【一話完結】３分で読める背筋の凍る怖い話

私もわかりません

「すいませーん。手伝ってくれませんか？」


駅から家までの帰り道、どこからか声が聞こえてきた。
キョロキョロとあたりを見渡しても助けを求めていそうな人は居ない。


家の中？だとしたら僕には何も出来ない。
再度あたりを見渡し、立ち去ろうとした。


「あ、行かないでください。手伝ってください」


完全に僕に向かって言っている。
僕の動きを見て、その上で言葉をかけている。


ドキッとして立ち止まった。
しかし、見渡しても誰も居ない。


もしかしたら怪我をしているのかも。
時刻は夕暮れ時、見えにくいだけで誰かうずくまっているのかもしれない。


けれど、やっぱり誰も居ない。
どういう事だろう。


声は近くから聞こえてくるのに。

















「あの、下です。下」






下？僕は足元を覗いた。
そこには、側溝がある。
側溝の上にコンクリートの板が並べられているだけ。


「手伝ってください」


側溝の板の、手を入れる隙間からチラと何か見えた。
反射のような光。


屈んで目を凝らす。


「あぁ、気づいてくれた」

















側溝の板の下。
側溝の中に、仰向けに寝そべるように男が居た。


あまりの異様さに固まってしまう。
作業員かもと思ったが違う。人がすっぽり入り込んで作業する場所ではない。
普通は板を外せばいいのだから。


この男は、そこで何をしているんだ。
心の声がそのまま口から出ていたらしい。
男は答えてくれた。


「どうしてなんですかね。私にもわからないんです」


ヘラヘラと笑うそいつは酷く不気味で、気持ち悪かった。
手伝ってくださいと繰り返す男を無視して、足早に帰る。


家に帰るまで、僕はずっと道の上を走っている。
道の無い場所はなく、道には必ず側溝がある。


頭の中に広がる妄想を打ち消すことはできない。
僕が進む先その全てに、あの男が居る気がしてならないんだ。





「すみませーん。手伝ってくれませんか？」