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ハァルを大事に抱え込んだナハムは、それこそ風のように森を駆けていた。
かなりの重量になる野営用の荷物を背負った上に、ハァルまで抱えているのだが、それを感じさせない速度はナハムの高すぎる身体能力を示している。
それでいて、ずっと鼻歌を歌っているのは異常としか言えない。
凄い、すごいっ、こんなスピードで走れるなんてっ。
ビュンビュンと通り過ぎていく光景をハァルは目を輝かせて眺めていた。
爆発的なバネを備えた下半身を駆使した人間離れした速度で走るナハムは、障害物を避けるときでさえその上半身をほとんど揺らすことはない。
くるんと丸まった身体は大きな皮の巾着袋に身体の部分をすっぽり包まれ、首だけ外に出した状態でナハムの腹部分に縛り付けられたハァルは、微かな揺れに身をゆだねていた。
この人、本当にすごい人なんだ。
超人的な身体能力を前に憧れや尊敬の念が湧き出たハァルは、感嘆のため息をほぉっと吐き出す。
「疲れてないか? 遠慮なく言えよ?」
ため息を敏感に察知したナハムの気遣う声にハァルの頬が嬉しさに緩むが、次の瞬間あらぬところを揉まれ驚きに顔を歪める。
「あ、あの、そ、そこ、ちが、お、おし、りっ、ぁんっ」
「ん? ここが痛いのか? ここか?」
「あっ、だ、だか、らっ、ち、ちがっ、あ、あっ、そ、そこ、お、おし、やぁんっ」
皮袋に手をつっこんでゴソゴソと身体の具合を見てくれているナハムに、何度揉んでいるのはお尻だと指摘しても伝わらず、ハァルは言葉をすべらかに喋る特訓を密かに決意させられた。
うんうん、大丈夫、俺は何も間違ってはいない。素晴らしい尻だ。たまらんけしからん。
基本ナハムは耳も良く、ハァルが吃ろうが声が小さかろうが聞き逃すことなんてことはあり得ない。
優しく声をかけながら思う存分触り心地の良いやわらかい尻を揉みしだき、感度抜群なハァルの声にニヤけつつ、ナハムは活力を補充する。
時折、襲ってくる命知らずの魔獣も瞬殺で先を急ぐ。
ああ、今の魔獣、角がすげぇ高値で売れるやつっ!
多少惜しくても今は大事な大事なハァルが腕の中にいるのだから、貴重な素材も肉も全て置き去りだ。その後もハァルがウトウトとする度に優しく声をかけ尻を揉むのを繰り返した。
よっぽど一人で寂しかったんだろうな。よぉし、よし、俺にべたべたに懐かせてやろう。
最初は警戒するように身を固くしていたハァルが、段々と慣らされ力を抜き身体を預け始めている様をナハムはたっぷりと愉しむ。
そんなナハムの内心など知らないハァルには、自分のことを気遣い人間扱いしてくれるナハムをいつまでも警戒し続けることは到底無理で、こんないい人に名乗ってさえもいない、と心を痛める。
「あ、あの、ぼ、ぼく、の、な、なまっ、なま、え、ハ、アル、ハァ、ル、です」
「ん? そうか、ハァルというのか。かわいい名前だな」
名乗りながらも小さな警鐘はハァルの中で鳴り続けていて、緊張に身体が小刻みに震えたが、それはナハムの嬉しそうに弾んだ声に綺麗に掻き消された。
「ハァル、ハァルか。なぁ、ハァルって花の名前なのは知ってたか?」
「う、うん、し、知って、る」
「珍しい花で、俺は一度しかみたことがないが、丁度こんな香りで……」
あれ? なんだ、この香りは? 花の蜜みたいな……これはハァルの身体から?
