【一話完結】３分で読める背筋の凍る怖い話

人任せの男

何でもかんでも人任せにしてきた。
面倒な仕事も長引きそうな会議も出張も、家事も育児もぜんぶ誰かにやらせてきた。


父の葬儀も弟に任せた。
娘の入学式も妻に任せた。
ミーティングも部下に任せた。


誰も嫌な顔をしないし、減給も陰口を叩かれることも無い。
人任せは楽だなぁ。


そんな夜だった。


「ただいま」


仕事を誰かに任せ飲みに行った後、帰宅した。
玄関を開ける。
任せておいた家事は終わっているだろうか。


寝室から寝息が聞こえる。


「ただいま。家事は全部やっておいてくれた？」









「やっておいたよ」


ドキッとして振り返った。
明らかに男の声でそう聞こえたからだ。


そこに立っていたのは、全く知らない男。
驚きのあまり硬直する俺に、彼はこう言い放った。

















「君のやることは代わっておくから。君は好きにしてくればいいよ」


あまりの出来事に気を失っていた。










路上で寝ているところを警官によって叩き起される。
あの飲みの後に酔っ払って寝てしまったんだ。変な夢まで見た。


始業は近く、身なりを整えるまもなく会社へ向かう。
いつもの様に社員証でゲートを通ろうとすると。



ビービービー。



警備員がやってきた。
何度説明しても俺を中に入れようとしない。



「いつも顔を合わせてるじゃないか！」


エントランスで喚いていると、続々と他の社員がやってきた。
その中には見知った顔も多い。


「なぁ、お前からも言ってくれよ。入れないんだ」


「あの、どなたですか？」
「は？何言ってんだよ」
「警備員さんお願いします」
「おい！」


どういう訳か誰も俺を助けようとしない。
怒りの中ある男が近づいてきた。
夢の男が。あいつ同じ会社だったのか。


夢じゃ、ない？


その男は俺に近づいて、
「もう代わってしまったから。ここには来れないよ」



呆然と立ち尽くす俺を次々と通り過ぎていく同僚たち。
警備員が警察を読んでいることに気が付き、逃げ出す。


家に帰ろう。何かおかしい。
妻はきっと家で待っているはず。


扉を開け、妻の名を叫ぶ。
寝室から出てきた彼女を見て安堵すると、


「キャー！」


つんざくような声が響く。
妻の悲鳴だ。


「誰ですか！」


膝から崩れ落ちた。ショックで立つことができない。
警察を呼ばれている間も、連行されるその時も、声を出すことも出来ない。


家を出る間際、写真立てに目がいった。
七五三の家族写真、そこに映るのは妻、娘、そしてあの男。





人に任せるのは、止めておいた方がいい。