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第五章 空は近く、望は遠く
もんぺ
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そそくさと、皆を隣の部屋へと誘導する。
あらためて作戦会議だ。
「モンペだ」
「モンペダ? なにそれ?」
ミズキが理解不能という顔でオレをみる。他の奴らも同様だ。
なんてことだ。
ノアやロンロにチッキーはともかく、他の同僚が分からないのが情けない。
いつも仕事のことばかり考えているから、世の中で起こっている事に気が回らないのだ。
社畜というのは、悲しい存在だな。
「モンスターペアレントのことだ。学校などに対して、理不尽な要求をする親のことだ。親が怒り心頭で押しかけることも往々にしてあるらしい」
「それで?」
「いま、学校現場では、このモンスターペアレントに悩まされる事例が散見されるそうだ。そして専門家が、どう対処するのかについて解説していたのを見たことがあるんだ」
「……うん」
この期に及んでもミズキは分からないといった調子だ。
「つまりだ。今回の件は、銀竜クローヴィスの親がブチ切れて苦情を言いに来るという話だ。つまり、これはモンスターの親が来襲する。リアルモンペ事案だ!」
「モンペ……」
「言われれば、まぁ……そうだな、モンスターのペアレントが来るには違いないが……」
「そんな場合の対策を知っているなんてぇ、リーダはぁ、博識ねぇ」
「で、どう対処するの?」
そうだ。それが問題だ。
真偽はさておき、専門家が言っていたことを忠実に実行することにする。
「まず傾聴だ」
「傾聴……」
「ケイチョウ……でしたか」
「そう。まず相手の話に耳を傾けて、じっくり話を聞くんだ。少なくても話が通じる相手だ。相手の話をしっかり聞いてから、弁明するべきだと思う」
「それは一理あると思います」
カガミが同意してくれる。
あの銀竜クローヴィスの親で、先ほどの声だ。
戦って勝てる気がまったくしない。逃げることも多分無理だろう。それなら、あとは話し合いでの解決を求めるしかない。
「次は、誠意だ」
「誠意って、なにするんスか?」
「とりあえずは今と同じようにおもてなしだな。それから、今回の召喚は事故だという証拠に、できるだけ早く帰還させたい。帰還を早める方法があれば……だが」
「おもてなしは……ノアちゃんが、銀竜クローヴィスと仲いいみたいだから、お願いできる?」
「うん。頑張る」
ノアは笑顔で頷いた。
そうか、銀竜クローヴィスは子供だったから、ノアと馬が合っているのか。
「クローヴィス様は、リンゴが無いのを残念がってましたでち」
「そうっスね。ボク、買ってくるっス」
「だったら俺は、召喚魔法をもう少し調べてみる」
「私も手伝います。人手は多い方がいいと思うんです。思いません?」
確かに。複数の方がいいだろう。
「それじゃ、サムソンとカガミは、至急に帰還できる魔法。強制送還の魔法を探してくれ」
「えぇ、強制送還かどうかはわからないけど、探そうと思います」
「モンペとか言い出したときは、どうしようかと思ったけどさ、案外まともじゃん。で、それで終わり?」
案外まともなどと、上から目線の評価をミズキがする。なぜか、同僚が頷いているのが気になる。
思いつかなかったくせに。
「いや、まだある。毅然とした対応だ」
「戦うんスか?」
プレインが驚いた声を上げる。さすがに戦う気はない。
「戦いはしない。でも、防衛の準備はしておいた方が良いと思う。具体的には屋敷にためておける魔力を可能な限り貯めておきたい」
この屋敷はいろいろな事が出来る。強化結界は、外部の攻撃からの強力な防御として機能する。
ただし、屋敷の権能は、貯めている魔力に依存する。長い時間、強化結界を張れるように、できるだけ速やかに魔力を貯めたい。
「なるほど、それじゃチッキーも避難しておいた方がいいかもね」
ミズキの言葉に、皆の視線がチッキーに集中する。