やっと聞き取れるような声と共にハァルの身体からなんともいえない香りが漂い、ナハムはそれを胸いっぱい吸い込んだ。
ああ、なんだこれ……ハァル、ハァル、名前も可愛いが、この匂いも甘くてハァルにぴったりだ。しかし、身体から花の香りがするなんて、どこかで聞いたような……。
「ぐっ、うっ、ぅ……っ」
考え込んでいたナハムは突然身体を揺さぶるような動悸と奥底から炙られるような身体の熱に襲われ呻いた。
少し身じろぐと身体の奥が物欲しげに疼き喉が妙に渇く。無意識にペロリと唇を舐めながら、ナハムは覚えのある感覚に戸惑うと共に思考をめぐらせる。
「ナ、ナハ、ム?」
ああ、間違いなくこれは――。
甘くて澄んだ声がナハムの耳の産毛をゾワリと撫で上げ、愛しさに頬が緩む。
以前同じような状態異常を起した時のことをナハムは思い出すが、その発動条件がわからず首を傾げる。
「ど、どうし、た、の?」
「あ、ああ、すまない少し考え事をしていた。なんだったかな、そうそう、可憐で可愛らしい白い花でハァルのような花だと言いたかったんだ」
ハァルの気遣う声に反応して見せたナハムは調子よく話を続ける。
少し声が掠れてしまっているがハァルがそれに気づいた様子はない。ハァルが変わらず無邪気で悪意がないことも、状態異常を故意に発動させたわけではないことも、ナハムには容易く察することが出来た。
「え、えっ、か、かっ、かれ、ん? え、ぼ、ぼく、が?」
「ハァルはどこもかしこもうまそ、いや可愛いくて、可憐で守ってやりたくなる花のようだという話だ。なんだ真っ赤になって、可愛い奴だな」
ああ、でも、こいつ懐くとまた破滅的に可愛いな。よしよし、最高に気持ちよくシテやるからな。
面白いように動揺し可愛い反応を示すハァルにニヤニヤするナハムは、自分に起こった不可解な現象にはいったん目をつぶる事にした。
特殊な能力と言っても、無意識に発動したものに罪はなく、そんなに目くじらを立てるものではないのだから。
かなりの重量になる野営用の荷物を背負った上に、ハァルまで抱えているのだが、それを感じさせない速度はナハムの高すぎる身体能力を示している。
それでいて、ずっと鼻歌を歌っているのは異常としか言えない。
凄い、すごいっ、こんなスピードで走れるなんてっ。
ビュンビュンと通り過ぎていく光景をハァルは目を輝かせて眺めていた。
爆発的なバネを備えた下半身を駆使した人間離れした速度で走るナハムは、障害物を避けるときでさえその上半身をほとんど揺らすことはない。
くるんと丸まった身体は大きな皮の巾着袋に身体の部分をすっぽり包まれ、首だけ外に出した状態でナハムの腹部分に縛り付けられたハァルは、微かな揺れに身をゆだねていた。
この人、本当にすごい人なんだ。
超人的な身体能力を前に憧れや尊敬の念が湧き出たハァルは、感嘆のため息をほぉっと吐き出す。
「疲れてないか? 遠慮なく言えよ?」
ため息を敏感に察知したナハムの気遣う声にハァルの頬が嬉しさに緩むが、次の瞬間あらぬところを揉まれ驚きに顔を歪める。
「あ、あの、そ、そこ、ちが、お、おし、りっ、ぁんっ」
「ん? ここが痛いのか? ここか?」
「あっ、だ、だか、らっ、ち、ちがっ、あ、あっ、そ、そこ、お、おし、やぁんっ」
皮袋に手をつっこんでゴソゴソと身体の具合を見てくれているナハムに、何度揉んでいるのはお尻だと指摘しても伝わらず、ハァルは言葉をすべらかに喋る特訓を密かに決意させられた。
うんうん、大丈夫、俺は何も間違ってはいない。素晴らしい尻だ。たまらんけしからん。
基本ナハムは耳も良く、ハァルが吃ろうが声が小さかろうが聞き逃すことなんてことはあり得ない。
優しく声をかけながら思う存分触り心地の良いやわらかい尻を揉みしだき、感度抜群なハァルの声にニヤけつつ、ナハムは活力を補充する。
時折、襲ってくる命知らずの魔獣も瞬殺で先を急ぐ。
ああ、今の魔獣、角がすげぇ高値で売れるやつっ!
