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猫の声

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今夜も始まった。


外でギャオギャオと鳴く声が響いている。
黙ったかと思えば、弾けたようにまた喚き散らす。


私の家の周りは野良猫が多い。
日中はあくびをしたり塀から塀へ飛び移ったり可愛いものだが、夜は違う。


そこは流石夜行性とも言うべきが、元気いっぱいにはしゃいでいる。
はしゃぐと言うより、喧嘩している。


発情期に関わらず、年がら年中縄張り争いだかなんだかを繰り広げては、夜の住宅街にその存在感を誇示している。


それに対して特に不満を持っている訳では無い。
猫だし。眠れないくらいうるさい時はない。たまに起こされるけど。


ただその程度。役所に連絡しようとか、猫対策をとか、そんな気持ちはさらさらない。おそらく他の住民も同じだろう。
















その雄叫びの中、少しズレた声が聞こえた。
ギャオギャオとも違う声。


猫の声なのか?
私は耳をすませる。


なぜだか緊張して、息を殺して、聞き分けようと集中する。
















赤ちゃんの声だ。
赤ちゃんが泣いている声がする。


それもどこかの家の中ではなく、すぐ外で泣いている。


大変だ!虐待か!
助けてあげないと。








なんて、目も開けずに妄想する。
赤ちゃんな訳が無い。


猫の声は赤ちゃんの泣き声によく似ている。
子どもの頃同じことを母親に大慌で伝えたら笑われた。


この声は赤ちゃんでは無い。猫の声なのだ。
とは言え、眠るにはうるさいな。









と、体を窓の方へ向けた。
視界に飛び込んできたのはカーテンの奥、月明かりに照らされた小さな影だった。


どこかで猫が喧嘩をしている。赤ちゃんの泣き声によく似た声を出しながら。
しかし、目の前から聞こえてくるのは泣き声ではなかった。


笑い声だった。
まだ言葉を上手く発音できない、ヨダレが絡まり歯も生え揃っていない。


そんな笑い方だった。








それは、猫ではなく、まるで人間のーー
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