召還社畜と魔法の豪邸

紫 十的

文字の大きさ
上 下
242 / 830
第十三章 肉が離れて実が来る

つうはんのほん

しおりを挟む
 皆が、少しだけ暗い雰囲気を切り替えようとしていた矢先だ。

「……礼より前に、報酬のこともある」

 そんなそばから、カスピタータが神妙な面持ちで言葉を発する。
 気が沈んでいたから暗い言い方なのかと思っていたが、よく考えるとカスピタータはいつもこんな感じだったな。
 ーー兄さんはいつも堅苦しいんですよね。
 つい先ほどのシューヌピアの言葉を思い出し、少し笑う。

「そうだな。オレとしては、あの寝転がるとふかふかの布団になるあの布が欲しい」

 あれはいいものだった。報酬と聞いて真っ先に思いつく。快適ゴロゴロ生活は大事なのだ。

「私も」
「そうだ。あのシロップの出るツボが欲しいです」
「色々な味のシロップというか、調味料が出るツボっスか?」
「そうなんです、とっても可愛いいと思うんです。皆もそう思うんでし? 思いません?」

 可愛いかどうかは別として、色々な味が出せるなら便利だろう。調味料の種類が増えると考えれば、今後作る料理の幅が広がる。
 オレは、あの布団になる布は欲しいけれど、あとはよく分からない。

「まぁ、焦ることもあるまい。気が向いた時にゆっくり決めればよかろう」

 なんだかずいぶんとのんびりとした答えだ。オレ達が肉が食いたいということをリスティネルは忘れているのだろうか?

「でも、私達も何時までもこの場所に留まる訳にいかないですし……。お礼を決めるために滞在を延ばすというのも気が引けます」

 好意にいつまでも甘える気にもならない。
 それに自然は待ってくれない。雪が降り、肉が食えないのでは駄目なのだ。

「そういえば、面白い事情があったの。ホホホ。案ずるな、3日後には降ろしてやる」
「リスティネル様が? でも、何で3日後なんですか?」
「ゴンドラを使ってもよいが、急ぐのであろう? 今回は、褒美代わりに私が降ろしてやろう」
「3日後というのは?」
「世界樹の根元に人が多い。あまり降りる所を人に見られとうない。多少なら良いが、大人数だと誤魔化すのが面倒なのでな」

 なるほど。そうなると、時間はある。

「じゃあ、3日の間に色々何か考えときます」
「まぁ、別にそんなに急がなくても大丈夫じゃよ。10年程度ならワシらにとってほんのうたた寝程度の時間じゃ」

 長老がすぐ側にいた若いハイエルフから1冊の薄い本を受け取り、俺たちのほうに差し出した。
「これは?」
 深緑に染められた布張りの薄い本を手に取りぱらりとめくる。イラストとそれに文章が添えられている。
 おしゃれな図鑑といった感じだ。

「ハイエルフの里で提供できる目録じゃよ。それを読んで、もし必要な物があれば言えば良い」

 どういうことだ?

「ふむ、そういうことか」

 首を傾げるオレ達を見て、リスティネルが何かを悟ったように呟く。

「其方達はこの里から降りる前に、何を報酬として受け取るかを決めようと……決めなくてはならないと思ってるのであろう?」
「違うのですか?」
「降りた後でも、こちらまで文をよこせば希望の品を送ることができる」
「ふみ……手紙?」
「どういうものが提供できるのかが、そこの本で……手紙の送り方は最後のページじゃな」

 長老が先ほどの本を指差す。
 最後に魔法陣が書かれていた。
 触媒……トーク鳥?

