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第七十二話
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いよいよ奴隷を買う事を決意したのだが、俺は奴隷商なんて知らない。
セリカに相談したら奴隷商を紹介してくれることになり、その奴隷商が今日屋敷に来ることになっている。
今回は初めての奴隷購入になるわけだが、以前にも言ったように俺は『奴隷』を買うが『奴隷』として使うつもりは無い。
どんな奴隷商が来るのか解らないが、セリカの紹介だけに変なのは来ないだろう。
昼食後に奴隷商が来ることになっている。
俺は午前中の仕事を済ませ、日本の事務所に顔を出してから屋敷に戻る。
これも日課になっている。
騎士団長のレイナも、今日は屋敷に残ってもらっている。
騎士団にも使用人を付けるためだ。
午前のルーティンを済ませて屋敷に戻るが、やはり緊張はするもんだな。
でも屋敷の主として堂々としておかないとな。
現れた奴隷商はガタイの良いおっさんだった。
「御館様、はじめまして。この度はご用命を賜り光栄に存じ上げます」
おっさんは慇懃に頭を下げ、握手を求めて来る。
「わざわざ出向いてもらって申し訳ないな。今日はよろしく頼む」
そう言って手を握ると、おっさんは手に力を込めて来た。
俺にとっては蚊の鳴く程度ことでしかないが、握る手の力を相手を上回る力で握り返し捻り上げる。
思い切り握ったら相手の手がバラバラになるだろうから、止めておく。
「俺を試しているのか?それとも殺されたいのか?どっちだ?」
小声でドスを利かせる。
「これは失礼しました…。少々おふざけが過ぎたようです。申し訳ありません…」
素直に謝ったから許してやろう。
「そうか、ならば良い。で、今日は奴隷を連れて来たのか?」
「はい…。十人ほど連れて参りましたが、本日は何人ほどご入用でございますか?」
このおっさん、急に従順になったな。長い物には巻かれるタイプみたいだ。
「良い人材が居れば、制限なく引き受けるつもりだ」
「左様でございますか。それはありがとうございます。では、早速お目に掛けましょう」
おっさんが手を二つ打つと、扉が開いてガッシリした女子プロレスラーみたいな体格の女二人に連れられた少女たちが応接室に入って来る。
一人だけ二十歳くらいの少女がいるが、他はそれ以下だろう。十六から十八くらいだろうか?
その誰もがボロのような服とは呼べない布を纏っている。髪もボサボサで顔も身体も汚れて、手足にも鞭で打たれたのか痕が残りそうな傷が付いている。
「サッサと歩け!」
女子プロの一人が、俺の前で少女の一人を鞭打つ。
「貴様!何をしている!!」
俺は思わず声を張り上げてしまう。
無意味に鞭を振るうこの馬鹿が許せなかった。
「御館様、大変失礼いたしました!おい、無用に鞭を使うな!」
俺に睨まれ、おっさんに叱られた女子プロはオロオロしている。
見た目に反して気が弱いようだな。しかし、自分よりも立場の低い奴隷には平気な顔で殴れるタイプの人間だ。
見た目もそうだがその性格も俺には受け入れ難い。
それにしたって、この少女たちはどうしてこんなにも死んだ目をしてるんだ?
それが奴隷にされてしまうということなんだ。
俺はその時、日本に奴隷制度が残っていなくて本当に良かったと心から思った。
一人一人に名を聞き、顔を見る。
声も小さくて聞き取りづらい。目も合わせようとしないし。
この少女たちを見ていると悲しい気分になって来る。
彼女たちは何のためにこの世に生まれて来たんだ?
彼女たちに幸せになる権利は無いと言うのか?
