みにくいおでぶの子

みちる

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 ちっ、相変わらず目端の利く奴だ。逃走は無理だな。
 宿の要所要所に騎士が配備されていて、モリィとは違うスタンの徹底っぷりにナハムは早々に諦めるしかない。
 さらに毎度スタンに敵わないと思うのは、駄目と線引きされた部分に関しては厳しいが、それ以外については割と緩くナハムの希望を通してくれる所だ。
 今もさりげなくだが、挿入さえしなければ、それ以外については目をつぶると言われたも同然で、今頃、スタンはちょっと頭の固すぎるモリィを説得してくれているだろう。
 この国、というより世界中で未成年は大事に庇護される対象で、厳しく取り締まられている。よほどの事情がない限り未成年者は保護者の元から離れることはなく、特に性交に関しては厳しく禁じられていて、発覚すればそれが同意の上であったとしても最悪死刑もありうる。
 どこまでも快楽主義なこの国の国民性もあり、最後までしなければ良い、というスレスレな行為は影で蔓延していて、本当に未成年が守られているのかは激しく疑問だが、どうみても十四歳、いや十二歳くらいだろうハァルとの性交は確実に禁忌といわれるものだ。
 モラルの低すぎる男ナハムにも、その禁忌は身に染み付いていて、せめて室内で事に及ぼうと我慢に我慢を重ねていたのだが、過ちを犯す寸前に踏みとどまれたのはスタンのおかげといえた。
 ご馳走を目の前にして、待て状態のナハムの心情としては要らぬ世話といいたいところだが。

 さて、無粋な二人の男が聞き耳を立ててはいるが、ここには俺とハァルの二人きり。
 待ちに待った二人きりの空間だと思えば、底辺まで下がっていたナハムの機嫌も上向く。

「ついたぞ。ほら、起きろ」

 目を開きそうで開かないハァルに焦れて、優しく囁くようにその目覚めを促してやると、綺麗な緑色の瞳がパチリと開き、ナハムを見つめて安心するようにふにゃりと細められた。
 あまりにも可愛くて、じっとそのまま見つめていると、ハァルは何かに気づいたような顔になり、おろおろとうろたえ始める。

 そういえば移動中、寝てはいけないと言わんばかりに何度も背筋を伸ばしていたな。律儀で可愛い奴だ。
 揺れる瞳に見つめられ、蕾がほころぶかのように唇が震えるのを感動と共に眺めていたナハムは、謝ろうとして開かれたであろうその口を素早く手で塞ぐ。そして柔らかな唇が手の平に当たる感触に盛大にニヤけた。

「シィー、ちょっと静かにしてろ?」

 至近距離でナハムに囁かれ、コクコクと頷きながら、その婀娜っぽい笑みにハァルの胸はドキドキと高鳴る。

 だから、可愛すぎだろ?
 頷きポヤンと見つめ返すハァルにナハムはニヤニヤが止まらない。

「ずっと担がれて疲れただろう? どこも痛くないか? ん? ここがちょっと赤くなっているぞ?」

 え、痛くないけど、赤くなってる? あ、あっ、触られちゃった。
 トロトロに甘やかすような口調で心配され、服を捲り上げじっくり体を眺められた上に、愛おしげに撫でられ、その心地よさに心は甘く痺れ、恥ずかしくて、嬉しくて、ハァルは赤らむ顔を隠そうと、両手で顔を押さえて首を振る。

 顔を隠してイヤンイヤンだとっ?
 白くて柔らかい肌を思う存分眺め揉み倒したナハムは、手で顔を隠しイヤイヤと首を振り始めたハァルを前に、目がくらむような衝撃を受けていた。
 慌てて目線を下げれば、そこには服を捲りあげたままで曝け出されたハァルのかわいい腹が白くプルンプルンと揺れている。

 けしからんっ、可愛い腹が丸見えだっ、誰が捲りあげたっ? あ、俺か? ちょっと待て、落ち着け俺、そういえばスタンがいたな。言質だ。言質をとるんだ。
 強すぎる刺激に混乱気味なナハムは魅惑的な光景に目を奪われながらも、奇跡的に当初の予定を思い出す。

「どうした? いやだったか?」

 内心を隠し優しく問いかけるナハムに、ハァルは恥ずかしげに首を横に振る。

 なんだこのかわいいの、なんだこのかわいいのっ、なんだこのかわいいのっ!?
 潤んだ瞳のハァルが上目遣いでジッとこちらを伺う可愛らしさが、ナハムの少ない忍耐力をガリガリと削り取っていく。

「顔が赤い、息も少し荒いようだ。具合が悪いのか?」

 体調が悪いんじゃしょうがないな。うん、しょうがない。保護者として確かめなければ。
 無理矢理な言い訳で自身を正当化したナハムは気遣わしげな表情まで作ると、体温を確かめるふりで耳の裏や脇を撫でさすり滑らかな肌触りを愉しみ始めた。せっかく奇跡的に思い出した言質をとる目的は脳内から綺麗さっぱり消えている。
 
「ぁっ、やっ、ぅんっ」

 漏れた声の恥ずかしさに口を押さえたハァルの手がナハムに掴まれる。

「手も熱くはないな、熱はないようだぞ?」
「あっ、うっ、あ、あのっ」

 はぁ、手ちっちゃくてすべすべでプニプニ。かわいいたまらん。
 ハァルの手を握り、どこもかしこも手触りの良い身体に相好を崩しっぱなしのナハムを詰るかのように、控えの部屋からガンッと壁を殴るような音が響く。

「ぇ、な、なにか、音が……?」

 ちっ、分かってる分かってる、これからだ。言質だな言質。
 急かされムッとするが、ハァルの手前ぐっと我慢するナハム。

「ああ、小さな手だ。あんな森に一人でいたなんて、可哀想に、俺がいるからもう安心だぞ」
「あ、う、うん、ナ、ナハ、ム、あ、あり、が、と」
「これから先、お前を一人にはしない。ずっと一緒にいてやる」
「えっ、あ、あの、ほ、ほん、と、に?」
「お前にひどいことをしていた両親の所に帰る必要はないからな? 俺がたっぷり可愛がってやる」
「あ、う、うれ、しっ、ナ、ナハ、ム、だ、だいす、きっ」

 後ろからガタガタと音がしても、嬉しさに舞い上がり確認するどころではないハァルは、ナハムの逞しい腕の感触にうっとりと顔を綻ばせている。

 ほらみろ、ハァルは俺に感謝してるし、こんなに懐いてるし、気持ちよさ気に触り放題させてくれてるじゃないかっ。
 ガタガタと騒がしい控えの部屋のドアを勝ち誇った顔で眺めるナハムは、可愛くてしょうがない目の前の身体をギュッと抱き寄せた。















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