召還社畜と魔法の豪邸

紫 十的

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第二章 屋敷の外へと踏み出して

だかいさく

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 少しでも先に進むことを考える。
 不安そうなノアにも何か手伝ってもらって、落ち込まないようにしてあげたい。
 とりあえず腹ごしらえすることにした。
 今日は朝一で資料に当たり初めていたので、ご飯を食べていなかった。
 ミズキに頼んで、ノアと朝食の準備をお願いする。だいぶ飽きていたのかミズキは満面の笑みで了承してくれた。そそくさと、ノアの背中を押しながら台所へ走っていく。
 次にどうしようかと考えていると、カガミとサムソンが何かを話しているのが目に映った。

「何かわかったのか?」
「あぁ、カガミ氏に言われて気が付いたんだけど、アイスゴーレムとストーンゴーレムの魔法陣がぱっと見同じなんだよ」
「本の構成も似てたな」
「そうなんです。それで似ている部分をざっくり抜き出すとこうなるんです」

 カガミは、手元の紙に簡略化した魔法陣をかく。
 まず、大きな2重の円をかく、次にその中に、やや小さく星型を一筆書きする。その星型の先が中心に来るように円を5つ書いて、さらに星型の中心にも円を描く。

「いいですか、この星型。ヒトデのように見えるんですけど、天辺のこの部分、この頭、頭かどうかわからないんですが、この部分に書かれている魔法陣が一番複雑なんです」
「うん。複雑と」
「次に、この両サイド、この二つは次に複雑なんですが、この両サイドはほとんど同じ魔法陣に見えます。次に、下側にくる2つ、これもほとんど同じです」

 確かに言われてみればとても似ている。全く同じとは言えないが、ぱっと見違いがわからないレベルには似ている。

「つまりだな。この複雑な頂点が頭。両サイドが両手。下の二つが脚を定義しているんじゃないかと考えられるわけだ」

 おー。なるほど。言われるととても納得できる。
 サムソンが説明を続ける。調子が乗ってきたのかどんどんと言い方に熱がこもってきた。

「資料を読むと、ゴーレムは自立して動く。ある程度は自分で考え判断して稼働するらしい。それならこの複雑さも納得できる」

 ゴーレムは自立して行動するのか。

「それなら、頭を簡略化するなり無くすなりしたら、だいぶ楽になるな」
「あぁ、そうだ。それに詠唱だって短くなる。詠唱は、魔法陣の複雑さに比例して長くなっているからな。これはどの魔法についても同じなので、ゴーレムの製造に関しても同じと考えていいだろう」
「必要な触媒が減る可能性もあると思うんです」

 なるほどなるほど……先方が求める仕様が減れば工数も減ると。
 うーん。異世界に来ても、やることが変わっていない気がしてきた。
 他の奴らはどうなのだろうかと思ったが、下手なことをいうのはやめようと自重する。

「ゴーレムだけでなく、他の魔導生物についても調べた方がいいと思うんです。思いません?」
「カガミ氏のいう通りかもな。似たような仕組みであれば流用できる部分もあるかもしれない……あと、これ」

 ポンと紙の束をテーブルの上に投げ込んだ。サッと目を通すと、魔法陣とプログラミング言語の対照表のようだ。
 飛翔の魔法と浮遊の魔法を、プログラミング言語に書き換えたものもある。

「いきなり、魔法陣を書くより、俺達が使い慣れているプログラミング言語で一回書いてみて置き換えたほうがうまくいくと思う。もっとも100%にはほど遠いけどな」

 すごく自慢げだったが、これは自慢していいと思った。
 この世界にきて10日と少しで、これは凄い。ここ最近はあまり寝ていないようで心配したが、これだけのことやるなら時間も足りないかと腑に落ちた。こうやってみると、魔法陣にも変数と繰り返しとか条件分岐とかあって興味深い。
 サムソンの作った対照表を見ていると、ミズキとノアが戻って来た。
 時間かかっているなと思っていたら、ピザトーストのようなものを持って来た。
 手が込んだ料理を作っていたようだ。
 パンにマヨネーズを塗ったあと刻んだトマトなどの野菜を乗せて、松明で炙ったものらしい。ノアも、付け合わせのサラダとドレッシングを作ったらしい。

「ブラウニーのみなさんが、温室を綺麗にしてくれたので、食べられるもののバリエーション増えたんですよね。あの子達、とっても役に立ってると思うんです」

 他にもどんな植物が食べられるのか見分け方などを教えてもらったらしい。
 カガミの中でのブラウニー供の評価がうなぎ登りなのがよくわかる。確かに、色々恩恵を受けているわけだが、オレが呼んでも、あのコンパクトヒゲ親父供はロクに働かないに決まっているので、呼ばない。
 料理はとても美味しかった、温かい料理はやっぱりいいものだとしみじみ思う。
 今回のゴーレムの案件に一区切りしたら、温かい料理のために工夫してみたい。
 食事も終わったら、引き続き検証を進める。
 まずは簡単な魔導生物を作ることにした。
 ウッドマウス。触媒に木片だけですむし、魔法陣も比較的簡単だった。
 カガミが魔法陣の書いてあるページを見つけると、いきなりページを本から破りとった。
 それからナイフで4当分にすると、オレとサムソンとプレインに3片を配る。

