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よく似たカバン

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この国はとても治安がいい。
それは間違いなく事実であり、相対的にもそうだし、絶対的にもそうだ。


町中に平和は溢れている。
ほら、自販機だって平和の象徴だ。
誰も機会を壊してお金を取ろうとは思わない。


公園で寝ているあの人も、殺されるかもなんて考えない。
目が覚めたときに荷物を失くしているかもなんて考えない。
あの人も、平和の象徴なんだ。


この国は平和だ。
だから、トイレに行くときに鞄は席に置いたままにしている。
トイレから出ると、鞄はきちんとそこにあった。
この鞄も平和の象徴だ。















「これ?俺の鞄?」


そう感じたのはカフェを出てしばらくしてから。
道の真ん中で、右手で掴んだ鞄を見つめながら、そう呟いていた。



中を探る。
ノートパソコン、筆箱、手帳、煙草。
これは、俺の物。


鞄の外側をマジマジと見つめる。




「あ、傷がない」




数日前会社でぶつけた時にできた傷。
切り傷のような白い線が、黒いカバンに付いていたはずなのに。
新しいの買いにいくかなんて、考えていたんだから。



「この鞄は、俺のじゃない?」



それならこのパソコンは?手帳は?筆箱は?煙草は?


パソコンの壁紙が違っていた。外側に貼ってあるシールは同じなのに、画面の壁紙だけが別の写真になっている。
数日前変えたばかりだ。


手帳にも数日前こぼしたコーヒーの跡がない。
数日前無くしたはずのボールペンが入っている。
数日前買ったライターが入っていない。



よく似た鞄。よく似た中身。けれど、少しだけ、違う。違う。違う。
これは、俺の物じゃない。



誰かのイタズラ?だとしたら何のために?
怖くなってカバンの中身を全部出した。
バサバサとふるい、小さなゴミクズまですべて落とした。


グッと中を覗き込むと、





ジー。と何か音がする。
カバンのそこで、何かがジーと音を立てている。


カリカリと爪先で音する場所をかく。
ポロリ、と何かが取れた。
これは、一体。















「バレちゃったか」
見知らぬ女がそこに立っていた。
「バレちゃったなら仕方ないよね」
女は何をしようとしているのか。


ここは、平和の国で、この鞄も平和の象徴だ。
だから、大丈夫、大丈夫。
大丈夫。





大丈夫。





大丈夫。





「大丈夫。私がずっとそばに居てあげるから」
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