異世界召喚されて神様貴族生活

シロイイヌZ

文字の大きさ
上 下
105 / 121

第百五話

しおりを挟む
 黒いお姉さんは、俺を睨みつけながら言った。
「あのような弱腰の魔王に何が出来る!あの小娘に代わって、私が世を統べる!」
ん?弱腰の魔王?小娘?
なんだ?何を言っているんだ?
「お前は魔王と敵対しているのか?」
とすれば、今回の戦闘の意味が変わって来る。
「敵対?フン、最初からあんな小娘など相手にしておらんわ!」
どうやら、魔族側も『一枚岩』ってわけでは無いようだ。
「まぁ、何にしても、お前は負けたんだ。この世を統べる夢は此処で終了だ。残念だな」
「私は負けてなどいない!」
黒いお姉さんは、大層な負けず嫌いらしい。
「どうでも良いが、お前の名は『ベリシーズ』か?」
「なぜ貴様が私の名を知っている!?」
黒いお姉さんは、やはりさっき聞いた『ベリシーズ様』らしい。
「お前の部下が喋った。そりゃぁもう、ペラペラと喋った」
「なに…!?私の配下の者が…?」
「おう、めっちゃ喋った」
「その者は…」
「死んだよ。お前の下着の色までペラペラ喋ってからな」
まぁ、嘘だけどな。
下着の色なんて聞いてないし、興味も無い。
なんなら、魔族が下着を穿いているかどうかさえ、どうでもいい。
「もう一つ聞く。バルバス帝国の王と契約した上級魔族ってのは、お前か?」
これは確認しておかないとならない。
此奴ではないなら、他にも人類側に入り込んでいる上級魔族がいるってことだしな。
「バルバス…?あぁ…、あの激弱か。ちょっと脅してやったら小便を漏らして、国宝の剣まで差し出したアイツのことか」
あのクソ野郎、そんな恥ずかしいことをしていたのか。
 それにしても、バルバスと契約していた上級魔族は此奴だとハッキリしたのは良い事だ。
「そのバルバスと、どんな契約をしたんだ?言え」
素直に歌うかどうか知らんが、一応は聞いておかないとならないだろう。
「フン。私がこの世界を統べる魔王となった暁には、人間界をくれてやる代わりに勇者を殺せと命じたまでだ」
「他にラズロフ王国にもお前の飼い犬が居るな?」
「何と言ったかな…。そう、トーマスだ。人間界を制圧したら王にしてやると言ったら、尻尾を振って『従う』と言ったぞ。そいつとも勇者を殺すよう契約したから、勇者は今頃亡き者にされているかも知れないな」
ベリシーズはドヤ顔をキメる。
「何言っちゃってんの?勇者たちなら元気だぞ?」
「は?」
「いや、俺の後ろに居る彼女たちが、勇者様御一行だが?」
キョトンとするベリシーズに、後で控えるエリスたちを指さす。
「私が勇者エリスだ。死んでなくて悪いが、今日も元気だ」
エリスが小銃を向けたまま応じる。
「そんな…バルバスはどうしたと言うのだ…?トーマスは…?あれほどの魔石を用意してやったと言うのに…」
『信じられない』と言った顔で慄くベリシーズ。
「魔石などは俺が破壊した。あと、バルバスもその手先も、その他の裏切り者も、全て死んだ」
その言葉を聞いて、ベリシーズは力尽きたようにその場に崩れ落ちる。
「あれほどの強力な魔石を…破壊しただと…?貴様…何者だ…?」
「俺か?通りすがりのちょっと強くてお嫁さんと婚約者たちが可愛くて仕方ない、普通の何処にでも居るおじさんだ」
「ちなみに、婚約者というのは私たちだ!」
エリスが妙な名乗りを上げる。
『そのマウントは必要なの?』という疑問は黙っておこう。
 そうこうしていると、その場にレイナたちが合流する。
戦士らしく、静かに粛々とベリシーズを取り囲む。
 「お前の野望は潰えた。諦めろ」
とは言っても、捕縛したところでどうすりゃ良いのか解らない。
どんな力を秘めているのかも解らない此奴を、何処にどうやって捕えておけば良いんだろうか?
「そうか…貴様のおかげで私の夢が…ならば死ねぇっ!」
そう叫ぶと、ベリシーズは一本の剣を振りかぶる。
よく解らんが、あれがバルバスの国宝っていう剣だろうか?
呑気にそんなことを考えていたら、エリスやレイナが小銃を発砲する。
単発や連射でベリシーズの身体を撃ち抜く。
 数十発の弾丸を受けてベリシーズの身体は木の葉の様に舞い、跪くように崩れ落ちる。
「グフッ…なん…だ…その…武器…は…」
なんと、血を吐いているけど此奴まだ生きていやがる。 
流石は上級魔族と言っておこうか。
「これが何なのか、お前が知る必要は無い」
そう言って、腰に付けているホルスターではなく一丁の銃を呼び出す。
500マグナムだ。
上級魔族と戦うのだし、念のために錬成しておいた。
以前、研修で海外に行った時に試射させてもらったんだ。
現状でこれほど強力な拳銃は存在しないと思われる。
なんせ、片手ではまともに撃てないんだから。
「さようならだ。永遠にな」
構えた500マグナムの引き金を絞る。
ドゴォン!
腹に響く銃声と共にベリシーズの頭が木っ端みじんに飛び散り、残された身体は後方に倒れる。
レイナとティファが小銃や軽機関銃を構えたまま身体に近寄り銃口で突くが、もう動くことは無い。
「目標、完全に沈黙」
レイナが冷静にそう告げる。
「各員に告げる。こちらバーサーカー10。聖杯は満たされた。繰り返す、聖杯は満たされた」
無線で全員に作戦の終了を告げると、歓声が上がる。
魔王討伐隊の初陣は、圧倒的な勝利で幕を閉じた。

