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赤ちょうちん

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久し振りだった。
学生時代の友人は見た目こそ老け、経済的にそれなりではあるが自立している風体だった。
けれども中身はというと、昔のままだ。


十数年ぶりの級友との食事。とても楽しい時間だった。
日々の鬱憤。家庭でのストレス。忘れられている。


彼もそれは同じなようで、あの頃よりは少し曲がった口元で笑っている。


「二軒目に行こう」


そう言うと、彼は私を先導した。
「いい店を知ってるのか?」
「いいや。歩きながら探そう」


もう何年も。こんなのんびりした週末を過ごしていない。
子どもの頃の夏休みとか、そんな事を思い出していた。


二人の職場の中間地点あたりで集合したためか、土地勘は全く無い。
5分ほど歩いた結果は木々や公園の多い住宅街になっていた。


「こっちには無さそうだ。駅前に戻ろう」


そう声をかける。
彼は明後日の方向をじっと見ている。


「どうした?」


ぼうっとどこかを見つめる彼を、少し危うげに感じる。


「何かあるか?」
「あの屋台とかどうかな?」
「屋台?」


見つめる先。そこには何もなく、ただ該当が寂しく照らしすだけ。


「どこ?」
「赤ちょうちんがぶら下がってる。ああいうところで食べてみたかったんだ」


そう言うと彼は子どものような目をこちらに向ける。
継いで、赤ちょうちんに誘われるように小走りで行ってしまう。


私は、それをただ見ていた。
何だか止めるに気にはなれなかった。
きっと、私も行きたかったんだろう。





少しして、なんの音もしないことに気がつく。
彼の走った方向へ向かう。
そこには赤ちょうちんをぶら下げた屋台なんてない。





彼の姿もどこにもない。
きっと、どこかに行ってしまいたかったんだろう。
そんな危うげな顔をしていたから。


一人になった私は彼の胸中を察した。
警察に通報する気にはない。
どこかで飲み直そう。全部忘れよう。







どこか良い店はないか。
キョロキョロと探す目線の先に、赤ちょうちんが見えた。
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