「トーク鳥を触媒にする魔法? ひょっとして生贄?」
「それは、白孔雀の魔法じゃ。トーク鳥をほんのしばらくの間、白孔雀へと変身させることができる」
「白孔雀は世界樹にあるハイエルフの里まで軽々と飛ぶことができる魔法の鳥よな」

 その白孔雀に手紙を持たせ、ハイエルフの里まで希望を伝えれば、選んだ品を送ってくれるらしい。
 なんとなく通販を連想する。

「まるで通販だ」

 素晴らしい! 
 異世界で通販生活ができるとは。

「通販? どちからといえば、結婚式の引き出物カタログというか、そんな感じかと思います。思いません?」
「あれだよ。パチ……」
「まったくお前ら、人のお礼をそんな表現するなよ」

 途中から頬杖をついて、窓から外を見ていたサムソンがツッコミを入れる。
 彼の視線を追って見ると、ふと慌ただしく動き回るハイエルフが目に映った。
 あの大騒動だ。後始末があるのだろう。

「気にしないでくれ。後始末は我らハイエルフがやる。恩人たる貴方達はゆっくりしてくれればいい」
「せっかくだから、上層を歩いて見ては? 皆さん、この家と飛行島を往復してばかりで行ったことないですよね。見晴らしがいいですよ」

 オレ達がハイエルフ達の様子を見ていたことに気がついたカスピタータが、まるで先手を打つように言い。それに続いて、シューヌピアが上層の散歩を提案する。
 手伝おうかと言おうとしたが、余計なお世話かもしれないと思い直し、カスピタータの申し出を受け入れることにした。
「そっすね。今日はいろいろあったし、ゆっくりするっス」
 そんなわけで、夕食まで散歩することにした。

「あの騒動、結構長いこと色々やってた気がするんすけど、終わってみると案外短い時間だったんスね」

 確かに言う通りだ。まだ夕方にもなっていない。

「最近、密度の濃い生活ばっかりだったけど、今日ほどじゃなかったです」
「そうだな」
「まぁ、今日明日はダラダラしようよ」

 のんびり気分で、ハイエルフの里を見て回る。

「この風景も見納めだね」
「感慨深いです。この通路も、ずいぶん慣れて歩けるようになりました。歩く時の音が良いと思います。思いません?」

 ことさらにカツカツと音をたて、板で出来た道を早足で先に進んだカガミが振り返って言う。
 笑顔のカガミが言うとおりだ。
 最初は、頼りなく感じた木の板で作られた道も、慣れると案外快適だ。落下の不安もなんのその。最初は恐る恐る歩いていたカガミが、軽くスキップするような歩調で歩るけるくらいまで慣れた。

「こうやって仕事抜きで見ると、外の景色もすごくいいっスね」

 確かに言う通り景色は良い。一面広がる青い空地平線が見えたり、うっすらと見える山が見えたり、高高度から見るこの風景もなかなかオツなもんだ。
 のんびりと見て回った後はいつものような夕食。それが終わったら、皆でカタログを見ながら話す。

「この腕に巻き付く大弓っていうのが気になるっス。あ、尽きぬ矢筒ってのいいっスね」

 プレインは弓矢を使うことが多いから、弓矢を好むハイエルフ達の装備品に興味津々だ。

「これこれ、これなんか良さそう」

 ミズキが、小さな髪留めのイラストを指差す。

「髪の長さを変えれたり髪の毛の色が変わる髪留めかぁ」
「素敵です。私、すごく長い髪に憧れてたんです。いいと思いません?」

 ハイエルフの里で用意できる報酬が書かれたカタログ。色々な不思議な道具が書かれている。イラストがどことなくデフォルメされていて、一つ一つに書かれたコメントも楽しい。これだけでも1冊の読み物だ。

「そういえばさ、リーダの希望って通ったの?」

 ちなみにオレが報酬として貰いたいものはこの中にはない。

「ああ。快く了承してもらえたよ」
「リーダは何が欲しいっていったの?」
「飛行島にある兵器類。えっと、装備かな」

 たくさんの兵器類が飛行島にはあった。魔壁フエンバレアテなどゴツイ兵器がたくさんだ。
 オレは、それが欲しいということをカスピタータに伝えた。

「なんだか物騒なもの欲しがるよね、リーダ」
「お前、何と戦うつもりなんだ?」
「いや、戦うっていうかさ、ほら、なんか、古代兵器で武装するってかっこいいじゃん」
「確かにかっこいいな。でかすぎて取り回し面倒だろうけど」

