召還社畜と魔法の豪邸

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第六章 進化する豪邸

ぎりあのえ

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「神罰をこえて。図画……統一王朝時代、遺物……売買禁止」

 売買禁止?
 屋敷に戻り、早速ギリアの絵を看破で見た結果が、これだ。
 正直なところ、ヘイネルさんの口ぶりから超貴重な絵だと感じたので、金貨1000枚はかるく、もしかしたら1万枚いったりして……などと考えていた。
 売買が禁止なんて、予想外だ。

「だめだったの?」

 いつの間にか、オレの側に来ていたノアに声をかけられる。
 屋敷にもどって知ったことだが、昨日飲んだくれていたミズキは、朝一でカガミに叱られノアと一緒に屋敷にもどったそうだ。
 結局は、カガミが一人でイザベラという貴族のところへ向かった。

「売っちゃ駄目なんだって」

 そんなミズキに振り回されて、無駄に町と屋敷を往復したノアへ売買禁止だったと伝える。

「残念だね」
「そもそも、売買禁止ってどういうことだ」
「売り買いしては、いけませんよぉって、ことよぅ」

 ノアの側でフヨフヨと浮いているロンロがわかりきった解説をした。
 まったく他人事だ。

「売買禁止ってのは、ずっと売買禁止なのか? 売買の許可を取る方法ないのか?」

 駄目元でロンロに聞いてみる。
 たかだか絵だ。永久に売り買い禁止というのはないと思う。

「さぁ。でもぉ、売買禁止の貴重品ってぇ、領主や王に献上して報奨金をもらえるはずよぉ。お金もらえるわけだしぃ、売るのと同じじゃないかしらぁ」

 確かに、お金が得られるという点では同じだな。
 しかし献上した場合の相場がわからない。これって価値はどれくらいなのかな。
 なんかもう、いろいろ面倒だ。なんとかして一気に解決したい。

「あぁ、どーしよ、困った。困った」

 広間のテーブルにギリアの絵をおいて、突っ伏して溜め息交じりに呟く。

「困ったね」

 ノアもオレの真似をするように、テーブルに突っ伏して同じように呟いた。

「何をこまってるんだ?」
「あっ、先輩。戻ってきてたんスね。バルカンに相談してどうだったっスか?」

 プレインとサムソンが部屋へ入ってきた。
 オレは、午前中したバルカンとのやり取り、それにバルカンが巻き込まれたというはぐれ飛竜の案件を伝える。

「バルカン、災難っスね」
「元の世界だったら、国が補助金なり出して助けてくれそうなものなんだがな」

 確かに、この世界は結構過酷だな。
 被害受けた側が、さらにお金を支払うことになるのは辛い。

「バルカンには、前金として金貨4枚渡しているから大丈夫なはずだ」
「ところでバルカンって俺達と一緒で奴隷階級だったろ? なんで商売できるんだ?」

 そういえば聞くのを忘れていた。今度会ったら聞いてみなきゃいけないな。

「聞いてなかった。それより、利害関係の話と、お金の問題だ。この絵が売買禁止だったんだよ」
「売買禁止か」
「それでぇ、私がぁ絵を献上してお金貰うことを提案したのぉ」
「うまくいけばお金の問題はクリアっスね」
「問題は、価値がわからないことなんだよな。買いたたかれるのは避けたい」
「そういうことか……」
「領主に、他の貴族から圧力受けたときに、どう対応するのかも説明しなきゃいけないんスよね」

 その問題もある。もしかしたら相手が貴族からケルワッル神殿になるのかもしれないが、そんなに変わらないだろう。
 妙案があるわけでもなし、みんなで椅子にすわり唸るしかなかった。

「カガミ様から、お手紙きたでち」

 そんな状況は、カガミからの一通の手紙で終わりを告げる。
 明日、ノアとミズキにもイザベラのところへ来て欲しいということ。
 あとは、カガミがイザベラから聞いた愚痴や世間話が書いてあった。
 一通り読んで、サムソンへ渡す。

「この絵、領主にとってぇ特別な絵なのねぇ」

 オレの後ろから、のぞき込むようにして手紙を読んでいたロンロが感想をもらす。
 イザベラの旦那は、領主に仕える貴族で、最近は特に忙しくたまに帰ると愚痴ばかりなのだとか。
 そんな愚痴の中にギリアの絵が度々話題にあがるとあった。
 なにやら、ギリアの絵を探し出すことも仕事の一つとして任されているらしい。
 今の領主は代官だが、元々は王よりギリアの地を賜った一族の末裔とのこと。
 一族の悲願として、ギリアを領土として王より頂き、代官でなく正当なギリア領主として返り咲く目標があるそうだ。
 そのための条件の一つとして、ギリアの絵を再び手に入れることがあるらしく、イザベラの旦那は血眼になって方々から情報を仕入れている。
 そんなことが手紙には書いてあった。

「そうとう高くふっかけられるんじゃないのか? これ?」

 サムソンが悪い笑顔でオレ達に言う。

「それにしても、カガミ姉さん、一日でよくこんなこと聞き出せたっスね」

 プレインもサムソンに似た悪い笑顔だ。
 確かにそうだ。カガミが案外社交的に振る舞えることを知って驚く。
 それに、得られた情報はすごいものだ。この話通りなら、領主は温泉作る代金くらい出すだろう。

「これで金銭面も解決出来そうだな。あとは、第3者からの圧力にどう対抗するのかを領主に説明するか……だな」
「圧力って具体的にどういうのを指すんっスかね」
「やいやい、この温泉は俺達のものだぞ……って、屋敷に乗り込んでくるとか。うーん。わからないな」

 椅子に座ったままグイッと背伸びする。
 ヘイネルさんの話を聞いたときは、なるほどと思ったが、よくよく考えると抽象的すぎて想像できない。

「もう。ぜーんぶ領主さまが助けてくれればいいのにね?」

 ノアがオレと同じように椅子に座ったまま背伸びする。
 椅子の足が長い分不安定だ。ぐらぐら揺れてノアの座っている椅子が倒れそうで怖い。
 ん?
 なんだか引っかかるな。

「あれ?」
「どうしたんだ?」
「よくよく考えたら、なんで圧力受けたときの対策を領主に説明しなきゃいけないんだろ」
「いつの間にか乗っ取られるような奴に温泉任せたくないんだろ」

 サムソンの答えと同じことを考えていた。
 しかし考え直してみると、それくらい領主がなんとかすればいいんじゃないか?

「この絵って、カガミの情報だったら結構な価値あるだろ」
「そうだろ。だから、温泉の工事代金を全額だしてもらおうって話してんだぞ」
「ついでに盾になってもらおう」
「盾っスか?」
「第3者の圧力から領主に守って貰うんだ。お金も出して貰う。圧力からも守って貰う。つまり残りの課題は全部丸投げだ」

 そうだ。丸投げ。
 テストゥネル様が来たときにされた丸投げをやり返すのだ。
 そう、オレはやられたらやりかえす男なのだ。
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