召還社畜と魔法の豪邸

紫 十的

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第五章 空は近く、望は遠く

こいぬのハロルド

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「わぁ、この子かわいい」
「本当に、少し豆柴って見た目で可愛らしいと思います。思いません?」

 確かに可愛らしい子犬だ。カガミのいうように豆柴に似ている。
 薄い青と銀の綺麗な毛並みをもった、凜々しく神秘的な風貌の犬だ。
 くりくりとした大きな黒い目が、オレ達を見回している。

「負け犬ハロルドってぇいう名前なのねぇ」
「酷い名前を付ける人もいるっスね」

 看破でみると確かに”負け犬ハロルド”と名前が付いている。
 プレインがいうように酷い名前を付けるものだ。

「でも、飼い犬ってことはないと思うんです。物体召喚は所有者がいる物は召喚されない魔法のはずですし、そう思いません?」

 確かに説明にはそうあった。
 生き物も召喚されるのか……、そういえば植物も生物という点では生き物だな。

「ガルルルル」

 ミズキが手をだそうとしたら、うなり声をあげた。

「警戒してるみたいっスね」
「そりゃそうだろ。何処にいたのか知らないけど、一瞬で知らない場所にきたんだ。普通焦るぞ」
「……確かにそうだと思います」

 カガミが何かを考え込むように頷く。

「ハロルドみたいな状況で平然としてる奴なんて普通いないさ。もし、いつも通りの奴がいたりしたら、何も考えていないか、もしくは頭がおかしい奴だって。絶対」
「そうですねー」

 棒読みで相づちを打ったかと思うと、ミズキがヒョイと子犬のハロルドを掴みあげる。

「バウバウ」

 ドスの利いた吠え声を上げるが、所詮は子犬、全く怖くないどころか可愛らしいだけだ。

「この子、雄だね。ほら、ノア撫でて撫でて」

 掴みあげたまま眺めた後、しゃがみこみノアの目の前にハロルドの頭を持っていった。
 ノアが、観念したのか静かになったハロルドの頭を、恐る恐る撫でる。

「ガゥ? ……クゥゥン」

 撫でられた途端、ハロルドはビクッと大きく震えた。

「うわっ」

 いきなり大きく震えるように暴れるハロルドをミズキが手放す。まるで猫のように見事に受け身をとったハロルドは、大きく目を見開いてノアを凝視した。
 何かあったのだろうか……。
 ノアの笑顔が凍り付く。
 起こった出来事に対して違和感を抱き、呪い子である自分の影響を疑う時に見せる顔だ。
 ただし、そんな考えは杞憂だったようだ。
 すぐに「ワンワン」と楽しそうな声をあげた。タタッとノアに駆け寄り、お座りして尻尾を振っている。

「ノアちゃんのこと気に入ったみたいっスね」
「うふぅ。よかったわねぇ。ノアァ」

 その日、一日中ノアは屋敷の新しい住人となったハロルドと遊んだ。
 ノアを気に入ったらしいハロルドは、ノアの後をトコトコとついてまわっていた。
 オレ達が呼びかけても、一瞬こちらを向くだけで、すぐにプィとノアの後をついて行く。

「ふふっ、まるでノアの一の子分って感じだと思います。思いません?」

 その微笑ましい様子をカガミはそう評していた。
 お風呂を怖がったハロルドが「キャイン、キャイン」と鳴きながら逃げようとする姿すら面白く思えた。
 次の日、魔力の使いすぎからくる疲労を回復させたピッキーら獣人達3人も、ハロルドを歓迎した。

「おいら、犬小屋作ってもいいですか?」

 そんなピッキーの申し出で、翌日はハロルドのお家を作ることにした。
 厩舎を直したときにつかった材料の余りがちょうど良くあったので、材料には困らない。

「大きな犬小屋にしようよ」
「ハロルドのお家って、表札つけるの」
「飾りでもいいけど、煙突があると可愛いと思うんです。思いません?」
「赤いお屋根がいいでち」

 そんな皆の適当なアイデアを、トッキーとサムソンが図面に起こす。

「お嬢様、枝とか木の実を集めてきました」
「えへへ、あのね。これでハロルドのお家って表札をつくるの」

 ノアはチッキーとハロルドのお家にかける表札を作ることになった。木の枝や木の実を紐で結んで、装飾的な『ハロルド』と書いた表札を作るそうだ。

「トンカチを使うの、久しぶりっス」

 残りはのこぎりや金槌を駆使して家を作る。

「もう、引っ張っちゃだめなの。ハロルド、もう少し待っててね。素敵なおうちができるの」

 ハロルドは、遊んで欲しいのだろうか、ノアの服を引っ張ったりしている。
 しばらく、服を引っ張っていたが、すぐに飽きたようで寝てしまった。
 昼を過ぎた当たりになると、ずいぶんと形ができてくる。
 ハロルドが大きくなっても大丈夫なように、大きめの犬小屋だ。

「窓をつけたげない?」
「おいらとトッキーで、開けたり閉めたりできるような窓をつくります」

 作っているうちに、いろいろとアイデアが浮かぶ。
 ノアは、犬小屋に小さなベルを付けたいようで、チッキーとロンロを連れて材料を探しにいった。ハロルドもそれについていく。
 大工の修行をしているトッキーとピッキーは、その修行は伊達ではないとばかりに、テキパキと作業を進める。
 いつの間にか、犬小屋の制作は、獣人2人の独壇場といった風になった。
 それはそれで嬉しいもので、オレ達は、そんな2人の助手のように作業を進める。
 日が沈むころには、一通り完成した。

「明日は、屋根に色を塗りたいっスね」
「屋敷に、塗料なんてあったかしらぁ」
「明日、ピッキー達をレーハフさんの所へ送っていく帰りに買ってくるよ」

 プレインの提案もあって、明日以降は、屋根に色を塗ることにした。
 その日の夜、何色に塗ろうか、どんな風に塗ろうかと、話が盛り上がった。

「ワンワン」

 オレ達の盛り上がりを知ってか知らずか、ハロルドも陽気に吠えていた。
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