ。辺り、暗かったしぃ」

 念のために後をついていったロンロも何をしていたかまでは把握できなかったようだ。
 大平原には明かりがない。夜になれば満天の星が広がるのみだ。
 それは今まで見たどんな星空も超える凄い星空だった。
 こうして見ると、空に浮かぶ点の蓋は本当に邪魔だ。あれが無粋に輝いているせいで星空が台無しな感じがする。
 ノアも、あまり見たくないようだしな。
 だが、それ以外は最高な星空だ。大平原に寝っ転がって空を見上げてしばらくボーっと過ごした。
 大平原は本当にまっさらだ。丘もなければ山もない。遠くに見える、世界樹がただ一つの目印。
 たまに恐竜の足音がした。
 本当にただそれだけ、静かな静かな空間。
 もう少し暖かければ、ずっと寝っ転がっていたい空間。
 さすがに、近く雪が降る季節ということもあって、星空を堪能した後は、小屋に戻りすぐに寝た。
 イアメスは、オレ達が寝転がって星空を見ていたとき海亀からやや離れた場所で、たき火をしていた。
 周りを見て回ったのは、オレ達が寝た後なのだろう。
 朝日と共にじわじわと姿を現す巨大な世界樹を見て、朝が始まる。
 あの巨大な世界樹に、ハイエルフ達が住んでいて、自分もつい最近までそこにいたというのは不思議な気分だ。

 軽く朝食を食べて、ゆっくりと進みはじめて今がある。
 今日もイアメスの案内通り進む。
 何もない大平原にもなれてきた。
 小屋から外にでて、小屋の周りに張り巡らした柵に手をついて外をぼんやりと眺める。
 歌が聞こえる。
 小屋の屋根に登ったモペアが歌っていた。

「随分と寂しい歌っスね」

 ちゃんと歌詞を聴いていなかったオレとは違って、プレインはモペアの歌の歌詞を聞いていたようだ。
 プレインの言葉を聞いて、モペアが立ち上がりピョンと飛び降りた。

「世界樹にドライアドがいなかっただろ」
「確かにいなかったな」

 そういえば、モペア以外のドライアドを見なかった。シルフに関しては直接会って話したわけではないが、遠くに飛んでいるのを見たことがある。

「結局のところ、歌の通りの理由なんだよ」
「そうなんスね」

 プレインに歌詞の内容を聞くと、1人のドライアドがハイエルフに恋をしたという話だった。
 ハイエルフは、倒れた世界樹を嘆きいつも泣いていた。
 ドライアドはそんなハイエルフのために何かしてあげようといろいろ奔走するのだが、ずっと沈み込んだハイエルフの心を引くことはできない。
 そして……。

「真っ赤な鳥! 巨大な鳥が飛んできます!」

 そこまで話を聞いた時にカガミが大声をあげた。
 カガミの声を聞いて、反射的に海亀が止まり、頭と手足を引っ込める。
 急に海亀が頭を引っ込めたので、御者をしていたピッキーが後ろへと転がり、小屋に頭をぶつける。

「ピッキー、大丈夫か?」
「大丈夫です!」
「アレイアチ! 怪鳥アレイアチですゾ!」

 続いてイアメスが声をあげ、腰の剣を抜いた。

「イアメス様、何か知ってるんですか?」
「あれは、アレイアチ! 攻撃の魔法が一切通じぬ、鳥型の魔物ですゾ!」

 魔法が通じないのか。
 真っ赤な鳥が近づくに連れ、独特の外見に目がいく。
 相当大きい。巨獣の一種なのか。
 海亀と同じくらい、戸建ての家くらいの大きさ。
 だが、体躯のほとんどが巨大な足だ。真紅で丸っこい胴体に、猫のように縦線の瞳をした巨大な目。羽は小さく、足は胴体の2倍もある巨大なもの。あの足で引っかかれでもしたら大怪我しそうだ。

「大丈夫、ワタクシめが、なんとか倒してみせますゾ!」
「えっ、ああ、はい。お願いします」

 あっけにとられたようにカガミが返事する。
 そうだった。ハロルドはちょっと見回りに行っているという設定だった。実際は小屋の中で、子犬の姿になって寝ている。イアメスがなんとかするというし、とりあえず任せることにしようかな。
 最悪の場合、ノアに呪いを解除してもらってハロルドにお願いしよう。
 でも、魔法が通じない魔物もいるのか。
 今後の事を考えていると、何らかの対策はオレ達の方でもしておいた方がいいだろう。
 魔法以外の攻撃手段。
 そんな攻撃手段を持っているのは、プレインとミズキ、そしてオレ。
 手数は凄いが、攻撃力という点ではハロルドほど強くはない。
 大破壊力を持つ攻撃手段があった方がいいのではないかとふと思った。
 オレが持つ攻撃手段は、バリスタと……。
 そうだ。一つ閃いた。

「カガミ。あの金の鎖で、あれを捉えることはできる?」
「え、え? あれは生き物には通じませんよ」
「あれ? 海亀は?」
「いや、海亀を捉えてたんじゃなくて、ウミガメの上に乗った部分を捉えていたんです」

 なるほど、あの金の鎖は生き物以外しか捕らえることができないのか。

「じゃあ、あの鳥を拘束することはできないのか?」
「リーダ。お前、拘束して、どうするんだ?」
「試したいことがあってさ」
「分かった。任せろ。俺がやろう」

 サムソンがオレの考えに協力を申し出て、小屋の屋根に駆け上る。

「イアメス様。一旦、私達で対処するので、駄目だったら手をお貸しください!」
「んぐ? あい分かりました……ゾ」

 念のためにイアメスにも声をかける。

「カガミ氏! 魔法の壁であいつの進路を塞いでくれないか? 動きを少しだけ止めてくれれば俺がゴーレムの手で押さえる」
「えぇ、えぇ」

 サムソンの言葉を聞いて手慣れたよう様子で、カガミが首元をつかみ魔法を詠唱する。
 カガミは、壁を作る魔法陣を描いた布を、首元につけているようだ。

「頼む!」

 サムソンとカガミに声をかけ、ひょいと海亀の背から飛び降りる。
 そして、オレは影の中から武器を取り出す。
 オレが試したいこと。
 それはハイエルフの里で手に入れた古代兵器の威力と使い勝手だ。
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