119 / 121
第百十九話
しおりを挟む
朝からなんだか落ち着かない。
サナがエッチに起こしてくれて、服まで着せてくれる朝に慣れてしまっているようだ。
靴下がしまってある引き出しの位置さえわからない。
なんか昭和の亭主関白オヤジのようだな。
これから結婚式を控えているんだし、当然と言えば当然かも知れないが、今日はまだ誰も抱いていない。
アリシアとしようと思ったが、俺が起きた時には着替えにバタバタしていたので諦めた。
結婚式と言うイベントが初めてだからと言うのもあるだろうが、皆も落ち着かないようでソワソワした空気感がそうさせてくれなかったのもあるな。
メイドや使用人の皆は披露宴の準備にも走り回ってたし。
そう言えば、売店では今日の結婚式に向けてサマードレスが売れに売れた。
メイドも使用人も騎士も、参列希望者を事前に募ったんだが全員が参加希望を出してくれたので、皆がドレスを買ったからだ。
披露宴は屋敷で行うので、教会での式への参列は抽選にして留守番組と出席組に分けようかとも思ったが、折角なら皆にも見てもらいたいと考えを改めて全員出席の方針に切り替えた。
そうなると式の間は屋敷がもぬけの殻になってしまう。
結界魔法で屋敷を囲んでおくことも考えたんだが、レイナの計らいで王宮から第五騎士隊がピンチヒッターに来てくれることになった。
今はその第五騎士隊隊長のケリーと副隊長のエレナ、騎士団長レイナ、第一騎士隊隊長サテラ、第二騎士隊隊長ルコア、そして俺の六人で引継ぎを行っているところだ。
現在の王宮騎士団は、第五騎士隊までは鎧や刀ではなく戦闘服にプレートキャリアと自動小銃を装備しており、最近はうちの騎士隊と一緒に第三・第四・第五騎士隊も日替わりで射撃訓練や戦闘訓練に参加してもらっている。
それだけに『第三騎士隊を編入しろ』という動きがあったんだが、それをやってしまうとなし崩し的に第五騎士隊まで受け入れることになりかねないので、それは出来ない。
ゆくゆくは全騎士隊に近代武装を装備させるつもりなのだが、そうしたからと言う理由で全ての騎士隊をこの屋敷に受け入れることは現実的に出来ないからな。
未希、あずさ、陽菜の三人を教会で下ろし、俺はサナを迎えに行く。
三人に先行して教会で待機してもらったのは、サナの着付けやヘアメイクなどを頼んであるからだ。
特にあずさは結婚式場でヘアメイクを担当していた職歴も有るので頼りになる。
サナの実家の前に愛車を駐車すると、待ち構えていたようにサナが飛び出して来た。
「ダーリン♡ お会いしたかったです♡」
俺に抱き付いて、家族の前だと言うのに熱烈なキスをして来る。
でも、恥ずかしくはあるけど悪い気はしないので俺もそのキスを迎え撃つ。
「俺も淋しかった。会いたかったよ」
サナを抱き締めて耳元で囁く。
今日はサナの家族たちも全員鮮やかな色彩のドレスで着飾っている。
「お母上様もお祖母様も、よくお似合いでいらっしゃいますね。勿論、ユミルちゃんも」
お母上の隣で照れくさそうに微笑むサナの妹のことも褒める事は忘れない。
「英樹殿、本日は宜しくお願い致します」
「こちらこそです。お引越しの準備などでお忙しいところに、お手を煩わせてしまって…」
「いいえ。この国で王家以外の結婚式なんて初めての試みですし、その初めての結婚式が我が娘の結婚式なんですから、何を置いても出席しないわけにまいりません」
サナの実家は引っ越しを控えているんだ。
お母上のエミーナさんが授爵して屋敷を与えられたから、その屋敷に引っ越すんだ。
とはいえ、今のこの家もそのまま置いておくそうだけど。
「はい。見えない所でもお母上にも色々とお役目をお願いして申し訳ありませんが、宜しくお願い致します」
サナにヴェールを掛けたり、ヴァージンロードを歩いたり新婦の母としての役割を色々とお願いしてある。
「私など特にお役に立てることも有りませんのに…、お招きいただいてよろしかったのですか?」
