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3. 変わりゆく運命
まさかの呼び出し
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———オズの元に手紙が届いた一週間後。
「くそっ、外はどうなっている!?」
スカイリルーフ学園特別部隊の隊服を見に纏ったジャスパー・カーティスは、怒鳴るように近くにいた部下にそう聞いた。彼は出陣の為に隊列を組んでいたのだが、先程司令隊長であるグレイグ・ハルフォードに出撃を取り消されたので、正門前の見張り兵の所まで駆けてきたのだ。
兵士達———元はこの学園の普通の生徒だったのに、急な事態に学園特別部隊として兵にされた者達———は、ジャスパーを見てピシリと敬礼をして姿勢を正す。
「は、はい!大量の魔物がこちらへ向かってきています!」
「第五防衛線はどうした‥‥!?」
「破られました!」
(グレイグは一体何を考えているんだ!?)
仲間の死体は増えるばかりだ。封印が解かれた魔物の脅威は主には学園の方を向いているが、余りにも数が多いので市街地にも被害が出てきている。
国が遂に軍隊を出撃させた。軍は学園を守るように円形で防衛線を張っている。その防衛線は七つあり、そのうち五つが既に魔物達によって破られた。敵は学園に迫ってきている。
(魔物達の目的は‥‥メルヴィン。)
世界で唯一古代魔術書を読むことができ、古代魔術を使うことができる人間である。彼を狙う者は魔物どころか国内外、世界中にいることだろう。
しかし彼はジャスパーにとっては同級生で、普通に友達の一人でもある。そしてメルヴィンはグレイグの恋人だ。
(にも関わらず、グレイグはメルヴィンを最前線に送り続ける‥‥!)
軍にも防衛部隊だけでなく攻撃部隊がある。しかし防衛線は破られ続けているので、軍は押され気味なのだ。何とかしなければならないと、学園は特別部隊というものを己の学園に通う生徒達で結成した。司令隊長は学園高等部生徒会長であったグレイグ・ハルフォード。
学園は軍に任せていればいずれ魔物にここを攻め込まれてしまうと考えて、生徒で組んだ部隊を最前線に送り戦わせるようになった。また学園周囲の警戒や見張りの兵も作り、現在はこの特別部隊は国から独立した様になってきている。
学園の生徒を兵士にして戦わせるなど、学園のお偉いさんには都合が悪い。なので自分達が部隊を作れと命令した癖に、奴らはグレイグを司令隊長に据えることで、この部隊は生徒の志願でできたものだとアピールしている。
(しかも本当に指令はグレイグに丸投げだ!あのクソ野郎ども‥‥っ!)
「カーティス副隊長!」
名を呼ばれて、ジャスパーは振り返る。そう、彼は今、学園特別部隊の総司令副隊長に任命されているのだ。ジャスパーは不安な表情をしている兵達に力強い目を向ける。
「グレイグに出撃を取り消された。しばらく様子を見なければならない。」
「第五防衛線を破られたのにですか!?」
「ああ、そうだ。」
メルヴィンは数少ない兵隊と共に、今この時も戦場で戦っているというのに。グレイグは何を考えているのかと思考を巡らせる中、ジャスパーはもう一つの懸念点を思い出した。
「ところで、あれからゲーテは何か吐いたか?」
「いえ、今のところ有益な情報は何も‥‥。」
ハイノ・ゲーテ。
学園の裏切り者であり、情報を敵に流していた男だ。一見可愛らしい容姿をしているが、奴の抱える闇は底知れない。悪事が暴かれ捕まった彼は尋問を受けているのだが、なかなか敵のボスの情報を吐こうとしないのだ。
兵の一人は言いづらそうに一つ付け足す。
「やはり、〝オズワルド・チャールトンを連れてきたら、彼にだけは話しても良い〟と繰り返すばかりで‥‥。」
「‥‥そうか。」
オズワルドはジャスパーの親友である。ジャスパーはかつて彼を好いていたこともあった。
(どうしてオズなんだろうか。)
兵はジャスパーの様子を伺う様に聞く。
「あの、オズワルドって、中等部三年の時にオブライエン家の長子と駆け落ちしたっていう人ですよね?副隊長の友人だったていう‥‥。どこに居るかは分かったんですか?」
「どうだろうな。」
適当に誤魔化しているが、ジャスパーはオズとヒュー、駆け落ちした二人がどこの街で暮らしているのか知っている。それに知っているのは彼だけではない。あの日馬車に乗る二人を見送ったアルバート、ロニー、リンジー、アーベル、ディーター、ヨーナスも分かっている。
皆にもハイノのことを話し、ジャスパーがオズとヒューに手紙を出したことは言ってある。しかし、あの二人からの返事はいつまで経っても来ないのだ。
(やはり、届くまでの過程のどこかで弾かれたか?)