多少惜しくても今は大事な大事なハァルが腕の中にいるのだから、貴重な素材も肉も全て置き去りだ。その後もハァルがウトウトとする度に優しく声をかけ尻を揉むのを繰り返した。
よっぽど一人で寂しかったんだろうな。よぉし、よし、俺にべたべたに懐かせてやろう。
最初は警戒するように身を固くしていたハァルが、段々と慣らされ力を抜き身体を預け始めている様をナハムはたっぷりと愉しむ。
そんなナハムの内心など知らないハァルには、自分のことを気遣い人間扱いしてくれるナハムをいつまでも警戒し続けることは到底無理で、こんないい人に名乗ってさえもいない、と心を痛める。
「あ、あの、ぼ、ぼく、の、な、なまっ、なま、え、ハ、アル、ハァ、ル、です」
「ん? そうか、ハァルというのか。かわいい名前だな」
名乗りながらも小さな警鐘はハァルの中で鳴り続けていて、緊張に身体が小刻みに震えたが、それはナハムの嬉しそうに弾んだ声に綺麗に掻き消された。
「ハァル、ハァルか。なぁ、ハァルって花の名前なのは知ってたか?」
「う、うん、し、知って、る」
「珍しい花で、俺は一度しかみたことがないが、丁度こんな香りで……」
あれ? なんだ、この香りは? 花の蜜みたいな……これはハァルの身体から?
やっと聞き取れるような声と共にハァルの身体からなんともいえない香りが漂い、ナハムはそれを胸いっぱい吸い込んだ。
ああ、なんだこれ……ハァル、ハァル、名前も可愛いが、この匂いも甘くてハァルにぴったりだ。しかし、身体から花の香りがするなんて、どこかで聞いたような……。
「ぐっ、うっ、ぅ……っ」
考え込んでいたナハムは突然身体を揺さぶるような動悸と奥底から炙られるような身体の熱に襲われ呻いた。
少し身じろぐと身体の奥が物欲しげに疼き喉が妙に渇く。無意識にペロリと唇を舐めながら、ナハムは覚えのある感覚に戸惑うと共に思考をめぐらせる。
「ナ、ナハ、ム?」
ああ、間違いなくこれは――。
甘くて澄んだ声がナハムの耳の産毛をゾワリと撫で上げ、愛しさに頬が緩む。
以前同じような状態異常を起した時のことをナハムは思い出すが、その発動条件がわからず首を傾げる。
「ど、どうし、た、の?」
「あ、ああ、すまない少し考え事をしていた。なんだったかな、そうそう、可憐で可愛らしい白い花でハァルのような花だと言いたかったんだ」
ハァルの気遣う声に反応して見せたナハムは調子よく話を続ける。
少し声が掠れてしまっているがハァルがそれに気づいた様子はない。ハァルが変わらず無邪気で悪意がないことも、状態異常を故意に発動させたわけではないことも、ナハムには容易く察することが出来た。
「え、えっ、か、かっ、かれ、ん? え、ぼ、ぼく、が?」
「ハァルはどこもかしこもうまそ、いや可愛いくて、可憐で守ってやりたくなる花のようだという話だ。なんだ真っ赤になって、可愛い奴だな」
ああ、でも、こいつ懐くとまた破滅的に可愛いな。よしよし、最高に気持ちよくシテやるからな。
面白いように動揺し可愛い反応を示すハァルにニヤニヤするナハムは、自分に起こった不可解な現象にはいったん目をつぶる事にした。
特殊な能力と言っても、無意識に発動したものに罪はなく、そんなに目くじらを立てるものではないのだから。
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