サナの謙虚さはお祖母さん譲りなのかもな。
「いいえ。お祖母様にはサナの晴れ姿を見届けていただくという大切な役割が有ります。それに、家族としてサナと私の祝いの門出を見守っていただきたいです」
そう返事をすると、お祖母さんはボロボロと涙を流して喜んでくれた。
ユミルちゃんにはフラワーガールをお願いしている。
「サナとは既に結婚証明書を書いて正式な夫婦となっていますが、今日は私たち二人にとって大切な日になります。その大切な日を皆さんと一緒に盛大に祝いたいんです」
まぁ、日本にも結婚式の前に入籍して一緒に暮らし始めた夫婦だっている。
それと同じことだ。
俺の言葉に感動したのか、お母上やサナまで泣き出してしまった。
ユミルちゃんだけは、最後まで何だか解らなかったようだけど。
教会に到着してサナを未希たちに頼み、俺は自分の準備を済ませる。
アリシアが来てくれたので、着替えを手伝ってもらった。
今日の俺は第一種礼装に身を包んでいる。
借りるつもりで準備していたが、何度も着ることになりそうなので制服屋に頼んで購入した。
昨夜は当番のリサ、イルマ、エルマ、クリスとのセックスを楽しんだ後、アリシアの部屋に泊めてもらった。
セックス?もちろんしたさ。
美少女と寝ていて、しかもそれが妻なんだもん。可愛い妻とのセックスを楽しまない方がおかしいだろう。
暇なのか、ユミルちゃんが俺の控室に遊びに来ている。
そんなことも有るかと思ってトランプを持って来ておいた。
ユミルちゃんとはフラワーガールの練習や打ち合わせなどで顔を合わせることも多かったので、トランプの遊び方を教えていたんだ。
それでトランプ、特に七ならべにハマっているらしい。
新品のトランプをあげたら学校に持って行くようになり、休憩時間には級友たちとババ抜きや大富豪に興じているそうだ。
「お兄ちゃん、友達も皆『欲しい』って言ってるから街でも売ってよ」
とお願いされてしまった。
『くれ』と言わない謙虚さが素晴らしいな。
この世界にも多少の娯楽は有るが、子供が遊べるようなゲームなどが少ない。
なので、トランプやオセロなどの簡単なゲームを持ち込んでみようと思う。
一応俺もこの世界の貴族なので、子供ウケを狙ってみようと思うんだ。
ユミルちゃんとアリシアと三人でババ抜きに興じていると
「英樹様、ご招待客の元老院の方々がいらしています」
とレイナが呼びに来てくれた。
「ありがとう。このゲームの決着が着くまで待たせておいて」
元老院の貴族より、義理の妹にババ抜きで勝つ方が大事だ。
ちなみに、この回はアリシアが一抜けしたので俺とユミルちゃんでビリ決定戦なんだ。
この世界にこのゲームを持ち込んだ者として負けるわけにはいかない…
が、負けた。
最後の最後にババを引いてしまった。
いや、子供相手だからな。手加減したんだよ。
子供相手に本気を出して一抜けするアリシアが大人気ないんだよ。
…そういうことにしておいてください…。
元老院の議員である貴族たちと話をしていると、貴族院の貴族たちも集まって来た。
その中にはアリシアのお母上もいたので、一緒に挨拶をしておいた。
結婚したことはアリシアもまだ言っていなかったようで、かなり驚かれたが
「安田侯爵様!娘を宜しくお願いいたします!」
と、土下座せんばかりの勢いで深々と頭を下げられた。
「こちらこそです。今日と同じ結婚式を近いうちにアリシアとも行います。結婚式では主役である花嫁もその母も大切な役割がたくさん有ります。今日のイーストバレー子爵と同じことをしていただくことになるので、よくご覧になっておいてください」
「はい!エミーナ殿からも色々と教えを乞います」
アリシアが言っていたが、サナのお母上とアリシアのお母上は仲が良いらしい。
サナのお母上が授爵する前の侍女時代から王宮でのマナーや取り決めについて色々と教えてもらっていたと、ご本人も言っていた。
