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第4章 北の鉱山街バーム
第39話 論争
しおりを挟む 結局、読書談議に花が咲き、円は少しも宿題が進まず、瞳も1ページも読めずに昼食となった。
「今日は! なんと美作がお弁当を作ってくれたのよ!」
「え!」
「美作の弁当とかめちゃくちゃ貴重……」
「僭越ながら、ご用意させていただきました」
美作はそう言って、朝、冷蔵庫に入れた大きめの包みをテーブルへと持ってくる。
「季節柄、冷蔵庫へ入れてそのままで申し訳ないのですが。昨日はパンでしたので、今日は是非ご飯をと思いまして」
包みを開くと重箱が姿を表す。三段重ねである。
ぱかり、と一段目の蓋を開けると、そこには、小さめに握られたおにぎりがみっちりと詰まっていた。
見た目が少しずつ違うから、味も違うのかもしれない。
次の2段目は、おかずのオンパレードだった。定番の卵焼き、唐揚げ、レンコンのはさみ揚げ、筑前煮、たこさんウィンナーにコロッケ。
そして三段目は、デザートがてんこ盛りだった。市販品ではあるが、ゼリーやプリン、クッキーにチョコレートまで。
「……これ、美作さんが一人で作ったんですか?」
「そうですが……お気に召しませんでしたか……?」
なんだかしゅんとする美作に、瞳はブンブンと首を振った。とんでもないことである。
瞳はその体質のせいで自炊がほとんどだったし、弁当も自分で作っていたから、その大変さはわかるつもりだ。
「とても美味しそうです! あの、食べてもいいんですか? 本当に?」
「毎日デリバリーでも飽きてしまうでしょうし、気分転換になればと」
「本当に、これだけの量はすごいですし、手間だったでしょう。ありがとうございます」
ちょっと感動しながら瞳が言うと、美作は嬉しそうに笑ったので、言って良かったと思う。
「俺の弁当なんて作ってくれたこともなかったのに……」
ちょっと拗ねたように円が言うから、瞳は笑ってしまった。
美作の弁当はやはり絶品だった。さすがは料理人でも食べていけそうな腕前の持ち主である。
瞳が美味しいと何度も言うから、美作も終始嬉しそうだった。
「このおにぎりがさー、塩味が絶妙なんだよなぁ」
「ああ。海苔のおかげかもしれません」
「海苔?」
「とある筋から仕入れている海苔を使っているんです。塩のりなんですよ」
「どこから……」
「秘密です」
「くっそ……」
円と美作のやり取りにも笑った。そしてそこで新たに塩のりなる存在も知ってワクワクする。
瞳はきっと、知らないこともたくさんある。今まで人付き合いを極端に制限してきたからだ。
円によって強引にではあるが、無関係ではなくなった円と律と美作は、瞳にたくさんのことを教えてくれる。それが素直に嬉しいし、感謝もしている。
「そういえば、瞳さま」
「はい」
「読書の話ですが、スマホでも読めますよ」
「えっ?」
「出版社から購入するタイプのものもありますが、素人の投稿サイトなども作品は充実してます」
「投稿サイト……」
「いわゆる趣味で書いて自由に投稿できるサイトよ」
「たとえばこちらですが……」
美作は自分のスマホを取り出してトトッと操作してひとつのサイトを起動して見せてくれる。
「まぁ、素人ですので更新はまちまちですし、未完のまま終わりになる場合もありますが。長期間更新がない場合はサイトからのメッセージも出ますし、わかりやすいです。流行り物の作品も多いですね」
「へぇー」
「読みたい内容やキーワードを入れて検索ができるので便利ですよ」
「キーワード……」
「逆に、読みたくないキーワードを入れて検索することもできます」
「あ、それは便利ですね」
「特に課金もないですし」
「課金……。そうだ、課金といえば!」
ハッと思い出す。瞳は美作が見せてくれていたスマホからパッと顔を上げて律を見る。
「え、どうしたの?」
「あの! スタンプ買ってもいいですか!?」
メッセージをやり取りする、あのアプリのスタンプのことである。やはり文字だけは寂しい。スタンプ使いたい。と切実に思ったのだ。
律はキョトンとしていたが、やがてふふふ、と笑った。
「問題ないわ。好きなだけ買ってちょうだい」
瞳がホッと胸を撫で下ろしてお礼を言えば、瞳がどんなスタンプを使うのか楽しみだわ、と律は言った。
「あ、美作さん。そのサイト教えてください」
「はい。他にもいくつかピックアップしましょうか?」
「そんなにあるんですか?」
「そうですね……課金を目的としたサイトや、書籍化を目標として投稿されているサイトなどもあります」
「うーん……。とりあえず、課金はやめておきます。出してくれるの律さんだし……」
「わかりました。では、こちらがおすすめですね」
