異世界召喚されて神様貴族生活

シロイイヌZ

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第三話

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 「終わったな…」
誰もいない店内で、一人呟いた。
さっきまで従業員がいたので気を張っていたためか、空気の抜けた風船のようになった気分だ。
安田英樹 三十三歳。飲食業及び雑貨店経営者。独身。只今無職への道を絶賛爆走中。
前職を辞めた後、俺は雑貨販売と飲食の店を開業した。
したのはいいが、開店して数日後に世界中を席捲するほどの猛威を振るった新型ウイルスを前に、成す術もなく敢え無く営業停止となり、本日を以って廃業することになってしまった。
最終セールを実施し多くのお客が来店してくれてそれなりに売り上げを残すことは出来たが、それでも尚、多くの売れ残り商品の在庫を抱えて呆然としていた。
「時期が悪かった」と人は言う。
 しかし、どこの誰が開店直後に「営業自粛」なんて事態になると予測できただろうか。
飲食は営業できなくなってしまったが、雑貨店が残っていたのでしばらくはそれで食い繋ぎ、営業再開に希望を持つことができた。でも飲食がメインの店で食事を提供できないのは相当な痛手で、その上、変に雑貨の売り上げがあったものだから、政府や自治体の補助金や支援金の支給対象にしてもらえなかったことが致命的だった。
「この在庫たちは、どう捌こうかな?」
誰に問うでもなく、呟く。
愛車に積んで全国のフリーマーケットでも巡ろうかな?
いや、今は感染症で全国的にピリピリしている時期だ。
しかも住んでいる地域は都会なので、感染率が高い。
それだけにこの地域のナンバープレートを付けた車で地方都市に行くと地域住民からは歓迎されないだろう。
それだけに商売をすることも侭ならない可能性がある。
借金をするのだけはイヤだったので、そうなる前に商売から手を引いた。
幸い俺一人ならしばらく暮らしていくのに不便の無い程度には貯金は残っている。

 店のあるこの建物は持ち家だ。一階部分を雑貨店にして、二階は飲食店。三階部分に居住している。
なので家賃も心配は無い。住宅ローンはあるが、頭金を頑張ったので月々の支払いはワンルームマンションより安い。男の一人暮らしには不似合いな家だが、俺は気に入っている。
 前職ではずっと衣食住が整った環境だったので、かなりの貯金ができた。
退職することを決めたのと同時に、家を建てることも決めた。
実は土地は先祖代々のもので、俺は祖父が亡くなった時にその土地を相続していた。
実家の父は違う市内に家を持っているために、一代飛ばしで俺が相続した。
元々建っていた家は祖父母が実家に同居することになった時には築百年を越えていたので、取り壊して更地にした状態で俺が相続した。
俺が家を建てるまでの間はコインパーキングにして維持費を賄った。
市内の人気住宅地だったので、それはそれでなかなかの儲けだったが、寮を出るために家を持つことにしたわけだ。

 前職は陸上自衛官だった。二等陸尉で偵察隊の隊長だったため、それなりに将来を嘱望された幹部だった。
当初は自衛官を辞めるつもりは無く、日々の任務や訓練を着実にこなし、大規模災害時などもわが隊は派遣部隊として多くの功績を残した。
 俺一人ではそんな実績を残すなんてことはできない。全ては優秀な部下に恵まれたおかげだった。
順風満帆な自衛官ライフを送る俺の下に、ある日悪魔がやってきた。
新たに配属されてきたその二等陸士は、派遣された先で事件を起こした。
そして駐屯地に呼び戻された俺は上官である陸将から
「これだけの事件になってしまっては、貴様も監督責任だけで済むとは思うな。今後の昇任は無いと思ってくれ」
そのような趣旨のことを通告された。
非常に大きな事件となってしまい、怪我人を含めて多くの被害者を出してしまった。
死者こそ出なかったのは不幸中の幸いかも知れないが、報道によって全国に知られる結果となり、陸上自衛隊は勿論だが自衛隊全体の信頼を地に墜とすことになってしまったのだから、当然の結論だと言える。
そうした理由で、俺は陸上自衛隊を去ることにした。
 要は逃げたんだ。
 
 俺が自衛隊を去ると同時に、第二偵察隊は一旦解体された後に再編成されることが決まり、部下たちも散り散りに全国の部隊へ転属になることが決まった。
最後の日、全員で送別会を兼ねてさよならパーティーを催すことになった。
その席で女性隊員の一人が俺の隣に来て
「隊長。これからお店を始めるんですよね?」
「そうだよ。オープンさせるのにまだ準備があるから、数カ月先になるけどな」
「なんのお店をするんですか?」
「言ってなかったか?鶏料理の店と雑貨屋だよ」
「隊長のから揚げ美味しいですもんね~」
「そうかい?そう言ってもらえたら嬉しいよ。オープンしたら食べに来てくれよ」
「…イヤです。お客としては行きません」
「え?」
「私、隊長のお店で働きます!」
「なに言ってんの?」
「明日からもお世話になりまっす!」
「え?ちょっ…。本気?」