「そうでしたか。であれば、話が早いですね。お忙しい中お手を煩わせて申し訳ありませんが、宜しくお願い致します」
俺も深く頭を下げ、結婚の挨拶とさせてもらった。
花嫁であるサナの準備も整い、未希とあずさが新郎側の親族席に着席する。
それが式の準備が整った合図になっている。
陽菜は花嫁の介添え役になってもらったので、サナの後ろから一緒に入場してくる。
なんと、俺の親族席にはカレン女王陛下とセリカまでいる。
神父役の司教に目配せをすると、小さく頷いた司教が合図をしてシスターがパイプオルガンの演奏を始める。
演奏が始まると扉がゆっくりと開き、純白のウエディングドレスに身を包んだサナが姿を現す。
その美しさに詠嘆の声が上がるが、聖歌隊の讃美歌が始まりすぐに静まり返る。
信心深いこの世界では、どれだけ感動したり驚いたりしても讃美歌はキッチリ歌うのが常識らしい。
窓の外からも見物に来た街の人たちの賞嘆が聞こえる。
そんな中、フラワーガールのユミルちゃんが花びらで清めたヴァージンロードをお母上に手を引かれたサナがゆっくりと俺に向かって歩いて来る。
綺麗だ…。
俺も感動して思わず溜息を漏らしてしまう。
俺の横まで歩いて来たサナの手を母上から受け取る。
「英樹殿、サナを宜しくお願い致します」
お母上が深々と頭を下げる。
「畏まりました。お任せください」
俺も深く頭を下げたいところだが、礼帽を被っているので敬礼で返礼する。
お母上とユミルちゃん、介添えの陽菜が着席したのを見届けてサナの手を取り壇上に上がって向き合う。
「白いヴェールは悪魔から花嫁を守ると言い伝えられています。母の庇護から離れ新郎の手に委ねられるまで、花嫁を守るためにその母によって下ろされたヴェールは、これから新婦を庇護して行く新郎の手によって上げられます。これは母に代わりこれからは新郎が新婦を守り慈しむ誓いの現れなのです」
司教が説明を交えながら式を進行して行く。
この世界ではそんな言い伝えなど無く捏造なのだが、司教の言う事なので皆が信じている。
なので、その説明にいちいち感嘆の声が上がる。
控室でお母上に下ろしてもらったサナのヴェールを俺の手で上げると、いつもの可愛らしいサナよりも化粧によって少しだけ大人びて見える綺麗なサナの顔が現れる。
「サナ、いつも可愛いけど、今日はすごく綺麗だよ」
美しいサナに思わずそう声を掛ける。
「ダーリンもとっても凛々しくて、素敵ですよ♡」
と可愛い笑顔で返してくれる。
「新婦サナ、貴女はここにいる新郎英樹を病める時も健やかなる時も、富める時も貧しき時も、夫として生涯愛し、敬い、慈しむことを誓いますか?」
お馴染みの誓いの言葉だが、日本の教会式とは順番を変えてある。
「はい。誓います」
「新郎英樹、貴方はここにいる新婦サナを病める時も健やかなる時も、富める時も貧しき時も、妻として愛し、敬い、先程新婦のヴェールを上げた時と同様に生涯を懸けて守り慈しむことを誓いますか?」
この誓いの言葉も少しだけアレンジしてある。
「はい。誓います」
元気よく答えたい所だが、紳士らしく厳かに返事をする。
「では、二人でこの『結婚宣誓書』にサインを」
この世界では『結婚証明書』は二人で書いて保管しておき、出産などで必要な時に見せる。
教会は役所の役割も果たしているので、司教がその結婚証明書にサインをすることでより万全な結婚証明書となる仕組みになっている。
結婚式の流れとしてはこのタイミングで司教のサインを記入してもらうことにするべきだが、俺とサナの結婚証明書には既に司教のサインが入っている。
なので、多少強引かも知れないが『結婚宣誓書』という書類を新たに作った。
先程の誓いの言葉と同じ文言が入った書類に二人でサインして
『神の御前で生涯の愛を誓い合った』
ことを宣誓するための書類となっていて、これは教会にて保管される決まりになっている。
日本で言う婚姻届けに近いもんだと言えば良いのか?
