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第一話
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少し遅めの昼食を食べようと、ダイニングテーブルに作ったラーメンを置く。
今日の昼飯は大好きな「某ラーメン」だ。インスタントワンタンを一緒に煮込むと尚美味いので、今日の昼飯はそれにした。
昨日までは従業員の皆と交代で食べていたが、今日からは一人だ。
少し寂しくなったが、クヨクヨしていても仕方がない。気持ちを入れ替えて仕事探しを始めなければ。
『みんなは新しい職場に慣れてくれるだろうか・・・』
従業員だった三人の女性には、伝手を頼って新しい働き口を紹介した。
経営者として従業員にやってあげられる最後の親心だと思ったからだ。
それぞれのタイミングで新しい仕事場に通い始めるはずだ。皆が良いスキルを持っているので、きっと新しい職場でも活躍してくれるに違いないと確信している。
ダイニングセットの椅子を引き、腰掛けようとした時だった。
急激な眩暈に襲われた。こんな激しい眩暈はかつて無かった。直感的に脳梗塞を疑った。
『なんだよ。俺、こんなあっさり死ぬのかよ。誰か早めに発見してくれないかな』
そんな事を考えて目を閉じた瞬間…
ドサッとひっくり返ったように背中を打った。
特に痛くもないが、驚いた。
「???!!!」
目を開けると青空が飛び込んできた。
俺は今、自宅のダイニングにいたはずだ。いつの間に外に出た?
『そうか。天国に直行したんだな』
などと思いつつ上半身を起こした途端、視界に飛び込んできた緑の服の男に襲われた。
一瞬パニックに陥りそうになったが、そこは前職が前職だけに立ち直りも早かった。
「なにしやがる!」
言いながら腹にパンチ。続けざまに踵落としを脳天にぶち込む。
バキッ!メリィ!!という音と共に踵が男の頭にめり込んだ。
『え?!』
軽く打撃を与えただけのつもりだったのに、これはどう見ても致命傷だ。
その証拠に男…
いや、全身緑色の男?のような生き物は口や耳、両鼻からも血が噴き出してしまっている。
『あ・・・。俺、ついに殺人事件を起こしてしまった』
そう思った途端、今度は横から現れた緑の男(?)に鈍器で頭を殴られた。
ゴン
という鈍い音がしたが、特に痛くもない。反射的にその鈍器を奪い取り、持ち主の頭に渾身の力で振り下ろす。
グチャァ!
うん。文字通り首が胴体にめり込んで倒れた。こんな死に方はしたくないなぁ。
手元の鈍器を見ると、どうやら棍棒のようだ。
今度は短剣を構えた緑の男が飛び込んできて、俺に短剣を振り下ろしてきた。
構わず短剣を鷲掴みにして相手の側頭部に棍棒を叩き込む。
ブチャア!
と、緑の頭が飛び散る。俺ってばもう、立派な連続殺人鬼だ。
「こうなりゃ自棄だ!いくらでも来いや!」
そう吠えて振り返ると、そこには十人ほどの緑の男が立っていた。
手にしていた棍棒と短剣を見る。すると、それぞれの横に
『棍棒 価値なし』・『冒険者の短剣 価値あり』とゲームのようなステータスが現れた。
なんだよ。これが死後の世界なのかよ。どっちかというとゲームじゃねぇか。
これはあれか?天国に行くか地獄に堕ちるかの試練の場なのか?
そんなことを思いつつ、周りを見渡す。
少し離れた場所に女の子が三人立っているのが見えた。
なるほど、この三人を守りきればミッション成功ってことか。
自分の中で合点がいったので、気を取り直して戦おう。あの世でもこの世でも、女の子を助けるのは男の務めだし、気分がいい。
何より天国に行けばあの三人もセットで行けるのかもしれない。そうなればまさに天国だ。素晴らしい!
