召還社畜と魔法の豪邸

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第十三章 肉が離れて実が来る

ぎもんのこたえ

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 全てが終わり、そろりそろりとスローな動きで迎えにきた飛行島に乗り込む。
 戻ってみると、飛行島は思っていた以上にボロボロだった。
 少し動く度にポロポロと土台が剥がれ落ちていく。
 本当にあと一発食らっていたら……体当たりを一撃くらっていたら、ダメだっただろう。
 しばらくして別の小さな飛行島に乗って迎えに来たシューヌピアにカスピタータを任せる。

「私はここに残るゆえ、お前達は先にお行き」

 シューヌピアと一緒に小さな飛行島に乗ってきたリスティネルは、カスピタータをシューヌピアの飛行島に乗せた後、オレ達の飛行島に残った。
 それから続いて飛行島に乗って近づいてきたハイエルフ達の手助けもあって、ボロボロと崩れ続けていた飛行島も無事世界中へと戻ることができた。

「ところで、クローヴィスは世界樹に行ってはダメだと言われてたんじゃなかったっけ?」

 助かったから別に良いのだけれど、この土壇場でテストゥネル様が気を利かせてくれたのだろうか。

「よくわからないんだ。前に閉じた召喚の呼び声が復活して、それから……ノアが大変だって声が聞こえて、呼び声に飛び込んだんだ」

 飛び込む……か。
 前から気になってはいたけれど、呼び声ってどんなのなんだろう。扉みたいな物なのかな。

「なんで呼び声が復活したんだろね」
「うん。それに、お母さんの許しがないのに、ここに来れたのも不思議なんだ」

 母親である龍神テストゥネル様の許しが必要なのか。
 聞けば聞くほど、なぜクローヴィスがこの場所に来ることができたのかわからなくなるな。

「不思議だね」
「ホホホッ」

 首を傾げるクローヴィスとノアを、扇で口元を覆ったリスティネルが笑い見下ろす。
 それからパチンと小気味いい音をたてて扇を閉じたかと思うと、その瞬間、リスティネルが持っていた扇が鎖をつけられネックレス状になった角笛へと姿を変えた。

「それはこういうことだ」

 リスティネルはそう言って、チャラリと角笛を2人の目の前に差し出す。

「あれ、私の」

 ノアが驚きの声をあげ、たすき掛けしたカバンをごそごそと探る。

「ホホ、少し借りただけよ。前にノアサリーナ、其方がクローヴィスを呼び出そうとした時、あの時に、少し細工させてもらってな」

 この人が何かしたのか。
 思った以上になんでもできる人だな。

「おばさんは……一体?」
「おばさん? ハァ、嘆かわしい。私は、この場にいる誰よりも年上だが、おばさんではない。綺麗なお姉さんぞ」

 リスティネルは軽く溜め息をついて、クローヴィスの額を指ではじく。いわゆるデコピンだ。

「いてっ」

 たまらず口を尖らせて見上げたクローヴィスを見て、リスティネルは柔らかく微笑む。

「たまにはちょっとした家出もいいものだろう? だが、すぐに帰らねば、口うるさいおばさんに怒られてしまう」

 そう言って笑顔のリスティネルがクローヴィスの頭を一撫ですると、クローヴィスがスッと消えた。
 本当にこの人は何者なのだろう。

「テストゥネル様とは知り合いなのですか?」

 カガミが、誰もが考えていたであろう疑問を口にする。

「まぁな。大方クロヴィースにいらぬことを吹き込まれないようにと、考えたのであろう。全くもって面倒くさい」

 オーホホホと高笑いしリスティネルはカガミの質問に答えた。とても楽しそうに。
 ハイエルフ達が動かす飛行島に護衛されるように、ゆっくり世界樹に戻る。
 ようやく戻り、世界樹の上を張り巡らされた木製の道を踏みしめた時、とてもホッとした。ポロポロと崩れ続けていた飛行島より、この風に揺られ小さく軋む板でできた道の方が安心する。