「分割して作業したほうが手早く終わると思うんです。破ったページは適当に挟んでおけばいいです。効率よくいきましょう」

 一連の流れがあまりにもスムーズであっけにとられてしまった。彼女は自分がやりたいことのためには躊躇しない。この世界に来て初めて知った同僚の一面という奴だ。
 そうこうしているうちに、カガミは大きめの紙に紐とペンを使って綺麗な円を描いた後に、これも4分割にした。
 それぞれの一片を配り、これに割り当て分を模写してほしいということらしい。
 テキパキと動く姿が頼もしい。
 ミズキとノアには触媒を用意してもらうようだ。二人は料理を片付けたその足で触媒を探しに出かける。ロンロもノアについて行った。
 4分割すると1時間もしないうちに出来上がった。分業の威力というものを思い知る。その頃には触媒となる木片も用意ができていた。こぶし大の木片が2つ。予備も含めてたくさん用意されている。
 触媒を魔法陣の上に置いて、魔法をカガミが詠唱する。いつものように魔法陣は輝き、ミシミシと音を立てて木片の一方は楕円形に、もう一方は、消しゴム付き鉛筆のようなシルエットの棒にと姿を変えた。
 棒のほうがコントローラーに当たるもので、楕円形のほうがウッドマウス本体らしい。
 カガミが棒を持って右に振るとウッドマウスは右に、左に振ると左へと動いた。楕円形の下に棒が4本ついていて、それがカサカサ動く。お盆に作るきゅうりとかナスの馬があるが、あれによく似ている。
 オレも試しに動かしてみる。
 別に、棒を振らなくても握って念じるだけで動くようだ。ラジコンカーを走らせているようで動かしていて楽しい。

「これ、ラジコンっスね。もう一台作って競争したい気分っス」
「みんなの分作って遊ばない?」

 ミズキが軽い調子でそんなことを言い出した。
 すでにプレインとミズキは、遊ぶモードになっている。緊張感とかそういうもののカケラもない。

「ここ、弄ってみよう」

 サムソンが、魔法陣の一角をペンで指し示しつつ主張した内容は、その部分にウッドマウスの形を定義する内容が書かれているというものだ。ここを書き換えて足を6本にしてみようということだった。
 その部分を四角に破って切り離す。それから別の紙に書き直して差し替えた。
 それからは先ほどと同じ、触媒を置いて魔法を流す。
 足が6本のウッドマウスができる。なんとなく昆虫っぽい。

「もう一個作って。今度はちっこくて足が4本の奴」

 ミズキがカガミに後ろから抱きつきつつウッドマウスを要求する。一見すると妹が姉にでもおねだりしているようなイメージだが、カガミが本気で嫌がっている顔をしていたのでそっと目を伏せた。触らぬ神に祟りなしだ。特に今のカガミはなんか恐い。

「今ちょっと大事なところなんです。こことこれ、そっちで書き換えてかってにやって」

 テーブルにある魔法陣の書かれた紙を手早く取り集めると、ペシペシと後ろのミズキの額に当てる。ミズキは「いっひひ」と満面の笑顔で受け取るとノアとプレインの元へと戻った。

 ウッドマウスはあっちに任せて、ウッドバードを試すことにする。
 まずは似た部分をサムソンがメモして、あとは先ほどと同じような流れで魔法陣を書いていく。なんどもやっているからか、どんどん魔法陣を書いていく速度が速くなっている。こっちの方が少し複雑だなと思った。
 ウッドバードは、おにぎりの形をした薄い板を浮かせて動かすものだった。
 別に羽ばたかないので鳥と言えるのかどうか疑問だ。
 シュッシュッと素早く動かないので、なんともつまらない。これなら足がちょこまか動くウッドマウスの方が使っていて楽しい。
 形を変えても動くのかなどについて検証を進める予定だ。

「これが、ここにあたる部分か……」とかサムソンがブツブツ言っている。
 すぐそばでは、床に座り込んだ3人の楽しげな声が聞こえる。
 時間の問題はあるが、停滞はしていない。進んでいる実感がある。

「ねぇ、リーダぁ。あなた、領主様に会うのに礼儀やしきたりを把握してるぅ? 大丈夫なのぉ?」

 後ろからロンロにそんな声をかけられた。礼儀?
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