召還社畜と魔法の豪邸

紫 十的

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第十三章 肉が離れて実が来る

いざげんばへ

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「こんなことになって本当にごめんさい。私達にとって会議は絶対なの。決まったことには皆が従わなくてはならない。私達はそうやって生きてきた。だから、皆さんにも従ってもらうしかないの」
「私達は、部外者なのですが……」
「そうね」

 苦笑しながら言った、その一言で話は終わり。それっきりしばらくシューヌピアは無言になった。
 この人は悪い人ではなさそうだ。あんまり気まずい関係にはなりたくないので、オレ達も黙って後をついていく。

「大変なことになったスね」
「あーぁ。せっかくお肉楽しみにしていたのに」
「世界樹を目指していたら、望み通り世界樹についてしまったのは、確かなんだが、世界樹の上にたどりつくなんて、夢にも思っていなかったぞ」

 そんなことを口々に言う。トコトコ付いて行った先には遠く世界樹から離れ、空に架けられた橋のような木製の道があった。
 さらに先にはオレ達が乗っていた家や、やや小ぶりのお城のようなものまで、大量の飛行する庭付きの家が乗っかった島が浮いていた。いくつあるだろうな、コレ。

「こんなにいっぱいあるんだ」
「えぇ。世界樹の防衛のため飛行島を集めることを考えて、もうすぐ1万に近い月日が経ちます。そのハイエルフにとっても長い年月をかけ、ここまで揃えました」

 木の橋を渡り、数多く浮かぶ飛行島の1つへと進む。
 そこには1人のハイエルフが待っていた。
 シューヌピアの兄、カスピタータ。

「よく来てくれた。この島にある魔法陣が最も保存状態がよかった」

 挨拶もそこそこにカスピタータは、オレ達を家の中へと案内する。
 オレ達が過ごしたあの空飛ぶ家と同じように、広間中の床の下に魔法陣が描き込まれていた。

「少し違うな」
「そのようだな。貴方たちが乗っていたものとは違うようだ。だが、残り全ては、この魔法陣と同じ物で間違いないはずだ」
「同じなのか」
「えぇ、私達は、ここにある飛行島は、かって1つの国……もしくは組織で作られたものでないかと考えています」

 カスピタータの事務的な説明に、雑学のような解説をシューヌピアが付け加える。

「では、次はこちらだ」
「ところで、カスピタータ……さん?」
「なんだ?」
「今回の件、どのくらいの数が修復の対象なんですか? その、全体の仕事量を把握しておきたいのですが……」
「大きく欠損した魔法陣が91個。もし、できるのであれば、問題のない残りの飛行島にある魔法陣も1度は確認して欲しいと思う」
「納期は?」
「ノウキ?」
「えぇっと、仕事はいつまでに終わらせればいいのかと言うことです」
「魔神が復活するまでにだな」

 納期がアバウト過ぎる。魔神復活なんて、何年の何月何日と決まっているわけではないだろう。オレとしてはもう少し具体的な確約がほしいのだ。

「魔神復活が、明後日なんて言われると、徹夜しても間に合わないだろ」
「えっ、そっち?」

 オレの小さな愚痴のような言葉に、隣にいたカガミがわけのわからないリアクションを返した。そっちって、どっちだよ。意味がわからない。

「ちなみに、復活まではどれくらい?」

 しょうがないので、先ほどのアバウトな回答を詰めることにした。

「さてな。だが、守り主様が言うには、まだ1年以上は先だということだ。それに、フラケーテアが地上で手に入れた情報による予兆も確認できていない。そのことからも、1年以上は先ということは間違いないだろう」

 最低でも1年は余裕があるということか。
 でも、カスピタータの言葉から、納期を急がせるという思惑は感じられない。
 サムソンが、オレ達が過ごした空飛ぶ家の魔法陣を解析するのに掛かった時間を考えると、チョロい仕事かもしれない。
 その後は、カスピタータの案内でいくつかの飛行島を回った。

「私達も、いろいろな試みをした」

 飛行島のうち、一番大きな1つを見て回ったとき、唐突にカスピタータは語りはじめた。

「試みですか?」
「本来、全ては私達ハイエルフで終える予定だった。だが、飛行島にある魔法陣は、ハイエルフを拒むようだ。上手くいかなかったよ」
「シューヌピアさんも同じようなことを言っていました。人が描かないと動かない魔法陣があると」
「そうだ。だが、私は、父や祖父、さらに先の代から受け継がれてきた、この遺産を、万全の状態にし、世界樹を守らなくてはならない。故に多少強引な方法ではあったが、貴方がたを巻き込まざるえなかった」

 事務的な口調で淡々と話す様子に冷たい印象があったが、案外いい人かもしれない。
 カスピタータの立場だったらなら、オレも同じ事をしたかもしれない。

「成り行きはどうであれ、受ける限り仕事はやりますよ。ご心配なく」

 それから、また仕事の打ち合わせ。
 一通り見終わったのは、駆け足で見たにもかかわらず、日が落ちてしばらくしてからだった。
 サムソンとカガミが見積もったところ、全部終えるまで半年はかかりそうだという。
 衣食住は、ハイエルフ達が手配してくれることになっている。
 納期もうるさくないし、そこまで酷い仕事ではないようだ。
 それに……。

「全てが終われば、地上へ安全に送ることを約束する。もちろん、それとは別に礼もしよう。もっとも……金銭的な物はないので、魔法の品々、もしくはエルフの工芸品あたりになろうがな」

 報酬もくれるらしい。
 やった。
 これは案外、ホワイトな仕事ではないかと、一気に明るい気持ちになって帰路へとついた。
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