召還社畜と魔法の豪邸

紫 十的

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第六章 進化する豪邸

さいしょのいっぽ

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 ほどなくして、城からバルカンが戻ってきた。
 待っている間にミズキと相談し、宿屋に部屋をとることにした。
 時間がかかれば一泊すればいいし、早く終わればそのまま撤収だ。

「ミズキちゃん、トーク鳥来てるよ」

 宿屋に着くなり、出迎えてくれたおかみさんがミズキに声をかける。
 おかみさんの視線の先には、オレ達のトーク鳥が宿屋にある柵に止まっていた。

『イザベラ様から、仮縫いの準備ができたと連絡ありました。明日、3人で伺うことになるので飲まないように。 カガミより』

 トーク鳥はこんな内容の手紙をもっていた。サッと目を通してミズキに渡す。
 手紙の内容にショックをうけているミズキは放置して、バルカンと会えたこと、そして明日に帰宅することを、トーク鳥を使い連絡する。

「温泉をリーダ達の代わりに運営する人を探しているんだよな?」

 宿の部屋に入るなりにバルカンが聞いてきた。

「そうだ。温泉を見つけて、領主に報告したところだ」

 オレは、バルカンとオレ達が座る椅子を、部屋の一室に準備しながら答える。

「リーダ達が、運営先を決めることができるのか?」
「これから、誰にまかせるか決めるそうだ。そこにオレ達が割り込む予定なんだ」
「どうやって……。あー。そうだな、リーダ達ならできるのかもな」

 正直なところ、まったくあてのない状況だが、勝手にバルカンは納得してくれたようだ。
 本当に、どうしようかな。それよりも、まずは出来ることからだ。

「ただし、オレ達の主は呪い子だ。直接は任せてもらえない。だから、運営してくれる人を探している。オレ達は、それを影であやつる形だ」

 自分でいうのもなんだが、酷い話だ。上前ピンハネ宣言だからな。

「条件しだいだな。温泉といっても、ピンキリだ」
「そういったことも相談したくて、バルカンを探していたんだ。商売のことはわからなくてな」
「あー。期待してもらえて嬉しいぜ」

 苦笑しながらバルカンはそう言った後、俯いた。
 何やら考えているようだ。邪魔をするのも悪いと思い、窓辺に腰掛け外を眺めて時間を潰す。しばらくして、宿の一階に残っていたミズキが、片手に食べ物とジョッキが乗ったトレイを抱えて部屋に入ってきた。

「どうしたの?」

 唇に指を当てて、ジェスチャーで静かにするように合図する。ミズキは、オレの側まで静かに近寄ってきて、小声で話しかけてくる。

「はい、晩ご飯。でさ、なんとかなりそう?」
「無理かも」
「またまたぁ。なんとかなるって」

 いつもの調子で軽口をたたきながらミズキは、ジョッキを手に取りグイッと口をつけた。

「それ……お酒じゃ……」
「気のせいだよ」

 そんなことをお酒の匂いをさせながら、笑顔で答える。

「いいなぁ。いつも気軽で」
「リーダが頼りになるからね」

 心のこもっていない台詞をミズキが「イッヒヒ」と笑顔で言う。
 のんびりと食事をすすめバルカンを待つ。温かかった食事も冷めてしまった頃になって、ようやくバルカンが口を開いた。

「明日、温泉に案内してくれないか。それで決めたい」

 百聞は一見にしかずというしな。それに、バルカンの口ぶりだと、あてはあるようだ。
 これで、とりあえず一歩前進できそうだ。

「それじゃ、明日の朝一で案内するよ」

 それで話は終わり。

「おやすみー」

 ミズキはジョッキを片手に部屋をでていった。
 明日は別行動。ミズキはカガミとノアの二人と合流し、イザベラという貴族の家へと一緒に行くことになる。
 バルカンは、オレと一緒にこの部屋で休み、朝一温泉へと行くことになった。

「こりゃ、すごいな!」

 翌日、温泉に案内した。バルカンは一目見て、感嘆の声を上げ、そして言葉を続ける。

「なんていうか、神秘的な感じだな。山が丸くくりぬかれてそこに温泉があるなんてな。景色がいい。だけど、お湯が冷たい。こりゃ、ケルワッル神殿に相当お布施を弾まなきゃいけないだろうぜ」

