召還社畜と魔法の豪邸

紫 十的

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第十一章 不思議な旅行者達

イカたいカエル

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 青空が見えた次の瞬間、俺の目に映ったのは通路になだれ込む大量の海水だった。

「リーダ!」

 俺の背後で、ミズキの声がした。
 だが、振り向くまもなく、俺は大量の海水に押し流される。
 全く訳も分からないまま息を止めるのも忘れ、思いっきり海水を飲んでしまう。
 飲んでしまうというよりも、口に突っ込まれた感じだ。
 訳も分からない状況でぐるぐると自分の体が流されていく感覚だけ残る。
 何とかしなくてはと考えれば、体がうまく動いてくれない。
 ミズキの位置を探す余裕すらない。船が回転しているのか、オレが回転しているのかわからないが、周りの壁の模様が次々と変わる。
 しくじった!
 まずは海面に出よう。そう考えて、手足を少しでも動かそうともがいていたとき。

『ゲェコ』

 聞き慣れた鳴き声がして、オレの足に何かが絡まった。
 いきなり強い力で身体が引っ張られる。
 何だ? 何だ?
 身体が海面から、宙に投げ出された。
 そして、オレの身体はもう一度海面にぶつかる。
 そのまま訳も分からず、陸地のようなところにひきずられて打ち上げられた。思い切り息を吸いこもうとしたら、海水を派手に戻してしまう。

「リーダ、大丈夫?」
「ノアの声が聞こえる」

 ミズキ、カガミの声も聞こえた。

「あとはプレインお兄ちゃん!」
「ウンディーネお願い!」

 そこでオレは先程何が起こったのかを理解した。
 今いるところは海亀の甲羅の上だ。
 正確には甲羅の上に貼った板の上。そしてオレを助けてくれたのは、ウンディーネだ。ウンディーネが海水に長く長く伸ばした舌を突っ込み、オレの足を掴み、思い切り海上に引き上げてくれたのだ。
 オレの前にミズキが、そしてオレの次にプレインが引き上げられ、床板の上に載せられる。
 トッキーとピッキーがぐったりと横になっている。チッキーはじっと2人を見ていた。
 さすがウンディーネ。水の精霊というだけある。考えてみれば海水も水だった。

「クラーケンは?」
「あそこ!」

 少し離れた場所で、クラーケンは船に絡みついていた。いや、正確には船の残骸。さきほどまで船であったものに……だ。
 半分が無くなっている。残った船の半分を、その巨体と10本の足でもって、抱き込むようにしてメキメキと壊している。

「あれはかなわない、距離をとろう」
「ええ、そのつもりです」

 でも波がとても荒くて、海亀もなかなか速く泳げないみたいです。
 確かにこの大波の中、よく泳いでいると感心するが、だが少し進んでやや戻される。先ほどから、そんな状況が進み、うまくクラーケンから逃げきれていない。
 さて、オレ達はどうするかだ。まずは体調を整えなくてはならない。
 口の中が海の水でいっぱいだったせいか、喉と口の様子がおかしい。
 まっさらな水が浴びたい気分だ。

「訳がわかんなかったスよ」

 そんなことを考えていると、プレインが気づいたようでとぼやきながら起き上がった。
 これで全員が無事ということだ。ホッとする。
 とりあえず、クラーケンから逃げる。なんとか海亀のスピードを上げられないものかと考える。形だけでもマストを立てて、シルフに風を吹かせてもらうか。
 そもそもマストになりそうなものがない。オレの影収納により影の中に入っているものを色々と考えてみるが、それっぽいものを思いつかない。

「このままではまずい。海亀をスピードアップさせる方法を考えなくてはいけないな」

 オレは皆に伝える。

「飛翔魔法で飛んで、引っ張るのは?」

 ミズキがアイデアを出す。飛翔魔法で浮き上がり引っ張る。皆で交代して引っ張れば何とかなるかもしれない。

「おいおい、マジか」

 サムソンが声を上げる。
 彼が示す方向を見やると、クラーケンは船に飽きたのか、船を足から離していた。そして次の標的をオレ達に定めたように、ジッと見つめていた。
 海亀の足の動きが速くなる。海亀も、気づいたのだろうか。
 クラーケンが何本かの白い足を持ち上げる。それから、特に大きな触手を思い切り海面上空からたたきつける。それにより、大きな波を発生した。
 先程まで少し揺られる程度だった波が、いきなり大きくなった。海亀の上も大きく、左右に揺れ動く。
 前に進むどころで無い荒波の中、クラーケンはゆっくりと迫ってくる。

『ゲコゲコ』

 ウンディーネが大きく鳴く。荒波は一瞬で収まり、穏やかな海面へと変化する。
 水の精霊ウンディーネの本領発揮か。
 これは凄い。
 だが、クラーケンは先程と同じように足をバタつかせる。
 再び大きな波が起こる。
 このままでは、らちがあかない。

『ゲェェコ!』

 また、ウンディーネが鳴く。今度は波は収まらない。
 左から大きな波のうねりが起きた。

「うわぁ!」

 カガミが感嘆の声を上げる。
 すごい。昔テレビで見たサーファーが大波の中を潜り抜ける。同じような光景が眼前に広がる。
 巨大な波がトンネルを作り上げ、遥か先の青空を指し示している。
 なおかつ後ろから小さな波が起きた。示し合わせたかのように海亀はうまく波に乗り猛スピードで前へと進む。
 後ろを見ると、巨大な波の先端は、クラーケンをおし流そうと作用していることが分かる。
 ウンディーネの本気の本気だ!
 うまく波にのった海亀は、どんどんとスピードを上げる。
 波のトンネルを滑る、まるでサーファーが波乗りするかのように、海亀は滑るように海面を走る。振り落とされる可能性を考え、影から槍を何本か取り出し、皆に床板に刺して掴まるように伝える。

「チッキー達は私たちに掴まってね」

 ミズキがチッキー達に言い、カガミは念のために海亀の背後に壁を作る魔法を使う。
 これで、もしを振り落とされても、しばらくは壁に阻まれ海に落ちることはない。
 あとはこの波に乗り、トンネルをくぐり、逃げるだけだ。
 だが、クラーケンもそんなに甘くはなかった。
 大きく息を吸い込む。あたり一面の海水ごとだ。
 さっきよりも勢いが強い。
 ウンディーネの本気対、クラーケンの本気。
 オレ達はただ運に身を任せるしかなかった。
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