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2. 現れる登場人物達
アルとジャスパー
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アルバート・オブライエンは、学祭2日目の騒がしい廊下を歩いていた。午前中一緒に回っていたオズとは先程別れ、今は体育館に向かっている。
アルはオズに学祭を一緒に回ろうと声をかけた時の兄、ヒューバートの反応を思い出した。
(全く、兄さんもあんなに強く反応することないのに。)
大好きなオズがアルに甘いのが気に食わないのは分かるが、だとしてもヒューの反応は過剰だ。オズはアル本人からしても「自分のことが好きなんだな。」と分かるぐらい分かりやすい愛情表現をしてくるが、それだって子供や動物に対する慈愛のような愛情だと、はたから見ても分かる。
それにヒューバートは、オズがいないところではアルに対しても普通に優しいし、色んなことも教えてくれて、いつも寄り添ってくれる良き兄だ。
(多分兄さんがオズの前でだけ僕に当たりが強いのは、僕に対してだけ自信がないからだ。)
アルバートとヒューバートは良く似ている。幼少期は容姿がほぼ瓜二つだったし、今でもかなり顔が似ている方だ。オズの好みがこの顔なら、アルバートも好みのうちに入る事になる。紺色の髪に薄いラベンダーの瞳は同じ輝きを持ち、二人とも家格にしては魔力が高い。
オズはよくアルの容姿を「格好良い!」「可愛い!」と褒めてくれるのだが、ほぼ同じ容姿なのにヒューには何も言わずアルだけ褒めているのも、彼は不満そうにしている。けれど恐らくオズからすると、本命には軽くそう言う事を言えないんだろうな、という印象だ。
(ほぼ同じって、捉え方によってはどっちを選ぼうがあまり変わらないって事にもなるもんなあ。)
しかしオズがヒューの事を大好きなのは見て明らかだし、ヒュー本人にも早く愛されている自覚をしてほしいものだ。
(そしたら、もっと穏やかに三人でお茶を飲んだりできるかも‥‥。)
そう考えた時だった。
「危ない!」
体育館の入り口付近に、ちょうど運び出された機材が荷台を持ってくるために一旦置かれていたのだが、それがアルに向かって倒れてきたのだ。その道具を使っていたクラスの生徒らしき人が声をあげて危険を知らせたが、もう避けるには間に合わない。
アルはギュッと目を閉じた。
「アルバート!」
聞き覚えのある声と共に何かが勢いよくアルにぶつかってきて、アルの身体はその場から弾き飛ばされた。
ガンッ、と思い音が響き、一拍遅れて悲鳴が上がる。しかしアルは体のどこも痛くはなかった。
「え‥‥?」
困惑しながらゆっくりと起き上がる。
目の前に、機材の下敷きになって倒れるジャスパーがいた。
ジャスパーは、過去にアルを殺そうとしたことがある。
今ではいつもの昼食メンバーだし、普通に友達でもあるけれど、やはりアルの中では他の友達よりも一線を引いた存在であった。別に普通に友達として良い奴だとは思うけれど、他の人に対してと同じように「大好きな友達!」とは一息で言えないものだ。
だが別に、今でも恨みがあると言うわけではない。
ヒューもアルも、ジャスパーのことはとっくの昔に許している。あの時のことは、ジャスパーの周囲の環境が悪かったというオズの意見に納得した。後で自分で調べてみると、確かにカーティス家の実情は酷いものだった。
だからもう、いいのだ。
保健室に入り、アルはジャスパーが横たわっているベッドに駆け寄る。彼はここに運び込まれた時点で意識を取り戻していて、頭と左腕に包帯を巻かれていた。
「ジャスパー。」
「ああ、アルバートか。」
ジャスパーはアルの事を愛称で呼ばない。
頭に巻かれた包帯が痛々しく見えて、アルは拳を握り込んだ。
「助けてくれてありがとう。でも、何で‥‥僕を庇ったりしたんだよ。あんたのクラスのダンス発表はこれからだったんだろ。」
学祭ではクラスの出し物として出店をやるが、それと別に各クラスステージ発表がある。大体毎年、三年生が劇で2年生がダンス、一年生は有志で楽器演奏などを披露する。
1日目のステージは有志——何年生でも、何回出ても良い——で、2日目は2年生のダンス発表が行われるのだ。ジャスパーのクラスは午後に発表だったのだが、この通り怪我をしてしまったので彼は出られない。
