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耳栓

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ゴゴゴゴゴ。
ガガガガガ。


重機の音で目が覚める。
先週から始まった工事の音だ。


最近の工事は夜間に行うことは滅多にない。
日曜祝日もほとんどが休みだ。


睡眠の妨害はしない。
そう言うつもりなんだろう。


布団の中でそう考えていた。


夜勤専門の仕事をしているため、
朝の7時ごろに帰宅して8時から眠りにつく。


15時近くまで寝て、18時に家を出る。
それが毎日の習慣。


その習慣が工事によって妨げられている。
とても寝られるものでは無い。


クレームをつけようとは思わないが、我慢できるものではない。
鞄から小袋に入った耳栓を取り出す。


同僚がくれたものだ。
彼も同じように騒音に悩んでいるらしく、
いくつか持っていたとのこと。


耳栓をギュッとつまむ。
そして潰れた耳栓を耳に入れ、元の大きさに戻るのを待つ。


5秒ほどで密閉され辺りは静寂に包まれる。


「これはすごい」


工事の音も何も聞こえない。
もっと早く耳栓をするべきだったな。















眠りについて、10分ほどのことだった。


「………」
「…………」


誰かの話し声で目が覚める。


「ん?」


耳栓をしていても聞こえる声。
なんと言っているかはわからない。


無視しようとしても、ずっと聞こえてくるその声。
重機の音よりも不快に感じた。


きっと工事の作業員が家の裏で話しているんだ。
少し我慢をしていたが、限界だった。


耳栓を外し、窓を開ける。
「おい!うるさいぞ!」








そこには誰もいなかった。
声もパタリと止んでいる。


釈然としないがこれでいいと、
布団に入り、また耳栓をギュッとつまみ耳へ入れる。


「………」
「…………」


怒りのあまり飛び起きた。
外した耳栓は拳の中で潰れている。


窓を力任せに開ける。





ゴゴゴゴゴ。
ガガガガガ。
工事の音しかしない。話し声なんて聞こえない。


なんだか気味が悪くなってきた。
冷や汗が頬を伝う。










ふと耳栓に目をやる。
ギュッと潰れたシワが顔に見えた。


「うわ!」と咄嗟に投げ捨てる。
ドクドクと鼓動が早くなる。


そんなわけない。落ち着けと自分に言い聞かす。
耳栓を拾い、また耳にいれる。


「………」
「…………」


その日は一睡もできなかった。
あのあと耳栓はすぐに捨てて、新しいものを購入した。


それ以降話し声は聞こえていない。
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