確かに、レーハフさんの家にでも避難したほうが良いかもしれない。
「あたちは、お嬢様と一緒にいますでち。怖いけど怖くないでち」
チッキーは首を大きく振り残ることを宣言する。
力強い口調に、それを押して避難を促す気にはなれず、残ってもらうことになった。
「それじゃ、カガミとサムソン以外は、魔力を貯める作業すすめることにしよう。倒れるギリギリまで毎日魔力を貯めていきたい。少なくてもオレはそうするつもりだ」
戦えば負けるだろうが、防御の準備に十分すぎるという事はないと思う。
少なくても、最初から完全に降伏状態にあるより、抵抗の意思を見せられるようにはしておきたい。
「そういえば、ロンロ」
「なぁに?」
一つ聴き忘れていたことを思い出した。母親竜が言っていた言葉だ。
「ロウス法国の守り神とか、龍神とか、あの母親竜の言っていた内容でわかることはあるか?」
相手の情報が不足している。少しだけでも不足している情報を補っていきたい。
「そうねぇ。ロウス法国は、今いるヨラン王国の北西、海を渡った先にある国の名前よぉ。少し珍しい国ね」
「珍しい?」
「そうなのぉ。貴族より、王様より、法律が一番偉い国なのぉ。法律の下に王様がいて、他の国とは違って王様も法律に逆らえないのぉ」
法治国家なのか。
メジャーな存在だと思っていた法治国家だが、ロンロの口ぶりから大抵の国は、王様の考えのほうが法律より上の存在らしい。
「龍神ってのは?」
「なんだか聞いたことあるような、ないようなぁ……よく憶えてないわぁ」
残念。そこまで何でも知っているわけでもないのか。
「ちなみに、この辺りからロウス法国まで距離はどれくらいあるんスか?」
「うーん……そうねぇ。はっきり分からないわぁ。たぶん、何ヶ月もかかると思うけどぉ」
「だったら、今日明日来るってことはなさそうっスね」
移動に何ヶ月もかかる場所なら、すぐには来ないかもしれない。
準備できる時間があるのはいいことだ。
うまく行けば、銀竜クローヴィスを帰還させることも出来るかもしれない。
「そうだな。でも……だからといって油断せずに、とりあえず出来ることやろう」
あらためて作戦会議だ。
「モンペだ」
「モンペダ? なにそれ?」
ミズキが理解不能という顔でオレをみる。他の奴らも同様だ。
なんてことだ。
ノアやロンロにチッキーはともかく、他の同僚が分からないのが情けない。
いつも仕事のことばかり考えているから、世の中で起こっている事に気が回らないのだ。
社畜というのは、悲しい存在だな。
「モンスターペアレントのことだ。学校などに対して、理不尽な要求をする親のことだ。親が怒り心頭で押しかけることも往々にしてあるらしい」
「それで?」
「いま、学校現場では、このモンスターペアレントに悩まされる事例が散見されるそうだ。そして専門家が、どう対処するのかについて解説していたのを見たことがあるんだ」
「……うん」
この期に及んでもミズキは分からないといった調子だ。
「つまりだ。今回の件は、銀竜クローヴィスの親がブチ切れて苦情を言いに来るという話だ。つまり、これはモンスターの親が来襲する。リアルモンペ事案だ!」
「モンペ……」
「言われれば、まぁ……そうだな、モンスターのペアレントが来るには違いないが……」
「そんな場合の対策を知っているなんてぇ、リーダはぁ、博識ねぇ」
「で、どう対処するの?」
そうだ。それが問題だ。
真偽はさておき、専門家が言っていたことを忠実に実行することにする。
「まず傾聴だ」
「傾聴……」
「ケイチョウ……でしたか」
「そう。まず相手の話に耳を傾けて、じっくり話を聞くんだ。少なくても話が通じる相手だ。相手の話をしっかり聞いてから、弁明するべきだと思う」
「それは一理あると思います」
カガミが同意してくれる。
あの銀竜クローヴィスの親で、先ほどの声だ。
戦って勝てる気がまったくしない。逃げることも多分無理だろう。それなら、あとは話し合いでの解決を求めるしかない。
「次は、誠意だ」
