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ふぁぁっ、なんて綺麗な部屋。
ナハムに抱き上げられたまま寝室から居間へ移動したハァルの目を引いたのは、今まで見た中で一番の透明度のガラスが使われた大きな窓だった。
窓から差し込む光を和らげているのは美しい紗の布地で、あれは南の砂漠の名産品で簡単には手に入らない品のはず。
さっと視線を巡らせれば、山岳民族の手で織り上げられた貴重な布の張られたソファや、希少な魔獣の毛皮で作られた絨毯が目に入る。
眺めている分には綺麗で目の保養だけど……僕絶対にあそこには座らないしこの部屋は歩けない……っ。
汚したり傷付けては大変と、ハァルはそれらに絶対に触れないことを心に誓う。
しかし、無常にもハァルはそのソファの真ん中にポスンと降ろされてしまった。
「ひっ、ナ、ナハ、ム……ッ」
「どうした? また尻でも痛いのか?」
あうあう、こ、これ、これは僕が座っちゃいけないやつっ!
身動き取れないままハァルが涙目で見上げれば、ナハムは不思議そうに首を傾げた。
「ん、な、なん、で、も、ない……」
そっか、これナハムには普通なんだ……。
慣れるしかないとハァルは早々に諦め俯く。
「なんだ、痛みを和らげる為に念入りに揉んでやろうと思ったのに」
え、揉んで? それは痛くなくてもいつでもいいのに……。
残念に感じたハァルがしょんぼりしているのをナハムが面白そうに眺めているところに、ドアがノックされスタンが現れた。
「さて、朝食、というより昼食といった時間ではありますが、たっぷり用意させましたので、お召し上がりください」
わわ、あの分厚いハムはなんの肉だろう? それにあの果物の盛り合わせっ、あのパンも真っ白ですごいっ。
スタンが優雅に押すワゴンの上に並ぶ、豪華すぎる食事の内容に、しょんぼりしていたはずのハァルの目は釘付けになる。
ぼぉっと見とれる間にもスタンがテキパキと準備を進め、ハァルはナハムの手で温かなタオルで顔を拭われている。世話を終えるとナハムはまたハァルを抱き上げ、そのまま膝の上に乗せた。
「え、え? あ、あの、ぼ、僕っ」
「ん? ああ、気にするな。俺が食べさせたいんだ。甘えてろ」
ナハムの顔がすごく近い……っ。
優しく微笑む顔にポォッとなっている間にもナハムの手でスープを飲まされ、ちぎったパンを口元に差し出される。
細かく一口大にされた食材がタイミングよく口の中に突っ込まれ、ハァルは何も考えないままングングと咀嚼するしかない。
「おいしいだろ? ん?」
「んっ、んむっ、ん」
あー、すっげぇ、かわいい、口の動きが半端無くエロい。あ、ソースが垂れた。これを舐め取るのは俺の正当な権利だな。スタンめ、あきれた顔してないで、あっちにいってろ。
じろりとスタンを睨みつけるが、ナハムの目は目の前の可愛い口元にすぐ吸い寄せられてしまう。
「ほら、ソースがついてるぞ?」
「え、え? ど、どこ?」
その焦る顔を堪能しながら、ナハムは唇の端に美味しそうについているソースを、ペロリと舐める。
「んー、なかなか落ちないなぁ」
しらじらしい声で言い訳しながらナハムはたっぷりと満足いくまで舐め尽す。
「ぁっ、あ、ナ、ナハ、ムゥッ、やぁ、んっ」
あ、やばい、やりすぎた。
可愛い声にハッと我に返ったときには、ハァルは羞恥に顔を真っ赤に染めていて、脇に控えたスタンの手は脅すように握り締められていた。
「うん、よしよし、ソースはもう、ついてないぞ」
「あ、あり、が、とう」
上目遣いのハァルに内心身悶えつつ、スタンの冷たい視線から目を逸らすナハムはブルリと震えた。子供のご飯を邪魔するものには鉄拳がとんでくるに違いないのだ。
「ほら、このサラダはなかなかおいしいぞ」
これで文句はないだろう。生野菜だってモリモリ食わせているからな。
偉そうに手柄を主張するナハムの主導で進む食事は、ハァルの預かり知らぬところで緊張感をはらんだまま、平和に再開された。
ナハムに抱き上げられたまま寝室から居間へ移動したハァルの目を引いたのは、今まで見た中で一番の透明度のガラスが使われた大きな窓だった。
窓から差し込む光を和らげているのは美しい紗の布地で、あれは南の砂漠の名産品で簡単には手に入らない品のはず。
さっと視線を巡らせれば、山岳民族の手で織り上げられた貴重な布の張られたソファや、希少な魔獣の毛皮で作られた絨毯が目に入る。
眺めている分には綺麗で目の保養だけど……僕絶対にあそこには座らないしこの部屋は歩けない……っ。
汚したり傷付けては大変と、ハァルはそれらに絶対に触れないことを心に誓う。
しかし、無常にもハァルはそのソファの真ん中にポスンと降ろされてしまった。
「ひっ、ナ、ナハ、ム……ッ」
「どうした? また尻でも痛いのか?」
あうあう、こ、これ、これは僕が座っちゃいけないやつっ!
