召還社畜と魔法の豪邸

紫 十的

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第十二章 秘密に迫り、秘密を隠し

なかったことにしたい

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 見なかったことにしたい。
 なかったことにしたい。
 後ろめたいことはあまりないが、勇者が聖剣を抜いたということで、都市ケルワテはお祭り騒ぎになった。おかげで出発もままならない。
 都市の中も外も、多くの人が詰めかけているのだ。
 酒場は大盤振る舞いし、泊まっていた宿も1日だけタダになった。
 いろいろと、手放しで喜べないのが辛い。
 別にいいのだけれど……。

「じゃあさ。ノアノア、服を買おうよ」

 ミズキがノアを誘って服のお店へと行く。
 オレは宿でのんびりする。外は、お祭り騒ぎだ。人がごった返しているので外に出る気がしない。なんでも聞くところによると、下層の住人も中層のこの辺へと繰り出しているようだ。
 ちなみに上層には入れない。上層は勇者の軍をもてなしているそうだ。
 こうしてみると聖剣を抜いたことを言わなくて本当によかった。
 そして、もう一つ無かったことにしたいことがある。もう少し具体的にいうと見なかったことにしたい。
 以前より二つの樽に、聖水を入れている。
 聖水と言っても、ギリアの町にあったタイウァス神殿で汲んだ湧き水だ。
 片方は汲んだときのまま、そしてもう片方は祝福をかけまくっている。
 対照実験ということで、そうなった。
 問題は、祝福をかけまくった水の方だ。
 見間違いではないかと思って、もう一度、チラ見する。

『ボコ……ボコン』

 やはり見間違いではない。
 ボコボコと音をたて泡立っている。それだけならまだしも、紫色と黄色で点滅しているのだ。
 これはおかしい。聖水と言ってコップについで、誰かに見せたところで絶対信じていただけないのではないだろうか。
 ちょっとやりすぎたかもしれない。

「これ、どうしよう」

 自問自答する。
 ちなみに看破でみた結果も酷いもので、文字化けのような形になって聖水かどうかも怪しい。

「何だこれ」

 最初に看破の結果を見たとき、思わず叫んでしまった。
 やばいものを作ってしまったのかもしれない。そう思うと無かったことにしたくなる。とりあえず見なかったことにしたい。
 さて、それ以外は快適なものだ。
 気まぐれに色々なものを買う。
 ミズキが女性用の騎士服を買っていた。ケルワッル神官風で、真っ白で赤のラインが特徴的な服だ。

「これよくない? 動きやすいしさ」
「ミズキお姉ちゃん格好いい」
「凜々しいでち」

 結局、ノアとチッキーの分も買う。
 ついでにトッキーとピッキーの分も買う。オレは採寸が面倒だったので、ローブにした。ゆったり着ることができる。これもケルワッル神官風だ。
 他にも果実酒を買う。
 多種多様な果実酒が売っている。

「料理も使えそうだと思うんです。思いません?」

 カガミがそう言って、買い漁っていた。ミズキも協力的だ。
 あとは名物料理を食べる。

「果物以外? 難しいト」

 監視役エテーリウが、ウンウン考え込みながら案内してくれる。
 果物以外で、なおかつ名物料理というのは難しいそうだ。だが、もう果物には飽きたのだ。
 そんな中チョイスされた名物料理。
 目玉焼きの上に目玉焼きを乗せる、本当にそれだけの料理。
 二段重ねの目玉焼き、出てきた時は何かの冗談かと思った。
 ただ、これが食べてみるとなかなか美味しい。上にのせた目玉焼きと、下に置いた目玉焼きの味が違うのだ。上の目玉焼きにしっかりついた塩味がちょうどいい。これなら2枚重ねでも納得できる。
 あとは本当にピザそっくりの料理を食べる。
 いや、これはピザと呼んでいいだろう。
 そんなわけで食べて飲んで、そして手当たりしだいに物を買って、自由気ままに過ごした。
 そして、勇者が聖剣を抜いたことで始まった多くの人が訪れるお祭り騒ぎも収まった頃、出発することにした。
 いくつかの橋を渡って、陸路を行く方法と、気球で直接行く方法があるそうだ。
 残念ながらオレ達には海亀がいるので、気球を使う方法は選ぶことが出来ない。
 海亀がもうちょっと、空を自由に飛べるようになっていたら、空路が選べただろう。だが、そこまでの飛行能力はない。
 そんなわけで、陸路を行く。
 前回、寝ていた海亀だったが、今回は起きていて、オレ達を見るなり猛スピードで近づいてきた。
 なんだかんだ言って寂しかったのかもしれない。

「ごめんね、しばらくほったらかしにして」

 カガミがペタペタとそんな海亀の頭を撫でる。
 そんなわけで、旅の再開だ。
 オレ達の頭上を勇者の分の飛空船が通り過ぎていく。

「また、何処かで出会うかもしれないっスね」

 聖剣を抜いてしまった後ろめたさから、勇者の軍に関する話題は避けていた。もしかしたら、本当に、次の目的地も一緒になるかもしれない。

「飛空船か……あーいう乗り物、オレ達も欲しいよな」
「そうっスね。空飛ぶ乗り物っていいっスもんね」
「大丈夫だって、この海亀がきっと大空を飛んでくれるよ」
「期待してるよ」

 振り返りケルワテの塔を見る。
 目の前にうつる巨大な塔の中では色々なことがあった。
 聖剣に聖水。無かったことにしたいこともあるが、見ないことにはできないこともある。
 ロンロについてだ。そして、ロンロにそっくりなあの女。
 結局あの後、同僚には話をした。
 ノア達には内緒だ。
 今回わかったこと、呪い子とロンロにそっくりな女はペアだということ。
 ミズキが殴りつけることができたこと。
 ちなみにミズキがその後ロンロに触ろうとしたが、触ることができなかった。
 あの時だけ起こった奇跡かもしれない。ロンロとは似て非なる存在なのかもしれない。
 だが、共通点も多い。
 存在を認識できる者が少ないこと。そらに浮いていること。そして、外見。
 ただし、ロンロには今まで悪意を感じなかった。
 常にノアのことを思っての行動だった。それは、エッレエレを使い捨てにしていたあの女とは違う。
 まだまだ分からないことだらけだ。
 あの無表情なエッレエレの顔が浮かぶ。
 ノアにはああいう風になってほしくない。

「そのためには……呪い子について知らなければいけないよなぁ」

 誰にいうでもなく、独り言を呟いた。
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