異世界召喚されて神様貴族生活

シロイイヌZ

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第七十三話

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 「困ったことになりました…」
ある日の午後、サナが相談してきた。
月に数回ほど屋敷には髪結いのおばあさんが来てくれており、皆はそのおばあさんに髪を切ってもらっていた。
髪結いのおばあさんはサナのお祖母様の友達だそうで、いつも一人銅貨三枚で髪を切ってくれていたそうだ。
そのおばあさんが腰を痛めてしまい、そのまま引退することになったと言う。
つまり、屋敷の『お抱え美容師』が居なくなってしまったのだ。
 俺自身は何も困らない。
だって、俺はバリカンを使って自分自身で髪を切るからな。
でも、女の子たちはそうも行かないだろうし…。
代わりの髪結いさんを探すにしても、屋敷に出張で切りに来てくれるような人はなかなか見つからない。
美容師なぁ…。知り合いに居ないわけでもない。
日本の店のスタッフをしてくれている、あずさだ。
「あずさは美容師だったな…」
思わず口を突いて言葉が出て来てしまった。
「あずさ様って、以前お屋敷にいらっしゃったダーリンのお店の女性ですよね?」
サナは俺の言葉を聞き洩らさないので、素早く反応してくる。
「うん…。そうだね」
「美容師というお仕事は、髪結いさんと同じですか?」
「うん。髪を切る職業だし、同じと思って良いだろうね」
元々は優秀な美容師だし、今でも未希や陽菜の髪はあずさが切っている。
頼めば屋敷にも来てくれそうな気はするけど…。
彼女たちをこの世界に関わらせたくはないんだよなぁ…。
 でも、サナは
「でしたら、あずさ様にお屋敷に来ていただくのはいかがでしょう?」
と言い出した。
「う~ん…。まぁ、後で店に行った時に聞いてみるよ」
気の無い返事しか出来なかった。

