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1. 推しの兄の婚約者‥‥?
ジャスパーの心中
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結局、この騒動は誰にも明かさず、リンジーがヒューバートに謝ることで解決した。オズとしては余り大きな騒ぎにならなくて有り難いが、ヒューは仮にも犯人にされそうになっていたのにそれで大丈夫なのかと聞いてみたところ、「オズが良いなら僕は別に気にしない。」と良く分からない返事を貰った。
リンジーの燃やしてしまった荷物に入っていた物で足りなそうな物は、皆んなで少しずつリンジーに分けた。
(ヒューは犯人にはならなかったし、事件は防げたんだから大成功だよな。でもそういえば、あの時ヒューは何でリンジーやオズがいる場所へ来てくれたのだろうか。)
彼はオズに冷たいがカレーの件もあったし、今では、何だかんだオズのことが嫌いではないのかもしれない、なんて思っている。
そんなこんなで合宿は最後の日になり、オズ達はキャンプ場近くのガラス工房でストラップを作る作業に取り掛かろうとしている。
ガラスとは言っても、高熱を扱って変形させるなどの危ない作業はしない。ここでは粘土の様なものを好きな形に変えて、それをガラス透明化の魔術が組み込まれた箱に入れると、暫く待てばガラスが出来るのだ。
オズはある程度粘土で作りたいものの形を作ると、ストラップのチェーンにつけたい飾りを壁一面の棚から選ぶ。壁にある棚の一つ一つの箱は小さく、上の方のものは届かないので梯子を使った。
オズがキラキラと輝く小さな飾りをいくつか選んで席に戻り座ると、突然後ろからヒューに覗き込まれる。
「オズはどんな形のストラップにするの?」
ヒューが冷たくなる前の様な優しい口調でそう聞いて来たので、オズは一瞬聞き間違いかと思ったが、見上げるといつも通りの美形がそこにあった。
(ヒューが、話しかけてくれた!?めっちゃ久しぶりじゃないか!じゃないや、えーと、なんだっけストラップの形?)
興味を持ってくれたことが嬉しくてオズは意気揚々と答える。
「実は、鳥の形にしようと思ってるんだ!」
しかしそれを聞くと、ヒューは「そうか。」とだけ言って去っていった。オズも彼の塩対応に慣れて来たので、気まぐれだったのかな、と少し寂しくはあったが余り気にせず作業に戻る。
作業が終わったら昼食をとって、その間にガラスとして完成したストラップを受け取りに戻ったら、そのまま魔道バス——林間合宿用に貸し切ってある——に乗って学園に戻る。
山の幸が詰まった昼食を食べ終わったオズは工房に戻り、クラスの番号が書かれた箱から自分のガラスを取り出す。作っておいた窪みに飾りをつけたチェーンを通し、遂にストラップの完成だ。
(よし!じゃあさっそくリンジーに渡そう!)
そう。オズは考えていたのだ。リンジーと仲良くなる為の作戦を!
先ずは作戦1、ストラップ交換。
(何かを交換するって、やっぱり特別な感じがするよな。)
リンジーのクラスの箱がある場所に近づくと、丁度チェーンを通し終わったところの様で、オズはナイスタイミングだと思った。
彼の横に立つと、「リンジー!」と声をかける。リンジーは驚いて「あ‥‥、オズ君。どうしたの‥‥?」と言った。
オズはサラリと言ってのける。
「あのさ、良かったら僕とストラップを交換しない?」
オズがそう言った瞬間、周りに居た全ての人の視線がバッと集まった。
(え、何だ?何で皆んなこっちを見てるんだろう。)
別に変なことは言っていないと思うのだが。
リンジーのクラスということは勿論ヒューも近くに居て、彼も二人を見て目を見開いていた。
「ぼ、僕で良いの‥‥?本当に‥‥?」
戸惑いながらこちらを伺う様に聞いて来るリンジーにオズは満面の笑みで返す。
「?うん!勿論だよ!」
すると辺りは微妙な空気に包まれて、それと反比例するようにリンジーは笑顔になった。
「ありがとう‥‥!嬉しい!」
彼の笑った顔がもっさりした前髪から少しだけ見えて、髪を切ったらリンジーも結構顔が整っているんじゃないか、と思う。
喜んでくれて良かった、と満足したオズがちらりとヒューのいた方を向くと、ヒューは思い切りこちらを睨んでいた。
(ヒッ‥!怖!?何で‥‥俺なんかした?)
