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第四章 冬が始まるその前に
わさび
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何でも無いという日はいいものだ。
冬の支度をしなくてはならないが、何をすればいいのやら。
未来の心配は、未来のオレにまかせることにする。
そんなわけで、ゴロゴロと惰眠を貪り、平和な日々を謳歌していた。
今日だって、いつものように朝食を迎える。
「今日のメインは、サラダだな」
木製の大皿に山盛りに装われたサラダがある。ドレッシングは、マヨネーズと、カガミが適当につくったドレッシング2つ。目玉焼きに、パン。
元の世界での朝食より豪華なものが並ぶ。
これにあと、コーヒーでもあれば完璧なのだが、残念ながら水だ。
この世界ではお茶は珍しく、そして高い。
カガミの推測では、綺麗な水が生活魔法により簡単に手に入るので、需要がないのだろうとのこと。
チッキーがいうには、ギリアの町以外では飲むこともあったらしい。
地域的な特徴なのかもしれない。
しょうが無いので、記憶を頼りにタンポポコーヒーを作ろうと試行錯誤中だ。
もっとも、道のりは遠い。泥の匂いがする水が出来るだけだ。どうすれば美味しくできるのか、わからない。
「食べたことがない野菜が一杯あるっスね」
「それ、チッキーが山でとってきた山菜だよ。いろいろ試してみて、美味しい組み合わせを編み出したんだって」
オレだけでなく、皆がそれぞれ食べるものを考えている。
成果は着々とでていて、この世界に来た当初からは考えられないほど、豊かな食卓が続く。
「チッキーのお手柄だな」
「ありがとうございます。嬉しいでち」
「肉も欲しいな」
「今度は、サラダチキンを作ってみましょうか?」
「賛成!」
カガミの提案に、朝からお酒を飲んでいるミズキが応じる。
オレも飲もうかな。毎日が水ばかりだと味気ないし。
「今日は、トマト多めなんスね。もう少しマヨネーズ作っておけばよかったっス」
事件はそんなプレインの何気ない一言から始まった。
「ノアちゃんが、温室から採ってきてくれたの」
「うん。お手伝いしたの」
「そりゃ、楽しみだ」
そんなことをいいながら、トマトを手に取り、ポイと口に放り込む。
プチトマトというにはやや大きめだが、一口で食べられるサイズのトマト。
少し黄色く、正式名称はメテという植物の実だ。
この屋敷の温室には、大量のメテが植えられている。
不思議な草で、実はトマトに似た味であり、根はじゃがいもに似ている。
ポマトっていうのがあったなと、皆で話をしたことがある。
「ジャガイモとトマトの接ぎ木したものですか? あれは、ポマトではありません。ジャガトマです」
カガミはそんなことを言っていた。オレとサムソンがポマト派で、カガミがジャガトマ派だった。もっとも、答えなんてわからない。おそらくカガミが正しいということで話は終わったのを覚えている。
つまりは、一つの植物で、トマトとジャガイモに似たものが採れる不思議で素敵な植物ってことだ。オレ達は、メテの実をトマトと勝手に呼んでいる。
ノアもほぼ同時に口に放り込んでいた、そのトマト……メテの実だが……今日は少し味が違った。
猛烈な辛みが口に広がる、鼻に突き刺さるような痛みが走る。
わさびだ! わさびの辛さだ!
即座に口から吐き出した。
ノアは口を押さえて涙目だ。
「ノア、すぐに吐き出せ!」
うまく動かない口を無理矢理に動かし声をあげる。
「うぇ、ぺっ」
ノアはなんとか吐き出し、うずくまった。
「毒?」
カガミが悲鳴に似た声をあげる。
皆がオレとノアを交互にみる。チッキーはコップをノアに差し出している。
「違う……辛い。このトマト辛い。わさび味だ」
「わさびっスか?」
「ノアノア、こっちおいで、お口をすすご」
ミズキがチッキーからコップを受け取りノアをつれて隣の部屋へと移動していく。
オレは、山菜を多めに口にいれて水を流し込んだ。
「大丈夫か?」
サムソンがそんなオレを心配して声をあげる。
「辛いだけで、平気だ」
「看破でみても食用可能っスね。うん、確かにわさび味だ」
少しだけ囓ったプレインも、オレのわさび味との判断に同調する。
しばらくしてノアが戻ってきた。わさびの辛さが辛かったのか俯いて泣きそうにみえた。
「あのね……私が採ったから……多分、私のせいで……」
辛いのが辛いのではなく、責任を感じているらしい。
今回の件について、メテの実の味が違っていたことの理由を、自らの呪いの力ではないかと疑っているのか……。
どちらとも言えない。
「結果オーライっス。いや、ノアちゃんお手柄っスよ」
そんな暗くなりかけていた中で、プレインが嬉しそうな声をあげた。
「お手柄?」
「そうっス。これで我らがマヨネーズの味が広がるっス。つまり、わさびマヨの時代が訪れたっス」
わさびマヨの時代が来るかどうかはしらないが、味のレパートリーは増えるってことか。
「刺身にわさびと塩のっけるのもいいよね」
ミズキが同調する。
「お手柄でち。さすがお嬢様でち」
「うん。ありがとう」
少しだけ持ち直したのか、ノアは笑顔でチッキーの言葉に応えた。
そんな一件があって、翌日から繰り返し実験してみた。
不思議な事が判明した。このメテという植物。たまに違う味になる。
というより、温室でお願いをすると、その味になるのだ。
イチジクと、ミカン味にはなった。