ジャスパーは頭の後ろで腕を組み、力強い目でアルを見つめ返す。
「お前が何か困るようなことがあったり、危ない目に遭ったりしたら、絶対に助けるって決めたんだ。」
「それは、昔の事があったから?そんなのもう気にしなくても‥‥。」
「確かに償いの意思ではある。俺がした事を考えれば、こんなのでは償い切れんがな。」
「そんな事‥‥。」
ジャスパーは根はいい奴だ。幼い頃の不安定な精神状態を脱した今、彼は昔した事に負い目を感じている。
(けど、だからって自分の身を危険に晒してまで‥‥。)
「俺は自分の罪を自覚した時、この先何があっても一生お前を守る覚悟を決めた。」
余りにも重く想いのこもった言葉に、アルの言いたい事は全て飛んだ。
「だから、この怪我とかもあんま気にすんなよ。これくらい何ともないし。これからもこんな事があるかも知れないが、全部俺の勝手だから。」
ジャスパーはまるで当然の事だという様に言った。アルは口をぱくぱくさせるが続く言葉は声にならない。ジャスパーは横に寝返りを打った。
「じゃ、発表も無くなった事だし、俺は一眠りする。」
そう言って、少しするとそのまま寝息を立て始める。
アルは先程の言葉を頭で反芻する。どんどん顔に熱が昇っていくのが分かった。
(だって、そんな、そんな言葉は‥‥!)
今回のことで、この言葉が本当なのは充分に分かる。ジャスパーは本気で、何があってもアルを守る気だ。こんな格好良い事を言われて、意識するなと言う方が無理である。
その後保健室にオズとヒューも入ってきた気がするが、どんな会話をしたのか全く覚えていない。それくらい浮き足立っていた。だって、こんな愛の告白みたいなものじゃないか。
(一生、とか‥‥!)
しかし翌日、学祭3日目に、アルバートは現実を突きつけられた。
アルは次の日も、自分のせいで怪我をしたジャスパーの様子を見に行くと言って保健室に行ったのだ。ジャスパーは怪我を上手く使って保健室で今日の店当番をサボっており、アルは二人になれるチャンスだと思って乗り込んだ。
当番をサボる為とはいえジャスパーもずっと保健室では暇そうで、アルは図書室からオセロをこっそり持ち出す。二人はオセロで遊んで、アルが保健室に来たのは午後からだったので、良い感じに日が暮れてきた。
学祭3日目は花火が上がる。
(花火を一緒に見れるかな‥‥。)
そんな事を考えながら窓から空を見上げる。保健室の独特な匂いと壁に使われている木の香りが鼻を掠った。
ジャスパーは口を開く。
「オズはどうしてるか、知ってるか。」
アルは特に何も考えずに答える。
「ああ、今日はずっと兄さんと回ってるみたいだよ。夜には花火を一緒に見るって。」
昨日ヒューバートの機嫌を損ねたので、今日のオズはヒューのご機嫌取りに必死だ。「花火は絶対二人で。」とヒューが念を押してきて、オズはブンブン頷いていた。
「そうか‥‥。」
その時のジャスパーの表情が、オズを見つめるヒューバートと重なったのだ。あの愛おしむ様な慈しむ様な目と、同じ目をしている。でも、ヒューバートよりは少し悲しげで。
(あ、この人、オズのことが好きなんだ。)
直ぐに分かった。今日は今までよりもジャスパーのことをしっかり見ていたから、余計にその考えは現実味を帯びる。
アルは驚き、静かに俯いた。
(今まで一度も気が付かなかった。)
いや、ジャスパーが気付かれないようにしてきたんだ。オズの隣にいるために。オズが大切だから、オズの幸せを願っているから。
途端に、自覚したばかりの自分の思いが軽いものに思えてきて、長い沈黙が続く。
「アルバートは、外に行かなくていいのか?」
「いい。下は混んでるから、ここからの方が良く見えそうだし。」
(オズ相手だったら、「ここで見てけよ。」とか、誘うのかな。)
ひゅ~、と花火が上がる音がする。ドンッ!と大きく弾けた赤色は、大きく開いた窓から見上げる二人を赤く染め上げた。
オズに優しいのは、オズのことが好きだから。
アルバートに優しいのは、過去に負い目があるから。
アルバートは、ジャスパーの二人に対する優しさが、全く違う意味を持っていることを知った。
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