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善意のベンチか

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田舎のバスは一時間に一本来るか来ないか。
場所によっては待合室のような簡易的な木造の建築物があるが、無いところはずっと立ち続けることになる。


これも時々、バス会社によってベンチが置かれているが、置かれていないところもある。


待合室もベンチもなく、一時間以上バスを待つ。
夏の晴れた日なんかは若者でも大変だ。


浦坂公園前のバス停はまさにそんな状況だ。
学校に行くには乗るしかないが、とても辛い。


ある日、古びたベンチが置いてあった。
バス会社が置いたのかと思ったが、そうでは無いらしい。


【所有者不明のベンチのため使用を控えてください ○○交通】


という貼り紙が、ベンチの上に貼られている。
バス会社によるものでは無く、誰かが置いてくれたのだろう。
ここの利用者は大変だろうからと、善意で置いてくれてのだ。


「あら?ベンチなってあったかしら」
すぐ後ろで声がする。


1人の老婆がベンチに気がついて口にする。
私に問いかけているようにも聞こえる。


「昨日までは無かったですよ」
「そうよね。誰か置いてくれたのね」
「みたいですね。でも使うなって」
「ほんとね」
「せっかく置いてくれているのに酷いですよね、そんな貼り紙。だったらバス会社が置いてくれれば良いのに」
「そうよねぇ。使わなきゃ悪いわ」


と、老婆が腰掛けようとしたところでバスがやってきた。
あらあら、と口にしながら老婆が姿勢を治しバスに乗り込む。
続いて私も乗る。


「おばあちゃん、疲れたら座った方が良いですからね。暑いんだし、せっかく誰かが善意でおいてくれたのに」
「そうね」


老婆はそう笑い返した。
















翌日、私は熱を出し学校を休んだ。
昼になりテレビを付けるとニュースが始まる。


アナウンサーは落ち着いた口調で伝える。


「浦坂公園前のバス停で高齢の女性が死亡する事故が発生しました。


女性はバス停のベンチに腰掛けたところ、ベンチが割れ、転倒した拍子に後頭部を打ち付け意識不明になりました。


その後通行人によって通報され病院へ運ばれましたが、まもなく死亡しました。


警察はベンチの割れた跡が人為的なことから何者かの作為的な犯行とみて調査を進めています。


○○交通は、バス停でバス会社の物でないベンチがあっても使用しないよう呼びかけています。」









翌日も学校を休んだ。
私の善意が、誰かの悪意を包み隠したんだ。
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