瞳が、だいぶ慣れてきた手つきで教えてもらったサイトをチェックしている間、円は美作特製の弁当をもぐもぐと食べていたのであった。
「今日は! なんと美作がお弁当を作ってくれたのよ!」
「え!」
「美作の弁当とかめちゃくちゃ貴重……」
「僭越ながら、ご用意させていただきました」
美作はそう言って、朝、冷蔵庫に入れた大きめの包みをテーブルへと持ってくる。
「季節柄、冷蔵庫へ入れてそのままで申し訳ないのですが。昨日はパンでしたので、今日は是非ご飯をと思いまして」
包みを開くと重箱が姿を表す。三段重ねである。
ぱかり、と一段目の蓋を開けると、そこには、小さめに握られたおにぎりがみっちりと詰まっていた。
見た目が少しずつ違うから、味も違うのかもしれない。
次の2段目は、おかずのオンパレードだった。定番の卵焼き、唐揚げ、レンコンのはさみ揚げ、筑前煮、たこさんウィンナーにコロッケ。
そして三段目は、デザートがてんこ盛りだった。市販品ではあるが、ゼリーやプリン、クッキーにチョコレートまで。
「……これ、美作さんが一人で作ったんですか?」
「そうですが……お気に召しませんでしたか……?」
なんだかしゅんとする美作に、瞳はブンブンと首を振った。とんでもないことである。
瞳はその体質のせいで自炊がほとんどだったし、弁当も自分で作っていたから、その大変さはわかるつもりだ。
「とても美味しそうです! あの、食べてもいいんですか? 本当に?」
「毎日デリバリーでも飽きてしまうでしょうし、気分転換になればと」
「本当に、これだけの量はすごいですし、手間だったでしょう。ありがとうございます」
ちょっと感動しながら瞳が言うと、美作は嬉しそうに笑ったので、言って良かったと思う。
「俺の弁当なんて作ってくれたこともなかったのに……」
ちょっと拗ねたように円が言うから、瞳は笑ってしまった。
美作の弁当はやはり絶品だった。さすがは料理人でも食べていけそうな腕前の持ち主である。
瞳が美味しいと何度も言うから、美作も終始嬉しそうだった。
「このおにぎりがさー、塩味が絶妙なんだよなぁ」
「ああ。海苔のおかげかもしれません」
「海苔?」
「とある筋から仕入れている海苔を使っているんです。塩のりなんですよ」
「どこから……」
「秘密です」
「くっそ……」
円と美作のやり取りにも笑った。そしてそこで新たに塩のりなる存在も知ってワクワクする。
瞳はきっと、知らないこともたくさんある。今まで人付き合いを極端に制限してきたからだ。
円によって強引にではあるが、無関係ではなくなった円と律と美作は、瞳にたくさんのことを教えてくれる。それが素直に嬉しいし、感謝もしている。
「そういえば、瞳さま」
「はい」
「読書の話ですが、スマホでも読めますよ」
「えっ?」
「出版社から購入するタイプのものもありますが、素人の投稿サイトなども作品は充実してます」
「投稿サイト……」
「いわゆる趣味で書いて自由に投稿できるサイトよ」
「たとえばこちらですが……」
美作は自分のスマホを取り出してトトッと操作してひとつのサイトを起動して見せてくれる。
「まぁ、素人ですので更新はまちまちですし、未完のまま終わりになる場合もありますが。長期間更新がない場合はサイトからのメッセージも出ますし、わかりやすいです。流行り物の作品も多いですね」
「へぇー」
「読みたい内容やキーワードを入れて検索ができるので便利ですよ」
「キーワード……」
「逆に、読みたくないキーワードを入れて検索することもできます」
「あ、それは便利ですね」
「特に課金もないですし」
「課金……。そうだ、課金といえば!」
ハッと思い出す。瞳は美作が見せてくれていたスマホからパッと顔を上げて律を見る。
「え、どうしたの?」
「あの! スタンプ買ってもいいですか!?」
メッセージをやり取りする、あのアプリのスタンプのことである。やはり文字だけは寂しい。スタンプ使いたい。と切実に思ったのだ。
律はキョトンとしていたが、やがてふふふ、と笑った。
「問題ないわ。好きなだけ買ってちょうだい」
瞳がホッと胸を撫で下ろしてお礼を言えば、瞳がどんなスタンプを使うのか楽しみだわ、と律は言った。
「あ、美作さん。そのサイト教えてください」
「はい。他にもいくつかピックアップしましょうか?」
「そんなにあるんですか?」
「そうですね……課金を目的としたサイトや、書籍化を目標として投稿されているサイトなどもあります」
「うーん……。とりあえず、課金はやめておきます。出してくれるの律さんだし……」
「わかりました。では、こちらがおすすめですね」
瞳が、だいぶ慣れてきた手つきで教えてもらったサイトをチェックしている間、円は美作特製の弁当をもぐもぐと食べていたのであった。
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