星野未希みき 二十八歳 元陸上自衛隊 陸曹長。
部隊解体と同時に自衛隊を辞めて地元に帰るとは聞いてたし、俺とは同郷だから会うこともあろうとは思っていたが、まさか俺の店で働くと言い出すとは思っていなかった。
「なんで俺の店なんだよ」
「再就職先、決まらなかったんですよぉ…。なので上官として面倒見てくださいっす」
「いや、明日から『元上官』なんだけどね」
 言いつつ、悪い気はしないし嬉しかった。未希は可愛いし性格も明るいから、接客にも向いている。
実は自衛隊を辞めると聞いた時、従業員に誘うつもりだったが、言い出す機会を逃してしまっていた。
成功するつもりで始めたとは言え、海のものとも山のものとも解らない事業に巻き込むのは気が引けたからだ。
そんな中でのこの申し出は僥倖とさえ言えることだった。しかし、この事実は今も本人には言ってない。
 
 翌日、俺と未希は駐屯地から車で一時間ほどの地元に向かっていた。
「隊長。他の従業員って決まってるんですか?」
「うん。なんと言うか…妹みたいなのがいるんだが、そのにバイトで入ってもらうつもりだ。あと一人…。もう一人くらいバイトを雇ってもいいと思ってるんだ」
「ならね。一人いい娘がいるんで紹介しましょうか?」
「そうなの?星野の紹介なら間違いなさそうだな。会ってみようか」
「了解しました!」
助手席でスマホを取り出し、電話を始める。
「あ、もしもし?あたしだよ。お久しぶり!あのね…」
一頻り状況を説明したようで
「うん。わかった。じゃ、後でね。着いたらラインするね」
と、電話を切った。
「今日、これから会えるそうです」
「は?!今日?!」
「善は急げですよ!あの娘を他に仕事に取られたら困りますもん」

 そんなこんなで地元の駅前のファミレスで会ったのが
三上あずさ 二十六歳 元美容師 
未希の中学高校での部活の後輩であり、近所の幼馴染。
『めちゃくちゃ美人だな…』
初めて会った時の第一印象がそれだった。
『一度だけでも抱いてみたいな…』
そう思わせる色気というか気品があった。
未希に色気がないわけではない。
いや、未希も凄い美人であるということは、ここでハッキリ言っておこう。
あずさはとても気の利く女性で、何も言ってないのに履歴書を用意してくるような娘だ。
美容師としての腕も確かだったようで、過去に数度コンテストで受賞もしているそうだ。
「前に勤めていたお店も素敵なお店だったんですが、オーナーに経営力が無かったせいか、潰れちゃったんですよね…」
静かに流れるように話す声は聞き取りやすく、おっとりした口調も好感が持てる。
『こういう娘にフロアをやってもらいたい』
素直にそう思ったので、その場で採用を伝えた。

 もう一人、従業員として迎えたのは
尾上陽菜ひな 二十二歳 元看護師だ。
陽菜はある災害派遣先で保護した孤児だ。
引き取られた先の母方の実家がうちの実家から近くで、帰省したらたまに様子を見にいっていたせいか、妙に懐かれてしまった。
看護学校を卒業して、看護師として働きながら自活した生活をしている。とても健気な女の子だ。
近況報告の連絡があった際、自衛隊を辞めて店を始めることを伝えたら
「あたしもお兄ちゃんのお店で働くよ!」
と言ってくれた。
勤めていたクリニックの老院長が引退することになったため閉院することが決まり、現在は職探し中だとのことだったから断る理由も無いので、その言葉に甘えることにした。

 ファミレスを出て、店舗兼俺の自宅に向かうことになった。
途中、陽菜にも連絡してその場に来てもらうことにした。従業員の初顔合わせだ。
幸い、三人はすぐに打ち解けてくれた。
「こんな綺麗なお姉さんが一気に二人も出来て嬉しいです!」
陽菜のこの言葉通り、三人は本当に姉妹のようで息ピッタリだった。
この日の夕飯は退職前に引っ越し済みだった俺の新居(店の三階)で、試食がてら店のメインメニューになる鶏料理を振舞い、夜遅くまで歓談した。

 翌日から四人で開店に向けた準備が始まった。
慌ただしい日々だったが、今思い出しても楽しかった思い出しかない。
苦労は有っても全員が笑って毎日の仕事をこなしていた。
オープン後は営業停止前日まで飲食店も行列ができるほど賑わったし、女性陣に仕入れ商品の選定やディスプレイを任せた雑貨店も女性客で賑わった。
「思ってたより雑貨部門が忙しいんで、昼間の人員を増やしませんか?」
ある日のミーティングで未希から提案があった直後に、冒頭のウイルス騒動だ。
オープンからちょうど一年。四人で築いた店は幕を閉じた。

 そして、物語は冒頭に繋がる。
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