『しかし、拳銃でもあればもっと効率よく戦えるのにな』
昔の仕事で使用していた自動拳銃を思い出す。
SFP9。いい拳銃だった。
その瞬間、両手に持っていた棍棒と短剣に電気が走ったかのようにバリバリッと火花が散り、SFP9に変化していた。
「なんだこりゃ?!」
驚きの声を上げた瞬間、緑の男が襲い掛かってきた。冷静に攻撃を躱しながらマガジンを出して弾丸を確認する。
大丈夫だ。弾丸はフルに入ってる。
次にスライドを引きチャンバーに初弾を装填する。
そして緑の男の眉間に突き付けて引き金を絞る。命乞いなんてさせてやらない。
体勢を整えてコンバットハイポジションで構え直し、次々にヘッドショットをキメていく。
残り一体。初めてこいつらのステータスを見る。
『ゴブリン Lv:20』と出てきた。
こいつがゴブリンか。リアルガチ〇ピンかと思った。なら、人ではなくモンスターなわけで、害獣だ。
アニメで見たところでは、人を襲い女を犯すことだってあるそうな。
それは許せない。特に女性を犯すなんて許せない。俺だってご無沙汰なのに。
最後の一匹に照準を合わせる。逃げ出そうとしたところを後頭部に一発打ち込む。
終了だ。
一匹に付き弾丸一発。グレイトだ。俺の前職では少ない弾薬で多くの敵を倒すことが美徳とされていたので、今回の出来は上々だ。
マガジンを出して残弾を確認する。四発。チャンバーに一発残ってるから発砲したのは十発。倒した敵も十匹。目算通りだ。
俺の目もまだ霞んでないし、腕も鈍っていないようだ。
ただ、残弾が四発なのは心許ない。またいつ敵が現れるかも判らないからな。
しかし、補給があるわけでもないのに、どうやって補充すればよいのだろうか。
さっき拳銃が出現したときのことを思い出す。棍棒と短剣が変化して突然手の中に現れた。
ということは…
まさかと思いながら、手近に落ちていたゴブリンが持っていた槍を拾ってみる。
掌に握り頭の中でマガジンとそれに収納された9mmパラベラム弾を思い浮かべる。
バリバリッと槍から火花が散り、掌に弾丸入りのマガジンが二つ現れた。
『これがアニメで見た錬金術ってやつか!』
そうだ!これが錬金術だよ!鋼の人がやってたやつだ!
いい気になって落ちてた棍棒を拾い、もう一度試してみる。
バリバリッと火花が散って現れたのは三発の9mm弾のみ。
『そうか。等価交換ってことか!』
鋼の人もよく言ってたな。槍にはマガジン二つと弾丸三十発の価値があったけど、棍棒には弾丸のみ三発分の価値しかないってことだろう。
そう言えば、着ているパーカーがゴブリンの返り血塗れで臭いし、興奮しているせいか、なんだか暑い。ジットリと汗もかいている。
このパーカーはもう着れないだろうし、下に着ているTシャツも別に恥ずかしいのは着てないから問題ないだろう。
気になるとすれば、買って間もないことだけだ。
試しにステータスを見る。
『異界の衣 価値あり』と出た。
それにしても、近接戦では頼りになるとはいえ、SFP9一つでは心細いのも事実だ。
というわけで、パーカーを脱ぎ前職でメインアームとして使用していたM4にスコープとドットサイトとフォアグリップ、おまけにスリングを付けた状態で想像してみる。
またもバリバリッと火花が散った後、狙い通りの小銃が出てきた。
早速マガジンを引き抜き、弾丸を確認する。うん。ちゃんと三十発入ってるな。
メインアームも手に入れたので、ちょっとウキウキしてきた。
腰のジーパンとベルトの間に拳銃を差し込み、小銃を背中に回す。
落ちているゴブリンの武器を手当たり次第拾っては小銃の弾丸とマガジンに変えるが、途中で気付いた。
「これ、どこに入れとこう?」と「ゴブリンの死体、どこ行った?」だ。
最後に倒したゴブリンを見ると、黒い霧のようになって散っているところだった。
なるほど、モンスターは死ぬとその存在ごと消えるわけね。良いことだ。