何故ヒューがこんなに睨んできているのか気になるところではあるが、次は作戦2だ!
作戦2は、同じバスに乗っちゃおう作戦だった。バスはクラスごとに分かれているので本当はリンジーは違う号車なのだが、やっぱりこういうのって行きと帰りが楽しかったりするし、この感覚を共有したい。
という訳で、「ほ、本当にいいの‥‥?」とわたわたしているリンジーの手を引いてバスに乗り、少し詰めてもバレなそうな最後列に座る。
ついでにジャスパーとロニーも引っ張って来て、ロニー、ジャスパー、オズ、リンジーの順に座った、のだが‥‥。
「では出発しま‥‥ってヒューバート君!?どうしてこのバスに居るのですか!?貴方は五号車の筈では‥‥」
出発したバスの中、先生が声掛けをしようとして叫んだ。
そう、何故かヒューバートがリンジーの逆隣に座っているのだ。
(いや、本当に何で?)
オズがリンジーを迎えに行った時、彼と同じクラスであるヒューにもリンジーを連行するところを見られてしまい、よく分からないがヒューもついて来たのだ。
しかし成績上位者でこの美貌だとヒューを知らない人はいないし、彼は他のバスに忍び込むには目立ち過ぎる。
「間違えたんですよ。」
ヒューは誰もの目を釘付けにする笑顔でサラッと言った。
「いやいや、貴方の様な人がそんな間違いをする訳は‥‥。けれどまあ、いいでしょう。今のうちに降りて、早く自分のバスに戻りなさい。」
「嫌です。」
「そうそう、早く‥‥嫌ですって!?」
バス内はちょっとした騒ぎになっていた。
(本当にどうしたんだろう。ヒューはいつも先生に反抗したりはしないのに‥‥。)
しかも定期的にこちらを睨んでくるのだ。リンジー越しに。そのせいでリンジーがまたおどおどしている。
(もう、本当に何なんだよ?)
結局あの騒動のメンツが最後列に揃い、一度走り出したバスは止まらなかったのでヒューもバスを降ろされず、謎の沈黙がその列を包んだ。
* * *
ジャスパー・カーティスは、オズとロニーの間でバスに揺られていた。
オズがリンジーをこっそりこのバスに連れ込むと言った時に悪い予感がしたのだが、それは見事的中。全然忍び込みに向かないヒューバートがついて来て、しかもよりにもよってリンジーの隣に座った。
オズとリンジーが楽しそうに話していると、ヒューバートはリンジーのポシェットに付いているオズと交換したキーホルダーを見て、
「‥‥人誑し‥‥。」
とぼそっと言って、リンジーとオズを人睨みずつする。リンジーは気まずそうな顔をした。
(こいつ‥‥気持ちは分かるけどよ。)
あそこの工房で作ったガラス細工は、好きな人と交換すると結ばれるというベタなジンクスが付いている。ヒューバートはオズがストラップを作っている中、何度もそわそわ近寄って来たり覗き込んできたりしていたし、まあオズと交換したいんだろうな、と思っていた。
(それなのに、オズときたら‥‥くくっ‥!)