つまり、これまでこの世界の婚姻は結婚証明書によって個人で管理していただけだが、これからは結婚宣誓書によって教会でも管理することになり、教会としてもこの世界に結婚式を根付かせたいという狙いもあるし願ったり叶ったりなわけだ。
サナと二人で結婚宣誓書にサインをして、司教に手渡す。
「では新郎英樹、新婦サナに誓いの指輪を」
ポケットからサナの指輪を取り出してサナの指に嵌める。
「新婦サナ、新郎英樹に誓いのキスを」
サナが俺の唇にキスをしてくれる。
いつもみたいなディープなキスではないけれど、こういうキスも良いもんだ。
司教はそのキスを見届けて
「今ここに二人の夫婦の誓いを受け取りました。司教の名に於いてこの婚姻を祝福し、何人の異論も認めません」
と宣言する。
それと同時に教会の内外から拍手喝采が起こり、俺たちは祝福の歓声に包まれた。
サナがエッチに起こしてくれて、服まで着せてくれる朝に慣れてしまっているようだ。
靴下がしまってある引き出しの位置さえわからない。
なんか昭和の亭主関白オヤジのようだな。
これから結婚式を控えているんだし、当然と言えば当然かも知れないが、今日はまだ誰も抱いていない。
アリシアとしようと思ったが、俺が起きた時には着替えにバタバタしていたので諦めた。
結婚式と言うイベントが初めてだからと言うのもあるだろうが、皆も落ち着かないようでソワソワした空気感がそうさせてくれなかったのもあるな。
メイドや使用人の皆は披露宴の準備にも走り回ってたし。
そう言えば、売店では今日の結婚式に向けてサマードレスが売れに売れた。
メイドも使用人も騎士も、参列希望者を事前に募ったんだが全員が参加希望を出してくれたので、皆がドレスを買ったからだ。
披露宴は屋敷で行うので、教会での式への参列は抽選にして留守番組と出席組に分けようかとも思ったが、折角なら皆にも見てもらいたいと考えを改めて全員出席の方針に切り替えた。
そうなると式の間は屋敷がもぬけの殻になってしまう。
結界魔法で屋敷を囲んでおくことも考えたんだが、レイナの計らいで王宮から第五騎士隊がピンチヒッターに来てくれることになった。
今はその第五騎士隊隊長のケリーと副隊長のエレナ、騎士団長レイナ、第一騎士隊隊長サテラ、第二騎士隊隊長ルコア、そして俺の六人で引継ぎを行っているところだ。
現在の王宮騎士団は、第五騎士隊までは鎧や刀ではなく戦闘服にプレートキャリアと自動小銃を装備しており、最近はうちの騎士隊と一緒に第三・第四・第五騎士隊も日替わりで射撃訓練や戦闘訓練に参加してもらっている。
それだけに『第三騎士隊を編入しろ』という動きがあったんだが、それをやってしまうとなし崩し的に第五騎士隊まで受け入れることになりかねないので、それは出来ない。
ゆくゆくは全騎士隊に近代武装を装備させるつもりなのだが、そうしたからと言う理由で全ての騎士隊をこの屋敷に受け入れることは現実的に出来ないからな。
未希、あずさ、陽菜の三人を教会で下ろし、俺はサナを迎えに行く。
三人に先行して教会で待機してもらったのは、サナの着付けやヘアメイクなどを頼んであるからだ。
特にあずさは結婚式場でヘアメイクを担当していた職歴も有るので頼りになる。
サナの実家の前に愛車を駐車すると、待ち構えていたようにサナが飛び出して来た。
「ダーリン♡ お会いしたかったです♡」
俺に抱き付いて、家族の前だと言うのに熱烈なキスをして来る。
でも、恥ずかしくはあるけど悪い気はしないので俺もそのキスを迎え撃つ。
「俺も淋しかった。会いたかったよ」
サナを抱き締めて耳元で囁く。
今日はサナの家族たちも全員鮮やかな色彩のドレスで着飾っている。
「お母上様もお祖母様も、よくお似合いでいらっしゃいますね。勿論、ユミルちゃんも」