 夕方、店のミーティングに参加するために日本に戻る。
「六月の半ばまでにはお店のリニューアルも済みますから、リニューアルオープンの折り込みチラシを準備したいと思いますけど、構いませんか?」
そのあずさから提案される。
「構わないよ。チラシの原稿は出来てるの?」
「チラシはあたしが作ることになってるから、可愛いのを作るよ」
と、陽菜が言う。
「任せるけど、斬新なのはダメだぞ。チラシは見やすさと読みやすさがキモだからな」
一応は念押ししておく。
陽菜は一度だけとんでもなく斬新というか、アグレッシブなチラシをデザインしたことがあるからな。
「大丈夫!同じ失敗はしないよ」
と柔らかそうなおっぱいを…いや、胸をドンと叩く。
三人に告られた日から、ちょっとだけ意識しちゃうなぁ…。
「隊長、明日はダイヤモンドを売りに行く日だけど、準備はできてるの?」
未希からも質問される。
「あぁ、先方の要望の量とサイズは満たしてるよ」
最近は買い取ってくれる店の要望も聞くようにしているんだ。
「じゃぁ、忘れないように持って来てね」
そんな話をして、ミーティングを終わろうと思う。
「そう言えばあずさ、今でも二人の髪は切ってるのか?」
書類を片付けるあずさに質問をする。
「はい。未希先輩と陽菜ちゃんだけですけど、切ってますよ。あれ?英樹さんも切って欲しいんですか?」
揶揄う様に言われてしまう。
「違うよ。実はな…」
昼にサナから相談された内容を話す。
 「なるほど。その髪結いさんの代わりが居なくて困ってるんですね?」
「そういうことだ。先日から雇っている使用人たちの髪もボサボサのままだし、何とかしてやりたいんだが、あっちの世界に美容師の知り合いなんて居ないし、日本でも美容師の知り合いなんてあずさしか居ないからな」
「そう言う事でしたら、私が切りに行っても構いませんよ?」
あずさは即決で言う。
来てくれるのは助かるけど、本当に構わないんだろうか。
「でも、この店との両立も大変なんじゃないのか?」
「毎日ではないんですよね?週に二、三日なら、このお店が遅番の日の午前中だけとか、早番の日の夕方からだけとか、調整はできますよね?」
あずさは普段のおっとり口調と違って、ノリノリな時の口調でテキパキと提案してくれる。
「うん。まぁ、それで十分だろう」
「だったら、それで私が切りますよ。ただ…、条件が有ります」
ただ、何だろう?お金かな?
勿論無料で切らせるつもりは無いが、残念ながらあちらに日本円は流通していない。
「お金なら払わせるけど、あっちの通貨になっちゃうぞ?」
「それも大事ですけど、違います。私たちをお屋敷の住人にしてください。立場は妻でなくても妾で構いませんから」
そう来たか…。
ちょっとだけ、そう言い出しそうな気はしていた。
いや、この言葉を期待してしまっていたかも知れない。
「あずさ、それで本当に構わないのか?」
「良いですよ。英樹さんの側に居られるなら、愛人でもなんでも。それに、現時点で三十四人の奥さんと婚約者やお妾さんがいるんでしょ?だったら、今更三人くらい増えたって問題無いですよね?」
「未希や陽菜もそれで良いのか?」
二人は顔を見合わせる。
「あたしもお兄ちゃんの近くに居られるなら…良いよ。あっちでは寮暮らしできるみたいだし、日本ではこの家に住民票を置いて構わないならアパート代も助かるし」
陽菜はあっけらかんと言ってのけてしまう。
「でも陽菜、あちらの屋敷にでの仕事はどうするんだ?」
「あたしは元看護士だよ?健康相談くらいなら乗れると思うし、健康診断のお手伝いも出来るよ!」
そうか。手に職が有るってのは逞しいな。
「あたしは実家暮らしなんだけど…。でも、皆で住み込みで働くことにしたって言えば、たぶん問題ないと思う。あたしに出来ることなんてそんなに無いけど、銃の撃ち方や格闘術くらいなら教えられるかな…」
未希は少し迷いが有るようだ。
「あっちに住むかどうかなんて、そんなに簡単に決める必要は無い。それに三人とも、本当に解ってるのか?あっちの屋敷に住むってことは、俺と子作りしたり、あんなことやこんなことをしないとならないんだぞ?あの屋敷にはいろんなルールも有るし、それを守れないと屋敷の一員として受け入れることは出来ないぞ?」
「それも含めて、あちらのお屋敷で暮らしたいんです!」
今日のあずさは何だか強気だ。
「よし。じゃぁ、二人はアパートを引き払えるように準備しておくんだ。屋敷の皆には俺から話しておく。すぐに引っ越しをする必要はないけど、いつでも来れるようにしておいてくれ。ちなみに、家電品は持って来られないから売ってしまった方が良い。置いておきたいのなら、こっちの倉庫に入れておくと良い。あと、気候は常夏だからな冬服も防虫対策をして倉庫に入れておきなよ」
二人がここまで言ってくれるんだ。俺が男気を見せなくてどうする!
自宅兼店舗とは別棟の倉庫はそれなりに大きい。
車ならミニバン五台くらいは入れられるし、俺の愛車の部品やタイヤの他に商品の在庫を入れておいてもその倉庫が一杯になったことは今までに一度も無い。
「じゃぁ、引っ越し業者さんには、この家に荷物を運んでもらえばいいの?」
陽菜が嬉しそうに聞いて来る。
「大きな荷物ではないなら、アパートから直接屋敷の部屋に運び込んでも良いな。倉庫に入れておく物だけを引っ越し業者に運んでもらう方が安上がりだろうし。詳細は引っ越しの直前にまた話し合って決めよう」
「ベッドとか家具も付いてるんですよね?」
「付いてるぞ。枕が変わると寝られないなら、持ってくれば良いけど」
なんだか楽しくなって来た。
一度皆に挨拶してもらわなくちゃならないし、改めて屋敷に連れて行った方が良いかもな。
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