身動き取れないままハァルが涙目で見上げれば、ナハムは不思議そうに首を傾げた。
「ん、な、なん、で、も、ない……」
そっか、これナハムには普通なんだ……。
慣れるしかないとハァルは早々に諦め俯く。
「なんだ、痛みを和らげる為に念入りに揉んでやろうと思ったのに」
え、揉んで? それは痛くなくてもいつでもいいのに……。
残念に感じたハァルがしょんぼりしているのをナハムが面白そうに眺めているところに、ドアがノックされスタンが現れた。
「さて、朝食、というより昼食といった時間ではありますが、たっぷり用意させましたので、お召し上がりください」
わわ、あの分厚いハムはなんの肉だろう? それにあの果物の盛り合わせっ、あのパンも真っ白ですごいっ。
スタンが優雅に押すワゴンの上に並ぶ、豪華すぎる食事の内容に、しょんぼりしていたはずのハァルの目は釘付けになる。
ぼぉっと見とれる間にもスタンがテキパキと準備を進め、ハァルはナハムの手で温かなタオルで顔を拭われている。世話を終えるとナハムはまたハァルを抱き上げ、そのまま膝の上に乗せた。
「え、え? あ、あの、ぼ、僕っ」
「ん? ああ、気にするな。俺が食べさせたいんだ。甘えてろ」
ナハムの顔がすごく近い……っ。
優しく微笑む顔にポォッとなっている間にもナハムの手でスープを飲まされ、ちぎったパンを口元に差し出される。
細かく一口大にされた食材がタイミングよく口の中に突っ込まれ、ハァルは何も考えないままングングと咀嚼するしかない。
「おいしいだろ? ん?」
「んっ、んむっ、ん」
あー、すっげぇ、かわいい、口の動きが半端無くエロい。あ、ソースが垂れた。これを舐め取るのは俺の正当な権利だな。スタンめ、あきれた顔してないで、あっちにいってろ。
じろりとスタンを睨みつけるが、ナハムの目は目の前の可愛い口元にすぐ吸い寄せられてしまう。
「ほら、ソースがついてるぞ?」
「え、え? ど、どこ?」
その焦る顔を堪能しながら、ナハムは唇の端に美味しそうについているソースを、ペロリと舐める。
「んー、なかなか落ちないなぁ」
しらじらしい声で言い訳しながらナハムはたっぷりと満足いくまで舐め尽す。
「ぁっ、あ、ナ、ナハ、ムゥッ、やぁ、んっ」
あ、やばい、やりすぎた。
可愛い声にハッと我に返ったときには、ハァルは羞恥に顔を真っ赤に染めていて、脇に控えたスタンの手は脅すように握り締められていた。
「うん、よしよし、ソースはもう、ついてないぞ」
「あ、あり、が、とう」
上目遣いのハァルに内心身悶えつつ、スタンの冷たい視線から目を逸らすナハムはブルリと震えた。子供のご飯を邪魔するものには鉄拳がとんでくるに違いないのだ。
「ほら、このサラダはなかなかおいしいぞ」
これで文句はないだろう。生野菜だってモリモリ食わせているからな。
偉そうに手柄を主張するナハムの主導で進む食事は、ハァルの預かり知らぬところで緊張感をはらんだまま、平和に再開された。
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