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第七章 雪にまみれて刃を研いで
そらのかけっこ
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雪が積もっている中でしかできないことをする。
飛翔魔法の練習も、そのうちの一つだ。
無茶な練習による墜落も、雪のクッションが受け止めてくれる。
今のうちに、思いっきり飛翔魔法を練習して、雪解けの頃にはスイスイと空を飛び回りたい。
そんな野望をもって毎朝、こっそり練習していたのも、すぐに同僚にバレてしまった。
今では早朝のランニングでもするかのように、軽く飛翔魔法をつかって朝をすごす。
早寝早起きで、とても健康的だ。
「ロープの助けを借りれば、中級でも温泉にいけました。なかなかのものだと思います。思いません?」
「空中を蹴るように進むより、ロープを蹴ったほうが魔力消費が少ないみたいっスね」
カガミとプレインは中級で温泉までたどりついた。
もっとも、飛ぶと言うよりロープの上を滑ると言った感じだ。
「そんなに飛べなくても問題ないからな」
途中で墜落してしまったサムソンは、ほうほうの体で戻ってきたかと思うと、飛翔魔法は無理だとあきらめてしまった。
オレは上級を使い、なんとか温泉まで行けるようになった。
ミズキも似たようなものだ。短距離なら、ミズキの方が圧倒的に上だ。
しかし、温泉までの距離となるとオレの方が分が良い。
オレには飛翔魔法を使っての、長距離移動についての才能があるのかもしれない。
今日は、早朝から雪合戦したので、飛翔魔法の練習はお休み。
朝ご飯をたべて、のんびりする。
ノアが手慣れたようすでクローヴィスを屋敷へと招く。
招かれたクローヴィスは、おもちゃを持っていた。
それは双六に似たボードゲームだった。なんでも、これでロウス法国の地理を勉強しているそうだ。
しかも、わざわざギリアの町も追加した新バージョンらしい。
「これで遊ぼうと思ったんだ」
クローヴィスが箱を頭上に持ち上げて言う。
「おもちゃだ」
ノアも嬉しそうだ。
皆で遊ぶことにした。異世界ボードゲームだ。
ルールは中央にあるルーレットを回してランダムに1から5マス進む。地図をベースにした盤面には、それぞれのマスにロウス法国の地理について解説が書いてあるので、それを声に出して読むらしい。知育玩具といったところか。
異世界ボードゲームだと期待に胸を膨らませたが、案外普通だ。
「なるほどね」
「あと、同じマスに二つ駒が置かれたら決闘するんだ」
決闘?
普通の双六だと思ったオレに、クローヴィスが駒を二つ取り出して説明を続ける。
「駒同士が、剣をパシパシとぶつけ合うから、その間手を叩いて応援するんだ」
「パチパチと手を叩くの?」
ノアが拍手するようなジェスチャーをしながらクローヴィスに質問する。
クローヴィスは頷いて、さらに説明してくれる。
「一杯叩いたほうが勝つんだ。でも、いつ決闘が終わるか分からないし、決闘が終わっても叩いていると負けちゃうんだ」
「駒が勝手にうごくの?」
「そうだよ。魔法の駒だからね」
異世界っぽい。がぜんやる気になってきた。
さっそく皆で遊ぶ。こんなに沢山の人とボードゲームを遊ぶのは久しぶりだ。
「クローヴィス君は、このゲーム得意なの?」
「わからない」
クローヴィスはカガミの質問に、ボソリと呟く、いろいろと説明してくれた。
とても遠回しの説明だった。
どうやら、クローヴィスは、いつも加減されて最後には勝つそうだ。龍神の子供ということで、失礼がないように、勝ってしまわないようにということらしい。
想像するに、それはつまらない時間だったのだろうと思う。
だが、この場にそんなことをする者はいない。
「このおじちゃんは、本気でやるからね。気をつけてね」
カガミがオレを指さし、笑いながら言う。