さて、お次は予備マガジンの持ち運び方法だけど…
ここはやはり、ポーチがたくさん付けられるプレートキャリアが欲しいところだ。
何かいいものは落ちてないかと周囲を見回すと、剣が落ちていた。
拾い上げてステータスを見る。
『鋼の剣 未使用 価値あり』とのことだった。
フと顔を上げると、先ほどの女の子たちが目に入る。どうやら不審がられているようで近寄って来ない。
そりゃそうだ。ゴブリンをぶっ倒したかと思えば落とし物を拾っては妖しげな術で何かを作り出してるおっさんなんて、恐怖の対象以外の何者でもない。
できるだけ爽やかな笑顔を作り
「おーい!」
と声を掛けてみる。
三人は顔を見合わせて頷き合うと、恐る恐るというのがよく解る様子でこちらに向かって来る。
急かす必要も無いので三人のペースに合わせながらこちらも近付いていく。
程よき間合いまで歩み寄って、改めて声を掛けてみる。
『キモッ』とか『クサッ』なんて言われなきゃいいけど。
そんなこと言われたら、流石に俺も傷付いちゃう。
「この剣、未使用みたいだけど君たちのかい?」
三人が三人とも、ポカンとした顔で俺の顔を見つめている。
「あの…。もしもし?」
あれ?言葉が通じないかな…。無視なんかされちゃうともう…。泣いちゃうぞ?
「あ…!いえ、失礼しました!それは私たちの持ち物ではないです!」
よかった。無視されてたわけじゃないのね。
見た感じ三人とも欧州の女性っぽいけど日本語も通じるようだし、とても流暢に話してくれている。
やはりここは死後の世界なんだと実感する。
「恐らく、先に襲われた冒険者が持っていた物でしょう」
「そっか。なら未使用品だけど貰っても大丈夫かな?君たちが使うかい?」
「いえ、私も新調したばかりの剣がありますので」
と、腰の剣を抜き見せてくれる。ステータスを見ると
『破邪の剣 価値あり 特殊』とある。『特殊』ってのは初めて見たな。
どういう意味だろう?追々調べる必要があるな。
「そちらのお二人は?必要ない?」
「はい。私は精霊術士で彼女は魔法使いですので、両手剣は扱えませんので」
精霊って言ったか?!それに魔法使い!ゴブリンがいる時点でファンタジーだが、そんな職業はそれこそファンタジーでしかない。
でも、職業によって扱えない武器があるなんて、子供の頃に遊んだRPGを思い出すな。
そんな下らないことよりも、錬金術だ!
手にした剣をさっさとプレートキャリアに交換する。ついでにレッグホルスターとガンベルト、ダンプバッグやマグポーチもセットで頭に思い浮かべたら、一緒に出て来てくれた。
「ちょっとこれ持ってて」
最初に答えてくれた金髪の少女に拳銃と小銃を渡し、隣にいた精霊術士という銀髪の少女に予備マガジンを渡す。
残るシルバーというかブルーっぽい髪色の魔法使いの女の子には、ホルスターを装着する間プレートキャリアを持っていてもらう。
慣れた装備なのでパパッと装着する。
うん。ジーパンとTシャツに迷彩のプレートキャリアなのはアレだけど、それなりの見た目にはなった。
小銃の予備マガジンもたくさん持ったし、これで少しは安心して戦える。
「それは何ていう魔道具ですか?」
と、魔法使いの美少女が質問してくる
「いや、魔道具ではなくて、こっちは『自動小銃』という武器だよ」
「じどう…?しょーじゅー…ですか。言いにくいですね!初めて聞く名前です」
なるほど。この世界に火器は存在しないようだ。これは、敵を圧倒できるかも知れないな。
それにしても魔法かぁ…。火器はどこまで魔法に対抗できるのかな?すごく興味がある。
魔法使いの少女が言うには魔物でも魔法を使う種類がいるそうなので、機会があれば是非とも実験してみたいものだ。
そんな話をしていたら、風に乗って獣臭とは違う生臭いような臭いが漂ってきた。
この臭い、さっきも嗅いだ覚えがある。ゴブリンの臭いだ!
