125 / 830
第七章 雪にまみれて刃を研いで
かえりみち
しおりを挟む
信じられないほどの大声に一気に静まり返る。
ふとノアをみると、先ほどの恐怖はどこへやら、キョトンとした顔をしていた。
少し安心する。
「助けてもらったんだ礼を言え」
「だが……呪い子がいたら工事が……」
職人の一人が、ボソリと呟く。静まり返った状況では、ひどく響いて聞こえた。
「工事と、助けてもらったのは別の話だろぉが! そこのお嬢様は、自分の僕を労いに来ただけだ。工事が再開すればすぐに返るつもりだった。その証拠にみろ! そこの一行は、昼食時に火を焚いていない。すぐに立ち去れるよう準備していた!」
ドスドスと足音をたてて、職人達を見回しながら怒鳴り続けている。すごい迫力だ。
その様子に誰もが何も言えない状況が続く。
「プハハ、そうだな。お前の言うとおりだ、クストン。なんだ、お前、親父さんに似てきたな」
年配の男性が、おどけたように前に出てクストンさんに近づいた。
「やめてくれ」
クストンさんは迷惑そうに手を振る。
それから二人は2・3言葉を交わしたかと思うと、職人の方を振り向いた。
「ま、今回は、まだまだ雪の季節だ。他が雪にうもってる所に、肉を焼いたりしたんだ。上手そうな匂いにゴブリンどもが集まるのも無理はねぇ。呪い子はともかく状況の問題だな」
穏やかな、それでいて大きな声で職人達に年配の男性は語りかける。
「そういや……、そうかも」
「そうか、匂いか」
その言葉に、職人達の納得の声があがる。
「魔物の襲撃は、そういうわけだ。珍しいことじゃねぇ。で……でだ。あの数の襲撃で、俺達がやられるわけがねぇ。だがよ。これほど、怪我人無しって状況にもならなかったと思うわけだ」
年配の男性が続けて語る内容に、ざわめきが起きる。
いつの間にか、職人達の空気が変わったのがわかる。そこには、ノアを……呪い子を非難するような感じは無かった。
「分かったら礼を言え!」
再びクストンさんの大声が響く。
「そうさな。俺達は、恩知らずじゃない。腕にも、魂にも自信があるれっきとした職人だ」
そんなクストンさんに、年配の男性も同意し声を上げる。
「すまねぇな、嬢ちゃん」
若い職人が、最初に声を上げた。それを皮切りに、次々にお礼の言葉が続く。
「あの、嬢ちゃんじゃなくて、ノアサリーナ様です」
「お、トッキーに怒られちまった」
しばらく、お礼の言葉が続いていたが、トッキーの声と、そんなトッキーをからかうような職人達の笑い声で、それも終わった。
皆が落ち着き、工事は再開した。ノアは工事を少し離れた馬車からこっそりと見ていた。とても興味深そうに見ていた。職人達は、そんなノアを非難したりはしなかった。むしろ、たまに手を振ったりしている。
そんな穏やかな空気のもとで、テキパキと工事は進み、すぐにオレの……ゴーレムの役目は終わりを告げた。つまり、明日からは出勤無しだ。嬉しい。
「すまないな。あんた達を怒らせるわけにいかなかった」
職人の人達と一緒に帰る、そんな帰り道でのことだ。
クストンさんから声をかけられた。
「いえ、とんでもありません。一喝していただいて胸のすく思いでした」
「そうかい。ピッキーにトッキーの今後を考えるとな、嬢ちゃんが、職人と険悪になるのは嫌だったのさ」
「お気遣いありがとうございます」
その言葉に、ノアの味方が増えたことを実感し、嬉しくなる。
「じゃ、そういうわけだ」
クストンさんは、職人達の方へと戻っていった。
入れ違いに泥だらけになったトッキーが戻ってきた。
「泥だらけじゃん」
「あの……ボーチル親方が、肩車してくれたんですが、倒れちゃったんです。その、腰を痛めたとかで」
みると、先ほど職人達を説得してくれた年配の男性が、若い職人に背負われて前を進んでいた。
その隣にはピッキーが、別の職人に肩車されているのが見える。どうやら、トッキーとピッキーは人気者らしい。
「はい、ノアノア」
そんな様子を眺めながら一緒になって歩いて返っていると、ミズキがノアを抱えあげた。
「何やってるんだ?」
「ん? 何って、リーダがノアノアを肩車するんじゃん」
そのままノアをオレの肩に乗せようとする。
別に断る理由もないし、ノアを肩車する。
「なんで急に?」
「ノアノアが羨ましそうに見てたからね」
そういうことか。目の前をいく職人ほどに体格がいいわけでもないが、ノアを肩車するくらい問題ない。
「背が高くなったみたい」
すぐ真上からノアの楽しそうな声がする。
ノアを肩車したまま、トコトコと町への道を歩いてもどる。こちらの世界も、冬は日が落ちるのが早いらしい。短い昼の時間の終わり、夕日がみえる。
「それでは、おいらは親方達と一緒に町に戻ります」
「トッキー君、またね」
トッキーや、職人達とはお別れだ。職人達は、町へと歩いて戻り、オレ達は馬車にのって屋敷へと帰る。
「ノアもぉ、リーダも嬉しそうねぇ」
ノアを肩車から下ろしていると、オレ達の側をフヨフヨと浮いているロンロが、見下ろして言う。
「あのね、肩車してもらうとリーダみたいに背が高くなったみたいなの」
「そうなのぉ」