誰が、おじちゃんだ。
さっそく始める。
簡単な双六だと思っていたら、盤面には分岐などもあって案外複雑だった。
決闘についても、すぐに剣の打ち合いが終わることもあれば、なかなか終わらないこともある。決闘が終わる時間を予測できないなかで、手を叩くことになるので、反射神経や山勘が必要になる。
連戦になると弱いプレーヤー、強いプレーヤー。相性の悪い相手なんかも、ゲームを進めていくうちに分かってくるので、分が悪い相手とは同じルートを通らないようにする等々、考えることは多かった。
2ゲーム遊んだところでお昼になった。
戦績は、オレが1位。2位がクローヴィスだ。
「ざっとこんなもんだ」
「リーダに負けた……」
クローヴィスは悔しそうだ。そして同じくらい楽しそうだった。
「子供相手に大人げない……」
長いこと勝ち誇っていたら、同僚から苦言をていされる。
「はっ。お前らも別に手加減してなかったじゃないか。実力だ。実力」
「うーん。空を飛ぶ勝負ならリーダなんかに負けないのに……」
クローヴィスが恨めしそうにオレを見上げて負け惜しみを言い出した。
「ハッハッハ、温泉までの片道勝負なら、空を飛ぶ勝負でもオレが勝つかもね」
彼は、ここ最近オレが努力していることを知らない。飛翔魔法での、長距離移動にはそれなりに自信があるのだ。
「そんなことないさ」
「勝負してみるかね」
「もぅ、やめなさいよ」
オレとクローヴィスの会話に、カガミが言葉を挟む。
「いいじゃん、面白そうだし。どーせリーダが負けるって」
「それに、そろそろトッキーピッキーを迎えにいくわけだしな。温泉に行くのはちょうどいい」
そんな流れで、温泉までの道を飛ぶ競争をすることにした。
「ハンデに、ノアを乗せてひとっ飛びするよ」
3階から、ロープウエイ乗り場へと出る。外にでて空を見上げたクローヴィスが自信を取り戻したのか、調子に乗りだした。
「あ、リーダが先にスタートしていいよ」
「ちっ、クローヴィスのくせに」
自信満々なクローヴィスに思わず悪態をつく。
「本当に大人げないっスね」
勝負が始まる。
ロープウエイ乗り場から、2階立て部分の屋根へと移動する。
ここからスタートして、向こう岸のロープウエイ乗り場をゴールとすることにした。
「スタート」
ミズキが楽しげな声で始まりを宣言する。
スタートの声に合わせて魔法が発動するようにタイミングを調整し、声と同時に、タンっと跳ねるように空へと飛び立つ。
良いスタートが切れた。一気にスピードをあげ、最高速度でひとっ飛びだ。
後ろをみるとまだ、クローヴィスはスタートできていない。勝った!
あれ?
何かを思い出す。アレ、何を思いだしたのだっけと考えていたら、ゴールまであと少しの距離にきていた。
ところが、こんなスピードを出したことがなかった。飛翔魔法は急には止まれない。雪に顔面から突っ込んでしまった。
「うぐぐ……」
口に、鉄の味が広がる。口の中を切ったようだ。
雪に埋もれた顔を引き上げる。雪に赤い色が広がる。オレの血だ。
「言ったでしょ。リーダがボクにかなうわけないんだ」
後ろから余裕なクローヴィスが近づいてくる。
「ヒィ……あの冬の大魔法使いが制裁を受けている」
男の声がした。声がした方をみる。
温泉には先客がいたようだ。オレが墜落した温泉宿の入り口近くに、数人の男女がいた。オレが血を吐き出したのに驚いたのか、全員が争うように立ち去っていった。
「あれ、リーダじゃないか。貴族様は帰ったのか?」
バルカンが温泉宿から歩いてきた。
「走って立ち去っていったよ。ところで今日はオレ達が温泉使う日だったと思うけど。あれお客さん?」
「そうだぜ……一応。なんか急に来られて困ってたんだ。まぁ、いいか。貴族様の気まぐれにも困ったもんだ」
「そっか。宿でしばらくトッキーとピッキーを待たせてもらうよ」
宿で薄めてある温かいお酒を飲んで、まったりと同僚やピッキー達を待つ。
