召還社畜と魔法の豪邸

紫 十的

文字の大きさ
上 下
231 / 830
第十三章 肉が離れて実が来る

きどうじっけん

しおりを挟む
 爽やかな朝。ついに起動実験を迎える。
 雲ひとつない天気のいい朝だ。
 オレ達が乗ってきた飛行島へ乗り込み、起動実験を見守る。

「えっと……起きるべき物見の家」

 マスターキーを持ち、キーワードを呟きながら、2階にある絵を撫でる。
 すると小さく飛行島が揺れた。

「成功した……と思うぞ」

 飛行島の解析を進める中で、絵に書いてあった4つの言葉、そのうち1つがエンジンにあたる魔導具を動かす言葉だったことがわかった。
 試してみると、予想したとおりの挙動が確認できた。
 いや、それだけでは終わらなかった。

「あ、あのテーブルに地図が出現したっスよ」
「この辺りの地図でしょうか……これ、世界樹だと思います」

 それとは別に、テーブルの上に、付近の地図が現れた。マスターキーを持って、そこを指すことによって、細かい移動が制御できるようだ。

「とりあえず、細かい検証は後回しだ。今日は、あっちの起動実験を見守ろう」

 少し名残おしいが、今日のメインテーマである飛行島の起動実験を見守ることにする。2階の部屋から、外に出る。屋根に出るので、皆で座り遠くを眺める。

「海亀もやってきたね」

 ミズキが声をあげる。下を見ると、海亀がジャンプするように、飛行島へと乗り込んできた。ずいぶんと飛翔魔法が上達している。この調子でいくと、自由に空を飛び回る日もそんなに遠く無いかもしれない。

「置いていかれるとおもったのかな?」
「そうかもね。今日は、皆が飛行島に乗り込んでるしね」
「うん……そうだ」

 何か閃いたのかノアが笑いながら駆けていく。
 しばらくして、一階の玄関からノアが出てきた。カロメーが山盛り入った籠を両手に抱えている。

「ノアは、マメだな」

 ふと見ると、すぐ側、先ほどまでノアが座っていた場所にモペアがいた。

「なんだモペアか」
「今日は騒がしいからな。一緒にいてやるよ。ちなみに、あの屋根にヌネフが居る」

 モペアが2階屋根を指さす。
 きっと今頃は登場シーンを演出するための準備中だろうに、酷い事をする。

「せっかくの登場シーンをぶちこわすなよ」
「いや、これくらいのハンデキャップで、あの偉大なる風の精霊シルフのヌネフが困ることなんてないよ。きっと、あたし達がびっくりするくらいの登場シーンを見せてくれるって」

 ニシシと笑いながらモペアがいう。意地の悪い笑顔だ。
 ヌネフがどうするか知らないが、近くにいることは確かなのだろう。

「あ、お姉ちゃん……」
「はいはい。譲ってあげるよ。何て言ったってお姉ちゃんだからな」

 ノアが戻ってくると、モペアはピョンと飛び降りたかと思うと、すぐに消えてしまった。
 姿が見えないだけで近くにいるだろう。
 しばらくして、辺り一面に浮いている飛行島が一斉に動き出す。
 起動実験の始まりだ。
 オレ達の飛行島は動かない。
 ハイエルフ達が乗り込んでいる飛行島が、一糸乱れぬ動きで一斉に動き出す。

「上手く言っていますね」

 ボンヤリ眺めていると声をかけられる。
 オレ達が座っている1階の屋根にシューヌピアがお皿を片手に立っていた。

「あれ? シューヌピアさんは、飛行島に乗らないのですか?」
「えぇ、皆さんのお世話が私の役目ですので、乗りませんよ。これ、お菓子です」

 見るとお皿のうえに、大きなイチゴのドライフルーツが乗っている。

「ありがとうございます」

 一枚手に取り口に放り込む。固めのグミといった歯触りのドライフルーツだ。控えめの甘さがとてもいい。

「どういたしまして」

 ニコリと笑い、軽やかにシューヌピアが屋根から飛び降りる。
 見ると、この家の庭にテーブルを出して、カガミとプレインが優雅にお茶を飲みながら、ドライフルーツを食べていた。そこに、シューヌピアも加わる。
 そんな間も、飛行島の起動実験は続く。
 上下に動いたり、左右に動いたり。特に問題ない。順調だ。
 それから、世界樹の周りを回るように動き出す。
 一周するつもりなのだろう。ややあって、オレ達の頭上を次々と飛行島が飛んでいく。
 最後に大きな飛行島……ラスボスが頭上を飛び越えていく。