いいや、それは違う。
彼女たちにはこの屋敷で人として生きる喜びを知ってもらい、自由に羽ばたいてもらう。
「よし、この娘たちを全員もらおう。置いて帰れ」
おっさんにそう言った。
全財産を使い切っても彼女たちは俺が保護する。
俺のエゴかも知れないし、偽善にしか見えないかも知れない。
でも、それで良い。
なんと言われようが、俺は俺の正義を貫く。
「本当によろしいのでしょうか?お値段は少々高くなりますが?」
おっさんはまだ俺の足元を見ているようだ。
「ほう?幾らだ?言ってみろ」
「では…これくらいでいかがでしょう?今日の奴隷は私の扱う中でも上物を取り揃えてまいりましたので…。あぁ!しかし、十人纏めてという事ですので、少しお勉強させていただいておりますが…」
おっさんが示した金額は大金貨二枚だ。
つまり、二百万円。一人あたり二十万円ほどか。
上物とか言ってるが、人一人の値段がそんなもんかよ。ふざけてるな
「俺の目の前で鞭を振るって傷物にしたくせに、何がお勉強だ」
「あれについては本当に申し訳ありません。今後はあのような事が無いようにします」
「従業員をよく教育しておくことだ。次は許さんからな」
そう言って脅しておくが、人の命の値段を値切るつもりも無いので、大金貨を二枚渡してサッサと御引取願った。
いやいや、貴族として玄関まではちゃんと見送ったよ。
変な評判を立てられたら困っちゃうからな。
それにしたって、ものすごく臭い。
何がって、彼女たちだ。
風呂になんて一度も入れてもらったことは無いだろう。
その匂いはなんだろう…。雨上がりの犬…かな…?
俺たちもレンジャー訓練や行軍なんかで、汗まみれの泥だらけの雨ざらしになって匂いを放っていたことが有るが、それ以上だ。
人間ってこんなにも臭くなるんだと思い知らされた。
「皆、仕事の手を止めて申し訳ないけど、彼女たちを風呂に入れてやってくれ!」
サナは当然だが、屋敷に住む全員に今回の奴隷購入と奴隷解放の話はしてあるし、賛同も得ている。
だから、誰も彼女たちを奴隷として扱わない。
遭難して保護された人のように優しく扱っている。
風呂に入っている間に、彼女たちには部屋着とするTシャツと短パンを支給しておく。
彼女たちは『使用人』として屋敷に住みこんで働いてもらうが、俺のセックスの相手にするつもりは無い。
それもサナたちには話してある。
いずれは屋敷の外に出て行くかもしれないのだから、そんな相手をしてもらわなくて構わない。
そう言う事は自分でが好きになった人とすれば良いんだ。
だが、風呂から上がったら服を着させる前に俺を呼んでもらう。
彼女たちの裸を見ることになるが、必要なことなので仕方のないんだ。
執務室で待っているとサナが呼びに来てくれた。
「使用人の皆の入浴が済みました。全員キレイになりましたよ」
と教えてくれる。
サナとレイナを連れて脱衣所に入ると、十人の女の子が全裸で並んでいる。
サナの言う通り、全員がサッパリしているが、あばらがみえるくらいガリガリだし、おっぱいも小さい。
だが、俺がズカズカと入って行っても彼女たちは特に驚きもしない。
「服を着る前に恥ずかしい思いをさせて申し訳ない」
と言うと、真ん中に立っている女の子が
「…別に構わない。どうせ慰み者にされるんでしょう…?」
と言った。
「そんなことをするつもりは無いよ。こうして服を着る前の君たちの前に来たのは、君たちの怪我を治すためだ。それと、健康状態を知りたいからだ」
俺はそう言ったのだが
「…そんなこと言って、いやらしいことをするんでしょう?解ってる…」
そんな悲しい返事が返って来た。
これまでの彼女たちの生きて来た環境を考えれば、仕方のないことだと思う。
「俺がウソを言っているかどうか、君たち自身が体験すれば良い。さぁ、一番端の君、私の前に来て、もう一度名前を言いなさい」
そう言って俺はサナが用意してくれた椅子に座る。
一番端の少女が俺の前に立つ。
「えっと…クロエです…」
この子は二十歳くらいに見えた子だが、さっぱりした顔を見るともう少し若く見えるな。