ふと、飛翔魔法で飛んでいる途中に考えていた事を思い出した。
そうだ。
あの杖が置いてあった場所は、屋敷の4階部分にそっくりだったんだ。
飛翔魔法の練習も、そのうちの一つだ。
無茶な練習による墜落も、雪のクッションが受け止めてくれる。
今のうちに、思いっきり飛翔魔法を練習して、雪解けの頃にはスイスイと空を飛び回りたい。
そんな野望をもって毎朝、こっそり練習していたのも、すぐに同僚にバレてしまった。
今では早朝のランニングでもするかのように、軽く飛翔魔法をつかって朝をすごす。
早寝早起きで、とても健康的だ。
「ロープの助けを借りれば、中級でも温泉にいけました。なかなかのものだと思います。思いません?」
「空中を蹴るように進むより、ロープを蹴ったほうが魔力消費が少ないみたいっスね」
カガミとプレインは中級で温泉までたどりついた。
もっとも、飛ぶと言うよりロープの上を滑ると言った感じだ。
「そんなに飛べなくても問題ないからな」
途中で墜落してしまったサムソンは、ほうほうの体で戻ってきたかと思うと、飛翔魔法は無理だとあきらめてしまった。
オレは上級を使い、なんとか温泉まで行けるようになった。
ミズキも似たようなものだ。短距離なら、ミズキの方が圧倒的に上だ。
しかし、温泉までの距離となるとオレの方が分が良い。
オレには飛翔魔法を使っての、長距離移動についての才能があるのかもしれない。
今日は、早朝から雪合戦したので、飛翔魔法の練習はお休み。
朝ご飯をたべて、のんびりする。
ノアが手慣れたようすでクローヴィスを屋敷へと招く。
招かれたクローヴィスは、おもちゃを持っていた。
それは双六に似たボードゲームだった。なんでも、これでロウス法国の地理を勉強しているそうだ。
しかも、わざわざギリアの町も追加した新バージョンらしい。
「これで遊ぼうと思ったんだ」
クローヴィスが箱を頭上に持ち上げて言う。
「おもちゃだ」
ノアも嬉しそうだ。
皆で遊ぶことにした。異世界ボードゲームだ。
ルールは中央にあるルーレットを回してランダムに1から5マス進む。地図をベースにした盤面には、それぞれのマスにロウス法国の地理について解説が書いてあるので、それを声に出して読むらしい。知育玩具といったところか。
異世界ボードゲームだと期待に胸を膨らませたが、案外普通だ。
「なるほどね」
「あと、同じマスに二つ駒が置かれたら決闘するんだ」
決闘?
普通の双六だと思ったオレに、クローヴィスが駒を二つ取り出して説明を続ける。
「駒同士が、剣をパシパシとぶつけ合うから、その間手を叩いて応援するんだ」
「パチパチと手を叩くの?」
ノアが拍手するようなジェスチャーをしながらクローヴィスに質問する。
クローヴィスは頷いて、さらに説明してくれる。
「一杯叩いたほうが勝つんだ。でも、いつ決闘が終わるか分からないし、決闘が終わっても叩いていると負けちゃうんだ」
「駒が勝手にうごくの?」
「そうだよ。魔法の駒だからね」
異世界っぽい。がぜんやる気になってきた。
さっそく皆で遊ぶ。こんなに沢山の人とボードゲームを遊ぶのは久しぶりだ。
「クローヴィス君は、このゲーム得意なの?」
「わからない」
クローヴィスはカガミの質問に、ボソリと呟く、いろいろと説明してくれた。
とても遠回しの説明だった。
どうやら、クローヴィスは、いつも加減されて最後には勝つそうだ。龍神の子供ということで、失礼がないように、勝ってしまわないようにということらしい。
想像するに、それはつまらない時間だったのだろうと思う。
だが、この場にそんなことをする者はいない。
「このおじちゃんは、本気でやるからね。気をつけてね」
カガミがオレを指さし、笑いながら言う。
誰が、おじちゃんだ。
さっそく始める。
簡単な双六だと思っていたら、盤面には分岐などもあって案外複雑だった。