お母上の隣で照れくさそうに微笑むサナの妹のことも褒める事は忘れない。
「英樹殿、本日は宜しくお願い致します」
「こちらこそです。お引越しの準備などでお忙しいところに、お手を煩わせてしまって…」
「いいえ。この国で王家以外の結婚式なんて初めての試みですし、その初めての結婚式が我が娘の結婚式なんですから、何を置いても出席しないわけにまいりません」
サナの実家は引っ越しを控えているんだ。
お母上のエミーナさんが授爵して屋敷を与えられたから、その屋敷に引っ越すんだ。
とはいえ、今のこの家もそのまま置いておくそうだけど。
「はい。見えない所でもお母上にも色々とお役目をお願いして申し訳ありませんが、宜しくお願い致します」
サナにヴェールを掛けたり、ヴァージンロードを歩いたり新婦の母としての役割を色々とお願いしてある。
「私など特にお役に立てることも有りませんのに…、お招きいただいてよろしかったのですか?」
サナの謙虚さはお祖母さん譲りなのかもな。
「いいえ。お祖母様にはサナの晴れ姿を見届けていただくという大切な役割が有ります。それに、家族としてサナと私の祝いの門出を見守っていただきたいです」
そう返事をすると、お祖母さんはボロボロと涙を流して喜んでくれた。
ユミルちゃんにはフラワーガールをお願いしている。
「サナとは既に結婚証明書を書いて正式な夫婦となっていますが、今日は私たち二人にとって大切な日になります。その大切な日を皆さんと一緒に盛大に祝いたいんです」
まぁ、日本にも結婚式の前に入籍して一緒に暮らし始めた夫婦だっている。
それと同じことだ。
俺の言葉に感動したのか、お母上やサナまで泣き出してしまった。
ユミルちゃんだけは、最後まで何だか解らなかったようだけど。
教会に到着してサナを未希たちに頼み、俺は自分の準備を済ませる。
アリシアが来てくれたので、着替えを手伝ってもらった。
今日の俺は第一種礼装に身を包んでいる。
借りるつもりで準備していたが、何度も着ることになりそうなので制服屋に頼んで購入した。
昨夜は当番のリサ、イルマ、エルマ、クリスとのセックスを楽しんだ後、アリシアの部屋に泊めてもらった。
セックス?もちろんしたさ。
美少女と寝ていて、しかもそれが妻なんだもん。可愛い妻とのセックスを楽しまない方がおかしいだろう。
暇なのか、ユミルちゃんが俺の控室に遊びに来ている。
そんなことも有るかと思ってトランプを持って来ておいた。
ユミルちゃんとはフラワーガールの練習や打ち合わせなどで顔を合わせることも多かったので、トランプの遊び方を教えていたんだ。
それでトランプ、特に七ならべにハマっているらしい。
新品のトランプをあげたら学校に持って行くようになり、休憩時間には級友たちとババ抜きや大富豪に興じているそうだ。
「お兄ちゃん、友達も皆『欲しい』って言ってるから街でも売ってよ」
とお願いされてしまった。
『くれ』と言わない謙虚さが素晴らしいな。
この世界にも多少の娯楽は有るが、子供が遊べるようなゲームなどが少ない。
なので、トランプやオセロなどの簡単なゲームを持ち込んでみようと思う。
一応俺もこの世界の貴族なので、子供ウケを狙ってみようと思うんだ。
ユミルちゃんとアリシアと三人でババ抜きに興じていると
「英樹様、ご招待客の元老院の方々がいらしています」
とレイナが呼びに来てくれた。
「ありがとう。このゲームの決着が着くまで待たせておいて」
元老院の貴族より、義理の妹にババ抜きで勝つ方が大事だ。
ちなみに、この回はアリシアが一抜けしたので俺とユミルちゃんでビリ決定戦なんだ。
この世界にこのゲームを持ち込んだ者として負けるわけにはいかない…
が、負けた。
