召還社畜と魔法の豪邸

紫 十的

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第八章 冷たい春に出会うのは

げんきなおばあちゃんがやってきた

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 雪が溶けたせいか、町も動き出したようだ。
 工事が終わり、オレの通勤生活も終わった頃に一つの連絡があった。
 カガミとミズキのドレスが出来上がったそうだ。
 ノアのドレスについても、採寸をやり直したいらしい。
 そんなわけで、納品と微調整、加えてノアの採寸をするために、屋敷の一室を使わせてほしいと打診があった。

「町から離れたこんな場所まで来てくれるんだな」
「VIPって感じっスね」

 ドレスは、どこかへ受け取りにいくのかと思っていた。職人達が自ら持参してくれるとは思ってもいなかった。プレインの言うとおり、特別な人物といった感じがして悪い気がしない。
 打診にかかる手紙を持っていたトーク鳥を使い、問題ないと返答する。
 その後、数回やりとりした後、何日かして職人達の一団がやってきた。
 馬車3台で総勢10人を超える大所帯だ。

「こうしてみると、大部隊がやってきたって感じがするな」
「広間が手狭になるかもしれないぞ」

 馬車が連れ立って山を登ってくる様子は壮観だ。
 事前にやりとりして知っているとはいえ、見るのと聞くのは大きく違う。ちなみに、広間を終日明け渡すことにしている。
 屋敷の主人であるノアが、先頭に立ち職人達へと挨拶する。
 ロンロが側で台詞を伝えて、そのまま話す。慣れたのもあって、ずいぶんと挨拶はスムーズに終わった。
 一通り挨拶がおわり、ノアとカガミが職人達を作業場となる広間へ案内する。

「今度は大丈夫かな」
「何が?」
「ノアノアの採寸。前は、職人の手が震えて、ノアノアの採寸失敗しちゃったんだよね」

 ノアの持つ呪い子としての特性が原因なのだろう。以前に、呪い子の近くにいると魔法が使えないと聞いたことがある。職人は、そんな雰囲気に敏感だとも聞いた。
 それは、いまだオレ達にも対策が見いだせていない。

「大丈夫さね。あたしが魔法でちょちょいとやったからね」

 ノアと職人達から、少し遅れて屋敷へと戻るミズキとオレの会話に、割り込むように老婆が声をかけてきた。

「魔法ですか?」
「そうさね。獅子の心臓で、職人も針子も、皆を勇気づけたのさ」

 他の職人とは違って、見た目も言動も下働きに見える老婆がそう請け負った。
 そんな魔法があるのか。目録を当たってみて分からなかったら、教えてもらおう。
 ノアや、カガミとミズキが衣類の採寸や微調整にかかっているあいだは、特にやることはない、暇な時間だ。
 自室でのんびりする代わりに、目録をあたって、獅子の心臓という魔法を見つけることにした。幸い、すぐに魔法は見つかる。メジャーな魔法のようだ。
 獅子はこの世界では架空の生物らしい。
 その勇敢な獅子のような、勇敢さを対象に与える魔法だそうだ。触媒は金。魔法により複製した金は、この魔法の触媒に使えないとある。老婆は軽い感じで言っていたがお金がかかる魔法だ。
 目的の魔法について調べ終えたので、休憩がてら屋敷をうろつき時間を潰すことにした。
 こうしてみると、トッキーとピッキーは、屋敷の補修を少しずつ進めていることがわかる。オレ達が来たときよりも、ずっと整ってきた。

「なるほど、そうだったんでちね」

 屋敷の廊下を歩いているとチッキーの声が聞こえた。声がした方をみると、屋敷の庭で老婆とチッキーが何やら話をしている。もう作業は終わったのだろうか。
 2人に聞いてみようと玄関へと向こう道すがら、ノアが広間の様子をうかがっているのを見かける。
 ノアの採寸は一足先に終わったようだ。それにしても、部屋の外から中を窺うようにみている姿を不思議に感じる。

「どうしたの」
「あのね。服を作っているのを見ていたの」
「こっそり?」

 こっそり見なくても、堂々とみればいいのに。そんなオレの思いに気がついたのか、申し訳なさそうにノアが答える。

「私がいるとね。邪魔になると思ったの」

 いわれればそうだ。採寸が終わったなら、部屋から出た方がいいだろう。大人数で、いろいろ道具を広げているだろうし、さすがに広間も手狭だと思う。ノアは心遣いができる良い子だ。