少し離れた場所に数匹のゴブリンが集まり始めている。
「ホブゴブリンだ!」
金髪の少女が叫ぶ。俺も中の一匹のステータスを確認する。
『ホブゴブリン Lv:32』
確かにホブゴブリンって書いてるね。
先ほどのゴブリンに比べて体も一回り大きく、持っている武器も弓矢やロングソードなどになっている。
なるほど、進化版ってところか。
距離にして200m。この小銃の性能が期待通りならば、俺の射撃スキルが鈍っていなければ射抜けるはずだ。
敵はまだ向かってきてはいない。こちらの様子を探っているようだ。
なので落ち着いてニーリングポジションで小銃を構え、ドットサイトを調整して弓矢を持つホブゴブリンの頭部に照準を定める。それと同時に弓矢を持つホブゴブリンを数える。
遠くにいる間に飛び道具を持つ敵を排除したほうが得策だからだ。
ロングソードや槍、アックスを持ったゴブリンなど、後から近接格闘戦でどうにでもできる。
まずは一発撃つ。セレクターをセミオートに切り替えて引き金を絞る。
タァァァン!
乾いた銃声と共に狙いを定めていたホブゴブリンの脳天が吹き飛ぶ。
間髪入れずに残りの弓矢持ちの頭も吹き飛ばす。
『あれ?M4って、こんなに威力強かったっけ?』
などと一瞬思ったが、今はそんなことを考えている場合ではない。
ホブゴブリンたちも頭に血が昇ったらしく、こちらに向かい始めている。
セレクターをフルオートに切り替え、先頭から順番に薙ぎ払うように撃つ。面白い。
笑えてしまいそうなほどに簡単に当たっては倒れていく。笑わないけど。
しかし、いくら進化してもゴブリンって本当にバカなんだな。
仲間の死体があるのに突進してこようとするから、引っかかってコケたところをさらに倒していくと、どんどん将棋倒しのようにコケていく。
なので、特に危機感を覚えることなく曳光弾が飛べばマグチェンジの用意をして、数発撃ってタクティカルリロード。
これを三度繰り返して、あっと言う間にホブゴブリンを制圧する。
何匹かふらふらと立ち上がったのがいたので、これにも脳天に一発ずつ食らわせてやった。
「すごい…。今のは何なんですか?!」
「これが神様の力…」
「今のは雷の魔法?」
口々にそんな言葉を呟いてる。ん?神様??今、神様って言ったか?