「ありがとう」
「カスピタータを助けてくれて、ありがとう」

 ハイエルフ達の、感謝の篭もった労いを受けた後、長老の家に向かう。

「其方達には、何が起こったのかを教えておかねばと思ってのぉ」

 いつものように、淡々とした調子の長老に案内された先には、双子が横たわっていた。
 真っ白いベッドの上に、仰向けになり、両手を胸元に載せた姿だ。
 いつ起きてもおかしくない彼女達の周りには、カスピタータ、シューヌピア、男女2人のハイエルフ、そしてリスティネルがいた。
 見知らぬ男女のハイエルフは、双子の父親と母親だそうだ。
 そんな、それぞれの紹介の後に、長老が淡々とした口調で、感情を抱かせない口調で、双子の事を話し始める。

「もしやというか、やはりと言うべきか、魅了の魔法を施されているようじゃ」
「魅了……?」

 長老の言葉にカスピタータが小さく呟き眉根を寄せる。

「私の見立ても同じよ。タチが悪いことに、恋心に錯覚させておる」

 そして、リスティネルが長老の言葉を補強する。

「ひどいもんじゃ、こう……心の奥深くまで染み込むようにかけられては、解除するにも時間がかかる」
「私がやってもさほど解呪にかかる時間は変わらぬであろう。まるで淡墨を重ねて漆黒を表現するように、必要以上に魅了の魔法をかけているようじゃ。操るには不必要な回数かさねて魅了するとは、この術者は何がしたいのやら」
「解除できるのですか? 守り主様?」

 双子の父親はすがりつくように、リスティネルに駆け寄り尋ねる。
 見た目から想像できないほど、弱々しい足取りと声音に皆がそっと目を伏せた。
 リスティネルをのぞいて。

「うむ、そうであるな、およそ100年もしくは200年かかるが解除はできる。このまま寝かせ、ゆっくりと溶かすように解除せねばならないが問題はなかろう」

 1人、リスティネルだけは、先ほどと全く同じ調子で言葉を返した。
 100年200年、軽く言ってくれるが、途方もない期間だ。

「そうですか。良かった」

 双子の父親は崩れるように膝から倒れ、母親は泣き崩れた。

「術者を始末してしまえば?」

 カスピタータはその言葉に納得がいかないように呟く。

「確かに術者をどうにかできればそれが一番早いじゃろう。だが、どこに術者がいるのか……手がかりがない。明かしてないのではないかな?」
「何か言っていたか?」
「いや。あの方とだけ……」

 術者がわからない事を、畳み掛けるように指摘されたカスピタータがうなだれる。

「特に……何も、術者に繋がることは言わなかったかと、思います」

 話の中で、視線が集中することになったオレも、何も知らない事を伝えるほかない。

「だが、2人が使役していた、ミノタウルスや飛竜は、高度な武装がされていた。あのような装備を魔物に使わせるなどと普通ではない。何処かの大国、もしくは組織が絡んでいるのではないかと推測はできかと」
「組織……神殿……もしかして魔神教団でしょうか?」
「さてな。当面は今回の出来事の後始末をせねばならぬじゃろ。術者を見つけるのも、他の道を探るのも、その後じゃろうって。まぁ、一旦話はここで終いにしとこうかの」

 事情説明が終わったと言うことなのか、長老が散会を宣言する。双子はしばらくこの部屋で寝かせるらしい。しばらくと言ってもハイエルフでの感覚だ。オレ達にとって100年を超える期間はとても長い。

「私は喉が乾いたわ」

 部屋からでてしばらくして、ことさら軽い調子でリスティネルが言葉を発した。

「さて、堅苦しい話はこれでしまいじゃ。我らハイエルフとしては、ノアサリーナ達に礼をしたいじゃろう?」

 長老がそれに同調するように話を進める。

「確かに私としてもお礼はしないとはならない」
「兄さんはいつも堅苦しいんですよね」

 シューヌピアは柔らかく笑った。

「ノアサリーナ様、そして皆様。100年は人としては悠久にも似た時間でしょうが、私達にはそうでもないんですよ。ですので、ご心配なく。私は2人と昔のように過ごせる見込みがあると言うだけで嬉しいのですから」

 そして、小さくそう付け加えた。
 沈んだ顔をしていたオレ達に気を使ったのだろう。
 とりあえず、この場はその言葉に甘えることにする。
 そうだな。
 一応は、解決したのだ。
 気分を切り替えなきゃな。
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