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針の森

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針のように尖った。その木々の隙間。何かがこちらを覗いている。
キシキシと奇妙な笑い声を発している。


ギロギロとした細い目の中で、汚い赤色の瞳が右へ左へ動いている。
段々とこちらへ近づいている。








車中泊が好きだ。
ホテルや旅館ではなく、少し広い車で道の駅で寝る。
そんな安上がりな旅が好きだ。



広い駐車場を持つ道の駅はある程度の田舎に行かないと無い。
僕は高速道路で2時間ほど車を走らせる。


温泉に入ったり、ご当地グルメや観光地を巡り夜は道の駅で寝る。
翌朝は昼頃までのんびりして帰る。
これが何とも幸せだった。




そういう田舎には、針葉樹林がある。
細くて高い木々が密集した林。山道なんかを走っている時は大抵左右に見える。


それが何とも怖いのだ。不気味な雰囲気を出している。
怖いもの見たさの様な感覚。心霊スポットを好む感覚。


温泉から道の駅に向かう最中、針葉樹林の脇に車を停めて車のライトを消す。
夜中、当たりは街灯も無く真っ暗だ。


違反だがハザードも消す。
エンジンも消す。
すると、本当の静寂が広がる。
真っ暗で、音はしない。
この怖さが好きだ。


ガサガサ。と林の中から音がした。
ビクっと体を起こす。
動物だろうとまた椅子にもたれ掛かる。








キシキシと、妙な音。
木々の軋む音とは違う。何かが笑っているような音。


音の方向、針のように尖った林の中。
こちらをじっと見つめる黒い影。
くすんだ赤い目がギロギロと動く。


気の一本一本が本当に針のように見える。
白く濁った、月明かりを雑に反射して、針のように。



怖くなって車を出した。
道の駅は怖いのでコンビニの駐車場に停める。
その夜は中々寝付けなかった。


目が覚めた時あたりは明るかった。
時計は8時12分。
昨日のことは夢だったのかとも感じている。


体を起こし、シートの角度も上げる。
そこで、気づく。
その場所は針葉樹林の脇であった。


昨晩、あの恐ろしい思いをしたあの場所に居た。
何が何だか理解出来ぬまま、直ぐに帰宅した。


今でも怖くなる。
こうして普通に生活しているように見えて、仕事をして、友人と遊んで、恋人を作って。


そんなある日眠りについたら、
また、あの針の山で目が覚めるんじゃないか。


とても怖い。
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