決闘についても、すぐに剣の打ち合いが終わることもあれば、なかなか終わらないこともある。決闘が終わる時間を予測できないなかで、手を叩くことになるので、反射神経や山勘が必要になる。
連戦になると弱いプレーヤー、強いプレーヤー。相性の悪い相手なんかも、ゲームを進めていくうちに分かってくるので、分が悪い相手とは同じルートを通らないようにする等々、考えることは多かった。
2ゲーム遊んだところでお昼になった。
戦績は、オレが1位。2位がクローヴィスだ。
「ざっとこんなもんだ」
「リーダに負けた……」
クローヴィスは悔しそうだ。そして同じくらい楽しそうだった。
「子供相手に大人げない……」
長いこと勝ち誇っていたら、同僚から苦言をていされる。
「はっ。お前らも別に手加減してなかったじゃないか。実力だ。実力」
「うーん。空を飛ぶ勝負ならリーダなんかに負けないのに……」
クローヴィスが恨めしそうにオレを見上げて負け惜しみを言い出した。
「ハッハッハ、温泉までの片道勝負なら、空を飛ぶ勝負でもオレが勝つかもね」
彼は、ここ最近オレが努力していることを知らない。飛翔魔法での、長距離移動にはそれなりに自信があるのだ。
「そんなことないさ」
「勝負してみるかね」
「もぅ、やめなさいよ」
オレとクローヴィスの会話に、カガミが言葉を挟む。
「いいじゃん、面白そうだし。どーせリーダが負けるって」
「それに、そろそろトッキーピッキーを迎えにいくわけだしな。温泉に行くのはちょうどいい」
そんな流れで、温泉までの道を飛ぶ競争をすることにした。
「ハンデに、ノアを乗せてひとっ飛びするよ」
3階から、ロープウエイ乗り場へと出る。外にでて空を見上げたクローヴィスが自信を取り戻したのか、調子に乗りだした。
「あ、リーダが先にスタートしていいよ」
「ちっ、クローヴィスのくせに」
自信満々なクローヴィスに思わず悪態をつく。
「本当に大人げないっスね」
勝負が始まる。
ロープウエイ乗り場から、2階立て部分の屋根へと移動する。
ここからスタートして、向こう岸のロープウエイ乗り場をゴールとすることにした。
「スタート」
ミズキが楽しげな声で始まりを宣言する。
スタートの声に合わせて魔法が発動するようにタイミングを調整し、声と同時に、タンっと跳ねるように空へと飛び立つ。
良いスタートが切れた。一気にスピードをあげ、最高速度でひとっ飛びだ。
後ろをみるとまだ、クローヴィスはスタートできていない。勝った!
あれ?
何かを思い出す。アレ、何を思いだしたのだっけと考えていたら、ゴールまであと少しの距離にきていた。
ところが、こんなスピードを出したことがなかった。飛翔魔法は急には止まれない。雪に顔面から突っ込んでしまった。
「うぐぐ……」
口に、鉄の味が広がる。口の中を切ったようだ。
雪に埋もれた顔を引き上げる。雪に赤い色が広がる。オレの血だ。
「言ったでしょ。リーダがボクにかなうわけないんだ」
後ろから余裕なクローヴィスが近づいてくる。
「ヒィ……あの冬の大魔法使いが制裁を受けている」
男の声がした。声がした方をみる。
温泉には先客がいたようだ。オレが墜落した温泉宿の入り口近くに、数人の男女がいた。オレが血を吐き出したのに驚いたのか、全員が争うように立ち去っていった。
「あれ、リーダじゃないか。貴族様は帰ったのか?」
バルカンが温泉宿から歩いてきた。
「走って立ち去っていったよ。ところで今日はオレ達が温泉使う日だったと思うけど。あれお客さん?」
「そうだぜ……一応。なんか急に来られて困ってたんだ。まぁ、いいか。貴族様の気まぐれにも困ったもんだ」
「そっか。宿でしばらくトッキーとピッキーを待たせてもらうよ」
宿で薄めてある温かいお酒を飲んで、まったりと同僚やピッキー達を待つ。
ふと、飛翔魔法で飛んでいる途中に考えていた事を思い出した。
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