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2. 現れる登場人物達
伝統を覆す!
しおりを挟む中等部最後の体育祭が近付いてきた。
オズとランベルトは、先日草刈りをサボった事がバレたので、今日またやり直しをさせられている。
さっと草刈りを終わらせて草刈機を倉庫にしまっていると、ランベルトが不意に思い出した様に話しかけてきた。
「そういや、本当はそれだけ魔力を持っているなら、体育祭はどうしていたんだ。ずっと手加減していたのか?」
「いや、それでは相手に失礼だからね。低魔力保持者の平均魔力以上の力は使えなくなるブレスレットを身につけていたんだ。だから大会には全力で挑んだよ。」
その言葉を聞き、ランベルトは大口を開けて動きが止まる。折角の美形が台無しだ。
「ちょっと、どうしたんだよ。」
「低魔力保持者の平均魔力以上の力が使えなくなるブレスレットだって!?そんな素晴らしい物がこの国にはあるのか!?」
「この国っていうか、兄さんに頼んで僕用に作ってもらったんだよ。兄さんはそういう道具作りとか研究とかが趣味だから。」
そう、オズの兄アントニーは魔力が高く研究気質で物作りが好きなので、何かとオズを助ける道具たちを生み出してくれている。しかしランベルトの反応を見るに、この道具は物凄い価値があるのだろうか。
「あ、あれってそんなに凄い物なのか?」
「凄い道具だよ!僕は今、アルコイリスで拘束した犯罪者の処置について新しいことを始めたくてね。しかし、現実的には難しいと考えてきた。だがこの道具があれば可能になるかもしれない。」
聞いてみると、ランベルトはアルコイリス国で犯罪者更生計画の為の仮釈放について考えているらしいと分かった。この世界では、一度捕まえた犯罪者を野に解き放つことなど無い。それでは何の為に悪い人間を捕まえたのか分からないし、被害者たちが浮かばれないからだ。まあ妥当な考え方だと言えよう。
「だが盗みを働いた人間の中には、食べ物がなくて腹を空かせた子供や、夫が育児を放棄して逃げ子供を養えなくなった女性など、終身刑にするには心痛い事例がごまんとある。」
確かに、貧困層ではとんでもない殺人事件よりも、そう言った事件の方が多いのかもしれない。
「勿論、殺人を犯したり犯罪組織に所属していたりする者と先ほど言った様な人たちの区別の仕方など、法を整備し直さないとならないし、やらなければならない事は沢山ある。でも僕は、その時々の状況によって国は変わり続けなければならないと思う。」
「僕もそう思うよ。」
しかし、そういった盗みを働いた人の中には通常より強い魔力を持ち、それで人に怪我を負わせてしまった人などもいる。そういう人を野に放つ場合、魔力を制限できる方法がないと、犯罪者の仮釈放は現実的では無い。
「そこでそのブレスレットだよ!これは本当に画期的な道具だ。」
「そうか‥‥。今度兄さんを紹介しようか?」
「是非頼む!」
だが、そうか。このブレスレットを使えば魔力を制限できる‥‥皆んな同じ土俵に立たせることができるのだ。
(確かに、色々なことに利用できるかも‥‥はっ!)
その時、オズはとんでもない計画を思いついてしまった。ニヤリと不気味な笑みを浮かべ、未だ考え事をしているランベルトにずいっと寄る。
「なあ、とんでもないこと思い付いたんだけど‥‥聞いてくんない?」
こんこんこん、と生徒会室の扉をノックする。中には一人しかいない様で、生徒会長であるグレイグが直接「どうぞ。」と声をかけた。オズとランベルトは「失礼します。」と言って室内へ入る。
奥の机に座って書類仕事をしていたグレイグは、入ってきた二人を見て目を丸くした。
「体育祭について、提案があるのです。」
そこで、オズは自身で考えた〝新しい体育祭計画〟を提案した。
高魔力保持者と低魔力保持者で会場を分けて体育祭を行うのをやめ、全員で戦える行事にしようと考えたのだ。しかし魔力差があると、どうしたって‥‥と思われるかもしれないが、そう、ならば魔力を使わなければいい。元々低魔力保持者の会場の方は半分以上の競技が魔力を使わないものだったし、無理な話でも無い。勿論、誰も魔術を使って狡いことを出来ない様に、あのブレスレットを付けることは必須条件だ。
(これで、前世にやってた体育祭と同じになる。)
グレイグは半ば呆然とオズの話を聞いていた。そんな事は考えたことがなかったと溢し、少し考えて、厳しい表情になる。
「だ、だかしかし‥‥このやり方は古くから行われてきた伝統的なもので‥‥。」
「だから、一緒に伝統を覆そうよ!新しい時代を作るんだ!」
オズは語る。高魔力保持者と低魔力保持者は、この行事によって差別化が助長されているのでは無いかと。皆んな魔力を使えないという状況にして仕舞えば、平民相手に高位貴族が勝てるかどうかも分からない。
「それって、凄くわくわくしない?」
「わくわく?」
グレイグは眉に皺を寄せ、首を傾げた。オズは大きく頷き、彼の机に両手を付いて身を乗り出す。
「魔力が強くて今まで簡単にのし上がってきた人が、今回の大会ではそうはいかなくなるんだ。グレイグだって、あれほどの魔力があれば、今まで本気を出さなくても一番を取れてきたんじゃない?」
「まあ、いつも全力を出していたかと言われると嘘になるが‥‥。」
「魔力が使えなければ、身体能力一本勝負だ。平民にも低魔力保持者にも君より体格が良い人は沢山いるし、足が速い奴も、ジャンプが高い奴もいる。全力を出しても敵わない相手がいるかもしれないんだ!」
後ろで小さく目を見開くランベルトにグレイグは気が付いたが、オズは見えていないので気付かない。
「今まで相手に退屈していたなら尚更、凄く楽しそうだと思わない?」
グレイグは目を見開いていたが、その瞳には先程よりも明るい光が宿っていた。「楽しそう‥‥。」と小さく呟き、少しずつその表情は大好きな物を食べた時の様な、大好きな本を読んだ時の様な、幸福を前にした色になる。
「それに、ほら、ここにいるランベルトもこの企画を推してるんだよ!な!」
オズは突然後ろにいたランベルトに寄り添うと、その背中をバンッと叩いた。グレイグは「そうなのか?」と目で示し、ランベルトは———彼も何故かグレイグと同じ様な希望に満ち溢れた表情になっている———ぐっと拳を握る。
「ああ‥‥見てみたいんだ。この学園が本当に変わるのか。」
ランベルトの意向でもあるとなると、グレイグは断りずらいだろうと踏んで彼を連れてきたのだが、本当に提案は受理された。とは言ってもまだ教師たちには話を通していない。
「面と向かって言っても、話を聞き終わる前に断られる事は目に見えている。」
グレイグの案で、近々全校生徒を生徒会長の緊急招集を使い、体育館に集めてこの計画に乗り気にさせ、教師にも抑えられない勢いにして仕舞えばいいという話になった。ランベルトがこの計画を推しているという話は使えるので、彼もステージに上がらせる。主な話はオズがすることになった。
いよいよ、全校生徒招集計画は明日実行である。
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