最後の最後にババを引いてしまった。
いや、子供相手だからな。手加減したんだよ。
子供相手に本気を出して一抜けするアリシアが大人気ないんだよ。
…そういうことにしておいてください…。
元老院の議員である貴族たちと話をしていると、貴族院の貴族たちも集まって来た。
その中にはアリシアのお母上もいたので、一緒に挨拶をしておいた。
結婚したことはアリシアもまだ言っていなかったようで、かなり驚かれたが
「安田侯爵様!娘を宜しくお願いいたします!」
と、土下座せんばかりの勢いで深々と頭を下げられた。
「こちらこそです。今日と同じ結婚式を近いうちにアリシアとも行います。結婚式では主役である花嫁もその母も大切な役割がたくさん有ります。今日のイーストバレー子爵と同じことをしていただくことになるので、よくご覧になっておいてください」
「はい!エミーナ殿からも色々と教えを乞います」
アリシアが言っていたが、サナのお母上とアリシアのお母上は仲が良いらしい。
サナのお母上が授爵する前の侍女時代から王宮でのマナーや取り決めについて色々と教えてもらっていたと、ご本人も言っていた。
「そうでしたか。であれば、話が早いですね。お忙しい中お手を煩わせて申し訳ありませんが、宜しくお願い致します」
俺も深く頭を下げ、結婚の挨拶とさせてもらった。
花嫁であるサナの準備も整い、未希とあずさが新郎側の親族席に着席する。
それが式の準備が整った合図になっている。
陽菜は花嫁の介添え役になってもらったので、サナの後ろから一緒に入場してくる。
なんと、俺の親族席にはカレン女王陛下とセリカまでいる。
神父役の司教に目配せをすると、小さく頷いた司教が合図をしてシスターがパイプオルガンの演奏を始める。
演奏が始まると扉がゆっくりと開き、純白のウエディングドレスに身を包んだサナが姿を現す。
その美しさに詠嘆の声が上がるが、聖歌隊の讃美歌が始まりすぐに静まり返る。
信心深いこの世界では、どれだけ感動したり驚いたりしても讃美歌はキッチリ歌うのが常識らしい。
窓の外からも見物に来た街の人たちの賞嘆が聞こえる。
そんな中、フラワーガールのユミルちゃんが花びらで清めたヴァージンロードをお母上に手を引かれたサナがゆっくりと俺に向かって歩いて来る。
綺麗だ…。
俺も感動して思わず溜息を漏らしてしまう。
俺の横まで歩いて来たサナの手を母上から受け取る。
「英樹殿、サナを宜しくお願い致します」
お母上が深々と頭を下げる。
「畏まりました。お任せください」
俺も深く頭を下げたいところだが、礼帽を被っているので敬礼で返礼する。
お母上とユミルちゃん、介添えの陽菜が着席したのを見届けてサナの手を取り壇上に上がって向き合う。
「白いヴェールは悪魔から花嫁を守ると言い伝えられています。母の庇護から離れ新郎の手に委ねられるまで、花嫁を守るためにその母によって下ろされたヴェールは、これから新婦を庇護して行く新郎の手によって上げられます。これは母に代わりこれからは新郎が新婦を守り慈しむ誓いの現れなのです」
司教が説明を交えながら式を進行して行く。
この世界ではそんな言い伝えなど無く捏造なのだが、司教の言う事なので皆が信じている。
なので、その説明にいちいち感嘆の声が上がる。
控室でお母上に下ろしてもらったサナのヴェールを俺の手で上げると、いつもの可愛らしいサナよりも化粧によって少しだけ大人びて見える綺麗なサナの顔が現れる。
「サナ、いつも可愛いけど、今日はすごく綺麗だよ」
美しいサナに思わずそう声を掛ける。
「ダーリンもとっても凛々しくて、素敵ですよ♡」
と可愛い笑顔で返してくれる。
「新婦サナ、貴女はここにいる新郎英樹を病める時も健やかなる時も、富める時も貧しき時も、夫として生涯愛し、敬い、慈しむことを誓いますか?」
