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2. 現れる登場人物達
不穏な体育祭
しおりを挟む結局、花壇の花を数本とは言えども踏み潰したのはオズで、ヘルムートからの恨みは全て自分に向くと思っていた。しかし、どう言うわけかヘルムートはオズを気に入ったようで、あれから美化委員の掃除当番の時はよく話しかけられるようになった。
そんなこんなで時は経ち、いよいよ今日は中等部一年の体育祭。『ヒュー監禁される事件』の起こる日だ。
(でも、あのハイノを止めた日、ヒューとジャスパーは全部終わってから現場にやって来たし、ヘルムートに恨まれてはいないだろうけど。)
そんなことを考えながら、オズは青色の鉢巻リボンを頭の後ろで結ぶ。今回の大会では、オズとヒューは同じ青組だ。
「オズ、絶対青組を勝たせるから。」
「ああ、頑張ろうな!」
隣に立つヒューも青色のリボンを頭に巻きつけながらそう息巻く。オズは、先程からずっとヒューが居るのと反対隣に立ち、もぞもぞ動いているジャスパーを見上げた。
ジャスパーはずっと鉢巻のリボンと格闘しているのだが、ふと見ると、ジャスパーの頭はぐちゃぐちゃの紅色リボンでぐるぐるになっていた。ジャスパーは紅組である。
「げっ!もうリボンがぐちゃぐちゃじゃん。どうやったらそうなるわけ?」
「あ"ー、くそ!もういい。俺はリボンは首に巻く!」
「ジャスパーの技量じゃ首締まって終わりだよ。貸して。」
オズはリボンを首に巻こうとしているジャスパーからリボンを奪うと、「座って。」と側にあった椅子を指差す。ジャスパーは大人しく従った。オズは素早くリボンを縛る。
「はい、出来たよ。」
「サンキュー。」
(リボンはもうしわしわだけど、リボン結びは良い出来だな!)
ここはCクラスの教室で、教室内は三人以外は誰も居なく、静かだ。体育着に着替え終わった三人はここで開会式まで駄弁っている。今日は基本的に教室は使わないので、休憩中に誰がどこのクラスで過ごしていても誰も気にしない。なので、ヒューがなんでもない顔でCクラスにいるのだ。
その時、ピンポン、と放送開始の音が鳴った。
「これより十分後、開会式を開始します。校内にいる生徒たちは、速やかに体育場に移動してください。」
(いよいよ始まる。)
今日は朝のホームルームなどもないので別に教室に来る必要は無く、ハイノやエッカルトにはまだ会っていない。
「じゃ、行くかー。」
「うん。」
「そうだな。」
三人は教室を出た。
「はー、こんな日まで掃除とか‥‥。」
一般種目の出番をあらかた終えて休憩時間になったオズは、美会員として汚れた庭を掃除している。休憩中に騒ぐ生徒たちのお菓子のゴミやらよく分からない包み紙やら、こういう日はゴミが出やすいのだ。それで美化委員は、それぞれの休憩時間に庭の掃除を命じられている。
(今頃ヒューとジャスパーは魔法戦闘型ゲームをやってんのかな‥‥。)
体育祭はこの学園の方式で、高魔力保持者と低魔力保持者は分けられて、それぞれ別の会場で試合が行われる。つまり開会式以降、高魔力保持者と低魔力保持者は体育祭として試合をする体育場自体が別なので、会うことが殆どない。
(ま、会おうと思ったら会えるけど。)
実際、友達同士で休み時間に校舎内のどこかのクラスで待ち合わせるとか、お昼を一緒に食べるとか、会ってる人達はいる。だが出番の順番によれば体育場を抜け出して校舎まで来る時間が無い人もいるし、移動も面倒なので、体育祭の日は自分の体育場で過ごすという人が多い。
因みに、スカイリルーフ学園は膨大な土地を所有していて、その土地にいくつか体育場を持っている。
(あーあ、戦うのが魔力の強者同士、弱者同士だけって、つまんないなぁ!)
最終的には青組、紅組、白組、緑組がそれぞれ二つの体育場で獲得した得点の合計が、その組の点数になる。高魔力保持者同士、低魔力保持者同士で戦う為〝クラスで一致団結!〟という雰囲気はなく、別会場の人間は別世界の人間のように感じられた。
オズは本来の魔力の強さを隠している。本当なら彼が居るべきなのは高魔力保持者の会場の方なのだが、誰もがこの偽りの深緑の目を信じていて、オズは低魔力保持者だと認識されている。なので低魔力保持者の会場にいたのだが‥‥。
(くそ、まさか美化委員という理由だけで、会場から校舎まで呼び戻されるなんて‥‥!しかも、)
「オズワルド君、相変わらず美しいなあ。しかめ面なんてしちゃって、どうしたんだい?そんな表情も可愛らしいけれどね!」
ヘルムートが同時刻の掃除当番だし。
(この人俺の前でだけよく喋るな‥‥。つか何で二人きりなんだよ!?)