ノアは肩車が気に入ったようだ。こんなに喜んでくれるなら、またいつでも肩車してあげたくなる。
オレは、ともかく職人がノアを受け入れてくれたのが嬉しい。
そう考えると、早起きして工事の手伝いの通勤生活も悪く無かったかもしれない。
馬車へと駆けて戻るノアの後ろ姿をみて、そんなことを考えた。
ふとノアをみると、先ほどの恐怖はどこへやら、キョトンとした顔をしていた。
少し安心する。
「助けてもらったんだ礼を言え」
「だが……呪い子がいたら工事が……」
職人の一人が、ボソリと呟く。静まり返った状況では、ひどく響いて聞こえた。
「工事と、助けてもらったのは別の話だろぉが! そこのお嬢様は、自分の僕を労いに来ただけだ。工事が再開すればすぐに返るつもりだった。その証拠にみろ! そこの一行は、昼食時に火を焚いていない。すぐに立ち去れるよう準備していた!」
ドスドスと足音をたてて、職人達を見回しながら怒鳴り続けている。すごい迫力だ。
その様子に誰もが何も言えない状況が続く。
「プハハ、そうだな。お前の言うとおりだ、クストン。なんだ、お前、親父さんに似てきたな」
年配の男性が、おどけたように前に出てクストンさんに近づいた。
「やめてくれ」
クストンさんは迷惑そうに手を振る。
それから二人は2・3言葉を交わしたかと思うと、職人の方を振り向いた。
「ま、今回は、まだまだ雪の季節だ。他が雪にうもってる所に、肉を焼いたりしたんだ。上手そうな匂いにゴブリンどもが集まるのも無理はねぇ。呪い子はともかく状況の問題だな」
穏やかな、それでいて大きな声で職人達に年配の男性は語りかける。
「そういや……、そうかも」
「そうか、匂いか」
その言葉に、職人達の納得の声があがる。
「魔物の襲撃は、そういうわけだ。珍しいことじゃねぇ。で……でだ。あの数の襲撃で、俺達がやられるわけがねぇ。だがよ。これほど、怪我人無しって状況にもならなかったと思うわけだ」
年配の男性が続けて語る内容に、ざわめきが起きる。
いつの間にか、職人達の空気が変わったのがわかる。そこには、ノアを……呪い子を非難するような感じは無かった。
「分かったら礼を言え!」
再びクストンさんの大声が響く。
「そうさな。俺達は、恩知らずじゃない。腕にも、魂にも自信があるれっきとした職人だ」
そんなクストンさんに、年配の男性も同意し声を上げる。
「すまねぇな、嬢ちゃん」
若い職人が、最初に声を上げた。それを皮切りに、次々にお礼の言葉が続く。
「あの、嬢ちゃんじゃなくて、ノアサリーナ様です」
「お、トッキーに怒られちまった」
しばらく、お礼の言葉が続いていたが、トッキーの声と、そんなトッキーをからかうような職人達の笑い声で、それも終わった。
皆が落ち着き、工事は再開した。ノアは工事を少し離れた馬車からこっそりと見ていた。とても興味深そうに見ていた。職人達は、そんなノアを非難したりはしなかった。むしろ、たまに手を振ったりしている。
そんな穏やかな空気のもとで、テキパキと工事は進み、すぐにオレの……ゴーレムの役目は終わりを告げた。つまり、明日からは出勤無しだ。嬉しい。
「すまないな。あんた達を怒らせるわけにいかなかった」
職人の人達と一緒に帰る、そんな帰り道でのことだ。
クストンさんから声をかけられた。
「いえ、とんでもありません。一喝していただいて胸のすく思いでした」
「そうかい。ピッキーにトッキーの今後を考えるとな、嬢ちゃんが、職人と険悪になるのは嫌だったのさ」
「お気遣いありがとうございます」
その言葉に、ノアの味方が増えたことを実感し、嬉しくなる。
「じゃ、そういうわけだ」
クストンさんは、職人達の方へと戻っていった。
入れ違いに泥だらけになったトッキーが戻ってきた。
「泥だらけじゃん」
「あの……ボーチル親方が、肩車してくれたんですが、倒れちゃったんです。その、腰を痛めたとかで」
みると、先ほど職人達を説得してくれた年配の男性が、若い職人に背負われて前を進んでいた。
その隣にはピッキーが、別の職人に肩車されているのが見える。どうやら、トッキーとピッキーは人気者らしい。
「はい、ノアノア」
そんな様子を眺めながら一緒になって歩いて返っていると、ミズキがノアを抱えあげた。
「何やってるんだ?」
「ん? 何って、リーダがノアノアを肩車するんじゃん」
そのままノアをオレの肩に乗せようとする。
別に断る理由もないし、ノアを肩車する。
「なんで急に?」
「ノアノアが羨ましそうに見てたからね」
そういうことか。目の前をいく職人ほどに体格がいいわけでもないが、ノアを肩車するくらい問題ない。
「背が高くなったみたい」
すぐ真上からノアの楽しそうな声がする。
ノアを肩車したまま、トコトコと町への道を歩いてもどる。こちらの世界も、冬は日が落ちるのが早いらしい。短い昼の時間の終わり、夕日がみえる。
「それでは、おいらは親方達と一緒に町に戻ります」
「トッキー君、またね」
トッキーや、職人達とはお別れだ。職人達は、町へと歩いて戻り、オレ達は馬車にのって屋敷へと帰る。
「ノアもぉ、リーダも嬉しそうねぇ」
ノアを肩車から下ろしていると、オレ達の側をフヨフヨと浮いているロンロが、見下ろして言う。