 ラズロフ城に使いを送り、その間に砦の残党掃討戦に向かう。
麓からも重機関銃や自動小銃の銃声が響き、あの砲撃から生き延びた敗残兵を掃討している。
 砦の方は猛烈な砲撃によってほとんどの魔族や魔物が死に絶えていたようで、俺たちが突入時に倒した敵以外に生き残りは居なかった。
 制圧したことを知らしめるために砦にラズロフの国旗を掲げる。
頭上を榴弾砲の砲弾が飛翔音を轟かせて通過して行くのを見送る。
ラズロフの国旗なのは、此処はレムリアの領土ではないからだ。
レムリアの国旗を掲げてしまうと、この場所をレムリアの領土と宣言したことになる。
俺たちは侵略しに来たのではなく、飽くまでも魔族領を制圧するための前哨戦として代理戦争をしたに過ぎない。
 「これはこれは…。砦が跡形も有りませんな…」
俺たちに砦の案内をしたおっさんとサリーが、騎士隊を引き連れてやって来た。
「私たちの攻撃方法にご不満が有るのでしたら、レムリア王国に正式に苦情を申し立てていただきたい」
努めて事務的に言う。
「いえいえ…、苦情など…。滅相も有りません」
おっさんは大袈裟に首を竦めて言う。
「時にトーマス殿、ベイリーズとは懇意になさっていたようですね」
「な…何を仰っているんです…?私がこんな魔族などと…」
「何故、この魔族の名がベイリーズだとご存知なんです?」
語るに落ちたな。
横で見ていたサリーも信じられない物を見たような顔をしている。
実は使いを遣った時、サリーとアリエル女王には秘密裏にトーマスの事は話してあった。
しかし、本人の口から自供が欲しかったので泳がせたんだ。
勿論、砦に来させたのも計画の内だ。
「くそぉぉっ!」
トーマスは着ていたローブの懐から魔石を取り出し、頭上に掲げる。
間髪入れず拳銃を抜き、その手ごと魔石を撃つ。
「あぁっ…!ひぃぃっ!手がっ…!」
その手に指はほとんど残されていない。
「魔石か…。やっぱりアンタも受け取ってたんだな」
魔石に絡み付いていたおっさんの指の残骸を摘まみ取って、おっさんに投げ付ける。
おっさんは慌ててその指を拾い、手にくっ付けようと藻掻く。
俺は魔石を拾い上げ、いつぞやと同じように粉々に砕く。
「見苦しいですよ。トーマス」
サリーが冷たく言い放つ。
「トーマス・スウェイザック元老院議長。貴方を元老院議長の任から解任します」
心底残念そうに告げた。
そして俺はトーマスの襟首を掴み、拳銃を頭に突き付ける。
「この武器の威力は自分の手に受けた傷で理解できるな?」
おっさんは首を何度も縦に振って頷く。
「ならばこれでお前の頭を撃てばどうなるかも容易に理解できるだろう」
「頼む…!命だけは…」
おっさんはガタガタと音が聞こえそうなほど震えながら命乞いをする。
「死にたくないか?」
「死にたくない…!どうか…どうかお助けを…!」
「ならば、この件に誰が関わっているのか吐け」
 おっさんはペラペラと自供した。
この件に他の貴族は関わっていない。
何故ならば、魔族から受ける報酬を独り占めしたかったからだそうだ。
殴る蹴るの暴行や銃による拷問を加えたことは言うまでもないが、自分自身と側近の従者しか知らないことだったと自供した。
あれだけ痛めつけてそれしか自供しなかったということは、事実なんだろう。
「私は急ぎ王都に戻りトーマスの側近を捕らえて、この件を陛下にご報告いたします」
サリーはそう言って王都に転移して行った。
勿論、おっさんもラズロフの騎士隊に連行されて行った。
 此処から先の処理はアリエル女王の沙汰に任せる。
俺たちの出る幕ではない。
 気付けば、魔族領への砲撃も終わっていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

月が導く異世界道中

あずみ 圭
ファンタジー
 月読尊とある女神の手によって癖のある異世界に送られた高校生、深澄真。  真は商売をしながら少しずつ世界を見聞していく。  彼の他に召喚された二人の勇者、竜や亜人、そしてヒューマンと魔族の戦争、次々に真は事件に関わっていく。  これはそんな真と、彼を慕う(基本人外の)者達の異世界道中物語。  漫遊編始めました。  外伝的何かとして「月が導く異世界道中extra」も投稿しています。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

処理中です...