「クロエだね。君も痩せているね。痛い所はあるかい?」
腕や背中の蚯蚓腫れを治癒魔法で治してあげながら聞いてみる。
「いいえ。特にありません」
「そうかい。今後ももし痛い所や体の調子が悪いようなら、遠慮なく言うんだよ。俺に言い難いようなら、メイドの誰かに言えばいいからね」
そう言って、最後に
「これから、君たちの治療をしながら奴隷印を消す」
と宣言する。
「そんなこと…、出来るはずない」
またそんな声が上がるが、治癒魔法でクロエの額に入れられた奴隷印を消す。
「さぁ、クロエ。振り返って貴女の額を皆に見せてあげてください」
横に居たサナが優しくそう言う。
クロエがゆっくりと振り返って額が皆に見えるように顔を上げると、歓声が上がった。
「そんな!奴隷印が消えてる!!」
「うそ!そんなことが!?」
なんて大騒ぎだ。
クロエは自分の置かれている状況が解らずキョトンとしているので、サナが手鏡を渡してあげて自分で額を確認させる。
すると、クロエはその場で泣き崩れてしまった。
奴隷から解放されるのって、やはり嬉しいことのようだな。
一頻り騒ぎが収まってから、残る九人にも同じように治癒魔法を施してあげる。
治療が終わった娘から、順番にサナの前に立って身体測定をしてもらう。
彼女たちにも制服着てもらうためだ。
そして、彼女たち十人の中には武道経験者が四人いた。
その四人は騎士隊付きの使用人に就いてもらう。
残る六人はメイド付きの使用人だ。
「君たちの奴隷印は消えた。君たちはもう奴隷ではない。今日からこの屋敷で暮らす仲間だ。俺たちは君たちを歓迎する!」
そう声高らかに宣言すると、その場に居る全員が拍手をしてくれた。
もちろん、さっきまで死んだ目をしていた十人もだ。
「私たちは御館様やお屋敷の皆様に生涯尽くします!宜しくお願い致します!」
と、声を揃えて宣言されてしまった。そんなの気にしなくて良いんだけどなぁ。
「さぁ、腹が減っているだろう!まずは食事だ!」
そう言って十人をこれから住むことになる屋敷の食堂に案内する。
メイドたちがテキパキとテーブルに十人分のオムライスを準備する。
俺も今日の昼にオムライスを食べさせてもらったが、うちの屋敷のプルプル食感の卵がまた絶品なんだ。
勿論、十人にも大好評だった。
「私たちにもこんなに美味しいお料理が作れるようになりますか?」
と、早速メイドたちに質問しているし、メイドたちもそれに笑顔で優しく答えている。
サナと並んで座り、それを二人で笑顔で見守る。
ほんの一時間半ほど前まで、地獄の住人のような顔をしていた娘たちと同一人物とは思えない変わりようだ。
食事を終えた使用人たちを連れて、今度は売店に行く。
彼女たちに下着を選んでもらう。彼女たちのためにAカップやBカップのブラも取り揃えておいた。
『奴隷は食生活も良くないのでガリガリです』
と事前情報を仕入れていたから、今日のために用意したんだ。
その間に俺は日本に戻り、使用人たちの制服を買いに行く。
メイド付きの使用人にはメイド服を用意した。
ミニスカメイドを用意しようかと思ったんだが、変に露出を増やしたくはないのでクラシカルな感じのにしておいた。
騎士隊付きの使用人には、警察官の夏服を準備した。
彼女たちには屋敷の門番や巡回の仕事をしてもらうので、時機を見て拳銃や短機関銃の訓練を受けてもらう。
屋敷に戻って制服を二着ずつ支給する。
それらの制服をこの世界で量産できる体制になっても、使用人には制服は支給する。
メイドや騎士より給料が安いんだから、当然の権利だ。
制服と一緒にトラベルサイズのシャンプーとコンディショナーのセットと、歯ブラシと歯磨き粉のセットの初回分を支給した。
「次回からは自分たちで購入してもらうことになるからね」
と言いながら渡したのだが
「私たちはお金を持っていませんが、どうすれば良いでしょうか」
と指摘されてしまった。
しまった。大事なことを教えるのを忘れていた。
