異世界召喚されて神様貴族生活

シロイイヌZ

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第八十九話

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 そんな騒動が有ったが、剣術経験者が四人居たので騎士隊付きにした。
六人をメイド付きにして、三人を縫製工場の料理人見習い兼助手にしようと思う。
「こんな身体じゃ、もう剣術なんて出来ないし…」
そう言った女の子は右腕が欠損している。
「大丈夫。俺は剣術経験者や体術の素養が有る者を探していたんだ」
「どういう意味?」
「君は剣術の経験が有るんだよね?でも、この屋敷では剣術はしなくて構わないんだ」
「慰み者にされるんでしょ…?解ってる」
この子は十八歳くらいだろうか?鬱屈して希望も無い目をしちゃって…。
相当に辛い目に遭ったんだろうな…。
「それも違う。俺には妻と三十人を超える婚約者が居る。君たちに手を出す必要は無い」
「そんなこと言って、エッチなことするんでしょ…?」
この遣り取り、以前も同じようなことを話した気がする。
まぁ、今は信用してもらえなくても仕方がないか。
「ここで暮らしていれば、俺が言ってることの意味がわかるさ。まぁ、まずは風呂に入ってサッパリしてくると良いよ」
「お風呂…?お風呂に入れるの?」
「そうだよ。この屋敷に居れば、毎日だって入れる」
そう言い残して、その場を離れる。
「サナ、クロエたちを呼んでくれないか?彼女たちが風呂に入るのを手伝ってあげて欲しいんだ」
クロエはメイド付きの使用人だ。
彼女たちには辛い過去を思い出させるようで申し訳ないが、同じ境遇に居た者として新しく来た使用人たちに今の自分たちを見せて貰いたいんだ。
「そうですね。クロエたちにお願いしましょう」
サナも俺の意図を読んでくれる。
サナが無線でクロエたち使用人を呼び出す。
もちろん、メイド付きの六人だけではなく、騎士付きの四人も一緒にだ。

 「ダーリン、イレイヌ様がお母上様と一緒にお戻りになられてるそうです」
廊下に出ると、サナが教えてくれる。
「そうなんだ。応接室は今はちょっとアレだから、執務室でお話しよう」
「はい。畏まりました」
足早に執務室に戻り、親子と対面する。
「ようこそお越しくださいました。この屋敷の主の安田英樹と申します」
俺はいつも『侯爵』とは名乗らない。
「初めまして、安田侯爵様。イレイヌの母、エイミー・ラズレスと申します。本日はお招きくださいまして、ありがとうございます」
と丁寧なお辞儀をされる。
年齢は俺とそう変わらないくらいだろうか?
少しやつれているように見えるのは、病気を患っていたからだろうか。
「早速ですが、エイミー殿。当屋敷で運営する縫製工場の専属料理人としてお勤めいただくことは出来るでしょうか?」
「縫製工場の料理人…ですか?」
「はい。エイミー殿はご高名な料理人でいらしたと伺っています。そのような方に工場に務める者たちの賄いを作らせようなどとは失礼なのかも知れませんが、従業員たちの食改善の為にも、是非ともお力添えをお願いしたいのです」
日本でも一流ホテルのシェフだった人が、社員食堂のシェフとして招かれることもある。
それの異世界版みたいな感じだろうか。
「私もまた食に係わる仕事をしたいと考えていましたが、以前勤めていたお店は廃業してしまって戻ることも出来ず、料理人の空きも見つからず困っていた所だったのです。ですが、本当に私でよろしいのでしょうか?」
「はい。願っても無い巡り合わせだと思っています。エイミー殿の過去のご経歴を考慮して、お給料は金貨八枚を考えております」
「そんなに頂けるのですか!?」
「勿論です。ですが、朝食から始まり、昼食、夕食とお作りいただくことになりますので、激務になってしまうかも知れません。病み上がりのお身体には厳しい側面も有ります。助手となる者も三人お付けしますが、彼女たちは素人なので指導と育成もお任せすることになるでしょう」
「それは構いません。助手までお付けいただけるのなら、可能だと思います」
料理の仕事がかなり好きだったようで、口調にやる気が見えるようになって来た。
「この屋敷の厨房で、助手となる者たちの研修を数日間行う予定です。その研修にエイミー殿もご参加いただいて、料理人の仕事のカンを取り戻しながらこの屋敷の味を憶えていただくのは如何でしょうか?」
「縫製工場はどこに有るのでしょうか?」
「パーム地区です」
パームはそこそこのクラスの住宅街だ。
「パーム地区ですか…。私が暮らしているロゼス地区(貧民街)からは少し遠いですね…」
通勤に不安が有るのか、表情が曇る。
「エイミー殿。不躾で申し訳ありませんが、現在のお家賃はお幾らですか?」
「今は銀貨三枚の家で暮らしています…」
なるほど。なかなかお安いな。
「イレイヌ以外にお子さんが四人いらっしゃるとお聞きしていますが、間違い有りませんか?」
「はい。間違い有りません」
「サナ、例の物を」
「はい。ダーリン、此方でございます」
サナは話の展開を予想していたのか、素早く一枚の紙を手渡して来る。
「こちらをご覧ください」
並んで座るエイミーとイレイヌ母娘の前に置いたのは、一枚の間取り図だ。
「これは縫製工場の隣に在る、家賃が銀貨九枚の住宅です。此方にお住まい下さい」
工場を買った時に、騒音対策として両隣の家も買っておいたんだ。
「こんなに広いお家にですか!?」
エイミーさんよりイレイヌが驚く。
「家賃九枚のうち、五枚は屋敷で負担します。残りの四枚を給料から天引きさせていただくという事で如何でしょうか」
家賃の額は、事前にサナと話して決めておいた。
「え!?そんなにお安く!?」
今度はエイミーさんが驚きの声を上げる。
「これだけの部屋数が有れば、お子さんにも自室を与えられるでしょうし、通勤にも不便は無いはずです。強いて言えば、隣なので近すぎるのが欠点でしょう。如何ですか?」
「ぜひ働かせてください!」
エイミーさんは食い気味に返事をしてくれた。
成長期である十歳になる弟が居ると聞いていたから、提案してみた。
俺としても、買うだけ買って使っていなかった家を活用できる。
「ありがとうございます。縫製工場の皆のためにも、頑張ってあげてください。ただし、また身体を壊してしまわないよう、気を付けて下さいね」
「はい!頑張ります!!」
二人で立ち上がって、握手を交わした。
「助手をしてもらう使用人たちは、明日から研修を始めます。エイミー殿はいつから来られますか?」
「私も明日からお伺いします」
「お子さんたちは大丈夫ですか?」
一番下の妹が七歳だとイレイヌから聞いている。
「いつも家事を手伝ってくれていますし、大丈夫です」
「そうですか。でも、それも無理はしないでくださいね」
この世界の七歳ならしっかりしていそうだ。
「英樹様、ありがとうございます。これで私も安心して仕事に集中できます」
イレイヌも頭を深々と下げてくれる。
「お礼を言うのはこっちだよ。おかげで良い人を雇うことが出来た。イレイヌのおかげだよ。ありがとう」
俺もイレイヌに頭を下げる。
「貧民街からこの屋敷までの通勤は少し遠いから、研修期間中はイレイヌがお母上の通勤を手伝ってあげて欲しい。巡回車を使って良いから」
「はい!寝坊しないように頑張ります!!」
イレイヌは嬉しそうに宣言してくれた。
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