「あの、おおきなの、皆で直したんだよね」
「そうだね。大変だったね」
「うん。私も大変だったよ。でも、面白かった。仕事大好き」
「そっか」

 満面の笑顔をしたノアに微妙な気分になる。
 ノアは仕事が大好きか……。
 やばいな。ワーカーホリックな同僚達の性根が伝染したのかもしれない。
 対策は……とりあえず後で同僚に相談しよう。

「あ、戻ってきたよ」
「成功ですね!」

 見ると世界樹の周りを一周した飛行島が次々と戻ってきて隊列を組み直す。
 一糸乱れぬ動きは、これが起動実験とは思えないくらい綺麗なものだ。
 その光景に、シューヌピアも立ち上がり弾んだ声をあげる。

「無事終わったな」

 これで仕事は完了だ。何事もなく無事に終わった。
 もう少ししたら長老の家へ戻って、地上に降りる打ち合わせだな。
 慌ただしいく名残惜しいが、肉のためだ、急ぎ降りる準備をしなくてはならない。
 後は、報酬か……あんまり考えていなかった。さて……。

「どうして?」

 オレが報酬について考えているとシューヌピアの悲鳴のような声が聞こえた。
 何があった?

「リーダ!」

 どこからともなく空を走るようにミズキが飛んできてオレの側に立つ。

「どこいたんだ?」
「あっちの部屋でチッキー達と……いや、そんなことより見た?」
「見たって?」
「カスピタータさんが刺された!」

 え?

 刺された?
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

転生先ではゆっくりと生きたい

ひつじ
ファンタジー
勉強を頑張っても、仕事を頑張っても誰からも愛されなかったし必要とされなかった藤田明彦。 事故で死んだ明彦が出会ったのは…… 転生先では愛されたいし必要とされたい。明彦改めソラはこの広い空を見ながらゆっくりと生きることを決めた 小説家になろうでも連載中です。 なろうの方が話数が多いです。 https://ncode.syosetu.com/n8964gh/

祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活

空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。 最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。 ――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に…… どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。 顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。 魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。 こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す―― ※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

田舎暮らしと思ったら、異世界暮らしだった。

けむし
ファンタジー
突然の異世界転移とともに魔法が使えるようになった青年の、ほぼ手に汗握らない物語。 日本と異世界を行き来する転移魔法、物を複製する魔法。 あらゆる魔法を使えるようになった主人公は異世界で、そして日本でチート能力を発揮・・・するの? ゆる~くのんびり進む物語です。読者の皆様ものんびりお付き合いください。 感想などお待ちしております。

あなたは異世界に行ったら何をします?~良いことしてポイント稼いで気ままに生きていこう~

深楽朱夜
ファンタジー
13人の神がいる異世界《アタラクシア》にこの世界を治癒する為の魔術、異界人召喚によって呼ばれた主人公 じゃ、この世界を治せばいいの?そうじゃない、この魔法そのものが治療なので後は好きに生きていって下さい …この世界でも生きていける術は用意している 責任はとります、《アタラクシア》に来てくれてありがとう という訳で異世界暮らし始めちゃいます? ※誤字 脱字 矛盾 作者承知の上です 寛容な心で読んで頂けると幸いです ※表紙イラストはAIイラスト自動作成で作っています

平凡冒険者のスローライフ

上田なごむ
ファンタジー
26歳独身動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物・魔法・獣人等ファンタジーな世界観の異世界に転移させられる。 平凡な能力値、野望など抱いていない彼は、冒険者としてスローライフを目標に日々を過ごしていく。 果たして、彼を待ち受ける出会いや試練は如何なるものか…… ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?

お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。 飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい? 自重して目立たないようにする? 無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ! お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は? 主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。 (実践出来るかどうかは別だけど)

処理中です...