なんとヒューバートの目の前で堂々と、リンジーにストラップを交換しないかと声をかけたのだ。
(あの時の空気やばかったよなあ。オズのやつ雰囲気に鈍感すぎだろ。ジンクスについては知らなかったんだろうけど。)
しかもこのジンクスによると、その好きな人と同じ形のストラップを作って交換すると更に絆が強まるらしい。
ヒューバートはオズにガラスを何の形にするか聞いていたし、さっきチラッと見たら彼のストラップも鳥の形だった。
オズはヒューバートが自分に対して冷たいと悩んでいるが、奴のストラップを見てからジャスパーには、ヒューバートはオズの気を引く為にあんな態度を取っているように見えてきた。
と、そんなことを考えていたら、合宿で疲れ切っていたのか、いつの間にかバスの中の殆どが爆睡している。ジャスパーは右肩にオズの頭、左肩にロニーの頭を預けられて身動きを取れない。
何とか視線を横にずらしてみると、バスの中でまだ起きている数少ない一人、こちらを睨んでくるヒューバートと目があった。
「オズを起こすなよ。」
てっきりそこを変われとでも言われるかと思ったが、ヒューバートはそれだけ言って視線を前に戻す。
「‥‥おう。」
案外あっさり会話が終わり、最後列は二人以外全員寝ている為、別にヒューバートと会話をしたい訳ではないが一応何か話題がないかとジャスパーは記憶を探る。
そして、一つ気になっていたことを思い出した。
「なあ、ヒューバート?」
「なんだ。」
余り身体を動かせないので正面を見たまま声をかけると、リンジー越しにヒューバートの返事が聞こえる。
「オズがお前にあの失敗したカレーをあげたと言っていたんだが、あれはどうしたんだ?」
「どうって、普通に食べたけど。」
「た、た、た、食べたあ!?あれを!?」
「うるさい!」
ヒューバートに怒られて、ジャスパーは慌てて口を噤む。
「とても食べられそうには見えなかったんだが‥‥そんなに腹が減っていたのか?」
「僕はカレーを食べていなかったからな。」
「は?」
ジャスパーは今の言葉を理解するのに時間がかかった。つまり、ヒューバートは自分の班のカレーを食べていなかったということだろうか。
「何で食べなかったんだよ。」
聞くと、ヒューバートはポッと少し顔を赤くして目を逸らした。
「オズが困ってそうだったから。」
ジャスパーは呆気に取られていた。ヒューバートはジロリとこちらを睨む様な目を向けてくる。
「確かに僕の班の人達は少食だったので他の班よりカレーが多く余ったことは本当だが、それで三人分は足りないに決まっているだろう。」
「だから食べなかったのかよ。別にそんな事しなくてもオズの分はあったんだろ。何も三人分用意しようとしなくたって‥‥。」
「オズの友達を見捨てて、オズに嫌われたらどうするんだ。」
「いやお前は日常的にもっと嫌われそうな態度取ってるよ。」
(そこは気にするのかよ‥‥。)
だが、ヒューバートのおかげで美味しいカレーを食べられたのは事実だ。
「けど、何つーか、まあ、‥‥ありがとうな。」
「別に。この事は絶っっ対にオズには言うなよ。」
そう言い残すと、ヒューバートは頭を窓枠に預けて目を閉じた。
暫くすると、ヒューバートからも規則的な寝息が聞こえ始める。気付けば、バスの中で起きているのはジャスパー一人になっていた。
ジャスパーは視線を右肩の方へ向ける。そこではオズが長い睫毛を伏せて眠っており、その寝顔は天使そのものだ。
「お前、めちゃくちゃ愛されてるんだなー。」
何となく、ジャスパーはオズの髪に指を通す。
オズと初めて会ったあのヒューバート誕生パーティーを思い出す。あの日、悪巧みをしたジャスパーはオズに思い切り殴られた。オズは魔法を使うでもなく大声で人を呼ぶでもなく、公爵家の人間を躊躇いもせずに勢いをつけて殴ったのだ。ジャスパーは直接与えられる罰というものを初めて受けた。
その時、ジャスパーは人に素肌で触れられる事自体とても久しぶりだと言うことに気がついた。両親は落ちこぼれであるジャスパーに触れたがったりしないし、貴族は相手にそう簡単に触れたりしない。
だからオズに殴られて、その場では一瞬、正気に戻ったのだ。
しかしそれでもジャスパーの行動は改まらず、再び事件を起こした時、またオズは殴りかかって来た。
(しかも飛びかかって来たんだった。ふっ‥‥深窓の令息とは思えないよなあ。)
あの時のオズの言葉で、ジャスパーの世界は変わった。今まで自分が縛られて来たものが、急に、取るに足らない何でもないものの様に感じるようになったのだ。
(こう言ってしまうのは少し癪だが‥‥俺はきっとこいつに救われたんだ。)
ジャスパーはオズの髪をぐしゃぐしゃとかき混ぜる。
「う~ん‥‥うう‥‥。」
オズは少し唸った。ジャスパーは彼のつむじを見下ろす。
「なあ、」
『なんでヒューバートからの婚約の申し出を断ったんだ?』
『オズはヒューバートの事が好きなのか?』
『もし今もう一度ヒューバートに婚約を申し込まれたら受け入れる?』
「なんて、聞ける訳ないよな‥‥。」
(くっつくならとっととくっつけよ。)
ジャスパーはオズの頬を少しつまんでつねった。
「うう‥‥。」
(諦めつかねえだろうが。)
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