取り敢えず今は聞き流しておこう。彼女たちには聞きたいことが山ほどあるが後だ。
「あのさ、今のって何匹倒したか数えてた人いる?」
自分のカウントでは六十二匹だったのだが、あまり自信がなかったので聞いてみた。
「すみません。あまりのことに何が何だか」
「途中まで数えてましたが、四十を超えた時点で諦めました」
「あまりのことに、数えるのも忘れてました」
最後の魔法使いの娘は正直だが、ちょっと頭が悪いのかも知れない。
ゴブリンの死体の山に目を移すと、ほとんどが黒い霧となって消えかけている。
「あの黒い霧が消えたら残敵掃討に行こうと思うけど、一緒に来るかい?」
三人は再び顔を見合わせた後、金髪の少女が代表して言った。
「はい。ご一緒させてください」
今日の昼飯は大好きな「某ラーメン」だ。インスタントワンタンを一緒に煮込むと尚美味いので、今日の昼飯はそれにした。
昨日までは従業員の皆と交代で食べていたが、今日からは一人だ。
少し寂しくなったが、クヨクヨしていても仕方がない。気持ちを入れ替えて仕事探しを始めなければ。
『みんなは新しい職場に慣れてくれるだろうか・・・』
従業員だった三人の女性には、伝手を頼って新しい働き口を紹介した。
経営者として従業員にやってあげられる最後の親心だと思ったからだ。
それぞれのタイミングで新しい仕事場に通い始めるはずだ。皆が良いスキルを持っているので、きっと新しい職場でも活躍してくれるに違いないと確信している。
ダイニングセットの椅子を引き、腰掛けようとした時だった。
急激な眩暈に襲われた。こんな激しい眩暈はかつて無かった。直感的に脳梗塞を疑った。
『なんだよ。俺、こんなあっさり死ぬのかよ。誰か早めに発見してくれないかな』
そんな事を考えて目を閉じた瞬間…
ドサッとひっくり返ったように背中を打った。
特に痛くもないが、驚いた。
「???!!!」
目を開けると青空が飛び込んできた。
俺は今、自宅のダイニングにいたはずだ。いつの間に外に出た?
『そうか。天国に直行したんだな』
などと思いつつ上半身を起こした途端、視界に飛び込んできた緑の服の男に襲われた。
一瞬パニックに陥りそうになったが、そこは前職が前職だけに立ち直りも早かった。
「なにしやがる!」
言いながら腹にパンチ。続けざまに踵落としを脳天にぶち込む。
バキッ!メリィ!!という音と共に踵が男の頭にめり込んだ。
『え?!』
軽く打撃を与えただけのつもりだったのに、これはどう見ても致命傷だ。
その証拠に男…
いや、全身緑色の男?のような生き物は口や耳、両鼻からも血が噴き出してしまっている。
『あ・・・。俺、ついに殺人事件を起こしてしまった』
そう思った途端、今度は横から現れた緑の男(?)に鈍器で頭を殴られた。
ゴン
という鈍い音がしたが、特に痛くもない。反射的にその鈍器を奪い取り、持ち主の頭に渾身の力で振り下ろす。
グチャァ!
うん。文字通り首が胴体にめり込んで倒れた。こんな死に方はしたくないなぁ。
手元の鈍器を見ると、どうやら棍棒のようだ。
今度は短剣を構えた緑の男が飛び込んできて、俺に短剣を振り下ろしてきた。
構わず短剣を鷲掴みにして相手の側頭部に棍棒を叩き込む。
ブチャア!
と、緑の頭が飛び散る。俺ってばもう、立派な連続殺人鬼だ。
「こうなりゃ自棄だ!いくらでも来いや!」
そう吠えて振り返ると、そこには十人ほどの緑の男が立っていた。
手にしていた棍棒と短剣を見る。すると、それぞれの横に
『棍棒 価値なし』・『冒険者の短剣 価値あり』とゲームのようなステータスが現れた。
なんだよ。これが死後の世界なのかよ。どっちかというとゲームじゃねぇか。
これはあれか?天国に行くか地獄に堕ちるかの試練の場なのか?
そんなことを思いつつ、周りを見渡す。
少し離れた場所に女の子が三人立っているのが見えた。
なるほど、この三人を守りきればミッション成功ってことか。
自分の中で合点がいったので、気を取り直して戦おう。あの世でもこの世でも、女の子を助けるのは男の務めだし、気分がいい。
何より天国に行けばあの三人もセットで行けるのかもしれない。そうなればまさに天国だ。素晴らしい!
『しかし、拳銃でもあればもっと効率よく戦えるのにな』
昔の仕事で使用していた自動拳銃を思い出す。
SFP9。いい拳銃だった。
その瞬間、両手に持っていた棍棒と短剣に電気が走ったかのようにバリバリッと火花が散り、SFP9に変化していた。
「なんだこりゃ?!」
驚きの声を上げた瞬間、緑の男が襲い掛かってきた。冷静に攻撃を躱しながらマガジンを出して弾丸を確認する。
大丈夫だ。弾丸はフルに入ってる。
次にスライドを引きチャンバーに初弾を装填する。
そして緑の男の眉間に突き付けて引き金を絞る。命乞いなんてさせてやらない。
体勢を整えてコンバットハイポジションで構え直し、次々にヘッドショットをキメていく。
残り一体。初めてこいつらのステータスを見る。
『ゴブリン Lv:20』と出てきた。
こいつがゴブリンか。リアルガチ〇ピンかと思った。なら、人ではなくモンスターなわけで、害獣だ。
アニメで見たところでは、人を襲い女を犯すことだってあるそうな。
それは許せない。特に女性を犯すなんて許せない。俺だってご無沙汰なのに。
最後の一匹に照準を合わせる。逃げ出そうとしたところを後頭部に一発打ち込む。
終了だ。
一匹に付き弾丸一発。グレイトだ。俺の前職では少ない弾薬で多くの敵を倒すことが美徳とされていたので、今回の出来は上々だ。
マガジンを出して残弾を確認する。四発。チャンバーに一発残ってるから発砲したのは十発。倒した敵も十匹。目算通りだ。
俺の目もまだ霞んでないし、腕も鈍っていないようだ。
ただ、残弾が四発なのは心許ない。またいつ敵が現れるかも判らないからな。
しかし、補給があるわけでもないのに、どうやって補充すればよいのだろうか。
さっき拳銃が出現したときのことを思い出す。棍棒と短剣が変化して突然手の中に現れた。
ということは…
まさかと思いながら、手近に落ちていたゴブリンが持っていた槍を拾ってみる。
掌に握り頭の中でマガジンとそれに収納された9mmパラベラム弾を思い浮かべる。
バリバリッと槍から火花が散り、掌に弾丸入りのマガジンが二つ現れた。
『これがアニメで見た錬金術ってやつか!』
そうだ!これが錬金術だよ!鋼の人がやってたやつだ!
いい気になって落ちてた棍棒を拾い、もう一度試してみる。
バリバリッと火花が散って現れたのは三発の9mm弾のみ。
『そうか。等価交換ってことか!』
鋼の人もよく言ってたな。槍にはマガジン二つと弾丸三十発の価値があったけど、棍棒には弾丸のみ三発分の価値しかないってことだろう。
そう言えば、着ているパーカーがゴブリンの返り血塗れで臭いし、興奮しているせいか、なんだか暑い。ジットリと汗もかいている。
このパーカーはもう着れないだろうし、下に着ているTシャツも別に恥ずかしいのは着てないから問題ないだろう。
気になるとすれば、買って間もないことだけだ。
試しにステータスを見る。
『異界の衣 価値あり』と出た。
それにしても、近接戦では頼りになるとはいえ、SFP9一つでは心細いのも事実だ。
というわけで、パーカーを脱ぎ前職でメインアームとして使用していたM4にスコープとドットサイトとフォアグリップ、おまけにスリングを付けた状態で想像してみる。
またもバリバリッと火花が散った後、狙い通りの小銃が出てきた。
早速マガジンを引き抜き、弾丸を確認する。うん。ちゃんと三十発入ってるな。
メインアームも手に入れたので、ちょっとウキウキしてきた。
腰のジーパンとベルトの間に拳銃を差し込み、小銃を背中に回す。
落ちているゴブリンの武器を手当たり次第拾っては小銃の弾丸とマガジンに変えるが、途中で気付いた。
「これ、どこに入れとこう?」と「ゴブリンの死体、どこ行った?」だ。
最後に倒したゴブリンを見ると、黒い霧のようになって散っているところだった。
なるほど、モンスターは死ぬとその存在ごと消えるわけね。良いことだ。
さて、お次は予備マガジンの持ち運び方法だけど…
ここはやはり、ポーチがたくさん付けられるプレートキャリアが欲しいところだ。
何かいいものは落ちてないかと周囲を見回すと、剣が落ちていた。
拾い上げてステータスを見る。
『鋼の剣 未使用 価値あり』とのことだった。
フと顔を上げると、先ほどの女の子たちが目に入る。どうやら不審がられているようで近寄って来ない。
そりゃそうだ。ゴブリンをぶっ倒したかと思えば落とし物を拾っては妖しげな術で何かを作り出してるおっさんなんて、恐怖の対象以外の何者でもない。
できるだけ爽やかな笑顔を作り
「おーい!」
と声を掛けてみる。
三人は顔を見合わせて頷き合うと、恐る恐るというのがよく解る様子でこちらに向かって来る。
急かす必要も無いので三人のペースに合わせながらこちらも近付いていく。
程よき間合いまで歩み寄って、改めて声を掛けてみる。
『キモッ』とか『クサッ』なんて言われなきゃいいけど。
そんなこと言われたら、流石に俺も傷付いちゃう。
「この剣、未使用みたいだけど君たちのかい?」
三人が三人とも、ポカンとした顔で俺の顔を見つめている。
「あの…。もしもし?」
あれ?言葉が通じないかな…。無視なんかされちゃうともう…。泣いちゃうぞ?
「あ…!いえ、失礼しました!それは私たちの持ち物ではないです!」
よかった。無視されてたわけじゃないのね。
見た感じ三人とも欧州の女性っぽいけど日本語も通じるようだし、とても流暢に話してくれている。
やはりここは死後の世界なんだと実感する。
「恐らく、先に襲われた冒険者が持っていた物でしょう」
「そっか。なら未使用品だけど貰っても大丈夫かな?君たちが使うかい?」
「いえ、私も新調したばかりの剣がありますので」
と、腰の剣を抜き見せてくれる。ステータスを見ると
『破邪の剣 価値あり 特殊』とある。『特殊』ってのは初めて見たな。
どういう意味だろう?追々調べる必要があるな。
「そちらのお二人は?必要ない?」
「はい。私は精霊術士で彼女は魔法使いですので、両手剣は扱えませんので」
精霊って言ったか?!それに魔法使い!ゴブリンがいる時点でファンタジーだが、そんな職業はそれこそファンタジーでしかない。
でも、職業によって扱えない武器があるなんて、子供の頃に遊んだRPGを思い出すな。
そんな下らないことよりも、錬金術だ!
手にした剣をさっさとプレートキャリアに交換する。ついでにレッグホルスターとガンベルト、ダンプバッグやマグポーチもセットで頭に思い浮かべたら、一緒に出て来てくれた。
「ちょっとこれ持ってて」
最初に答えてくれた金髪の少女に拳銃と小銃を渡し、隣にいた精霊術士という銀髪の少女に予備マガジンを渡す。
残るシルバーというかブルーっぽい髪色の魔法使いの女の子には、ホルスターを装着する間プレートキャリアを持っていてもらう。
慣れた装備なのでパパッと装着する。
うん。ジーパンとTシャツに迷彩のプレートキャリアなのはアレだけど、それなりの見た目にはなった。
小銃の予備マガジンもたくさん持ったし、これで少しは安心して戦える。
「それは何ていう魔道具ですか?」
と、魔法使いの美少女が質問してくる
「いや、魔道具ではなくて、こっちは『自動小銃』という武器だよ」
「じどう…?しょーじゅー…ですか。言いにくいですね!初めて聞く名前です」
なるほど。この世界に火器は存在しないようだ。これは、敵を圧倒できるかも知れないな。
それにしても魔法かぁ…。火器はどこまで魔法に対抗できるのかな?すごく興味がある。
魔法使いの少女が言うには魔物でも魔法を使う種類がいるそうなので、機会があれば是非とも実験してみたいものだ。
そんな話をしていたら、風に乗って獣臭とは違う生臭いような臭いが漂ってきた。
この臭い、さっきも嗅いだ覚えがある。ゴブリンの臭いだ!
少し離れた場所に数匹のゴブリンが集まり始めている。
「ホブゴブリンだ!」
金髪の少女が叫ぶ。俺も中の一匹のステータスを確認する。
『ホブゴブリン Lv:32』
確かにホブゴブリンって書いてるね。
先ほどのゴブリンに比べて体も一回り大きく、持っている武器も弓矢やロングソードなどになっている。
なるほど、進化版ってところか。
距離にして200m。この小銃の性能が期待通りならば、俺の射撃スキルが鈍っていなければ射抜けるはずだ。
敵はまだ向かってきてはいない。こちらの様子を探っているようだ。
なので落ち着いてニーリングポジションで小銃を構え、ドットサイトを調整して弓矢を持つホブゴブリンの頭部に照準を定める。それと同時に弓矢を持つホブゴブリンを数える。
遠くにいる間に飛び道具を持つ敵を排除したほうが得策だからだ。
ロングソードや槍、アックスを持ったゴブリンなど、後から近接格闘戦でどうにでもできる。
まずは一発撃つ。セレクターをセミオートに切り替えて引き金を絞る。
タァァァン!
乾いた銃声と共に狙いを定めていたホブゴブリンの脳天が吹き飛ぶ。
間髪入れずに残りの弓矢持ちの頭も吹き飛ばす。
『あれ?M4って、こんなに威力強かったっけ?』
などと一瞬思ったが、今はそんなことを考えている場合ではない。
ホブゴブリンたちも頭に血が昇ったらしく、こちらに向かい始めている。
セレクターをフルオートに切り替え、先頭から順番に薙ぎ払うように撃つ。面白い。
笑えてしまいそうなほどに簡単に当たっては倒れていく。笑わないけど。
しかし、いくら進化してもゴブリンって本当にバカなんだな。
仲間の死体があるのに突進してこようとするから、引っかかってコケたところをさらに倒していくと、どんどん将棋倒しのようにコケていく。
なので、特に危機感を覚えることなく曳光弾が飛べばマグチェンジの用意をして、数発撃ってタクティカルリロード。
これを三度繰り返して、あっと言う間にホブゴブリンを制圧する。
何匹かふらふらと立ち上がったのがいたので、これにも脳天に一発ずつ食らわせてやった。
「すごい…。今のは何なんですか?!」
「これが神様の力…」
「今のは雷の魔法?」
口々にそんな言葉を呟いてる。ん?神様??今、神様って言ったか?
取り敢えず今は聞き流しておこう。彼女たちには聞きたいことが山ほどあるが後だ。
「あのさ、今のって何匹倒したか数えてた人いる?」
自分のカウントでは六十二匹だったのだが、あまり自信がなかったので聞いてみた。
「すみません。あまりのことに何が何だか」
「途中まで数えてましたが、四十を超えた時点で諦めました」
「あまりのことに、数えるのも忘れてました」
最後の魔法使いの娘は正直だが、ちょっと頭が悪いのかも知れない。
ゴブリンの死体の山に目を移すと、ほとんどが黒い霧となって消えかけている。
「あの黒い霧が消えたら残敵掃討に行こうと思うけど、一緒に来るかい?」
三人は再び顔を見合わせた後、金髪の少女が代表して言った。
「はい。ご一緒させてください」
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特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
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鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
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第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
月が導く異世界道中
あずみ 圭
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月読尊とある女神の手によって癖のある異世界に送られた高校生、深澄真。
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漫遊編始めました。
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サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
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クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
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とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
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スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
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この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
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【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
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といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
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