ヘルムートは委員長なので、きっとこいつが当番表に融通を効かせたに違いない。
(まあ、自分の出番はもう終わってるから、掃除があること自体は良いけどさ。)
オズは試合で間違ってでも本来の魔力を使ってしまわないように、今日は低魔力保持者の平均魔力以上の魔力は使えないように調節されたペンダントを首から下げて——もちろん、ヒューに貰ったペンダントも一緒につけている——いる。
そのペンダントが出せる力しか出せないので、低魔力保持者の中でも平均より少し上の魔力を持つ者に、オズは早々に負けてしまったのだ。勝ち上がらないと出番は増えないので、午前中でほぼオズの出る試合は終わっている。
(っと、そろそろ掃除も終わりだな。)
「ここの掃除は終わりました!僕、この後も予定があるので、この辺で失礼します。」
予定とはいっても試合ではなく、同じクラスで同じ会場にいる子たちと、高魔力保持者の会場の試合が終わるまでお喋りしようという約束をしたのだ。大体いつもあっちの会場の試合の方が長引くらしい。全ての試合が終わらないと得点の合計が分からず勝敗も分からないので、待つ間は意外と暇だったりする。
しかし、オズの言葉を聞いたヘルムートは急に仄暗い雰囲気を醸し始める。
「予定‥‥?まだ試合をするの?君の美しい身体に傷がついたりしたらどうするんだ?ああ、僕はずっと思っていた。君は戦いなんてするべきでは無い!」
いきなりつらつらと話し出したヘルムートに呆気に取られたオズは、次の瞬間ヘルムートが放った無詠唱魔法への反応が遅れてしまった。
「っ、何だ!?」
ヘルムートが何か一言をぼそっと呟くと、シュルッ、と地面からいくつもの蔓が出現する。抵抗する間もなくオズは縛り上げられてしまった。手首と足首をそれぞれぐるぐる巻きにされる。蔓は口にも巻き付いて来て、助けを呼ぶ声も出せない。
「体育祭が終わるまで、君を外には出しておけない‥‥!」
そう言ったヘルムートは、蔓でぐるぐる巻きになったオズを抱えて庭を歩き出す。オズは声を出そうとしてみるが、「ゔー、ゔー!」という鈍い音しか出なかった。ヘルムートは校舎裏に向かい、人気がなく薄暗い方へと移動する。
(待てよ、この方向って‥‥!)
そう、ヘルムートが立ち止まったのは、ある物置小屋の前だった。
(これは、小説でヒューバートが監禁された物置小屋だ!)
位置的に間違いない。オズは物置小屋の戸を開くヘルムートを恐々と見上げる。
(ヒューの監禁は防げたけど、誰かが監禁されるという出来事は防げなかったということか‥‥!?)
愕然とするオズを、ヘルムートは物置小屋の中へ放り投げる。投げられた衝撃で、ガン!と足をどこかに打った。
「ゔっ‥!」
「ああ、痛かった?ごめんね?でも君が悪いんだよ。‥‥体育祭が終わるまで、そこで反省するんだよ。」
とても優しい笑みでそう言ったヘルムートは、バン!と勢いよく扉を閉める。それから、鍵を弄るようなガチャガチャという音が響いた。南京錠でも付けたのだろう。
「鍵を閉めたから、内側からは出られないよ。僕が来るまで大人しくしていてね。」
さくさく、とヘルムートが芝生の上を歩く音が遠ざかっていく。
完全に足音が聞こえさってから、オズはぐっと上半身を起こした。
「‥‥痛ってぇ!」
まず叫んだのはそれだ。起き上がった拍子に足首がズキンと痛んだのだ。痛みを自覚してしまうと、投げられた時にぶつけた足首は、ガンガン響く痛みと共に嫌な熱を発し始める。これは腫れるかもしれない。
「っ、助けを、呼ばないと!」
オズは瞬時に、ヒューに貰ったあのペンダントの宝石部分を握った。しかし、呪文を唱える直前に思いとどまる。
(今、俺がヒューを呼んだらどうなる?)
きっとヒューはオズの身に何かが起こっていると気が付き、何が何でも探しに来てくれるに違いない。だがそれでは、ヒューは試合を放棄してしまうことになる。
オズの本来の目的は、〝ヒューバートが監禁され、大切な準決勝の試合を放棄して皆んなの恨みを買うこと。〟を防ぐことだ。今の状況はオズにとっては最悪だが、ヒューの監禁を防ぐという目的は果たしている。
(ここで呼んだら、駄目だ。)
体育祭が終わるまでここで待つぐらいなんだ。オズには控えている試合もないし、待ち受ける恐ろしい未来もない。ヒューは試合を放棄せず、準決勝まで登り詰めた凄い男になるのだ。そうさせてみせる。
「大丈夫、死にはしないし‥‥!」
そう口に出すことで不安と恐怖の感情を押し込めながら、少し湿った埃臭い物置小屋の中で、オズは縛られている両手をぐっと伸ばして赤く腫れる足首をさすった。
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