「実はオレも、邪魔しないようにこっそりしてる」

 笑ってオレも同調する。ノアもいたずらっぽく笑ってくれた。

「チェルリーナの服を作りたいの」
「チェルリーナ?」
「誕生日プレゼントにもらったお人形」

 あの人形か。そうか、チェルリーナと名付けたのか。
 それならと、外にいる老婆を見やる。

「あの人にお願いしてみよう」
「お願いするの?」
「きっと作り方を教えてくれるさ」

 暇そうだしな。
 ノアと一緒に、老婆に近づくとばつの悪そうな顔をされた。

「さぼってないよ。少しだけ休憩しているのさ」

 そうか、休憩中か……なんて信じるわけないだろう。まったく。
 それはともかく、お願いする。

「一つお願いがあるのですが、ノアサリーナ様に服の作り方をレクチャーしてもらえないでしょうか?」
「いいとも。ついておいで」

 快く請け負ってくれて、老婆が先導し、ノアを広間へと入っていった。
 だが、二人で広間へと入っていったかと思うと、老婆はすぐに部屋から出てきた。

「説明上手な弟子に、ちゃあんと説明をお願いしておいたよ。これでお嬢様は服作りの達人ってわけさね」

 丸投げしたらしい。見た目とちがい下働きではなかったようだ。
 そういえば魔法を使ったのもこの人らしいし、結構上の立場なのかもしれない。挨拶の時に、ノアに任せきりにせず話くらいは聞いておけばよかった。

「ノアサリーナお嬢様のために、魔法を使って頂きありがとうございます」

 せっかくだから礼を言っておく。触媒の事を考えても、よくしてもらえるのはありがたい。

「呪い子に恐怖して手が震えたなんて、さすがに職人の体面に関わるからね」

 なんでもないといった風に老婆は答えた。

「微調整って結構時間がかかるんですね」
「そりゃ、あんなに沢山のドレスに服だからねぇ。仕上げも大変さね。でも、着る人が美人なだけあってやりがいがある仕事さね。あとで二人に聞くといいよ」

 そんなに沢山あるのか。

「ノアサリーナお嬢様の服は、今日すぐってわけにはいかないんですよね」
「採寸だけさね」
「採寸の後はどんなことするんですか?」

 服を作る工程は、いままで考えたこともなかった。せっかくだから教えてもらおう。

「布を切ったり、縫ったり、いろいろさね。詳しいことは、後でお嬢様に教えてもらうといいさね」

 適当だな。先ほどから外でのんびりしていたり、ノアへの説明を人に丸投げしたり、サボってばかりじゃないか。

「あっと、面倒くさいからごまかすわけじゃないよ。お嬢様も人に話したくなるだろうし、活躍の場を奪うわけにいかないだろ」

 オレが考えていることに感づいたのか、言い訳するようにごまかされた。
 でも、服か。
 いままで大量生産の服しか着たことないけれど、こちらの世界は全てがオーダーメイドみたいだ。オレも新しい服が欲しくなる。

「終わったよ。どうよ。これ」

 それから、取り留めのない会話を老婆としていると、作業が終わったとミズキが部屋からでてきた。部屋は職人と針子さんが、テキパキと道具を片付けている。
 カガミは、片付けを手伝っているようだ。
 気がつくと、外はもう夕方になっていた。案外話し込んでいたな。
 カガミも、ミズキも、2人ともヒラヒラとしたドレス姿だ。嬉しそうだ。

「どうですか? 少し大胆かなとは思います。思いません?」

 クルリと一回りしたあと、ひときわ嬉しそうなカガミに感想を聞かれる。

「高そうだ」
「他には?」
「すごく素敵だ。なんだろう、ほら、ハリウッド女優に憧れている人みたい」

 お腹を殴られた。

「先輩……ちょっとそれは褒め言葉になってないっス」
「マジか」

 丁寧に、道具を馬車へと詰め込む針子さんたちを手伝い。馬車を見送る。

「終わったな」
「そうっスね」
「そういや、ミズキも、カガミも、今日はずっとドレス着てるの?」
「まぁね、何なら毎日ドレス姿でもいいのよ。ほら、美女2人のドレス姿ってよくない?」

 軽口を叩きながら広間にもどってみると、部屋の隅においてあったオレのロッキングチェアに、ゆらゆらと揺られる老婆がいた。
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