 お湯の温度については、自分達でなんとかするつもりだったが、ケルワッル神殿なら対応できるのか。となると、大商人や貴族の横やりというより、利権関係ではケルワッル神殿がライバルになるのかもしれない。

「温めるのはオレ達でなんとかするつもりだ」
「出来るのか! あー。そりゃそうなんだろうな。リーダ達だったら魔法でなんとでも出来そうだ」

 もっとも温める方法についても、これから考えるわけだが。
 暖炉石だっけかな。あのアイデアがそのまま使えれば解決は簡単だ。

「温度以外は問題ないのか?」
「リーダの話だと、お城の役人が検査したんだろ? 問題ないというなら大丈夫だ。場所もいい。強いて言えば……手を加えなきゃ商売には使えないのが問題だ」

 着替える場所や、休むところが必要ってことか。お風呂上がりに、飲み物も欲しいな。
 確かに、いろいろと設備は必要だ。

「お金掛かりそうだな」
「そりゃそうだぜ。素足で歩けるようにしなきゃいけないし。のぼせたときのために、椅子も必要だ。それに泊まる場所もだ」
「泊まる場所?」
「あたりまえだろ。温泉なんだから、湯治客が寝泊まりする場所が必要になるもんだぜ」

 日帰りを想定していた。この世界の温泉利用って、泊まり前提なのか。
 まずい、貸し切って温泉を使えなきゃ、ありがたみが薄れてしまう。

「大変だな。ところでさ、月に10日は貸し切りで使いたいんだよ。どうにかなりそう?」

 無理だろうとは思いつつふっかけてみる。自由に使える時間が多いほどいい。
 バルカンは、腕を組んで、周りの風景を見渡しながら何かを考えている。

「俺には判断つかねぇ。それより、手を加えるためのお金どうするんだ? おそらく……金貨500枚は最低必要になるだろうぜ」

 お金の問題もあるな。とりあえずギリアの絵を売れば足しになるだろう。
 あの絵の値段次第か。
 金貨500枚、相当な大金だ。すくなくても、今の手持ちでは足りない。
 ギリアの絵頼みか……あの屋敷って他に金目の物あるのかな。少し調べてみるか。

「お金の、あてならある……かな」
「さすがだな。ところでよ。リーダ」

 頭をガリガリとかきながらバルカンは何かを言おうとしていた。
 口を開きかけては閉じ、開きかけては閉じと、ずいぶんともったいぶった様子だ。

「どうしたんだ?」
「あのよ。ずいぶん、虫の良い話なんだが……俺に任せてくれないか?」

 バルカンが?
 できるなら理想的だが、ノウハウあるのか。

「準備に運営……できるのか?」
「そうだな。工事や、運営方法を調べたり手配できる伝手ならある。ただし、お金がないんだ。それに領主様の説明も、大商人からの横やりも俺には手伝えねぇ」

 お金と、利権関係の調整は無理か。でも、バルカンが運営などをするというなら、任せたい。
 そもそも、今回のバルカンが直面している窮地には、オレ達も無関係というわけでもない。

「お金と、領主様なんかの調整はこちらでやろう。あとは任せるよバルカン」

 独断だったが、決めた。
 どちらにしろと、バルカン以外に頼れる人はいない。
 そのバルカンが出来るというなら任せるまでだ。

「ありがとよ。あと……」
「まだ何かあるのか?」
「すまないが、金貨4枚を貸してくれ。損害を賠償しないと……信用をとりもどさないと手配できねえんだ」

 そりゃ、そうだろうな。特に問題はない。手持ちが足りるか不安だったが、ギリギリ足りた。幸先がいい。

「銀貨もあるが金貨4枚分だ」
「すまねぇ……、すぐに損害を払って仕事を開始するぜ」
「頼りにしてるよ」

 これで、とりあえず誰に運営を任せるかという問題にはめどが立った。
 あとは資金繰りと利害関係の調整だ。
 ギリアの絵がいくらで売れるかわからない。
 金貨500枚以上の価値があればいいなと思い、やる気になったバルカンと別れ、屋敷への帰路へついた。
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