「あのね、肩車してもらうとリーダみたいに背が高くなったみたいなの」
「そうなのぉ」
ノアは肩車が気に入ったようだ。こんなに喜んでくれるなら、またいつでも肩車してあげたくなる。
オレは、ともかく職人がノアを受け入れてくれたのが嬉しい。
そう考えると、早起きして工事の手伝いの通勤生活も悪く無かったかもしれない。
馬車へと駆けて戻るノアの後ろ姿をみて、そんなことを考えた。
0
お気に入りに追加
246
あなたにおすすめの小説

転生先ではゆっくりと生きたい
ひつじ
ファンタジー
勉強を頑張っても、仕事を頑張っても誰からも愛されなかったし必要とされなかった藤田明彦。
事故で死んだ明彦が出会ったのは……
転生先では愛されたいし必要とされたい。明彦改めソラはこの広い空を見ながらゆっくりと生きることを決めた
小説家になろうでも連載中です。
なろうの方が話数が多いです。
https://ncode.syosetu.com/n8964gh/
祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活
空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。
最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。
――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に……
どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。
顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。
魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。
こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す――
※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。

少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。
田舎暮らしと思ったら、異世界暮らしだった。
けむし
ファンタジー
突然の異世界転移とともに魔法が使えるようになった青年の、ほぼ手に汗握らない物語。
日本と異世界を行き来する転移魔法、物を複製する魔法。
あらゆる魔法を使えるようになった主人公は異世界で、そして日本でチート能力を発揮・・・するの?
ゆる~くのんびり進む物語です。読者の皆様ものんびりお付き合いください。
感想などお待ちしております。
あなたは異世界に行ったら何をします?~良いことしてポイント稼いで気ままに生きていこう~
深楽朱夜
ファンタジー
13人の神がいる異世界《アタラクシア》にこの世界を治癒する為の魔術、異界人召喚によって呼ばれた主人公
じゃ、この世界を治せばいいの?そうじゃない、この魔法そのものが治療なので後は好きに生きていって下さい
…この世界でも生きていける術は用意している
責任はとります、《アタラクシア》に来てくれてありがとう
という訳で異世界暮らし始めちゃいます?
※誤字 脱字 矛盾 作者承知の上です 寛容な心で読んで頂けると幸いです
※表紙イラストはAIイラスト自動作成で作っています
平凡冒険者のスローライフ
上田なごむ
ファンタジー
26歳独身動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物・魔法・獣人等ファンタジーな世界観の異世界に転移させられる。
平凡な能力値、野望など抱いていない彼は、冒険者としてスローライフを目標に日々を過ごしていく。
果たして、彼を待ち受ける出会いや試練は如何なるものか……
ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。

ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?
お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。
飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい?
自重して目立たないようにする?
無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ!
お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は?
主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。
(実践出来るかどうかは別だけど)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる