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最高の旅行

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とても素晴らしい旅行だと言える。
最高の友達と一緒にやってきた旅行は非の打ちどころの無い完璧な旅行だ。

日中は風情ある景色や山々を眺めたり、日本でも有数のテーマパークで遊んだり。
そして夜は、雰囲気の良い旅館で寝る。なんて最高の旅行なんだ。














そう思っていた。

料理が美味しかった。食事を終え、部屋に戻ると布団が敷いてあり、飛び込んだ時もとても気持ちが良かった。



最高の旅館だと、思っていた。











僕は、気づいてしまった。
真っ暗な部屋の中、目を開けて動けないでいる。

金縛り、なのだろうか。
それともあまりの恐怖に動けなくなってしまっているのか。



「ヴゥ」



と唸り声しか出すことが出来ない。
うまく話すことができない。

僕は、気づいてしまった。
早く友達に伝えないといけない。
ここから逃げよう、と。


いや、伝えないほうが良いのかもしれない。


伝えてしまっては、最高の旅行が最悪なものに変わってしまうから。
僕の中だけに秘めておくべきなのかもしれない。















気がつくと朝だった。
目が覚めると体は軽くなっていて、まるで全部が夢だったかのように感じている。


「おはよう」
「おはよう」
「朝食行こうか」
「行こうか」


僕は伝えてはいけない。
楽しいままこの旅行を終えないと、友達に申し訳ない。


あんなこと、伝えてはいけないんだ。


昨日、僕が寝た枕。
飛び込んだ瞬間には気が付かなかった。
頭を乗せたときも気が付かなかった。
明かりを消したときも気が付かなかった。


夜、ふと枕に空いた穴から出ている糸を引っ張ったときに気がついてしまったんだ。


枕の中身が、髪の毛であることに。
引っ張った糸は、細く長いものだった。
それが髪の毛であるのは薄暗い中でもわかった。

指先で枕の穴をほじると、びっしりと髪の毛が詰まっているのがわかった。




朝、目覚めたときに僕は夢だと思っていた。
でも違った。
じっとりと濡れた僕の首筋には、細く長い髪の毛がベタベタと張り付いていた。
全部取ったはずなのに、未だに髪の毛があるような気がして気になってしまう。





それでも、最高の旅行だったと、友達に伝えないといけない。
あんなこと、伝えてはいけないんだ。








「最高の旅行だったな」








友達が、ぎごち無くそう告げる。
何やら首元が痒いのか、先程からよく触っている。







「あぁ、最高の旅行だった」
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