オズとヒューは今でも両親に探されており、手紙に直接〝オズワルド、ヒューバートへ〟と書くことは憚られた。ジャスパー達が今までもずっとオズとヒューの居場所を知っていたのだとバレては、貴族の間で面倒な騒ぎになる。なのであの時の偽名を使って手紙を送ったのだが、正直新しい街で二人が何という名を名乗っているのか知らないし、不審な封筒として役所で捨てられている可能性もある。
その時、こつ、こつと後ろから足音が聞こえてきた。
「ジャスパー。」
「アル!」
やって来たのはアルバート。ヒューバートの弟だ。足取りは余裕を持って見えるが、第五防衛線を破られたことへの動揺と焦りがジャスパーには見て取れた。
アルはそのままジャスパーの元へ来てかなり体を寄せ、小さな声で尋ねてくる。
「兄さん達から連絡は?」
「まだ何も。こりゃそもそも手紙が届いていない可能性すらあるぞ。」
「それはマズイな‥‥。」
身を寄せた二人がこそこそと近況を報告していると、正門外から一人の警備兵が駆け込んできた。息を切らした彼は、門に入ったところでジャスパーと目が合いホッとした顔になる。
「カーティス副隊長!ちょうど探さなければと思っていたんです!」
「どうしたんだ?」
「そ、それが‥‥。」
兵は門の先を指差しながら、驚いた顔で続きを話す。
「学園外から人がやって来ているんです!」
「学園外から?わざわざこんな魔物が今にも攻め込んできそうな場所にか。その者の容姿は?」
ジャスパー的には、容姿というのは軍服を着ているのか隊服を着ているのか市民なのか、大人なのか子供なのかという情報について尋ねたつもりだった。しかし、帰ってきたのは予想外の言葉だった。
「黒髪に緑の目をした男と、紺色の髪にラベンダー色の瞳の‥‥あっ、ちょうどアルバート第二部隊長みたいな容姿の男です!」
横にいたアルバートを指してそう言った。ジャスパーとアルは目を見合わせる。
黒に緑、紺にラベンダー。その組み合わせには覚えがありすぎる。
「——と、五歳くらいの子供と犬も一匹います!」
「‥‥ん?」
何だかとんでもない言葉が付け足された様な気がするが気のせいだろうか。戸惑うジャスパーとアルに気が付かない警備兵は、もう一度門の外を指さした。
「あ!ほら来ました!」
二人は顔を上げて門の外を見た。
こつこつと複数の足音が聞こえ、思い描いていた通りの人物が目の前に現れる。ジャスパーもアルも声が出なかった。
「よっ、元気してた?」
「久しいな。」
オズワルドは髪が肩につくかつかないかというくらいまで伸びていて、頭の後ろで髪をハーフアップにしている。記憶にあるより背が伸びて、そこそこ筋肉もつき男らしい肩幅になっていた。だが天使の様な美しさは健在で、中性的な美貌は人目を集める。
ヒューバートはオズよりも背が伸びている。こちらの方がマッチョとはいかないまでもがっしりした体付きで、紺色の髪の毛は記憶にあるのと同じくらいの長さに切り揃えられている。学園を出ても校則通りの髪の長さなのが、ヒューバートらしくて少し可笑しかった。
「お前ら‥‥。」
そう、彼らは再びこの場所に帰って来たのだ。
「おずぅ、おずっ、広ーいねぇー!ここがガッコーなのー?ねー、ひゅー!あっち行きたい!連れてってぇ!」
「わんっ、わん!」
子供一人と犬一匹を連れて。
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