「君たちには毎月金貨一枚の給料を支給する。食費は屋敷で負担する。さっき食べたような食事をメイド付きの君たちが作り、同じ物を君たちも食べる。俺の妻も、メイドも、騎士も勇者も、当然俺も、皆が同じ物を食べるんだ。役割によって差別などしないのがこの屋敷のルールだ。仕事で必要な制服は屋敷で負担する。当然住む場所もこの屋敷だから、家賃は気にしなくて構わない。それも騎士やメイドたちと同じだ」
そう説明する。
「生活に必要な物を支給していただいて、その上お給料までいただいても本当に構わないのですか?」
あの子は騎士隊付きのエマだな。
「当然だよ。制服は支給するけれど、下着や制服以外の服は給料の中から自分で買ってもらうことになる。さっき行った売店では様々な下着や服、日用品やお菓子等を販売している。それらを給料の中で自分で選んで好きに買ってくれて構わない」
これにも感嘆の声が上がるが、この屋敷で働くデメリットも話しておかなければ。
「君たちと正規の騎士隊やメイドとの違いだが、君たちには俺の妻や妾になったり、伽の相手になる義務は無い。その代わり、騎士やメイドには週に一度の『休日』という制度が有る。これは丸一日働かなくても良い日なんだが、君たちには半日の休みしかないし、彼らよりも君たちの給料の方が安い。騎士やメイドはこの屋敷から自由に巣立つことは出来ないが、君たちは今日から一年間勤め上げれば、この屋敷に残ってまた一年働くことも、出て行くことも出来る。屋敷を出て商売を始めるのも良いし、もう奴隷ではないのだから、誰かと幸せな家庭を築いても構わない。それは君たちの意思を尊重するから、遠慮なく申し出てくれて構わないよ」
そう説明したんだが
「御館様や皆様への恩を返さずに出て行くなんて出来ません!」
と口々に言ってくれた。
うむむ…。俺は従順な下僕が欲しかったわけではないんだけどな…。
でも、彼女たちの本当に良い子なんだと実感できた。
セリカに相談したら奴隷商を紹介してくれることになり、その奴隷商が今日屋敷に来ることになっている。
今回は初めての奴隷購入になるわけだが、以前にも言ったように俺は『奴隷』を買うが『奴隷』として使うつもりは無い。
どんな奴隷商が来るのか解らないが、セリカの紹介だけに変なのは来ないだろう。
昼食後に奴隷商が来ることになっている。
俺は午前中の仕事を済ませ、日本の事務所に顔を出してから屋敷に戻る。
これも日課になっている。
騎士団長のレイナも、今日は屋敷に残ってもらっている。
騎士団にも使用人を付けるためだ。
午前のルーティンを済ませて屋敷に戻るが、やはり緊張はするもんだな。
でも屋敷の主として堂々としておかないとな。
現れた奴隷商はガタイの良いおっさんだった。
「御館様、はじめまして。この度はご用命を賜り光栄に存じ上げます」
おっさんは慇懃に頭を下げ、握手を求めて来る。
「わざわざ出向いてもらって申し訳ないな。今日はよろしく頼む」
そう言って手を握ると、おっさんは手に力を込めて来た。
俺にとっては蚊の鳴く程度ことでしかないが、握る手の力を相手を上回る力で握り返し捻り上げる。
思い切り握ったら相手の手がバラバラになるだろうから、止めておく。
「俺を試しているのか?それとも殺されたいのか?どっちだ?」
小声でドスを利かせる。
「これは失礼しました…。少々おふざけが過ぎたようです。申し訳ありません…」
素直に謝ったから許してやろう。
「そうか、ならば良い。で、今日は奴隷を連れて来たのか?」
「はい…。十人ほど連れて参りましたが、本日は何人ほどご入用でございますか?」
このおっさん、急に従順になったな。長い物には巻かれるタイプみたいだ。
「良い人材が居れば、制限なく引き受けるつもりだ」
「左様でございますか。それはありがとうございます。では、早速お目に掛けましょう」
おっさんが手を二つ打つと、扉が開いてガッシリした女子プロレスラーみたいな体格の女二人に連れられた少女たちが応接室に入って来る。
一人だけ二十歳くらいの少女がいるが、他はそれ以下だろう。十六から十八くらいだろうか?