「誠意って、なにするんスか?」
「とりあえずは今と同じようにおもてなしだな。それから、今回の召喚は事故だという証拠に、できるだけ早く帰還させたい。帰還を早める方法があれば……だが」
「おもてなしは……ノアちゃんが、銀竜クローヴィスと仲いいみたいだから、お願いできる?」
「うん。頑張る」
ノアは笑顔で頷いた。
そうか、銀竜クローヴィスは子供だったから、ノアと馬が合っているのか。
「クローヴィス様は、リンゴが無いのを残念がってましたでち」
「そうっスね。ボク、買ってくるっス」
「だったら俺は、召喚魔法をもう少し調べてみる」
「私も手伝います。人手は多い方がいいと思うんです。思いません?」
確かに。複数の方がいいだろう。
「それじゃ、サムソンとカガミは、至急に帰還できる魔法。強制送還の魔法を探してくれ」
「えぇ、強制送還かどうかはわからないけど、探そうと思います」
「モンペとか言い出したときは、どうしようかと思ったけどさ、案外まともじゃん。で、それで終わり?」
案外まともなどと、上から目線の評価をミズキがする。なぜか、同僚が頷いているのが気になる。
思いつかなかったくせに。
「いや、まだある。毅然とした対応だ」
「戦うんスか?」
プレインが驚いた声を上げる。さすがに戦う気はない。
「戦いはしない。でも、防衛の準備はしておいた方が良いと思う。具体的には屋敷にためておける魔力を可能な限り貯めておきたい」
この屋敷はいろいろな事が出来る。強化結界は、外部の攻撃からの強力な防御として機能する。
ただし、屋敷の権能は、貯めている魔力に依存する。長い時間、強化結界を張れるように、できるだけ速やかに魔力を貯めたい。
「なるほど、それじゃチッキーも避難しておいた方がいいかもね」
ミズキの言葉に、皆の視線がチッキーに集中する。
確かに、レーハフさんの家にでも避難したほうが良いかもしれない。
「あたちは、お嬢様と一緒にいますでち。怖いけど怖くないでち」
チッキーは首を大きく振り残ることを宣言する。
力強い口調に、それを押して避難を促す気にはなれず、残ってもらうことになった。
「それじゃ、カガミとサムソン以外は、魔力を貯める作業すすめることにしよう。倒れるギリギリまで毎日魔力を貯めていきたい。少なくてもオレはそうするつもりだ」
戦えば負けるだろうが、防御の準備に十分すぎるという事はないと思う。
少なくても、最初から完全に降伏状態にあるより、抵抗の意思を見せられるようにはしておきたい。
「そういえば、ロンロ」
「なぁに?」
一つ聴き忘れていたことを思い出した。母親竜が言っていた言葉だ。
「ロウス法国の守り神とか、龍神とか、あの母親竜の言っていた内容でわかることはあるか?」
相手の情報が不足している。少しだけでも不足している情報を補っていきたい。
「そうねぇ。ロウス法国は、今いるヨラン王国の北西、海を渡った先にある国の名前よぉ。少し珍しい国ね」
「珍しい?」
「そうなのぉ。貴族より、王様より、法律が一番偉い国なのぉ。法律の下に王様がいて、他の国とは違って王様も法律に逆らえないのぉ」
法治国家なのか。
メジャーな存在だと思っていた法治国家だが、ロンロの口ぶりから大抵の国は、王様の考えのほうが法律より上の存在らしい。
「龍神ってのは?」
「なんだか聞いたことあるような、ないようなぁ……よく憶えてないわぁ」
残念。そこまで何でも知っているわけでもないのか。
「ちなみに、この辺りからロウス法国まで距離はどれくらいあるんスか?」
「うーん……そうねぇ。はっきり分からないわぁ。たぶん、何ヶ月もかかると思うけどぉ」
「だったら、今日明日来るってことはなさそうっスね」
移動に何ヶ月もかかる場所なら、すぐには来ないかもしれない。
準備できる時間があるのはいいことだ。
うまく行けば、銀竜クローヴィスを帰還させることも出来るかもしれない。
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