召還社畜と魔法の豪邸

紫 十的

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第十三章 肉が離れて実が来る

つぎからつぎへとミノタウロス

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 強い風がふき、煙が飛ばされたことで何があったのかがわかる。
 魔物だ。牛の頭をした巨人。背丈はオレの2倍はありそうだ。
 磨き込まれた金属製の鎧を着込んでいて、チラチラと鎧の端々に青い光が走る。
 そして、その周りには巨大な斧が散らばっている。金属を削り出して作ったような斧だ。

「ミノタウロスか。そんなものまで、持ち込んでいたのか……」

 カスピタータが平然として立ち上がる。
 そのまま、ミノタウロスと2人のツインテールから目を離さないように、バックステップでオレ達の所まで来た。

「大丈夫ですか? カスピタータさん」
「問題ない……が、貴方達には助けてもらってばかりだ。こんなことに巻き込んでしまうとは思ってもいなかった」
「大変なことになったっスね」
「あぁ……。貴方達は、隙をみて迎えに来た飛行島に乗るといい。さすがに適いそうにない」

 カスピタータがずいぶんと弱気だ。目の前にいるミノタウロスは相当強いのだろう。
 こんなことなら、近くに転がっている兵器類の使い方をよく読んでおけばよかった。

『ドォォン』

 そんな時、大きな音がして飛行島が小さく揺れる。
 オレ達の飛行島が、この飛行島に建っているお城に似た建物にぶつかったようだ。
 円錐形の屋根をした塔部分が吹き飛び、周りに飛び散る。

「あぁ、美しい城が!」
「あのお方へのプレゼントが!」

 吹き飛んだ建物をみて、ツインテールの2人が悲鳴をあげた。
 それとほぼ同時に、ミノタウロスが斧を投げる。
 オレ達の頭上を遙かに超える軌道だ。
 何処に投げているのかと思った次の瞬間、意味が分かった。
 頭上をかすめて飛び去るオレ達の飛行島から、ハロルドが落ちてきたのだ。
 そんなハロルドに向かって迎撃するように斧を投げたようだ。

『ガァン』

 金属のぶつかる音が大きく響く。
 火花が飛び散り、ハロルドの剣がオレ達の背後に落ちて刺さった。

「焦ったでござる」

 一方、無事オレ達の側に着地したハロルドが顎を撫でながら言った。
 その様子から余裕が感じられる。

「大丈夫か?」
「ん、大丈夫でござるよ。ただ、あのミノタウロスは驚きでござる」
「確かに」

 ハロルドの言葉に、カスピタータも頷く。

「何が驚きなんスか?」
「全身を魔法の装備で固めて、なおかつヤツの周りに散らばっている斧、全部魔法の武器でござるよ」

 装備がすごいのか。
 言われてみれば、見た目からしてキラキラとしていて高級そうだ。

「勝てない?」
「あの後の2人次第でござるな。そうそう、サムソン殿からの伝言でござる。UIがクソだから、迎えに行くのが遅れる……ということでござった。何の事かわからなかってござるが、言えばわかると」
「了解」
「UIってのは、ユーザインターフェースのことで、まぁ、飛行島を上手く動かせないから時間が掛かるということっスよ」
「なるほど。そうならそうと言って欲しいでござる」
「あの2人は私が抑える。手を出さないで欲しい」

 オレ達の会話が終わるのを待って、カスピタータが言葉を挟む。

「心得た」

 その言葉を合図に、カスピタータとハロルドのタッグが戦いを始める。
 カスピタータはやや劣勢、ハロルドは優勢といった感じだ。
 オレ達は、とりあえずハロルドのアシストだ。魔法の矢で援護する。

「堅いっスね」

 プレインが愚痴る。ハロルドは動きの面では圧勝しているが、強力な装備に阻まれて決定打を打てずにいる。
 オレ達の魔法の矢も同様だ。
 そんな時、白い煙が立ちこめる。
 まさか?

「ハロルド、敵が増える!」

 そう言ったと同時、オレとプレインの前にミノタウロスが現れた。
 2体目!
 慌てて跳ねるように後へと逃げる。
 ところが2体目のミノタウロスは追ってこない。ぐらりと身体を揺らしたかと思うと倒れた。その背後にはハロルドがいた。
 そのままオレ達の方へと走り寄ってくる。

「不意をつけたでござるが……」

 ハロルドがエリクサーを飲みながら困ったように言う。
 見ると先ほどまでハロルドが相手をしていたミノタウロスは片足が変な方向に曲がって跪いていた。

「優勢じゃないか」
「後2体……まったく後何体いるのやら」

 ふと見ると、跪いたミノタウロスの後に、さらに一匹いる。
 どんどん増えるな。これは不味い。

「リーダ!」

 増えるミノタウロスに困ったものだと頭を抱えていたとき、辺りが暗くなり、ミズキの声が聞こえた。
 頭上すぐ側をかすめて、オレ達の飛行島がすれ違ったのだ。

「あっちから飛び降りて! 受け止めるから! 次があるかわからない!」

 遠ざかっていくオレ達の飛行島。その島の端にしゃがみこんだミズキが一方を指さし叫ぶ。

「飛び降りるって?」

 プレインが大声を出し応じる。

「受け止めるから!」

 そう言ってミズキが姿を消す。
 オレ達の飛行島は頭上から斜め下に降下して、この飛行島の下へと潜り込む位置へと移動したのだ。
 よく分からないが、ミズキの声から必死さが感じられた。この場にいても、良いことがない。ここは一旦撤収すべきだろう。

「カスピタータさん! 一旦、逃げましょう!」
「私は大丈夫だ!」

 いやいや、無理だろう。
 言ってる側から、さらに2体ミノタウロスが増える。しかも、跪いていたミノタウロスも立ち上がり斧を構えている。

「リーダ! プレイン殿と先にいくでござる!」
「ハロルド?」
「カスピタータ殿は拙者が力尽くで連れていくでござる」

 言うと同時にハロルドはカスピタータの方へと駆けて行き、後からカスピタータを殴りつけた。
 そんなハロルドに目もくれずオレ達の方へとミノタウロスが走ってくる。
 いつの間にかミノタウロスは5匹に増えている。
 さすがに無理だ。
 覚悟を決めて、手早く飛翔魔法を使う。
 後のことをハロルドに任せて、オレ達の飛行島が消えていった方角、ミズキが指さした場所から飛び降りた。
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