この屋敷にわざわざ大量に植えてあるという事実を甘くみていた。
本当に、ここは不思議だらけだ。
冬の支度をしなくてはならないが、何をすればいいのやら。
未来の心配は、未来のオレにまかせることにする。
そんなわけで、ゴロゴロと惰眠を貪り、平和な日々を謳歌していた。
今日だって、いつものように朝食を迎える。
「今日のメインは、サラダだな」
木製の大皿に山盛りに装われたサラダがある。ドレッシングは、マヨネーズと、カガミが適当につくったドレッシング2つ。目玉焼きに、パン。
元の世界での朝食より豪華なものが並ぶ。
これにあと、コーヒーでもあれば完璧なのだが、残念ながら水だ。
この世界ではお茶は珍しく、そして高い。
カガミの推測では、綺麗な水が生活魔法により簡単に手に入るので、需要がないのだろうとのこと。
チッキーがいうには、ギリアの町以外では飲むこともあったらしい。
地域的な特徴なのかもしれない。
しょうが無いので、記憶を頼りにタンポポコーヒーを作ろうと試行錯誤中だ。
もっとも、道のりは遠い。泥の匂いがする水が出来るだけだ。どうすれば美味しくできるのか、わからない。
「食べたことがない野菜が一杯あるっスね」
「それ、チッキーが山でとってきた山菜だよ。いろいろ試してみて、美味しい組み合わせを編み出したんだって」
オレだけでなく、皆がそれぞれ食べるものを考えている。
成果は着々とでていて、この世界に来た当初からは考えられないほど、豊かな食卓が続く。
「チッキーのお手柄だな」
「ありがとうございます。嬉しいでち」
「肉も欲しいな」
「今度は、サラダチキンを作ってみましょうか?」
「賛成!」
カガミの提案に、朝からお酒を飲んでいるミズキが応じる。
オレも飲もうかな。毎日が水ばかりだと味気ないし。
「今日は、トマト多めなんスね。もう少しマヨネーズ作っておけばよかったっス」
事件はそんなプレインの何気ない一言から始まった。
「ノアちゃんが、温室から採ってきてくれたの」
「うん。お手伝いしたの」
「そりゃ、楽しみだ」
そんなことをいいながら、トマトを手に取り、ポイと口に放り込む。
プチトマトというにはやや大きめだが、一口で食べられるサイズのトマト。
少し黄色く、正式名称はメテという植物の実だ。
この屋敷の温室には、大量のメテが植えられている。
不思議な草で、実はトマトに似た味であり、根はじゃがいもに似ている。
ポマトっていうのがあったなと、皆で話をしたことがある。
「ジャガイモとトマトの接ぎ木したものですか? あれは、ポマトではありません。ジャガトマです」
カガミはそんなことを言っていた。オレとサムソンがポマト派で、カガミがジャガトマ派だった。もっとも、答えなんてわからない。おそらくカガミが正しいということで話は終わったのを覚えている。
つまりは、一つの植物で、トマトとジャガイモに似たものが採れる不思議で素敵な植物ってことだ。オレ達は、メテの実をトマトと勝手に呼んでいる。
ノアもほぼ同時に口に放り込んでいた、そのトマト……メテの実だが……今日は少し味が違った。
猛烈な辛みが口に広がる、鼻に突き刺さるような痛みが走る。
わさびだ! わさびの辛さだ!
即座に口から吐き出した。
ノアは口を押さえて涙目だ。
「ノア、すぐに吐き出せ!」
うまく動かない口を無理矢理に動かし声をあげる。
「うぇ、ぺっ」
ノアはなんとか吐き出し、うずくまった。
「毒?」
カガミが悲鳴に似た声をあげる。
皆がオレとノアを交互にみる。チッキーはコップをノアに差し出している。
「違う……辛い。このトマト辛い。わさび味だ」
「わさびっスか?」
「ノアノア、こっちおいで、お口をすすご」
ミズキがチッキーからコップを受け取りノアをつれて隣の部屋へと移動していく。
オレは、山菜を多めに口にいれて水を流し込んだ。
「大丈夫か?」
サムソンがそんなオレを心配して声をあげる。
「辛いだけで、平気だ」
「看破でみても食用可能っスね。うん、確かにわさび味だ」
少しだけ囓ったプレインも、オレのわさび味との判断に同調する。
しばらくしてノアが戻ってきた。わさびの辛さが辛かったのか俯いて泣きそうにみえた。
「あのね……私が採ったから……多分、私のせいで……」
辛いのが辛いのではなく、責任を感じているらしい。
今回の件について、メテの実の味が違っていたことの理由を、自らの呪いの力ではないかと疑っているのか……。
どちらとも言えない。
「結果オーライっス。いや、ノアちゃんお手柄っスよ」
そんな暗くなりかけていた中で、プレインが嬉しそうな声をあげた。
「お手柄?」
「そうっス。これで我らがマヨネーズの味が広がるっス。つまり、わさびマヨの時代が訪れたっス」
わさびマヨの時代が来るかどうかはしらないが、味のレパートリーは増えるってことか。
「刺身にわさびと塩のっけるのもいいよね」
ミズキが同調する。
「お手柄でち。さすがお嬢様でち」
「うん。ありがとう」
少しだけ持ち直したのか、ノアは笑顔でチッキーの言葉に応えた。
そんな一件があって、翌日から繰り返し実験してみた。
不思議な事が判明した。このメテという植物。たまに違う味になる。
というより、温室でお願いをすると、その味になるのだ。
イチジクと、ミカン味にはなった。
この屋敷にわざわざ大量に植えてあるという事実を甘くみていた。
本当に、ここは不思議だらけだ。
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