その誰もがボロのような服とは呼べない布を纏っている。髪もボサボサで顔も身体も汚れて、手足にも鞭で打たれたのか痕が残りそうな傷が付いている。
「サッサと歩け!」
女子プロの一人が、俺の前で少女の一人を鞭打つ。
「貴様!何をしている!!」
俺は思わず声を張り上げてしまう。
無意味に鞭を振るうこの馬鹿が許せなかった。
「御館様、大変失礼いたしました!おい、無用に鞭を使うな!」
俺に睨まれ、おっさんに叱られた女子プロはオロオロしている。
見た目に反して気が弱いようだな。しかし、自分よりも立場の低い奴隷には平気な顔で殴れるタイプの人間だ。
見た目もそうだがその性格も俺には受け入れ難い。
それにしたって、この少女たちはどうしてこんなにも死んだ目をしてるんだ?
それが奴隷にされてしまうということなんだ。
俺はその時、日本に奴隷制度が残っていなくて本当に良かったと心から思った。
一人一人に名を聞き、顔を見る。
声も小さくて聞き取りづらい。目も合わせようとしないし。
この少女たちを見ていると悲しい気分になって来る。
彼女たちは何のためにこの世に生まれて来たんだ?
彼女たちに幸せになる権利は無いと言うのか?
いいや、それは違う。
彼女たちにはこの屋敷で人として生きる喜びを知ってもらい、自由に羽ばたいてもらう。
「よし、この娘たちを全員もらおう。置いて帰れ」
おっさんにそう言った。
全財産を使い切っても彼女たちは俺が保護する。
俺のエゴかも知れないし、偽善にしか見えないかも知れない。
でも、それで良い。
なんと言われようが、俺は俺の正義を貫く。
「本当によろしいのでしょうか?お値段は少々高くなりますが?」
おっさんはまだ俺の足元を見ているようだ。
「ほう?幾らだ?言ってみろ」
「では…これくらいでいかがでしょう?今日の奴隷は私の扱う中でも上物を取り揃えてまいりましたので…。あぁ!しかし、十人纏めてという事ですので、少しお勉強させていただいておりますが…」
おっさんが示した金額は大金貨二枚だ。
つまり、二百万円。一人あたり二十万円ほどか。
上物とか言ってるが、人一人の値段がそんなもんかよ。ふざけてるな
「俺の目の前で鞭を振るって傷物にしたくせに、何がお勉強だ」
「あれについては本当に申し訳ありません。今後はあのような事が無いようにします」
「従業員をよく教育しておくことだ。次は許さんからな」
そう言って脅しておくが、人の命の値段を値切るつもりも無いので、大金貨を二枚渡してサッサと御引取願った。
いやいや、貴族として玄関まではちゃんと見送ったよ。
変な評判を立てられたら困っちゃうからな。
それにしたって、ものすごく臭い。
何がって、彼女たちだ。
風呂になんて一度も入れてもらったことは無いだろう。
その匂いはなんだろう…。雨上がりの犬…かな…?