 オレの言葉に、サムソンは賛同したが、他の人間はそうでもないようだ。
 古代兵器で武装って、かっこいいと思わないのかな。
 なんだかんだと言って、大きいので、個人で所有したり使おうという気にならないのかもしれない。
 もっとも、大きすぎて持ち運べないという問題は、影収納の魔法で解決出来る。つまりあの巨大な兵器類を、オレは持ち運ぶことができて、すぐに出せる状態にできるということだ。
 さすがにこればっかりは、鳥に運んでもらうわけにもいかないだろうから、今のうちに貰っておくしかない。
 中には、兵器を使用するために貴重な触媒が必要なものもあった。
 ツインテールが打ち込んできた巨大な魔法の矢なんかがそれだ。
 カスピタータが言うには、必要な触媒は残りわずかで、しかも作り方がわからないそうだ。
 もちろんそれについても対策済み、作れなくても増やせば良い。
 複製の魔法は、触媒の関係で使えなかったとカスピタータは言っていたが、オレには勝算がある。あのエリクサーさえ増やした、進化した遺物だ。
 財布の中にある小銭。まだまだ余裕がある。いざとなれば万札を使ってもいい。
 とりあえず、明日あたりに兵器類を受け取って、ハイエルフの里を観光しつつ、のんびり過ごそう。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

転生先ではゆっくりと生きたい

ひつじ
ファンタジー
勉強を頑張っても、仕事を頑張っても誰からも愛されなかったし必要とされなかった藤田明彦。 事故で死んだ明彦が出会ったのは…… 転生先では愛されたいし必要とされたい。明彦改めソラはこの広い空を見ながらゆっくりと生きることを決めた 小説家になろうでも連載中です。 なろうの方が話数が多いです。 https://ncode.syosetu.com/n8964gh/

祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活

空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。 最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。 ――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に…… どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。 顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。 魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。 こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す―― ※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

田舎暮らしと思ったら、異世界暮らしだった。

けむし
ファンタジー
突然の異世界転移とともに魔法が使えるようになった青年の、ほぼ手に汗握らない物語。 日本と異世界を行き来する転移魔法、物を複製する魔法。 あらゆる魔法を使えるようになった主人公は異世界で、そして日本でチート能力を発揮・・・するの? ゆる~くのんびり進む物語です。読者の皆様ものんびりお付き合いください。 感想などお待ちしております。

あなたは異世界に行ったら何をします?~良いことしてポイント稼いで気ままに生きていこう~

深楽朱夜
ファンタジー
13人の神がいる異世界《アタラクシア》にこの世界を治癒する為の魔術、異界人召喚によって呼ばれた主人公 じゃ、この世界を治せばいいの?そうじゃない、この魔法そのものが治療なので後は好きに生きていって下さい …この世界でも生きていける術は用意している 責任はとります、《アタラクシア》に来てくれてありがとう という訳で異世界暮らし始めちゃいます? ※誤字 脱字 矛盾 作者承知の上です 寛容な心で読んで頂けると幸いです ※表紙イラストはAIイラスト自動作成で作っています

平凡冒険者のスローライフ

上田なごむ
ファンタジー
26歳独身動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物・魔法・獣人等ファンタジーな世界観の異世界に転移させられる。 平凡な能力値、野望など抱いていない彼は、冒険者としてスローライフを目標に日々を過ごしていく。 果たして、彼を待ち受ける出会いや試練は如何なるものか…… ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?

お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。 飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい? 自重して目立たないようにする? 無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ! お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は? 主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。 (実践出来るかどうかは別だけど)

処理中です...