召還社畜と魔法の豪邸

紫 十的

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第六章 進化する豪邸

ひしょうまほう

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 屋敷の目録をあたると空を飛ぶ飛翔の魔法……飛翔魔法の本はすぐに見つかった。
 触媒に、鳥の羽が必要らしい。
 飛翔魔法は、初級中級上級と3つの難易度があった。
 不思議なことに、初級が一番魔法陣が複雑で詠唱の言葉も長い。
 それに注意書きが多い。
 一人で練習しないこと。
 鎧を作る魔法で身を守った上で使用すること。
 飲酒、寝不足の時は使用を控えること……等々、多岐にわたる。

「新しいタイプの魔法だなぁ」

 飛翔魔法について書かれた本を読み終わったあとの感想だ。

「新しいの?」

 まるでお絵かきするように魔法陣を描いていたノアの質問だ。

「簡単なのと難しいのがあったり、注意書きが多いんだよ」
「飛翔魔法はぁ、とりわけ術者が危険にさらされる魔法だからぁ。しょうがないわぁん」
「危険?」
「魔法が切れると落ちちゃうしぃ、急には止まれないものぉ」

 落ちる。浮遊の魔法も、集中がきれると落ちてしまう。あれと同じようなものか。
 つまりは高いところから落ちると怪我をする。
 急には止まれないというのはイメージできない。どういうことなのだろうか。
 物は試しと、魔法陣を書き写し早速庭へと繰り出す。
 触媒の羽は、厩舎の側で拾い集める。トーク鳥に鶏の羽だ。
 興味深そうについてきたノアと一緒に集めたので、すぐに十本以上の羽が集まった。

「ちょうどよかったっス」

 オレが魔法を使おうとしたタイミングでプレインも合流する。

「まずは初級だ」

 触媒の羽を手に持って、魔法陣の上に立って詠唱する。
 フワリと体が浮く、10センチくらい浮いている。
 これで腕を回すと移動できるらしい。
 とりあえず何も考えずに腕を回すと、さらに少しだけ高く浮き上がった。
 なかなか思い通りに移動できない状況に、四苦八苦する。

「先輩。これ、水泳の要領っスよ」

 オレの後に続いて魔法を詠唱したプレインが、クロールの要領で腕を動かしスイスイとノアの周りを泳ぐように飛び回る。
 オレも真似してみるが、プレインのようにはいかず地面と水平にも飛べない。
 難しい。

「あー、面白そうなことやってる」

 ミズキが駆け寄ってくる。

「飛翔魔法だよ」
「私も試しみたい、ちょっと着替えてくる」

 近寄ってきたかと思うと、すぐに踵を返して屋敷へと戻っていった。
 騒がしいやつだ。

「私もつかってみていい?」
「うーん。ノアには、少し早いわぁ。危ないものぉ」

 ノアが試したいと言った直後にロンロが止めた。
 本に注意書きがされているくらいだ、危ないのだろう。

「そうだな。ノアはまだ鎧を作る魔法を使いながら他の魔法使えないし、早いかもね」
「うん……」
「でも、ノアちゃんは魔法が上手くなってるし、すぐに2つの魔法を同時につかって、飛翔魔法も使えるようになるっスよ」

 少し元気がなくなったノアにプレインがすかさずフォローを入れた。

「魔法が上手くなってるの?」

 オレの質問に、ノアは大きく頷く。

「魔法の矢がぁ、目標に当たるようになったのよぉ」

 前にノアが魔法の矢を使ったときは当たらないと言っていた。それが当たるようになったのか。

「えへへ。みてて」

 ノアはたすき掛けしていた鞄から紙を一枚取り出し地面においた。
 魔法陣が描いてある。両手を魔法陣に乗せて、ゆっくりと詠唱する。
 両目を閉じて集中しているのが見て取れる。
 詠唱が終わると、そっと魔法陣から手を離す。
 小さい矢が一本、ノアの目の前に出現した。それはヒュンという音とともに放たれて、厩舎側に立てかけてあった木片を弾き飛ばした。

「命中した」
「百発百中っスよ」
「プレインもロンロも知っていたのに、オレは知らなかったよ……」

 ノアの魔法が上達したことをオレだけが知らなかったのがショックだ。
 少し落ち込む。

「リーダをびっくりさせたかったの!」
「そっか。オレも負けてられないな」

 欠点を克服したノアに素直に感心し、オレも負けられないと意気込む。
 そんなオレの決意をへし折るように、ノアの後ろにいつの間にか着替えたミズキが飛翔魔法を使い、スイスイと空を優雅に飛んでいたのが見えた。

「これ、腕回さなくてもバタ足で動けるじゃん」

 そんなことを言いながら、まるで空中にある見えない壁をけるように足を動かして、オレの側まで飛んできた。

「ミズキお姉ちゃんすごい」

 ノアが驚いたように褒める。くやしい。
 それから騒ぎを聞きつけたサムソンとカガミも加え、皆で飛翔魔法を使い夕方まで遊んだ。
 飛翔魔法は短時間しかつかえず、タイムリミットがくると、ゆらゆらと木の葉が舞い落ちるような動きで地面に落下することがわかった。
 初級しか試していないが、明日以降は中級や上級も試してみたい。
 ちなみに、オレとサムソンが上手く飛べず、プレインはそこそこ、ミズキが上手く飛べた。
 意外だったのがカガミで、オレ達の中で一番うまく飛べていた。
 カガミも運動神経ないだろうと考えていただけにショックだ。

「オレ達の仲間だと思っていたのに……」
「あら、リーダ様は素敵な方ですから、きっとお上手になりましてよ」

 オレの悲しみを込めた台詞に、超上から目線でコメントを返すくらいカガミは調子に乗っていた。いつか見返してやりたい。
 それとは別に、影収納の魔法も練習する。寝ていても常に起動したままにするための修行だ。
 いろいろ考えた結果、影収納の魔法で水を収納し、寝ている時に天井へ影を作ることにした。
 天井に自分の影を作る方法は、ウィルオーウィスプにベッドの下から照らしてもらうことで可能にした。
 つまり寝ている間は天井に影が出ていて、オレが影収納の魔法を切ってしまうと、水をかぶってしまう仕組みだ。
 夜通し起動を続けていれば水をかぶらずにすむ。
 なかなか自分に厳しい修行方法を編み出したことに満足し、初日の眠りにつく。
 ノアの手本になるくらいは、努力したい。
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