俺たちもレンジャー訓練や行軍なんかで、汗まみれの泥だらけの雨ざらしになって匂いを放っていたことが有るが、それ以上だ。
人間ってこんなにも臭くなるんだと思い知らされた。
「皆、仕事の手を止めて申し訳ないけど、彼女たちを風呂に入れてやってくれ!」
サナは当然だが、屋敷に住む全員に今回の奴隷購入と奴隷解放の話はしてあるし、賛同も得ている。
だから、誰も彼女たちを奴隷として扱わない。
遭難して保護された人のように優しく扱っている。
風呂に入っている間に、彼女たちには部屋着とするTシャツと短パンを支給しておく。
彼女たちは『使用人』として屋敷に住みこんで働いてもらうが、俺のセックスの相手にするつもりは無い。
それもサナたちには話してある。
いずれは屋敷の外に出て行くかもしれないのだから、そんな相手をしてもらわなくて構わない。
そう言う事は自分でが好きになった人とすれば良いんだ。
だが、風呂から上がったら服を着させる前に俺を呼んでもらう。
彼女たちの裸を見ることになるが、必要なことなので仕方のないんだ。
執務室で待っているとサナが呼びに来てくれた。
「使用人の皆の入浴が済みました。全員キレイになりましたよ」
と教えてくれる。
サナとレイナを連れて脱衣所に入ると、十人の女の子が全裸で並んでいる。
サナの言う通り、全員がサッパリしているが、あばらがみえるくらいガリガリだし、おっぱいも小さい。
だが、俺がズカズカと入って行っても彼女たちは特に驚きもしない。
「服を着る前に恥ずかしい思いをさせて申し訳ない」
と言うと、真ん中に立っている女の子が
「…別に構わない。どうせ慰み者にされるんでしょう…?」
と言った。
「そんなことをするつもりは無いよ。こうして服を着る前の君たちの前に来たのは、君たちの怪我を治すためだ。それと、健康状態を知りたいからだ」
俺はそう言ったのだが
「…そんなこと言って、いやらしいことをするんでしょう?解ってる…」
そんな悲しい返事が返って来た。
これまでの彼女たちの生きて来た環境を考えれば、仕方のないことだと思う。
「俺がウソを言っているかどうか、君たち自身が体験すれば良い。さぁ、一番端の君、私の前に来て、もう一度名前を言いなさい」
そう言って俺はサナが用意してくれた椅子に座る。
一番端の少女が俺の前に立つ。
「えっと…クロエです…」
この子は二十歳くらいに見えた子だが、さっぱりした顔を見るともう少し若く見えるな。
「クロエだね。君も痩せているね。痛い所はあるかい?」
腕や背中の蚯蚓腫れを治癒魔法で治してあげながら聞いてみる。
「いいえ。特にありません」
「そうかい。今後ももし痛い所や体の調子が悪いようなら、遠慮なく言うんだよ。俺に言い難いようなら、メイドの誰かに言えばいいからね」
そう言って、最後に
「これから、君たちの治療をしながら奴隷印を消す」
と宣言する。
「そんなこと…、出来るはずない」
またそんな声が上がるが、治癒魔法でクロエの額に入れられた奴隷印を消す。
「さぁ、クロエ。振り返って貴女の額を皆に見せてあげてください」
横に居たサナが優しくそう言う。
クロエがゆっくりと振り返って額が皆に見えるように顔を上げると、歓声が上がった。
「そんな!奴隷印が消えてる!!」
「うそ!そんなことが!?」
なんて大騒ぎだ。
クロエは自分の置かれている状況が解らずキョトンとしているので、サナが手鏡を渡してあげて自分で額を確認させる。
すると、クロエはその場で泣き崩れてしまった。
奴隷から解放されるのって、やはり嬉しいことのようだな。
一頻り騒ぎが収まってから、残る九人にも同じように治癒魔法を施してあげる。
治療が終わった娘から、順番にサナの前に立って身体測定をしてもらう。
彼女たちにも制服着てもらうためだ。
そして、彼女たち十人の中には武道経験者が四人いた。
その四人は騎士隊付きの使用人に就いてもらう。
残る六人はメイド付きの使用人だ。
「君たちの奴隷印は消えた。君たちはもう奴隷ではない。今日からこの屋敷で暮らす仲間だ。俺たちは君たちを歓迎する!」
そう声高らかに宣言すると、その場に居る全員が拍手をしてくれた。
もちろん、さっきまで死んだ目をしていた十人もだ。
「私たちは御館様やお屋敷の皆様に生涯尽くします!宜しくお願い致します!」
と、声を揃えて宣言されてしまった。そんなの気にしなくて良いんだけどなぁ。
「さぁ、腹が減っているだろう!まずは食事だ!」
そう言って十人をこれから住むことになる屋敷の食堂に案内する。
メイドたちがテキパキとテーブルに十人分のオムライスを準備する。
俺も今日の昼にオムライスを食べさせてもらったが、うちの屋敷のプルプル食感の卵がまた絶品なんだ。
勿論、十人にも大好評だった。
「私たちにもこんなに美味しいお料理が作れるようになりますか?」
と、早速メイドたちに質問しているし、メイドたちもそれに笑顔で優しく答えている。