お馴染みの誓いの言葉だが、日本の教会式とは順番を変えてある。
「はい。誓います」
「新郎英樹、貴方はここにいる新婦サナを病める時も健やかなる時も、富める時も貧しき時も、妻として愛し、敬い、先程新婦のヴェールを上げた時と同様に生涯を懸けて守り慈しむことを誓いますか?」
この誓いの言葉も少しだけアレンジしてある。
「はい。誓います」
元気よく答えたい所だが、紳士らしく厳かに返事をする。
「では、二人でこの『結婚宣誓書』にサインを」
この世界では『結婚証明書』は二人で書いて保管しておき、出産などで必要な時に見せる。
教会は役所の役割も果たしているので、司教がその結婚証明書にサインをすることでより万全な結婚証明書となる仕組みになっている。
結婚式の流れとしてはこのタイミングで司教のサインを記入してもらうことにするべきだが、俺とサナの結婚証明書には既に司教のサインが入っている。
なので、多少強引かも知れないが『結婚宣誓書』という書類を新たに作った。
先程の誓いの言葉と同じ文言が入った書類に二人でサインして
『神の御前で生涯の愛を誓い合った』
ことを宣誓するための書類となっていて、これは教会にて保管される決まりになっている。
日本で言う婚姻届けに近いもんだと言えば良いのか?
つまり、これまでこの世界の婚姻は結婚証明書によって個人で管理していただけだが、これからは結婚宣誓書によって教会でも管理することになり、教会としてもこの世界に結婚式を根付かせたいという狙いもあるし願ったり叶ったりなわけだ。
サナと二人で結婚宣誓書にサインをして、司教に手渡す。
「では新郎英樹、新婦サナに誓いの指輪を」
ポケットからサナの指輪を取り出してサナの指に嵌める。
「新婦サナ、新郎英樹に誓いのキスを」
サナが俺の唇にキスをしてくれる。
いつもみたいなディープなキスではないけれど、こういうキスも良いもんだ。
司教はそのキスを見届けて
「今ここに二人の夫婦の誓いを受け取りました。司教の名に於いてこの婚姻を祝福し、何人の異論も認めません」
と宣言する。
それと同時に教会の内外から拍手喝采が起こり、俺たちは祝福の歓声に包まれた。
0
お気に入りに追加
519
あなたにおすすめの小説
勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス
R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。
そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。
最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。
そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。
※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
月が導く異世界道中
あずみ 圭
ファンタジー
月読尊とある女神の手によって癖のある異世界に送られた高校生、深澄真。
真は商売をしながら少しずつ世界を見聞していく。
彼の他に召喚された二人の勇者、竜や亜人、そしてヒューマンと魔族の戦争、次々に真は事件に関わっていく。
これはそんな真と、彼を慕う(基本人外の)者達の異世界道中物語。
漫遊編始めました。
外伝的何かとして「月が導く異世界道中extra」も投稿しています。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる