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第24章 カフェ京香
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末次は、すでに退官し、官舎を引き払い妻と二人で暮らしていた。終の棲家にと、緑の多い妻の実家近くの武蔵横手に、小さな平屋建ての中古住宅を購入していたのだ。
8月2日の早朝、自宅の電話が鳴った。
「はい、末次です。
ーNASA? ウイリアム・ディウィンさんですか。
ーはい。鶴田司令官は、すでに退官されておられます。
ー味沢健、二等空尉ですか。ええ、承知しています。
ー横田で見送りさせて頂きました。彼に何か?
ーあゝ、良かった。安心しました。
ー彼の親族ですか。味沢君本人に、聞いて頂ければ良いかと。
ーそうなんですか。長いミッションなんですね。
ー司令官が、味沢君本人に確認されておられましたが。
ーはい、親、兄弟は無く、唯一の肉親の祖母も亡くなっていると。
ー亡くなった母親を、ですか?
ー幸い、私は時間を持て余していますので。
ー急いでおられますか。
では、また。失礼します」
ウイリアムは、既に亡くなっている健の母を知る人物を探してほしいと依頼してきた。だが、その理由は語らなかった。
末次は、その日、横田の司令部を訪ね、額の汗を拭きながら窓口に立っていた。
かつての部下だった若い事務官が、敬礼をして迎えた。
「末次、事務官殿」
「久しぶりですね、元気だったかい」
「はい。事務官殿も、お元気そうで何よりです」
「退官していますから、事務官殿はよしてくださいよ」 「はい。では、末次さんで」
「顔ぶれも変っちゃったね、でも君が居てくれて安心したよ」
「今日は、どんな御用で」 「そっちへ、行って良いかね」
「えぇ、お入りください」
「実はね、ある人の住所が知りたいんだ」
「個人情報ですよね。まずいですよ」
「退官はしましたが、嘱託で募集人をしていますから、まだ、IDは使える筈ですよ」
「そうですか」
「ID、A0-1954120で、やってみて」 「はい、イケますね」
「パスは?」 「じゃあ、代わってくれる」 「あゝ、はい」
「〇〇□□△△◇◇と、行けたでしょ」 「アジサワタケルと」
「味沢健、二等空尉ですか……いつだったかここで、受付させて頂きました」
「彼はね、NASAで訓練を受けてね、ISSでスペースデブリの回収をしていたんですよ。本来ならね、一度、退官してJAXSに移籍して行くんだけど、若くて優秀ですからね、宇宙作戦隊の関係もあってね、特例で海外派遣のかたちでいっていたんですよ」
「味沢二等空尉の何を?」 「住所と、緊急時の連絡先」 「何か有ったんですか」
「いえね、今もNASAに行ってるんですがね」 「何か、事故でも」
「いいえ、NASAがね、味沢君のことを問合せして来たんです」
「NASAだったら、防衛省に訪ねれば……」
「いや、ここに書かれていない極個人的なことでね。これ以上はね」
「そうですか。立川市1番地ですか、近くですね」
「歩いて行けそうですね。ねぇ、これ印刷できる」 「それは、まずいですよ」
「じゃあ、宅地図は有るかい」 「末次さん、スマホ、持ってます?」
「あゝ、最近これに変えたんだよ」
「じゃあこれで、地図、出しときます。ルートも出るんですよ」
「凄いね! こんな使い方も出来るの、ナビだね。知らなかった」
「常識ですよ! 使いこなして下さいよ」
「私の周りに若い人居なくてね、パソコンはそこそこ使えるんだけど」
「あとは、メモるか」 「これもスマホに」
「これは良いよ、手帳に書いておいた方が忘れないからね」 「そう、ですか?」
「とりあえず、これだけ判れば」 「はぁ……」
「邪魔して悪かったね」
「お疲れ様でした。外は熱いですから、体に気を付けて下さいね」
「ありがとうね」と司令部を後にした。
末次は、スマホを頼りに健の自宅に向かった。真夏の、日陰の無い道を歩き汗が額に噴き出してきた。末次は、『今日じゃなくても良かった』と後悔した。
健の自宅のある立川市1番地は、横田基地の17番ゲートに近く高層な構造物はなく、一般住宅やアパートが立ち並ぶ通りから路地を入った先の様であった。
その路地は緩くカーブし、前方の景色が緑に変わり森が見えた。路地を入っただけだが、緑が多く人気もなく静かで暑さが和らいだ様に感じた。
森の手前に、小さな赤い屋根と一本の木が見えた。赤い屋根の家は、椿の垣根の奥にあった。
垣根が途切れ、末次は、赤い瓦屋根の家の前で足を止めた。小ぢんまりとした、戸建ての平屋で雨戸は閉じられていた。小さな庭があり、一本の桜の木が植えられ緑の葉を付けていた。戸袋が付いた木製の雨戸が、昭和の佇まいを色濃く残していたが、玄関の戸はその趣とは異なりアルミサッシの引き戸であった。
末次は、敷地に足を踏み入れしばらく佇んだ。今まで噴き出していた汗が止んだ。自身もこんな家で暮らし育ち、とても懐かしくタイムスリップしたかの様に思えたのだ。
表札が、二つ玄関の梁に掛けられていた。その一つは『味沢』と読めたが、もう一つは、木地が黒ずみ読み取ることが出来なかった。末次は、近寄り玄関前に立った。その表札には『岡田』と書かれていた。郵便受けに、貼られた札の文字もかすれ年月の長さを語っていた。間違いなく味沢健の自宅だった。健は、この家で育ったのだ。
小さな庭の桜は、真っ直ぐに伸び幹の皮には苔が付いていた。誰もいないはずなのに小綺麗に片付き、その庭は落ち葉も無く雑草も生えていなかった。
その誰もいない筈の、玄関の前でしばらく佇み、ボタンだけの簡素な呼び鈴のボタンを押した。家の中からは、呼び鈴の音も返事も無い。「こんにちは」と、大きめな声で呼び掛けたがやはり返事は無い。
『居るはずはないよな』と呟き玄関の戸を開けようとしたが、当然、施錠されていた。家の裏へ回り、電力メーターを確認したがメーターは止まっていた。
敷地から路地へ出た。ターボプロップ・エンジンの音がし、頭上を米軍のC-103輸送機が通過した。一度振り返り通りへと歩き出した。直ぐに汗が噴き出した。通りを走る、自動車の走行音が暑さを増した。
『そうだ、あそこへ、寄っていこう』
末次は、ここへ来る途中にあった、どこか懐かしい雰囲気のするカフェを思い出したのだ。『カフェ京香』と書かれた看板がポールに掛けられていた。スマホの地図に目をやった。健の家の前の路地をそのまま進めば、このカフェに近道が出来たのだった。
入口の扉は、ガラスが組み込まれた木製であった。末次は、『押して下さい』と書かれたドアの前で足を止めガラス越しに中を覗いた。暑さのせいか意外と客が入っていた。
ドアノブに、手を掛けドアを押し開いた。カウベルが、カラン・カラン……とやさしく鳴った。
コーヒーの香りと、「いらっしゃいませ。お一人ですか」と、若い女性の声がした。
「一人ですが、良いですか」
「カウンターで宜しければ、こちらへどうぞ」と、まだ少女の面影が残る20歳位のウェイトレスに案内された。
末次は、申し訳なさそうにペコンと頭を下げカウンターの方へ向かった。食卓よりやや低いテーブル席が6セットと、カウンター席が4席の小ぢんまりとした店内だった。カウンターの向かい、衝立に隠れた一組のボックス席が空いていた。クッションのレザーは張替えられているが、デザインが古く他のボックス席のテーブルや椅子とは趣が異なり、ラウンジに置かれる様なテーブルの高さが低くシートのクッションが厚い物であった。
末次は、案内されたカウンターのスツールに腰を掛けた。
カウンターの中の、マスターらしき人物と目が合った。
「いらっしゃいませ。何に致しますか」
末次は、一瞬、返事を忘れてしまった。
「あゝ、はい。冷たいアイスコーヒーを」
「はい、冷たいお水をどうぞ」と若いウェイトレスが、お絞りとグラスの水を差し出した。
「そうですね。アイスコーヒーは、冷たいに決まってますよね」
「そうよ」と若いウェイトレスが微笑みを返した。
末次は、出された冷えた水を半分ほど飲んだ。
「驚きましたか」 「えぇ、マスターが女性だとは、それに、とてもお綺麗で」
末次には、その女性が30代に見えた。
「いえマスターじゃないんです、母の店なんです。あの子は、私の娘なんですよ」
「えっ、親子? なんですか。二十歳位でしょ、とても、こんな大きな子がいるようには見えないですよ。へぇー、姉妹じゃないかと、二人とも美人だねぇ。お母さんは、今はやりの美魔女か」
「ありがとうございます。お世辞でも嬉しいわ」
「おばあちゃんも、美人だよ」と娘が、人なつっこい口調で話した。
「美人、家系なんだぁ」
「おばあちゃんと、お母さんと私、三人でやってるんだよ」
「美女三代で、やってるんですか。凄いですね」
「この店は、母が始めた店なんです。もう40年近くにになります」
末次は、おしぼりを取り、両手に広げた。包のビニールは無く、上質なタオル地でこの店で用意した物のようであった。
「そうですか。お母様が、ママさんなんですか」と言いながら、広げたお絞りで顔を覆った。ヒンヤリとし、ほんのりと柑橘系の香りがした。
「いつもなら、もう来る頃なんですがね」
「そうですか。あァー、気持ちいい」と言いながら顔を拭いた。
「外は、お熱いでしょ」 「はぁ、生き返ったようです」と、首筋を拭いた。
「伊東さん、おばあちゃんが来るまで帰らないでよ」と娘のウェイトレスが、その年配のお客に水を注いでいた。
「昔からの、お客さんなんです」
メニューは、飲み物と軽食だけであったが、自家製有機野菜と卵のサンドイッチと書かれ、ナポリタンスパゲッティは、ピーマンの緑が鮮やかで赤いウインナーに懐かしさを感じた。
「おばあちゃんの名前が、京香(きょうか)さんでしょ。当たった?」
「そう、おばあちゃんが京香。お母さんが麗(れい)で、私が、娘の芽衣(めい)です」
「レイさんメイちゃん、姉妹みたいだね」
「はい、冷たいアイスコーヒーね」と、芽衣が、末次の前にタンブラーを置いた。
ミルクとガムシロップを入れマドラーで軽くかき混ぜ一口飲んだ。
「苦みも、酸味もいい具合です」 「ありがとうございます」
「メイちゃん、お水下さい」と学生風の男が声をかけた。
「はぁィー」と芽衣が答えた。
「あの、お客さん、芽衣のファンなんです」 「ファン?」
「なんでもね、あの子の声が、ゲームの主人公にそっくりらしくて、SNSで広まって、若いお客さんも来てくれる様になって」
「今時の若い人達は、コンビニでテイクアウトですもんね、ありがたい事ですね」
「コトネよコトネ、RPGゲームの映画よ。ちゃんとした劇場版なんだから」
「コトネ?」
「そう、主人公。ヒロインなんだから。悪い奴らにね、双子の姉がね、魔術かけけられちゃて病気になっちゃうの。それでね、お姉ちゃんを助ける為に、コトネがね、魔界にスリップしちゃうのよ。そこで悪い奴らと闘うの」
「RPG? ポケモンみたいな」
「ポケモンもRPGか、間違いじゃないけど。私がね、学際でねコトネのコスしてたの」
「コス?」
「コスプレよ。それをね、友達がねSNSにね、動画をアップしたの。そしたら拡散しちゃって、お店に入れない位、一杯になっちゃって」
「大げさなんだから」 「本当なんだから」 「確かに、そんな事も有りましたね」
「あのお客さん達だって、ギフから来てくれてるんだよ」 「ギフって」
「どこか知らないけど、新幹線、乗って来るって」
「芽衣、どこか知らずに話してたの、呆れちゃうわね。白川郷、行った事あるでしょ。ほら小学校の頃、おばあちゃんとおじいちゃに、けんちゃんと一緒に連れて行ってもらったじゃない」
「あぁ、あの白川郷ね。あそこギフだったんだ」
「岐阜って、各務原飛行場のある、あの鵜飼の町? 信じられないな」
「そうですよね。わざわざ芽衣に会いに来てる、訳じゃないと思うけど」
末次は、岐阜から来ていると言う若いお客は、航空機ファンで横田基地の米軍機を見に来たのだろうと思った。
「あっ、お母さん、やきもち妬いてる」
「でも凄いですよ。声が似てるだけで、そんなことになっちゃうんですか。じゃあ、この頭、俳優さんの小日向さんに似てるでしょ、ダメかな」
「ドラマの事務官さん、似てるわね」 「似てる、だけじゃ駄目よ!」
「ダメか。メイちゃんのファンにならなれる」
「いいよ。じゃあ、コレあげる。会員証ね、お客さんが作ってくれたの」
それは、名刺程の大きさで、ちゃんとした作りの物だった。カフェ京香のロゴと、住所・電話番号が書かれ、裏面はコスチュームを纏いポーズを決めた芽衣の写真がプリントされていた。
「100番!」 「会員番号ね!」
「こんなにいるの、凄いな。これ、メイちゃんなの、カッコイイねー!」
「タレント気取りでしょ、店の名刺だと思って下さい」
「はい! ありがたく頂戴します」
芽衣が、おつまみのナッツの入った小皿を差し出した。
「ピーナッツは、大丈夫ですか」と麗が声を掛けた。
「これ、ハッピー豆ですよね。懐かしいな」
ピーナッツに衣を付けて炒った、少し甘く塩辛いスナック豆だ。
「母の、拘りなんですよ」
「何か、凄く落ち着きます。なんか、昭和の雰囲気というか」
「何度か改装したんですけど、母の趣味であまり替わり映えしないんです。カップも何度か替えてるんですけど、いつも同じような感じになっちゃって」
「いゃあ、四十年も続けば大したものですよ。私は好きですよ、この雰囲気」
「ありがとうございます。母も喜びますわ」
目の前の棚には、品のある落ち着いたデザインのカップソーサーが並べられ、その幾つかのカップソーサーに混じり、モノクロームの写真がフォトスタンド入れられ置かれていた。
「今日は、お仕事ですか」
「いいえ、人探しで、こちらの方に来た帰りなんです」 「見つかりました?」
「居ないってことは、判ってたんですが」 「居ない人を探してたの、変なの」
「いえ、その人の事を知ってる人が居ないかと思いまして」
「亡くなられたんですか」
「いいえ、本人はちゃんと生きてます。その人の、お母様をご存じな方を探してたんです」
「先生かと思ったけど、刑事さんなの」
「良く、先生に間違えられます。つい最近まで公務員でした。今は、嘱託の職員です」
「定年で?」 「はい」 「それは、お疲れ様でした」
「ありがとうございます。今日も、事務所に寄って、それからこちの方へ来ました」
「刑事さんじゃないんだ」
「自家製有機野菜って、書いてますよね」
「おじいちゃんが、畑をやってるの。うちの野菜、美味しいんだょ、鶏も飼ってるよ。卵はね、黄身が大きいんだょ」
「畑か、いいな。退職したら、やってみたいと思ってたんですがね」
「曾祖父の代には、専業農家だったようで、今は、家の周りに少しだけ畑が残ってるんですけど」
「アパートも、マンションもあるわよ」 「地主さんですか」
「沢山、有る訳じゃないですけどね」 「羨ましいですね」
「その棚の、写真は?」
「これですか、母の若い頃のなんです」と麗が、棚から取り末次に渡した。
「今では珍しい、ブローニー版ですね」
「そうですか、ちょっと変わってるとは思ってましたけど」
「縦横が正方形に近いでしょ、久しぶりに見ました。マニアの人たちが好んで使ってましたね」
「カメラは、お詳しいんですか」
「詳しいほどじゃないです。昔、ちょっとやってましたけど、今は、デジカメも使わないでしょ、よほどのマニアじゃないと」
「スマホで、済みますものね」
「お母様の、中学の頃ですか?」
「母の、中三の春だそうで。ポニーテールが母で、三つ編みが母の幼なじみ。そして、米兵さんとその息子さんだそうです」
その写真には、セーラー服を着た二人の少女と、米兵とその息子の4人が並んで写っていた。
「お二人とも可愛いですね。この、一緒に写ってる米兵さんはお知り合いですか」
「なんでもそのときが初対面で、知り合いでも何でもない人らしいんです。その男の子の名前しか覚えて無いんですよ」
「そうですか。初対面で、それにしても、みんな良い笑顔してますね。とても仲の良い親子の様に見えますよ。失礼ですけど、お母様はお幾つですか」
「もう還暦、過ぎてます」
「私と、同何年代ですね。ポニーテールか、この、お母様のお友達は御健在なんですか」
「それが、去年、亡くなって」
「そうでしたか……後ろの桜は?」
「基地の桜のようですよ」 「えっ、ここ横田ですか」
「えぇ、そこの17番ゲートの中のようで」
「桜フェスティバルっていって、誰でも入れるんだよ」
「御存じですよね」
「はい、イーストゲートのフェスティバルのことは知ってますけど、お母様の若い頃なんてフェスティバルなんて無かっただろうし、入ることなんて出来なかったでしょ」
「その米兵さんに頼んで、入れて貰ったらしくて」
「へぇー、初対面で入れて貰ったって、それは凄いな。どうやったたんだ」
「どんな手を、使ったんでしょうかね?」
「謎ですか。長居してしまいました。外の暑さも落ち着いた頃ですから、今日はこれで」
「また、おいでください」
「はい、京香さんにもお会いしたいですから。それにメイちゃんの、ファンになっちいましたから、会員番号、100番ですからね」
「御馳走様でした」 「550円いただきます」
「メイちゃん、またね」とカフェ京香を出た。カウベルがやさしく鳴った。
通りを歩き始めた末次は、このカフェに寄って良かったと、そして、一度、京香に逢ってみたいと思った。
直ぐに汗が額をつたい、ズボンの尻のポケットからハンカチを取り出した。浴衣を着た涼しげな女性とすれ違い、末次は汗をぬぐいながら、思わず振り返った。
カフェ京香の、裏にも森が見えた。スマホで現在の位置を確認した。健の家の裏の森と繋がっていたのだったのだ。
末次は、翌週、立川市役所へ行き住民基本台帳を閲覧した。本人の同意書が無く、許可を取るにはちょっと苦労したが自衛隊の身分証明書が役立った。
味沢健は、1996年生まれ。 父・味沢豊(ゆたか)。 母・咲(えみ)。
咲は、岡田小百合の娘で、1977年生まれ。兄弟姉妹は無く、父親の欄は、空白であった。
豊と咲は、1995年に入籍していた。18歳で結婚し、19歳で健を出産していた。
そして、咲は、健の誕生の翌日に、除籍(死亡)されていた。
祖母の岡田小百合は、1947年(昭和49年)九州の佐世保から、母子二人で転居してきていた。
父、味沢豊は、本籍が長野市であった。
そして、2011年3月11日(認定日・7月15日)に除籍(死亡)されていた。東日本大震災の日であった。
全て、味沢健、本人の言う通りであった。
末次は、味沢健の父、豊の前本籍地の長野市に向かった。豊の戸籍には、実の父母の記載が無く味沢家へ養子縁組がなされているようであった。
味沢家の住所地を訪ねた。大きな屋敷で有ったが、味沢の表札は無かった。
末次は、この夏の一週間、何の手掛りも見つける事が出来なかった。カフェのママ『京香』に何故か、逢ってみたい会いに行こうと思うようになっていた。
8月2日の早朝、自宅の電話が鳴った。
「はい、末次です。
ーNASA? ウイリアム・ディウィンさんですか。
ーはい。鶴田司令官は、すでに退官されておられます。
ー味沢健、二等空尉ですか。ええ、承知しています。
ー横田で見送りさせて頂きました。彼に何か?
ーあゝ、良かった。安心しました。
ー彼の親族ですか。味沢君本人に、聞いて頂ければ良いかと。
ーそうなんですか。長いミッションなんですね。
ー司令官が、味沢君本人に確認されておられましたが。
ーはい、親、兄弟は無く、唯一の肉親の祖母も亡くなっていると。
ー亡くなった母親を、ですか?
ー幸い、私は時間を持て余していますので。
ー急いでおられますか。
では、また。失礼します」
ウイリアムは、既に亡くなっている健の母を知る人物を探してほしいと依頼してきた。だが、その理由は語らなかった。
末次は、その日、横田の司令部を訪ね、額の汗を拭きながら窓口に立っていた。
かつての部下だった若い事務官が、敬礼をして迎えた。
「末次、事務官殿」
「久しぶりですね、元気だったかい」
「はい。事務官殿も、お元気そうで何よりです」
「退官していますから、事務官殿はよしてくださいよ」 「はい。では、末次さんで」
「顔ぶれも変っちゃったね、でも君が居てくれて安心したよ」
「今日は、どんな御用で」 「そっちへ、行って良いかね」
「えぇ、お入りください」
「実はね、ある人の住所が知りたいんだ」
「個人情報ですよね。まずいですよ」
「退官はしましたが、嘱託で募集人をしていますから、まだ、IDは使える筈ですよ」
「そうですか」
「ID、A0-1954120で、やってみて」 「はい、イケますね」
「パスは?」 「じゃあ、代わってくれる」 「あゝ、はい」
「〇〇□□△△◇◇と、行けたでしょ」 「アジサワタケルと」
「味沢健、二等空尉ですか……いつだったかここで、受付させて頂きました」
「彼はね、NASAで訓練を受けてね、ISSでスペースデブリの回収をしていたんですよ。本来ならね、一度、退官してJAXSに移籍して行くんだけど、若くて優秀ですからね、宇宙作戦隊の関係もあってね、特例で海外派遣のかたちでいっていたんですよ」
「味沢二等空尉の何を?」 「住所と、緊急時の連絡先」 「何か有ったんですか」
「いえね、今もNASAに行ってるんですがね」 「何か、事故でも」
「いいえ、NASAがね、味沢君のことを問合せして来たんです」
「NASAだったら、防衛省に訪ねれば……」
「いや、ここに書かれていない極個人的なことでね。これ以上はね」
「そうですか。立川市1番地ですか、近くですね」
「歩いて行けそうですね。ねぇ、これ印刷できる」 「それは、まずいですよ」
「じゃあ、宅地図は有るかい」 「末次さん、スマホ、持ってます?」
「あゝ、最近これに変えたんだよ」
「じゃあこれで、地図、出しときます。ルートも出るんですよ」
「凄いね! こんな使い方も出来るの、ナビだね。知らなかった」
「常識ですよ! 使いこなして下さいよ」
「私の周りに若い人居なくてね、パソコンはそこそこ使えるんだけど」
「あとは、メモるか」 「これもスマホに」
「これは良いよ、手帳に書いておいた方が忘れないからね」 「そう、ですか?」
「とりあえず、これだけ判れば」 「はぁ……」
「邪魔して悪かったね」
「お疲れ様でした。外は熱いですから、体に気を付けて下さいね」
「ありがとうね」と司令部を後にした。
末次は、スマホを頼りに健の自宅に向かった。真夏の、日陰の無い道を歩き汗が額に噴き出してきた。末次は、『今日じゃなくても良かった』と後悔した。
健の自宅のある立川市1番地は、横田基地の17番ゲートに近く高層な構造物はなく、一般住宅やアパートが立ち並ぶ通りから路地を入った先の様であった。
その路地は緩くカーブし、前方の景色が緑に変わり森が見えた。路地を入っただけだが、緑が多く人気もなく静かで暑さが和らいだ様に感じた。
森の手前に、小さな赤い屋根と一本の木が見えた。赤い屋根の家は、椿の垣根の奥にあった。
垣根が途切れ、末次は、赤い瓦屋根の家の前で足を止めた。小ぢんまりとした、戸建ての平屋で雨戸は閉じられていた。小さな庭があり、一本の桜の木が植えられ緑の葉を付けていた。戸袋が付いた木製の雨戸が、昭和の佇まいを色濃く残していたが、玄関の戸はその趣とは異なりアルミサッシの引き戸であった。
末次は、敷地に足を踏み入れしばらく佇んだ。今まで噴き出していた汗が止んだ。自身もこんな家で暮らし育ち、とても懐かしくタイムスリップしたかの様に思えたのだ。
表札が、二つ玄関の梁に掛けられていた。その一つは『味沢』と読めたが、もう一つは、木地が黒ずみ読み取ることが出来なかった。末次は、近寄り玄関前に立った。その表札には『岡田』と書かれていた。郵便受けに、貼られた札の文字もかすれ年月の長さを語っていた。間違いなく味沢健の自宅だった。健は、この家で育ったのだ。
小さな庭の桜は、真っ直ぐに伸び幹の皮には苔が付いていた。誰もいないはずなのに小綺麗に片付き、その庭は落ち葉も無く雑草も生えていなかった。
その誰もいない筈の、玄関の前でしばらく佇み、ボタンだけの簡素な呼び鈴のボタンを押した。家の中からは、呼び鈴の音も返事も無い。「こんにちは」と、大きめな声で呼び掛けたがやはり返事は無い。
『居るはずはないよな』と呟き玄関の戸を開けようとしたが、当然、施錠されていた。家の裏へ回り、電力メーターを確認したがメーターは止まっていた。
敷地から路地へ出た。ターボプロップ・エンジンの音がし、頭上を米軍のC-103輸送機が通過した。一度振り返り通りへと歩き出した。直ぐに汗が噴き出した。通りを走る、自動車の走行音が暑さを増した。
『そうだ、あそこへ、寄っていこう』
末次は、ここへ来る途中にあった、どこか懐かしい雰囲気のするカフェを思い出したのだ。『カフェ京香』と書かれた看板がポールに掛けられていた。スマホの地図に目をやった。健の家の前の路地をそのまま進めば、このカフェに近道が出来たのだった。
入口の扉は、ガラスが組み込まれた木製であった。末次は、『押して下さい』と書かれたドアの前で足を止めガラス越しに中を覗いた。暑さのせいか意外と客が入っていた。
ドアノブに、手を掛けドアを押し開いた。カウベルが、カラン・カラン……とやさしく鳴った。
コーヒーの香りと、「いらっしゃいませ。お一人ですか」と、若い女性の声がした。
「一人ですが、良いですか」
「カウンターで宜しければ、こちらへどうぞ」と、まだ少女の面影が残る20歳位のウェイトレスに案内された。
末次は、申し訳なさそうにペコンと頭を下げカウンターの方へ向かった。食卓よりやや低いテーブル席が6セットと、カウンター席が4席の小ぢんまりとした店内だった。カウンターの向かい、衝立に隠れた一組のボックス席が空いていた。クッションのレザーは張替えられているが、デザインが古く他のボックス席のテーブルや椅子とは趣が異なり、ラウンジに置かれる様なテーブルの高さが低くシートのクッションが厚い物であった。
末次は、案内されたカウンターのスツールに腰を掛けた。
カウンターの中の、マスターらしき人物と目が合った。
「いらっしゃいませ。何に致しますか」
末次は、一瞬、返事を忘れてしまった。
「あゝ、はい。冷たいアイスコーヒーを」
「はい、冷たいお水をどうぞ」と若いウェイトレスが、お絞りとグラスの水を差し出した。
「そうですね。アイスコーヒーは、冷たいに決まってますよね」
「そうよ」と若いウェイトレスが微笑みを返した。
末次は、出された冷えた水を半分ほど飲んだ。
「驚きましたか」 「えぇ、マスターが女性だとは、それに、とてもお綺麗で」
末次には、その女性が30代に見えた。
「いえマスターじゃないんです、母の店なんです。あの子は、私の娘なんですよ」
「えっ、親子? なんですか。二十歳位でしょ、とても、こんな大きな子がいるようには見えないですよ。へぇー、姉妹じゃないかと、二人とも美人だねぇ。お母さんは、今はやりの美魔女か」
「ありがとうございます。お世辞でも嬉しいわ」
「おばあちゃんも、美人だよ」と娘が、人なつっこい口調で話した。
「美人、家系なんだぁ」
「おばあちゃんと、お母さんと私、三人でやってるんだよ」
「美女三代で、やってるんですか。凄いですね」
「この店は、母が始めた店なんです。もう40年近くにになります」
末次は、おしぼりを取り、両手に広げた。包のビニールは無く、上質なタオル地でこの店で用意した物のようであった。
「そうですか。お母様が、ママさんなんですか」と言いながら、広げたお絞りで顔を覆った。ヒンヤリとし、ほんのりと柑橘系の香りがした。
「いつもなら、もう来る頃なんですがね」
「そうですか。あァー、気持ちいい」と言いながら顔を拭いた。
「外は、お熱いでしょ」 「はぁ、生き返ったようです」と、首筋を拭いた。
「伊東さん、おばあちゃんが来るまで帰らないでよ」と娘のウェイトレスが、その年配のお客に水を注いでいた。
「昔からの、お客さんなんです」
メニューは、飲み物と軽食だけであったが、自家製有機野菜と卵のサンドイッチと書かれ、ナポリタンスパゲッティは、ピーマンの緑が鮮やかで赤いウインナーに懐かしさを感じた。
「おばあちゃんの名前が、京香(きょうか)さんでしょ。当たった?」
「そう、おばあちゃんが京香。お母さんが麗(れい)で、私が、娘の芽衣(めい)です」
「レイさんメイちゃん、姉妹みたいだね」
「はい、冷たいアイスコーヒーね」と、芽衣が、末次の前にタンブラーを置いた。
ミルクとガムシロップを入れマドラーで軽くかき混ぜ一口飲んだ。
「苦みも、酸味もいい具合です」 「ありがとうございます」
「メイちゃん、お水下さい」と学生風の男が声をかけた。
「はぁィー」と芽衣が答えた。
「あの、お客さん、芽衣のファンなんです」 「ファン?」
「なんでもね、あの子の声が、ゲームの主人公にそっくりらしくて、SNSで広まって、若いお客さんも来てくれる様になって」
「今時の若い人達は、コンビニでテイクアウトですもんね、ありがたい事ですね」
「コトネよコトネ、RPGゲームの映画よ。ちゃんとした劇場版なんだから」
「コトネ?」
「そう、主人公。ヒロインなんだから。悪い奴らにね、双子の姉がね、魔術かけけられちゃて病気になっちゃうの。それでね、お姉ちゃんを助ける為に、コトネがね、魔界にスリップしちゃうのよ。そこで悪い奴らと闘うの」
「RPG? ポケモンみたいな」
「ポケモンもRPGか、間違いじゃないけど。私がね、学際でねコトネのコスしてたの」
「コス?」
「コスプレよ。それをね、友達がねSNSにね、動画をアップしたの。そしたら拡散しちゃって、お店に入れない位、一杯になっちゃって」
「大げさなんだから」 「本当なんだから」 「確かに、そんな事も有りましたね」
「あのお客さん達だって、ギフから来てくれてるんだよ」 「ギフって」
「どこか知らないけど、新幹線、乗って来るって」
「芽衣、どこか知らずに話してたの、呆れちゃうわね。白川郷、行った事あるでしょ。ほら小学校の頃、おばあちゃんとおじいちゃに、けんちゃんと一緒に連れて行ってもらったじゃない」
「あぁ、あの白川郷ね。あそこギフだったんだ」
「岐阜って、各務原飛行場のある、あの鵜飼の町? 信じられないな」
「そうですよね。わざわざ芽衣に会いに来てる、訳じゃないと思うけど」
末次は、岐阜から来ていると言う若いお客は、航空機ファンで横田基地の米軍機を見に来たのだろうと思った。
「あっ、お母さん、やきもち妬いてる」
「でも凄いですよ。声が似てるだけで、そんなことになっちゃうんですか。じゃあ、この頭、俳優さんの小日向さんに似てるでしょ、ダメかな」
「ドラマの事務官さん、似てるわね」 「似てる、だけじゃ駄目よ!」
「ダメか。メイちゃんのファンにならなれる」
「いいよ。じゃあ、コレあげる。会員証ね、お客さんが作ってくれたの」
それは、名刺程の大きさで、ちゃんとした作りの物だった。カフェ京香のロゴと、住所・電話番号が書かれ、裏面はコスチュームを纏いポーズを決めた芽衣の写真がプリントされていた。
「100番!」 「会員番号ね!」
「こんなにいるの、凄いな。これ、メイちゃんなの、カッコイイねー!」
「タレント気取りでしょ、店の名刺だと思って下さい」
「はい! ありがたく頂戴します」
芽衣が、おつまみのナッツの入った小皿を差し出した。
「ピーナッツは、大丈夫ですか」と麗が声を掛けた。
「これ、ハッピー豆ですよね。懐かしいな」
ピーナッツに衣を付けて炒った、少し甘く塩辛いスナック豆だ。
「母の、拘りなんですよ」
「何か、凄く落ち着きます。なんか、昭和の雰囲気というか」
「何度か改装したんですけど、母の趣味であまり替わり映えしないんです。カップも何度か替えてるんですけど、いつも同じような感じになっちゃって」
「いゃあ、四十年も続けば大したものですよ。私は好きですよ、この雰囲気」
「ありがとうございます。母も喜びますわ」
目の前の棚には、品のある落ち着いたデザインのカップソーサーが並べられ、その幾つかのカップソーサーに混じり、モノクロームの写真がフォトスタンド入れられ置かれていた。
「今日は、お仕事ですか」
「いいえ、人探しで、こちらの方に来た帰りなんです」 「見つかりました?」
「居ないってことは、判ってたんですが」 「居ない人を探してたの、変なの」
「いえ、その人の事を知ってる人が居ないかと思いまして」
「亡くなられたんですか」
「いいえ、本人はちゃんと生きてます。その人の、お母様をご存じな方を探してたんです」
「先生かと思ったけど、刑事さんなの」
「良く、先生に間違えられます。つい最近まで公務員でした。今は、嘱託の職員です」
「定年で?」 「はい」 「それは、お疲れ様でした」
「ありがとうございます。今日も、事務所に寄って、それからこちの方へ来ました」
「刑事さんじゃないんだ」
「自家製有機野菜って、書いてますよね」
「おじいちゃんが、畑をやってるの。うちの野菜、美味しいんだょ、鶏も飼ってるよ。卵はね、黄身が大きいんだょ」
「畑か、いいな。退職したら、やってみたいと思ってたんですがね」
「曾祖父の代には、専業農家だったようで、今は、家の周りに少しだけ畑が残ってるんですけど」
「アパートも、マンションもあるわよ」 「地主さんですか」
「沢山、有る訳じゃないですけどね」 「羨ましいですね」
「その棚の、写真は?」
「これですか、母の若い頃のなんです」と麗が、棚から取り末次に渡した。
「今では珍しい、ブローニー版ですね」
「そうですか、ちょっと変わってるとは思ってましたけど」
「縦横が正方形に近いでしょ、久しぶりに見ました。マニアの人たちが好んで使ってましたね」
「カメラは、お詳しいんですか」
「詳しいほどじゃないです。昔、ちょっとやってましたけど、今は、デジカメも使わないでしょ、よほどのマニアじゃないと」
「スマホで、済みますものね」
「お母様の、中学の頃ですか?」
「母の、中三の春だそうで。ポニーテールが母で、三つ編みが母の幼なじみ。そして、米兵さんとその息子さんだそうです」
その写真には、セーラー服を着た二人の少女と、米兵とその息子の4人が並んで写っていた。
「お二人とも可愛いですね。この、一緒に写ってる米兵さんはお知り合いですか」
「なんでもそのときが初対面で、知り合いでも何でもない人らしいんです。その男の子の名前しか覚えて無いんですよ」
「そうですか。初対面で、それにしても、みんな良い笑顔してますね。とても仲の良い親子の様に見えますよ。失礼ですけど、お母様はお幾つですか」
「もう還暦、過ぎてます」
「私と、同何年代ですね。ポニーテールか、この、お母様のお友達は御健在なんですか」
「それが、去年、亡くなって」
「そうでしたか……後ろの桜は?」
「基地の桜のようですよ」 「えっ、ここ横田ですか」
「えぇ、そこの17番ゲートの中のようで」
「桜フェスティバルっていって、誰でも入れるんだよ」
「御存じですよね」
「はい、イーストゲートのフェスティバルのことは知ってますけど、お母様の若い頃なんてフェスティバルなんて無かっただろうし、入ることなんて出来なかったでしょ」
「その米兵さんに頼んで、入れて貰ったらしくて」
「へぇー、初対面で入れて貰ったって、それは凄いな。どうやったたんだ」
「どんな手を、使ったんでしょうかね?」
「謎ですか。長居してしまいました。外の暑さも落ち着いた頃ですから、今日はこれで」
「また、おいでください」
「はい、京香さんにもお会いしたいですから。それにメイちゃんの、ファンになっちいましたから、会員番号、100番ですからね」
「御馳走様でした」 「550円いただきます」
「メイちゃん、またね」とカフェ京香を出た。カウベルがやさしく鳴った。
通りを歩き始めた末次は、このカフェに寄って良かったと、そして、一度、京香に逢ってみたいと思った。
直ぐに汗が額をつたい、ズボンの尻のポケットからハンカチを取り出した。浴衣を着た涼しげな女性とすれ違い、末次は汗をぬぐいながら、思わず振り返った。
カフェ京香の、裏にも森が見えた。スマホで現在の位置を確認した。健の家の裏の森と繋がっていたのだったのだ。
末次は、翌週、立川市役所へ行き住民基本台帳を閲覧した。本人の同意書が無く、許可を取るにはちょっと苦労したが自衛隊の身分証明書が役立った。
味沢健は、1996年生まれ。 父・味沢豊(ゆたか)。 母・咲(えみ)。
咲は、岡田小百合の娘で、1977年生まれ。兄弟姉妹は無く、父親の欄は、空白であった。
豊と咲は、1995年に入籍していた。18歳で結婚し、19歳で健を出産していた。
そして、咲は、健の誕生の翌日に、除籍(死亡)されていた。
祖母の岡田小百合は、1947年(昭和49年)九州の佐世保から、母子二人で転居してきていた。
父、味沢豊は、本籍が長野市であった。
そして、2011年3月11日(認定日・7月15日)に除籍(死亡)されていた。東日本大震災の日であった。
全て、味沢健、本人の言う通りであった。
末次は、味沢健の父、豊の前本籍地の長野市に向かった。豊の戸籍には、実の父母の記載が無く味沢家へ養子縁組がなされているようであった。
味沢家の住所地を訪ねた。大きな屋敷で有ったが、味沢の表札は無かった。
末次は、この夏の一週間、何の手掛りも見つける事が出来なかった。カフェのママ『京香』に何故か、逢ってみたい会いに行こうと思うようになっていた。
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