サナと並んで座り、それを二人で笑顔で見守る。
ほんの一時間半ほど前まで、地獄の住人のような顔をしていた娘たちと同一人物とは思えない変わりようだ。
食事を終えた使用人たちを連れて、今度は売店に行く。
彼女たちに下着を選んでもらう。彼女たちのためにAカップやBカップのブラも取り揃えておいた。
『奴隷は食生活も良くないのでガリガリです』
と事前情報を仕入れていたから、今日のために用意したんだ。
その間に俺は日本に戻り、使用人たちの制服を買いに行く。
メイド付きの使用人にはメイド服を用意した。
ミニスカメイドを用意しようかと思ったんだが、変に露出を増やしたくはないのでクラシカルな感じのにしておいた。
騎士隊付きの使用人には、警察官の夏服を準備した。
彼女たちには屋敷の門番や巡回の仕事をしてもらうので、時機を見て拳銃や短機関銃の訓練を受けてもらう。
屋敷に戻って制服を二着ずつ支給する。
それらの制服をこの世界で量産できる体制になっても、使用人には制服は支給する。
メイドや騎士より給料が安いんだから、当然の権利だ。
制服と一緒にトラベルサイズのシャンプーとコンディショナーのセットと、歯ブラシと歯磨き粉のセットの初回分を支給した。
「次回からは自分たちで購入してもらうことになるからね」
と言いながら渡したのだが
「私たちはお金を持っていませんが、どうすれば良いでしょうか」
と指摘されてしまった。
しまった。大事なことを教えるのを忘れていた。
「君たちには毎月金貨一枚の給料を支給する。食費は屋敷で負担する。さっき食べたような食事をメイド付きの君たちが作り、同じ物を君たちも食べる。俺の妻も、メイドも、騎士も勇者も、当然俺も、皆が同じ物を食べるんだ。役割によって差別などしないのがこの屋敷のルールだ。仕事で必要な制服は屋敷で負担する。当然住む場所もこの屋敷だから、家賃は気にしなくて構わない。それも騎士やメイドたちと同じだ」
そう説明する。
「生活に必要な物を支給していただいて、その上お給料までいただいても本当に構わないのですか?」
あの子は騎士隊付きのエマだな。
「当然だよ。制服は支給するけれど、下着や制服以外の服は給料の中から自分で買ってもらうことになる。さっき行った売店では様々な下着や服、日用品やお菓子等を販売している。それらを給料の中で自分で選んで好きに買ってくれて構わない」
これにも感嘆の声が上がるが、この屋敷で働くデメリットも話しておかなければ。
「君たちと正規の騎士隊やメイドとの違いだが、君たちには俺の妻や妾になったり、伽の相手になる義務は無い。その代わり、騎士やメイドには週に一度の『休日』という制度が有る。これは丸一日働かなくても良い日なんだが、君たちには半日の休みしかないし、彼らよりも君たちの給料の方が安い。騎士やメイドはこの屋敷から自由に巣立つことは出来ないが、君たちは今日から一年間勤め上げれば、この屋敷に残ってまた一年働くことも、出て行くことも出来る。屋敷を出て商売を始めるのも良いし、もう奴隷ではないのだから、誰かと幸せな家庭を築いても構わない。それは君たちの意思を尊重するから、遠慮なく申し出てくれて構わないよ」
そう説明したんだが
「御館様や皆様への恩を返さずに出て行くなんて出来ません!」
と口々に言ってくれた。
うむむ…。俺は従順な下僕が欲しかったわけではないんだけどな…。
でも、彼女たちの本当に良い子なんだと実感できた。
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【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜
KeyBow
ファンタジー
間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。
何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。
召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!
しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・
いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。
その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。
上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。
またぺったんこですか?・・・
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